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【新製品レビュー】松下電器 LUMIX DMC-TZ1

~小型ボディに実用的な手ブレ補正付き10倍ズームレンズ
Reported by 中村 文夫

 LUMIX DMC-TZ1に搭載されたレンズは35mm判換算で35~350ミリの画角をカバー。さらにEX光学ズーム機能を使えばズーム比が12.5倍になり、437mm相当の超望遠撮影ができる。もちろん松下電器の得意とする光学式手ブレ補正機能を搭載。気軽に望遠撮影が楽しめる製品である。

 ところで、初心者にとって望遠レンズは鬼門だ。なぜか初心者ほど望遠レンズに対する憧れが強く、1mmでも望遠側の焦点距離の長いカメラに人気が集まる。カメラメーカーもこれに応えるべく必死になって望遠レンズの長焦点化にしのぎを削ってきた。だが問題は初めてカメラを手にしたユーザーが、いきなり望遠レンズを使いこなせるかということ。望遠レンズ付きのカメラを手にし、意気揚々と撮影に出掛けても、大半のカットが手ブレで使い物にならず、結局、自分の腕前の未熟さを思い知らされるのが、これまでのお決まりのコースだった。

 しかしデジカメに手ブレ補正機構が搭載されるようになって、このあたりの事情が一変した。特にTZ1のような製品が登場すると、これまでの常識は通用しなくなる。


超望遠撮影で威力を発揮する手ブレ補正機構

 果たして手ブレ補正機構がどこまて健闘してくれるのか、私はTZ1を使ってみるまでどちらかというと懐疑的だった。だが実際に撮影した結果を見て、これなら十分だという気持ちになった。特にテレ端で空を飛ぶ旅客機を撮影したときなどは、ほとんど諦めながらシャッターを切ったが、予想に反してシャープに写っている画像が多いことに驚かされた。もちろんすべてが完全に手ブレなしとは言い切れず、打率は6~7割といったところだが、手ブレ補正機構がなかったら、恐らく全滅していただろう。

 問題は超望遠撮影時のフレーミングだ。TZ1は光学ファインダーを内蔵していないので、どんなときも液晶モニターを見ながら撮影しなければならない。だが望遠撮影時は画角が極端に狭く、被写体を画面内にとらえ続けるのは至難の技。特にデジタルズームを使ったときなどは、いちど被写体が画面外に出てしまうと完全にお手上げだ。せっかく高性能の手ブレ補正機構を搭載しながら、液晶モニターをファインダーとして使っている限り、高倍率ズームのメリットを100%生かせない。広い視野の中に画面に写る範囲をフレームで示す光学ファインダーがあるとベストだが、せめてライフルの照準のようなものがカメラに付いていれば、もう少し使いやすくなったのではないだろうか。また光学ファインダーを使って撮影すればカメラをきちんと構えられるので、手ブレ補正機構との相乗効果も期待できるはず。とにかくこの問題については研究の余地が多分にある。

 AFは9点の測距点からカメラが自動的に測距点を選ぶリニアAF、横位置列に並んだ3点から測距点を自動で選ぶ3点測距のほか、中央1点の測距点を利用する1点測距など多彩なモードを搭載。通常の撮影ではリニアAFが便利だが、超望遠撮影時は思うようにピントが合わない。この場合は1点測距を選んだほうがよいようだ。





屈曲・沈胴式光学系がコンパクトな10倍ズームを実現

 TZ1に装着されたレンズは5.2~52mm。35mm判に換算すると35~350mmの画角に相当する。開放F値はF2.8~4.2で、ズーム比が高い割に望遠側の開放F値が明るく、高速シャッターが使えるので手ブレ防止に大きく貢献している。ただテレ端の最短撮影距離は通常で2m、マクロモードに切り替えても1mまでしか被写体に寄れないのが残念だ。

 カタログには「世界最小光学10倍ズーム」というキャッチフレーズが使われている。これは光路を90度折り曲げた屈曲式光学系と沈胴式を組み合わせた光学系によって実現したもので、外観からは10倍ズームに見えないほどコンパクトだ。

 光学ズームは10倍だが、EX光学ズームと名付けられた機能を利用するとズーム比が12.5倍になる。この機能は最大画素で撮影した画像の周辺部をカットしてズーム比をアップするもので、最大記録画素より小さな画素数を選ぶと利用可能になる。通常のデジタルズームのように著しく画質が低下すことなく、35mm判換算で437mmに相当する超望遠撮影ができる。ただEX光学ズームはあくまでもデジタルズームの応用である。名前に「光学」という文字を入れるのはどうかと思う。

 液晶モニターは2.5型で画素数は20.7万。モニターの大画面化とホールディングの良さは相反する関係にあるが、TZ1はボディが横長の上、グリップ部が前面に大きく張り出したたデザインのため、ホールディング感は高い。また画面右側の操作部のスペースも十分にあり使いやすい。手ブレ補正機構を内蔵しているとはいえ、やはりカメラがきちんと構えられる形をしていることは非常に大切な要素だ。

 特筆すべきは液晶モニターの「ハイアングルモード」で、これをONにするとモニターを斜め下から見ても鮮明な画像を見ることができる。カメラを頭上に掲げ、高いポジションから撮影するときに便利な機能だ。このような姿勢で撮影するとカメラブレの危険性が高まるが、手ブレ補正機構があれば、ひとまず安心して撮影できる。このほか明るい場所でモニターの輝度を上げるパワーLCD機能も装備している。


レンズは35mm換算で35~350mmに相当する10倍ズーム。開放F値もF2.8~4.2と明るい レンズバリアは内蔵していないので、別途レンズキャップが必要になる

屈曲/沈胴式レンズの採用で、ズームをテレ端にセットしても、レンズはそれほど飛び出さない 撮影モードはダイヤルでセットする方式。グリップが前面に張り出しているのでホールディングが良い

大型液晶モニターを採用しているが、ボディが横長のため操作部に余裕があり使いやすい 使用メディアはSDメモリーカード。バッテリーとともに大きなグリップ部に収納する

ボディ側面にあるDC INとデジタル/AV OUT端子

高感度モードをはじめ多彩な撮影モード

 撮影モードは、かんたん/通常撮影/マクロ/動画のほか、18種類のシーンモードを搭載。ダイヤルにある「シーン1」、「シーン2」のポジションには任意のモードを登録することができ、使用頻度の高いモードを登録しておけばダイヤル操作だけでモード選択ができる。また通常の撮影時に設定できるISO感度は80~800だが、高感度モードを選ぶと状況に合わせてカメラが800~1600の間でISOを自動設定。このときは像が粗くなるが、被写体ブレを防ぐ意味では有効な手段といえるだろう。

 また、松下電器はLUMIX DMC-LX1で16:9というハイビジョンサイズのアスペクト比を提案し話題になったが、このTZ1もハイビジョンサイズで撮影ができる。ただしLX1のCCDは16:9がデフォルトで、他のアスペクト比を選ぶと画面の横幅が狭くなる方式だったのに対し、TZ1は4:3がデフォルト。アスペクト比を切り替えると上下の画角が狭くなっていく。つまり4:3では2,560×1,920ピクセルだった画素数が、16:9を選ぶと2,560×1,440ピクセルになる。しかし、それほど大きくプリントしない限り極端に画質は低下しない。

 またハイビジョンテレビで鑑賞するときも、ビエラなら画面いっぱいに画像表示が可能(一部非対応機種あり)。なおハイビジョンテレビの画素数はフルHDパネルでも1,920×1,080ピクセルなので、TZ1で撮影した画像は画素を間引いて表示される。


アスペクト比設定 3M以下は「EX光学ズーム」になる

ISO感度設定。ISO800まで設定できる 高感度モードでISO1600まで自動増感

旅行に便利な機能を装備

トラベル日付を表示できる付属ソフト「Simple Viewer」
 TZ1のキャッチフレーズは「旅カメラ」。もちろん10倍ズームを搭載し、このカメラ1台で遠くの被写体もキレイに記録できることがいちばんの理由と考えられる。このほか海外旅行に便利な「ワールドタイム」、旅行に出発してから何日目に撮影したかがすぐにわかる「トラベル日付」も装備。旅先ではシャッターを押す回数がつい増えがちだが、これらの機能があれば帰ってきてから画像に整理に苦労せずに済む。

 最近では旅行の記録をカメラ付き携帯電話で済ませてしまう強者が増えているらしいが、TZ1のような「旅」をコンセプトにしたカメラには絶対敵わない。特に海外旅行のような長旅には、正統派のカメラが絶対に必要である。


作例

※作例のリンク先ファイルは、JPEGで撮影した画像をコピーおよびリネームしたものです。
※写真下の作例データは、記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/35mm版換算の実焦点距離を表します。



◆画角

 広角側の画角は35mm判の35mmに相当。広角レンズとしては、ややもの足りないが、前景を広く入れると広角感が強調できる。これに対し望遠側は、かなりの超望効果が期待できる。


2,560×1,920 / 1/400秒 / F5 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 35mm 2,560×1,920 / 1/800秒 / F4 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 168mm

2,560×1,920 / 1/800秒 / F4.2 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 350mm

2,560×1,920 / 1/2,000秒 / F5 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 35mm 2,560×1,920 / 1/1,000秒 / F7.1 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 350mm

◆ISO感度

 ISO80、100、200、400、800で撮影。200まではそれほどでもないが、400を越えるとノイズ目立つ。手持ちで撮影しているが、手ブレ補正のお陰でブレていない。


2,560×1,920 / 0.8秒 / F3.9 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 105mm 2,560×1,920 / 0.6秒 / F3.9 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 105mm

2,560×1,920 / 1/3秒 / F3.9 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 105mm 2,560×1,920 / 1/6秒 / F3.9 / 0EV / ISO400 / WB:オート / 105mm

2,560×1,920 / 1/13秒 / F3.9 / 0EV / ISO800 / WB:オート / 105mm

2,560×1,920 / 1/20秒 / F3 / -0.7EV / ISO80 / WB:晴天 / 39mm 2,560×1,920 / 1/25秒 / F3 / -0.7EV / ISO100 / WB:晴天 / 39mm

2,560×1,920 / 1/40秒 / F3 / -0.7EV / ISO200 / WB:晴天 / 39mm 2,560×1,920 / 1/80秒 / F3 / -0.7EV / ISO400 / WB:晴天 / 39mm

2,560×1,920 / 1/160秒 / F3 / -0.7EV / ISO800 / WB:晴天 / 39mm

高感度モード

 ISO800~1600に自動で増感する「高感度モード」で撮影すると、画質がかなり粗くなる。そのため説明書には「Lサイズのプリントが前提」と明記されている。とはいえ、ストロボを使わず夜の雰囲気を活かしたいときに便利なモードだ。


2,560×1,920 / 1/30秒 / F3.7 / 0EV / ISO1000 / WB:オート / 71mm 2,560×1,920 / 1/30秒 / F2.8 / 0EV / ISO1000 / WB:オート / 35mm

2,560×1,920 / 1/10秒 / F3.5 / 0EV / ISO1000 / WB:オート / 55mm

◆アスペクト比


4:3
2,560×1,920 / 1/100秒 / F2.8 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 35mm
3:2
2,560×1,712 / 1/100秒 / F2.8 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 36mm

16:9
2,560×1,440 / 1/60秒 / F2.8 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 38mm

◆逆光


2,560×1,920 / 1/2,000秒 / F7.1 / 0EV / ISO80 / WB:晴天 / 292mm 風景モード
2,560×1,920 / 1/160秒 / F4.2 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 350mm

2,560×1,440 / 1/400秒 / F5 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 38mm

◆そのほか


光学ズームテレ端で撮影。手ブレ補正の効果が発揮され鮮明に写った
2,560×1,920 / 1/800秒 / F4.2 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 350mm
デジタルズームテレ端。光学ズームに比べるとかなり像が甘くなってしまう。これだけ画角が狭いと画面内に被写体を収めることは困難だ
2,560×1,920 / 1/800秒 / F4.2 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 350mm

2,560×1,920 / 1/500秒 / F7.1 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 256mm 2,560×1,920 / 1/500秒 / F4.2 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 350mm

2,560×1,920 / 1/50秒 / F4.2 / 0EV / ISO80 / WB:曇天 / 350mm 2,560×1,920 / 1/20秒 / F4.2 / 0EV / ISO200 / WB:晴天 / 350mm

16:9
2,560×1,440 / 1/640秒 / F4.2 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 380mm
16:9
2,560×1,440 / 1/400秒 / F2.8 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 38mm

風景モード
2,560×1,920 / 1/100秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO80 / WB:オート / 35mm


URL
  松下電器
  http://panasonic.jp/
  製品情報
  http://panasonic.jp/dc/tz1/

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中村 文夫
(なかむら ふみお) 1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーとして独立。カメラ専門誌のハウツーやメカニズム記事の執筆を中心に、写真教室など、幅広い分野で活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深く、所有するカメラは300台を超える。1998年よりカメラグランプリ選考委員。

2006/05/10 01:25
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