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【新製品レビュー】ニコン R1C1

~ライティング学習にも使える多機能なマクロストロボトキット
Reported by 木村 英夫

 カメラの進化とともに、専用アクセサリーも進化している。ニコンのデジタル一眼レフの最新機種「D200」と同時に発売となった「ニコンクローズアップスピードライトコマンダーキットR1C1」を試用する機会を得たので、早速、使い勝手をチェックしてみた。


豊富なアクセサリーを同梱

 カメラとストロボ(ニコンでは外付けストロボもスピードライトと呼んでいる)の関係は、1970年代のフィルムカメラ「オリンパスOM-2」以来、TTL調光により、レンズを通った光をカメラのミラーボックス部のセンサーで検知して発光量を調整するようになり、より適正なストロボ調光が行なえるようになった。

 ニコンでは、フィルムカメラ時代のTTL調光から、デジタルの「D-TTL」、そしてD70以降の機種に搭載されている「i-TTL」へと進化してきている。フィルムカメラでは、ストロボの光をフィルム面の反射からセンサーでキャッチし、適正な露光量を計算して、ストロボの発光を調整していた。だがデジタル一眼レフでは、ローパスフィルターからの反射では発光量をコントロールする情報がほとんど取れなくなってしまった。そこでシャッター膜面にプリ発光を反射させて、調光量をあらかじめカメラ側でコントロールするD-TTL方式を使うようになったのだ。

 さらに精度アップのため、プリ発光をミラーアップ前のカメラ側のセンサー(D-200の場合は1,005分割のRGB測光)で測るようになったのがi-TTLというわけである。i-TTLでは、複数のストロボをグループ化して無線でコントロールする「ニコンクリエィティブライティングシステム」も使えるように進化した。R1C1でも、無線による複数のストロボコントロールによる多彩な表現が可能となっている。

 ところで、R1C1というキットはどのようなシステムなのだろうか?

 キットを開けてみると、アクセサリーの点数の多さに驚いた。ケースの中身にきっちり仕切りが付けられており、それぞれのアクセサリーを整理整頓しながら収納できるようになっている。

 ただ「マクロ撮影に持ち出して撮影したい」というときに、キットケースに入れた状態でさらにカメラバッグを持って……となるとかなり大荷物になってしまう。その点もニコンは考慮している。最小限必要なホルダー類、コマンダー、ストロボを収納できるソフトケースもキットに含まれているのだ。


R1C1に含まれるキット内容。スピードライト2個、コマンダー、リング類、フィルター、拡散板がキットケース「SS-MS1」に入る。ケースはかなり大柄だが、キット内容全てがしっかり収まり、カメラ等が入る余裕はない マクロ撮影用のストロボとして使うとすると、ストロボ2個、アタッチメントリング、アダプターリング、コマンダーの5点があればよい 最小限の機材を入れるソフトケース

内蔵ストロボとマクロ撮影を比較

 R1C1をまず、マクロ撮影用のストロボとしての装着スタイルで、カメラに取り付けて使用してみた。


レンズの先端にアダプターリングをネジ込む。アダプターリングはニコン純正レンズのラインナップに合わせて、52mm、62mm、67mm、72mm、77mmの5種類。フィルター径が55mmや58mmのレンズメーカー製のマクロレンズに取り付けるには、別にステップアップリングが必要 アダプターリングにアタッチメントリングSX-1を取り付ける。着脱ボタンを押さえながらかぶせることで、ワンタッチで装着できる アタッチメントリングにSB-R200を取り付ける。15度ごとに取り付けできる位置があり、はめ込んで、ロックボタンを押し込むことで、自在に取り付け位置を調整できる

 ニコンD200にSB-R200を2灯取り付けて、内蔵ストロボとの違いを撮影してみた。マクロ撮影時のストロボは、レンズの周囲に光源を取り付けることとなるため、影を出さずに撮影できるのがポイントだ。

※作例のリンク先は撮影画像をコピーしたものです。


D200の内蔵ストロボで撮影。被写体と背景の距離がないため、強く影ができている
ニコン D200+AF-S DX VR Zoom Nikkor ED 18~200mm F3.5~5.6G(IF) / ISO400 / 1/60秒 / F4.5 / 絞り優先AE
SB-R200を2灯使って撮影。背景に影が出ないのがよい。ただ、ストロボ自体に重量があり、このような下向きの撮影だと18~200のズームが「望遠側」に引っ張られる。ズームリングを強く押さえながら撮影した
ニコン D200+AF-S DX VR Zoom Nikkor ED 18~200mm F3.5~5.6G(IF) / ISO400 / 1/60秒 / F4.5 / 絞り優先AE

同梱アクセサリの活用

 R1C1と、従来ニコンで売っていたクローズアップ用のストロボ「マクロスピードライトSB-29s」の大きな違いは、デジタル一眼でTTL調光ができるかどうかということと、複数のストロボをコントロールするクリエイティブライティングシステムに対応しているかどうか、という点だ。

 SB-29sは2灯の発光管がついており、それぞれの光量を左右個別に調整できたが、R1C1はキットのSB-R200をそれぞれi-TTL調光でコントロールでき、3灯以上でもコントロールできる。

 この内容の違いが価格の差となっている。旧製品のSB-29sは52,000円だったのに対し、R1C1は100,000円となる。ただ、100,000円は高い、という人のために「ワイヤレススピードライトコマンダーSU800」を含まない「R1」(68,000円)も用意されている。この場合、D200の内蔵ストロボを「コマンダーモード」にして、SB-R200を発光させる。


R1C1に含まれる「ワイヤレススピードライトコマンダーSU800」で左右のストロボの光量を1:2にセットした状態
D200のメニュー画面で「内蔵フラッシュモード」を「コマンダーモード」にセットしたところ。D70でも同様のセットが可能だが、内蔵ストロボがわずかに発光するため、内蔵ストロボから赤外光以外の光をカットするフィルターがキットの中に用意されている

 複数のストロボの発光量を調整し、光と影をコントロールしながら撮影を行なうため、D200とSU800を組み合わせてセットした。従来のリングストロボ等では、本体部と発光部を結ぶためのコードがあったが、R1C1にはそれがない。そのため、発光部のレイアウトが自由となる。そこで発光部の位置も変えて撮ってみた。


従来のストロボでは、本体部からの信号を伝えるためと電源の供給のため、「ケーブル」でつないでいた。R1C1では、コマンダーからの信号は赤外線で伝え、コマンダーやスピードライトの電源を小型軽量のリチウム電池(汎用で売られているCR-123)を使うことで、コードレスでのセットを可能としている R1C1を富士フイルムFinePix S2 Proに取り付けてみるとエラーが出る。実はS2 Proはフィルム一眼と同じ単なるTTL調光。D-TTLやTTLに対応する別売りの調光コードを用意すれば、使用できる ワイヤレススピードライトコマンダーSU800は赤外線でSB-R200をコントロールする。それぞれの光量比はコマンダー背面のボタンで簡単に調整可能

ストロボを使用しないで室内光源で撮影。手前のトマトの皮に強い反射ができ、左奥には影で暗い部分もできている
内蔵ストロボでの撮影。トマトの色調はよくなったものの、手前からの強い発光による反射が気になる

R1C1を使用した例。ストロボをレンズの左右に取り付けて、左と右の発光量の割合を「2:1」としてみた
R1C1で左右のストロボの発光量を「1:1」とした例。右側の影が薄くなっている

R1C1の発光量を左右「1:2」としてみた。右側からの光量を強くしたため、右サイドの影がなくなった
左側のストロボを外して、レンズの上につけて発光させた。種の部分に反射ができ、ウェット感が出た

レンズ上に取り付けていたストロボを取り外し、手で持ち、付属の乳白板に反射させて上から発光させてみた。種の反射部分が広くなった

 R1C1を活用する上で、コマンダーがあるとないとで大違いである。簡単にストロボの出力比が変えられ、ライティングに変化がつけやすい。デジタルカメラでは、撮影した画像を背面の液晶モニターで素早く確認でき「どうライティングしたらイメージに近づくか」を考えながらどんどん撮影できる。フィルムカメラで商品写真を撮るとなると、フラッシュメーターで光量を測りながら、ポラで確認して……と大変手数がかかっていたのが、本当に簡単に撮影できる。特にマクロでは、レンズの繰り出しによって実効F値が変わってくるので、TTLで調光されるのが本当に楽である。

 R1C1に含まれるSB-R200は、レンズ先端に取り付けるだけの単なるマクロストロボではなく、自由な配置で被写体の影を消す撮影にも使える。ワイヤレスでメインのストロボに同調して発光するストロボといえば、ユニークな命名で印象に残る「ヒカル小町」というのがあるが、SB-R200はカメラのTTL調光に対応するところが新しい。


スピードライトスタンドでSB-R200を自立させ、影の部分にストロボをあてて撮影できる
 R1C1には、ストロボを自立させる「スピードライトスタンド AS-20」という台が2個同梱されている。一般的なストロボを立てる台は、ストロボのホットシューと同形状のシューによりはめ込むが、SB-R200はマクロ撮影時に「アタッチメントリングSX-1」に取り付ける関係から、独自の取り付け機構となっている。そこでAS-20もSB-R200に合わせた形状のスタンドとなっている。

 SB-R200をスタンドに固定することで、被写体に対する照射位置を自在にセットできる。被写体とストロボの位置関係を研究しながらじっくり撮りたい、という人には最適の機材ではないだろうか? 写真の基礎のひとつとなる「ライティング」の学習用としてお勧めである。

 ワイヤレスでの補助光的な使い方では、メインの光とストロボの光の色味を合わせる必要が出てくるケースがある。ホワイトバランスで調整したとしても、メインと光とストロボの色味が異なる場合「光があたっている面によって、写る色味が異なってしまう」こととなるからだ。

 そこで、R1C1には、ストロボ用のフィルターキットまで付属している。素材はゼラチンフィルターのようなもので、永久的に使えるものではないが、ここまで考えたセット内容は、本当にユーザーのことを考えていると思う。

 個々のフィルターには、撮影時のホワイトバランスの指定と、ストロボの露出補正量までプリントされており、至れり尽くせりだ。さっそく、蛍光灯光源下で効果を試してみた。


R1C1にセットされているカラーフィルターセット。ホルダーの中に4種入っており、これが2セット同梱されている。右側から蛍光灯に色味を合わせるグリーン、電灯光源に色味を合わせるアンバー、色彩表現用のブルーとレッド
ゼラチンタイプのフィルターなので、取り扱いが難しい。専用のカラーフィルターホルダーSZ-1に載せるようにして、ストロボの取り付け部分にはめ込む
今回は試用しなかったが、フィルターホルダーの先につける「配光アダプターSW-11」というのも付属している。歯医者さんが口の中を撮影するようなときに使用するものとのこと

ここの作例は3枚とも、ニコンD50で、ホワイトバランスを「蛍光灯」に設定している。まずはストロボを使用せずに撮影。カンガルーのぬいぐるみの下側が影になっている
そこでストロボを発光。だが、ストロボは太陽光に近い光の色味のため、蛍光灯光源に合わせたホワイトバランス調整だと、ストロボの光の色味がわずかにピンクっぽく、変に感じる
ストロボに蛍光灯用のカラーフィルターを取り付けた。ストロボの光と室内光源の色味を一致することで、ストロボの不自然さを抑えることができた

D50で試す

 次に、D200の「RGBマルチパターン測光」とD50の「マルチパターン測光」それぞれによるi-TTLのストロボ制御の違いがどの程度出るかを見てみよう。

 被写体は水と氷の入ったコップとし、ストロボのセッティングはR1C1の作例集を参考に行なってみた。この作例集は撮影の実例とともに、ストロボのセットの方法を様々な被写体、バリエーションで教えてくれるもので、ライティングの勉強になる優れもの。単に製品を供給するだけでなく、このような教科書を付けてくれる姿勢は好感が持てる。


R1C1の使用説明書と作例集。使用説明書の厚さはカメラなみだ。作例集は撮影時のストロボのセッティングを細かく教えてくれている
被写体となるコップの背面に拡散板をセット、その裏に赤いフィルターをつけたSB-R200を置いた。サイドのSB-R200にはブルーのフィルターをつけた(この写真ではアンバーフィルターがついているが、撮ってみると面白くなかったため変更)
拡散板の反対側の端は、レンズに取り付けたSX-1に固定する。フレキシブルアームクリップSW-C1は、単に両端にクリップがついたアームに見えるが、クリップ反対側の開こうとする力を使ってリングにセットできるアイデア商品だ

D50で撮影。左のブルーフィルターをつけたストロボと背面のレッドのストロボの光量比を「2:1」にセット。1/60秒 / F8 / ISO200、VR18~200mmの200mm域で撮影した
D50で撮影。左のブルーと後ろのレッドを「1:1」の割合で発光

D50で撮影。左のブルーと後ろのレッドを「1:2」の割合で発光

D200で撮影。左のブルーフィルターをつけたストロボと背面のレッドのストロボの光量比を「2:1」にセット。1/60秒 / F8 / ISO200、VR18~200mmの200mm域と、D50と同じ設定で撮影した
D200で撮影。左のブルーと後ろのレッドを「1:1」の割合で発光

D200で撮影。左のブルーと後ろのレッドを「1:2」の割合で発光

 結果は意外なほど差が生じた。ストロボの設定、絞り、シャッタースピードなど、全く同じなのにである。ただ、レンズ先端にアダプターリングをつけ、拡散板をセットしたため、カメラを替え、レンズを付け直すときにわずかにセットが動いた可能性はある。

 D50は色が赤い(背面のストロボが強い)のに対し、D200は色が青い傾向(つまり左のストロボが強い傾向)となり、D50の「左と背面が2:1」とD200の「左と背面が1:1」のセッティングの画像がほぼ同じ写りに見える。


 今回は限られた時間でのR1C1の試用だったが、取り上げてない機能はまだまだいっぱいある。SB-R200にはLEDライトがついており、マクロ撮影時のMFでのピント合わせ時に便利だったり、ワイヤレスコマンダーSU800の背面のボタンを押すと、SB-R200が連続的に発光してライティングを目視で確認できるという機能もある。

 私自身はスタジオでの商品撮影で大型ストロボを使うことがあるが、R1C1は大型ストロボに投資しなくても、ライティングを学んで活用できる便利なキットだ。そう考えれば、10万円は決して高い買い物ではないだろう。



URL
  ニコン
  http://www.nikon-image.com/
  ニコンSB-R200
  http://www.nikon-image.com/jpn/products/accessory/slr/speedlight/sb-r200.htm



木村 英夫
1971年滋賀県出身。父の趣味の影響を受け、カメラの世界へのめりこむ。高校時代の愛機はニコンF2フォトミックS。モータードライブやアクションファインダー他、かなりマニアックなアクセサリーまで揃え、ニコンオリジナルグッズのバッグで登校していた。「住宅と家具、クルマとカー用品の関係のように、カメラの世界も写真用品まで極めれば楽しい」が信条。その研究熱心さのあまり、毎年「用品ショーカタログ」を読破する。

2006/03/03 01:22
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