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【新製品レビュー】パナソニック LUMIX DMC-TZ3

~「奥様」以外も使いたくなる高い完成度
Reported by 北村 智史

 コンパクトサイズのボディに光学10倍の“きみまろズーム”を詰め込んだ「奥様カメラ」。前作のTZ1は「旅カメラ」というコンセプトだったが、筆者個人としては画角域がワイド側にシフトした本機のほうが旅行にぴったりだと思う。

 ホールド性のいいグリップを備えたボディはFX30などと比べるとやや大きめだが、光学10倍の高倍率ズーム機としては異例のスリムさといえる。実勢価格は4万3,000円程度。ボディカラーはシルバー、ブラック、ブルーの3色が選べる。






画角が変化しない「マルチアスペクト」

 CCDは総画素数850万画素の1/2.35型だが、通常使用するのは1/2.5型相当のエリアのみ。スペック上の有効画素数は720万画素となっている。

 これにはユニークな仕掛けがあって、画面のアスペクト比を変えても対角線画角が狭くならないようになっている。普通のデジタルカメラでは、アスペクト比が変えられるといっても画面の上下をカットするだけで、4:3で撮るとき以外は画角が狭くなってしまう。パナソニックのLUMIX DMC-LX2は、逆にCCD自体が16:9なので、4:3で撮るときのほうが画角が狭くなる。

 これに対して、本機はアスペクト比を変えると、CCDの使用エリアも変わるようになっていて、それぞれの画面の最大記録画素数は、4:3で3,072×2,304ピクセル(約708万画素)、3:2では3,216×2,144ピクセル(約690万画素)、16:9比率になると3,328×1,872ピクセル(約623万画素)。画面の縦方向の数字が小さくなる分、横方向の数字は大きくなるのである。

 こうすることで、どのアスペクト比で撮っても広角端は28mm相当の画角をキープしているのである。このスペックは広角好きにはかなりアピールするポイントといえる。

 レンズはLeica DC Vario-Elmar 4.9-46mm F3.3-4.6。35mmフィルムカメラ換算で28~280mm相当となる。前作の「DMC-TZ1」はプリズムを併用したタイプだったが、本機のレンズは屈折光学系のみのオーソドックスな設計。前群に特殊低分散のEDレンズ、非球面レンズも3枚採用することで高画質化を図っている。もちろん、光学式手ブレ補正機構も内蔵だ。


レンズシフト式の手ブレ補正機構を内蔵。コンパクトサイズながら光学10倍ズームだ
望遠端にするとこれぐらい。高倍率ズームの割には伸びは少ない

 電源をオンにするとレンズがせり出してくる。TZ1と違い、TZ3はちゃんとレンズバリアを内蔵している。起動時間は手元計測で1秒半ほどで、普通のコンパクト機と同レベル。高倍率機の中には気がめいるぐらいに遅い機種もあるし、そういうのと比べるとものすごく速く感じられる。

 電源は容量1,000mAhのリチウムイオン充電池。CIPA準拠で270枚の撮影が可能だ。記録メディアは内蔵の12.7MBメモリとSDHC/SDメモリーカード、MMC(静止画のみ対応)。

 起動時には設定されている撮影モードのアイコンが液晶モニターに大きく表示される。また、モードダイヤルを回したときにも、モードダイヤルを模した表示が出る。最近のIXY DIGITALみたいである。

 背面右下の「FUNC」ボタンを押すと、クイック設定メニューが表示され、ドライブ、ホワイトバランス、感度、アスペクト比、記録画素数、画質の各項目の設定が素早く行なえる。いちいちメニュー内に入り込まなくてもいいので便利である。まあ、これもどこかのマネといえばマネだが、役に立つものはどんどんとり入れてくれていいと思う。


定番機能の手ブレ補正は上面のボタンでモードとオンオフの切替を行なう
電源は1,000mAhのリチウムイオン充電池。記録メディアは内蔵12.7MBメモリとSDカード系(実際は裏向きに装填する)

電源をオンにすると、液晶モニターに設定されているモードのアイコンが表示される。どこかで見たような機能である
モードダイヤルを回すと、画面上にも仮想ダイヤルが表示される。これもどこかで見た機能だが、ダイヤルを見ずに切り替え操作ができるのはいい

仮想ダイヤルの表示がいらない人はセットアップメニューからオフにもできる
液晶モニターが3型と大きいが、ジョイスティックではなく普通の十字ボタンを採用している

十字ボタンの下の「FUNC」ボタンを押すと、クイック設定メニューが表示される。これもどこかで見た機能だが、使用頻度の高い機能の切り替えが素早くできて便利

「メモモード」など旅行向けの機能も

 最近のLUMIXは「インテリジェントISO感度コントロール」が独立したモードになり、感度の上限をISO400、800、1250相当から選べるようになった。「インテリジェントISO感度コントロール」は、被写体の動きを検知して感度の上げ下げを自動的に行なうもので、静止した被写体は低感度で手ブレ補正のみ、動いている被写体は高感度で被写体ブレを軽減する仕組み。

 シャッターが切れる瞬間に感度が決まる関係で、シャッター速度が表示されない。そのため、上級者にはかえって不安な気持ちになるかもしれないが、いちいち手動で切り替える必要がないのはいいところ。気軽な撮影には使いやすい。

 新しく装備された「メモモード」も旅行向きの機能。地図や時刻表などをメモ的に撮っておくための機能で、記録画素数は1,600×1,200ピクセル(2M)または1,280×960ピクセル(1M)だけ。機能も大幅に制限されるし、保存先はカメラの内蔵メモリのみとなる。

「メモモード」で撮った画像は、通常の再生モードでは表示されず、モードダイヤルを切り替えて「メモを見る」で見ることができる。メモ代わりに撮っておくというのは筆者もちょくちょくやるが、見たいときに探すのが面倒で困る。その点、「メモモード」で撮ったカットはすぐに呼び出せるので便利がいい。旅先でのメモ撮りが多い人には使える機能だと思う。

 ほかにも、海外旅行時に日付や時刻を補正するのに使う「ワールドタイム」、旅行の何日目に撮った写真かがわかる「トラベル日付」など、従来からの旅機能も備えている。


動き認識によるブレ補正が可能な「インテリジェントISO感度コントロール」が独立したモードになった
ブレが気になるから使うモードなのに、シャッター速度は表示されない。なにかうまいやり方があればいいのだが

新設の「メモモード」。内蔵メモリに小サイズの画像をメモ代わりに撮りためておいて、必要なときにぱっと見られる機能。旅行用には便利だ
「メモモード」は機能はものすごくかぎられるし、画像サイズも2M以下。メモ撮り用なのでうんと割り切った内容になっている。

まとめ

 ポケットに入るサイズのボディに光学10倍ズームというだけでも魅力的だが、広角側が28mm相当に広がって、魅力度はさらにアップしたといえる。写りも上々。アスペクト比を変えても画角は変わらないところもいい。手ブレ補正の効果も素晴らしいし、高感度での画質もよくなっているように思う。

 最近ハヤリの顔検出機能がないとか、撮影した画像のレビューや再生に切り替えたときに待たされるとか(以前よりは多少は速くなったが)、露出補正時の画面がちょっとうるさいなどはあるが、全体的には満足度の高いカメラに仕上がっている。これだけの内容でありながら、「奥様カメラ」と称して購買層を限定してしまうのは損なのではないかという気がしてしまう。カミサンにだけ使わせるなんてもったいないと思えるぐらいによくできたカメラである。


露出補正時の画面。上下は隠れるし、バーグラフ表示のおかげで被写体が見づらいのが難
レビューと再生モードに切り替えたときは、「しばらくお待ちください」が出る。従来機種より待ち時間は短くなったが、もうふた頑張りぐらい欲しい

作例

  • 作例のリンク先のファイルは、JPEGで撮影した画像をコピーおよびリネームしたものです。
  • 作例下の撮影データは、記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/35mm判換算での焦点距離を表します。
  • 強調のため一部の項目を1行目に抜粋した場合もあります。


●画角・歪曲収差

 28mm相当の広角端から望遠端までズーミングするのはかなり楽しい。TZ1に比べて望遠端の迫力はやや落ちたものの、個人的には広角端が広いほうがいいと思う。望遠はEX光学ズームやトリミングである程度はカバーできるが、広角はそうはいかない。画面に入りきらないものは写しようがないからだ。

 撮っているときには気付かなかったが、広角端、望遠端ともに歪曲収差がほとんどない。TZ1同様、画像処理で歪曲収差を補正する方式を採用しているのだろうが、四隅の画質低下は目立たないし、まっすぐの線がまっすぐに写ってくれるのは気持ちいい。

 EDレンズを採用しているおかげもあって色収差の少ないシャープな画質。色のノリもよく、パナソニックらしい鮮やかな画が撮れる。


28mm相当の広角端。35mm相当程度の画角に比べて解放感のある広さ
3,072×2,304 / 1/250秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:晴天 / 28mm
望遠端は280mm相当で、かなりのアップショットが楽しめる。このワイドレンジさが広角系高倍率ズームのおもしろさだ
3,072×2,304 / 1/1300秒 / F4.9 / 0EV / ISO100 / WB:晴天 / 280mm

広角端での撮影。たいていのカメラはタル型の歪曲収差が目立つが、きちんと真っ直ぐ
3,072×2,304 / 1/320秒 / F8 / -1.7EV / ISO100 / WB:晴天 / 28mm
ほぼ同じ位置から望遠端での撮影。普通はイトマキ型の歪曲収差が出やすい。画像処理で補正しているのだろうが、これだけ歪曲がないのは、下手な単焦点レンズより気持ちいい
3,072×2,304 / 1/800秒 / F4.9 / -1EV / ISO100 / WB:晴天 / 228mm

●マルチアスペクト


メニューの「アスペクト設定」。どのアスペクト比を選んでも画角が変わらないのは大きな特徴だ
 多くのデジタルカメラがアスペクト比の切替機能を備えているが、本機のは特別。単に画面の上下をカットするのではないため、どのアスペクト比で撮ってもワイドさが損なわれない。

 と、書いただけではわかりづらいだろうから、16:9比率のCCDを搭載したLUMIX DMC-LX2と撮り比べたものを掲載する。

 LX2では画面の横幅が同じで縦の長さだけが変化する。それに対して、TZ3では横幅も縦の長さも違っている。16:9で撮ったカットはどちらもほぼ同じ範囲が写っているが、4:3で撮ったカットはLX2よりTZ3のほうが写る範囲がかなり広くなっている。

 CCD自体は総画素数が850万画素あるところを、有効720万画素(4:3比率の場合)として使っているのだから、もったいないといえばもったいないが、ワイドのおもしろさがどのアスペクト比でも得られるのはいいところだ。


4:3(DMC-TZ3)
3,072×2,304 / 1/250秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:晴天 / 28mm
3:2(DMC-TZ3)
3,216×2,144 / 1/250秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:晴天 / 28mm
16:9(DMC-TZ3)
3,328×1,872 / 1/250秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:晴天 / 28mm

4:3(DMC-LX2)
3,168×2,376 / 1/320秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:晴天 / 34mm
3:2(DMC-LX2)
3,568×2,376 / 1/320秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:晴天 / 32mm
16:9(DMC-LX2)
4,224×2,376 / 1/320秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:晴天 / 28mm

●ISO感度


メニューの「ISO感度」。マニュアル設定できる範囲はISO100からISO1250相当まで
 マニュアル設定可能な感度の範囲はISO100からISO1250相当まで。シーンモードの「高感度」などでは最高ISO3200相当まで。

 通常時はシャッターの最低速が1秒までしかないので、ISO100のカットは「夜景」で、ISO3200相当のカットも「高感度」で撮っている。そのため、若干発色が違っている。ご了承いただきたい。

 高感度時の画質は従来機種より向上しているようで、ISO400相当でもそれなりに実用的な写り。ISO800相当になると細部の描写があやしくなりはじめるものの、解像感は比較的残っているので、あまり大きくプリントしないのであれば使えると思う。

 さすがに画素混合+画素補間になるISO3200相当はピクセル等倍で見るにはつらい。Lサイズ程度のプリントで見る分にはまあまあだろう。


ISO100(夜景モード)
3,072×2,304 / 1.3秒 / F3.3 / 0EV / WB:オート / 28mm
ISO200
3,072×2,304 / 0.6秒 / F3.3 / 0EV / WB:晴天 / 28mm

ISO400
3,072×2,304 / 1/3秒 / F3.3 / 0EV / WB:晴天 / 28mm
ISO800
3,072×2,304 / 1/6秒 / F3.3 / 0EV / WB:晴天 / 28mm

ISO1250
3,072×2,304 / 1/10秒 / F3.3 / 0EV / WB:晴天 / 28mm
ISO3200(高感度モード)
3,072×2,304 / 1/25秒 / F3.3 / 0EV / WB:オート / 28mm

●一般作例


ヌケがよくてクリアな発色。少々ウソくさい気もするが、青空がきれいだ。ノイズ感も少ないし、解像感も申し分ない
3,072×2,304 / 1/500秒 / F8 / -0.7EV / ISO100 / WB:晴天 / 28mm
左向け左。普通の3倍ズームだとこのあたりが限界だが、TZ3ならまだまだ余裕
3,072×2,304 / 1/400秒 / F4.7 / 0EV / ISO100 / WB:晴天 / 127mm

水に入るために岩から飛び降りるペンギン。高倍率ズームがあると動物園などでの撮影は何倍も楽しめる
3,072×2,304 / 1/1,300秒 / F4.9 / 0EV / ISO100 / WB:晴天 / 280mm
広角端の四隅まで十分に高い画質。前作のTZ1に比べて望遠端は短くなったが、広角端が広くなったことのほうがうれしい
3,072×2,304 / 1/250秒 / F8 / -0.7EV / ISO100 / WB:晴天 / 28mm

長時間使っていると、グリップのあたりがほんのり温かくなる。風が強くて寒い日だったので、ちょっとうれしかったりした
3,072×2,304 / 1/320秒 / F3.3 / -1.3EV / ISO100 / WB:晴天 / 28mm
葛西臨海公園駅前から観覧車を望遠端で。橋の欄干にひじを突いて撮ったとは言え、1/20秒でブレないのはすごい
3,072×2,304 / 1/20秒 / F4.9 / -0.7EV / ISO100 / WB:晴天 / 280mm

マクロモードの望遠端の最短撮影距離付近。背景のボケはイマイチな感じ。でも、1mまで寄れるのはうれしい
3,072×2,304 / 1/800秒 / F4.9 / 0.7EV / ISO100 / WB:晴天 / 280mm
少し場所を移動してピントを奥に。高倍率ズームだと、普通のコンパクト機では難しいボケをいかした画がつくれる
3,072×2,304 / 1/500秒 / F4.9 / 0.3EV / ISO100 / WB:晴天 / 280mm

店舗外観の飾りをアップで。高倍率機のわりに起動が速めなので、散歩しながらパチパチやるにもストレスがなくていい
3,072×2,304 / 1/1,000秒 / F4.9 / 0EV / ISO100 / WB:晴天 / 228mm
ビルのガラスに映った都の庁舎。歪曲収差が大きいとこういう絵柄で気になりやすいが、本機は曲がらないので撮りやすい
3,072×2,304 / 1/200秒 / F4.9 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 280mm

レンズの構成枚数が多いので、太陽が画面に入るとフレアやゴーストの発生は避けられない。が、それほど嫌な出方ではない
3,072×2,304 / 1/1000秒 / F3.3 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 28mm


URL
  パナソニック
  http://panasonic.co.jp/
  製品情報
  http://panasonic.jp/dc/tz3/

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北村 智史
(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。最初に買ったデジタルカメラはキヤノンPowerShot S10。 ブログ:http://ketamura08.blog18.fc2.com/

2007/04/09 00:01
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