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【新製品レビュー】アップル Aperture 1.5

~オフライン参照など機能充実のRAW対応画像ソフト
Reported by 北村 智史

Aperture 1.5
 Apertureは、Apple(社名から“Computer”が消えた)から発売されている、写真家のための“オールインワン・ポストプロダクションツール”。画像の取り込みから閲覧、管理、セレクト、調整、プリントなどの作業を一手に引き受けてくれるソフトウェアである。

 QuickTimeやiTunesと違ってMac版オンリーだが、これはApertureがMacのハードウェアやOSに依存している部分が少なからずあるためだ。価格は発売当時の5万2,000円から3万4,000円に下がったこともあって、いくぶん敷居は下がったといえる。

 一番の注目ポイントは、画像の管理の方法が変わったこと。従来はApertureが管理する「ライブラリ」内に画像を読み込んでいたのが、Ver.1.5からは、画像が保存されている場所から「参照」できるようになった。

 「読み込み」方式は、Apertureの「ライブラリ」に画像をコピーするので管理面では有利な反面、「ライブラリ」が巨大になるデメリットがあった(10GB分の画像を読み込むと、「ライブラリ」は10GB以上になる)。それに対して「参照」方式は、「ライブラリ」内に画像そのものはコピーされない。

 だから例えば、デスクトップマシンのHDDに保存されている画像をLAN経由で取り込んで(もちろん、外部HDDやCD、DVDメディアの画像でもOKだ)、ノートPCに入れて持ち歩く、なんてことができるようになった。HDD容量の小さなノートPCでも、大量の画像が入った画像データベースを持ち歩けるようになったわけだ。


元データがオフラインでも等倍で鑑賞できる

今回試用したMacBook Proの15インチモデル。2.33GHzのIntel Core 2 Duo搭載。口惜しいことに、筆者のPowerMac G5より速かった
 今回は日本法人のアップルコンピュータ(日本のは今のところ“コンピュータ”付きのまま)から、MacBook Pro(Intel Core 2 Duoの15インチ)を借りて使ってみた。

 筆者はモノクロのMacintosh Classic時代からのMacユーザーで、長いこと「Intelは遅い」とか「使い物にならない」と聞かされ続けてきたわけだが、Intelベースに変わった途端に速くなってたりする。ノートのくせしてPowerMac G5(2GHzのデュアルコア)よりも速いのだからおもしろいはずがないのである。

 まあ、愚痴はさておいて、とりあえずニコンD200で撮った圧縮RAW画像を354コマ、約2.89GBを取り込んでみた。HDDなどに保存されている画像はもちろん、カメラ内のメモリーカードやiPhotoのライブラリから取り込むこともできる。

 MacBook Proに外付けの2.5インチHDDをFireWire 400接続で取り込んだときの所要時間は1分16秒。同じHDDをPowerMac G5につないで有線LAN(100base T)経由で取り込むと1分48秒となる。DVDに焼いたものを取り込むと2分57秒。直結で「読み込み」にすると3分53秒かかった。

 ただし、取り込んでからフルサイズのプレビューファイルを作成するのに時間がかかる点には要注意。これをやっておかないと、参照元の画像がオフラインになったときにフルサイズのプレビューが見られなくなるからだ。ちなみに、内蔵HDDにコピーした同じ画像を「参照」で取り込んだあと、フルサイズのプレビューファイルの作成が完了するのに要する時間は約30分。この数字は環境設定の「プレビューの品質」を中ぐらいの「5」に設定した場合の話で、品質を上げればもっとかかる。もちろん、LAN経由での「参照」の場合も時間はたっぷりかかる。なので、じっと我慢の子である。

 その代わり、プレビューファイルの作成が完了してしまえば、あとの作業は快適そのもの。ブラウザでのスクロールは速いし、ビューア表示での全画面とピクセル等倍表示の切り替えもストレスはまったく感じない。JPEG画像を扱うのと同じ感覚でRAW画像が見られるのだ。もちろん、参照元の画像がオフラインになっていても、ピクセル等倍表示や類似カットの比較などは行なえるので、オリジナルの画像がない状態でもセレクト作業が可能となっている。

 さすがに参照元の画像がオフラインの状態では画像の調整はできないので(当たり前と言えば当たり前だが、何とかしてもらえるとうれしい部分ではある)、セレクトは出先で、調整は自宅で元画像が入った外付けHDDなりをつないで行なうというのが基本となるだろう。「ライブラリ」ファイルをコピーすれば、デスクトップマシンで作業を続けられるかもしれないが、ファイルサイズが大きくなることを考えると、あまり現実的ではない。


画像取り込み時のダイアログ。「ファイルの保存場所」を「Aperture ライブラリ」内にコピーして管理するか、「現在の場所」に置いたまま「参照」するかが選べるようになった 参照元の画像がオフラインだと「調整」はできない。プレビューファイルしかないのだから当然だが、気持ち的には肩透かしである

プレビューファイルの作成が完了すれば、参照元画像がオフラインでもピクセル等倍表示が可能になる。元画像がなくても閲覧、ピントやブレの確認、セレクト作業が行なえる 参照元の画像がオフラインだと「調整」はできない。プレビューファイルしかないのだから当然だが、気持ち的には肩透かしである

Apertureライブラリの中身をたどっていくと、ひとつの画像に対してさまざまなファイルがつくられているのがわかる 環境設定の画面。一番下の「プレビューのサイズを制限」を「制限しない」だと、元画像と同じサイズのプレビューファイルが作成される。その上の「プレビューの品質」を上げると圧縮率が低くなるので「ライブラリ」が巨大になるので要注意

状況に合わせて選べるルーペ機能

 Ver.1.1から、新しいRAWデコーディング(RAW現像)アルゴリズムが採用され、「調整」パネルに「RAW微調整」機能が追加されている。が、Ver.1.0で調整された画像に対しては、Ver.1.0のRAWデコーディング処理がそのまま受け継がれ、必要に応じて新しいRAWデコーディング処理に移行するようになっている。これは調整ずみの画像が変化しないようにとの配慮だが、両者を自由に切り替えることもできるので、画質の違いを見比べることができたりする。

 「RAW微調整」には「ブースト」、「シャープ」、「クロマブラー」、「自動ノイズ補正」の拡張性項目があり、画像のコントラスト(デフォルト値は1.00)、シャープネス(カメラに合わせて自動的に最適値が設定される)、カラーノイズ補正(デフォルト値は2.00)、長時間露光や高感度時のノイズ補正(カメラに合わせて自動制御される)のオン/オフや微調整が行なえる。

 ただし、「クロマブラー」をオンにすると、高感度撮影時に発生したカラーノイズを低減(というより、カラーノイズが単色のノイズになるだけだが)できるものの、解像力が若干低下するため、通常はオフにしたほうがいいように思う。「自動ノイズ低減」も同様だ。

 また、特徴的な「ルーペ」機能にも改良が加えられた。拡大部分の中心点のカラー値(RGB各色と輝度の8ビット換算値)の表示が可能になったほか、マウスカーソル位置に拡大部分を重ねて表示する「センタールーペ」が用意された。この「センタールーペ」はマウスでドラッグして拡大する部分を決める方式(「焦点をルーペに合わせる」)またはマウスカーソル位置を拡大する方式(「焦点をカーソルに合わせる」)が選べる。前者はハイライト部分の輝度値を見ながら露出の微調整を行なったりするのに便利だし、後者は画像を見るのに邪魔にならない場所にルーペを置いておけるのがいいところ。いずれもルーペの倍率は100%(ピクセル等倍)から1,600%まで選べる。


●RAWデコーディングの違い(Ver.1.1とVer.1.0)

 画像はD200でISO3200相当で撮ったもので、上はVer.1.1のRAWデコーディング、下はVer.1.0のRAWデコーディングで処理している。

 Ver.1.1の方がノイズは少ない反面、解像力は若干低下しているのがわかる。


上がVer.1.1、下がVer.1.0

●クロマブラーの効果

 「クロマブラー」は高感度時などに発生するカラーノイズを抑制するもの。画像の一部を拡大して見ると、その効果がよくわかる。


「クロマブラー」オフ
「クロマブラー」オン

●ルーペの新機能

 新しく装備された「センタールーペ」は、ルーペの右下の枠の部分をマウスでドラッグして移動できる。マウスを動かしてもルーペの位置は固定されているので、数値をチェックしながら調整を行なう際に便利。さらに「センタールーペ」で「焦点をカーソルに合わせる」にすると(右画像)、ルーペの位置は固定で、マウスカーソルの位置を拡大する。画像の一部がルーペで隠れることがないのがメリット。

 また、ルーペの中央にRGB各色と輝度の8bit換算値が表示できるようになった(当然だがオン、オフできる)。


センタールーペを実行中。今までのルーペと違い、マウスを動かしてもルーペの位置は固定されている 「センタールーペ」で「焦点をカーソルに合わせる」にすると、ルーペの位置を変えずにマウスカーソル部分を拡大する

まとめ

 画像調整時にかなりCPUパワーを食うらしく、2GHzデュアルコアのPowerMac G5ではマウスの動きにスライダーがついてきてくれない(これがMacBook Proだと速かったりするのだ。腹立たしいことに)。また、RAW形式に対応するカメラが少なめ(キヤノン、ニコン以外は手薄である)な点、新機種への対応がOSのアップデート待ちになるために遅れがちなところはマイナスだ。

 一方、セレクト作業の快適さは大きな魅力だし、Ver.1.5で待望の日本語化がなされたこと、また価格が手ごろになったのはいいところ。オリジナルの画像なしで大量の画像の管理、閲覧が可能な点もメリットと言える。30日間試用可能なフリートライアル版も用意されているので、パワーに余裕のあるMacをお使いの方にはぜひお試しいただきたい。


複数コマの比較が簡単にできるのもApertureの便利なところ。3コマまでなら部分拡大表示もできるし、シンクロスクロールもOK。RAWだろうがJPEGだろうがきびきび動いてくれるのはうれしい 「スマートアルバム」の検索条件設定画面。レート(★の数)やカレンダー(撮影日時)、キーワード、各種Exif情報などを使って絞り込める

RAWデコーディングの比較

  • 以下の現像結果は、Aperture、Lightroom βとも、16bit TIFFで出力し、Photoshop CSでJPEG形式(画質10)に変換しました。直接JPEG形式で出力すると、圧縮率が各ソフトで異なる可能性があるためです
  • RAW+JPEG同時記録のJPEG画像は手を加えていません


 D200でISO100で撮った画像を、2種類のRAWデコーディングで出力したものを見比べると、Ver.1.1のカットは、ややアマくなっている。なので、ノイズが気にならない画像なら「クロマブラー」と「ノイズ自動補正」をオフにしたほうがいいかもしれない。

 ついでに、Lightroom βでも同じ画像を現像してみた。Apertureに比べるとデフォルト状態ではコントラストが低めになるが、皿のフチの部分が白トビせずに残っている。

    共通撮影データ:使用ボディ=D200、使用レンズ=Ai AF Micro Nikkor 60mm F2.8 D、記録解像度=3,872×2,592、露光時間=1/5秒、絞り値=F9、露出補正なし、感度=ISO100相当、WB=電球、実焦点距離=60mm


RAW+JPEG同時記録のJPEG画像 Aperture(Ver.1.0デコードエンジン)

Aperture(デコードエンジンVer.1.1)
Lightroom β

 今度は同じ被写体をISO3200相当で撮った画像を同様に処理してみた。Ver.1.0のカットで盛大に発生しているカラーノイズが、Ver.1.1のカットではしっかり低減されている。Lightroomよりもノイズの出方がきれいに思える。RAW+JPEG同時記録のJPEG画像は、ザラツキは少ないものの、ノイズ低減処理のためにディテールがアマくなっている。

    共通撮影データ:使用ボディ=D200、使用レンズ=Micro Nikkor 60mm F2.8 D、記録解像度=3,884×2,600、露光時間=1/160秒、絞り値=F9、露出補正なし、感度=ISO3200相当、WB=電球、実焦点距離=60mm


同時記録のJPEG画像
Aperture(デコードエンジンVer.1.0)

Aperture(デコードエンジンVer.1.1)
Lightroom β

 キヤノンEOS Kiss Digital XでISO100で撮った画像での比較。画面中央やや上の街灯などを見比べると、同時記録のJPEG画像はノイズ処理のために若干解像力を犠牲にしているのがわかる。Ver.1.0よりもVer.1.1のほうがシャープ処理がきれい。青空の部分のノイズももっとも少ない。

  • 共通データ:使用ボディ=EOS Kiss Digital X、使用レンズ=EF-S 10-20mm F3.5-4.5、記録解像度=2,592×3,888、露光時間=1/250秒、絞り値=F10、露出補正値=-0.67EV、感度=ISO100相当、WB=オート、焦点距離=10mm


同時記録のJPEG画像
Aperture(デコードエンジンVer.1.0)

Aperture(デコードエンジンVer.1.1)
Lightroom β


URL
  アップル
  http://www.apple.com/jp/
  製品情報
  http://www.apple.com/jp/aperture/
  体験版ダウンロードページ
  http://www.apple.com/jp/aperture/trial/
  RAW対応機種リスト
  http://www.apple.com/jp/aperture/raw/cameras.html

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北村 智史
(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。最初に買ったデジタルカメラはキヤノンPowerShot S10。 ブログ:http://ketamura08.blog18.fc2.com/

2007/01/29 00:00
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