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【特集】フォトプリンタレビュー
キヤノン SELPHY DS810

液晶ディスプレイ搭載へ変革を遂げたインクジェット機
Reported by 多和田 新也

 キヤノンが8月23日に発表した、インクジェットタイプのダイレクトフォトプリンタ。SELPHY DS700に続き、第2世代に当たる製品となる。デザインが一新されたほか、2.5型液晶を搭載したことで、製品単体でカードリーダーからダイレクトプリントが可能になったのが大きな特徴だ。


印刷方法の選択を重視したメニュー構成

 昨年8月に発表されたSELPHY DS700に続く、インクジェットタイプのフォトプリンタとして登場したのがSELPHY DS810だ。シルバーを基調とした先代からデザインが一新され、白を基調とした明るい印象を与える外観へと変化した。また、素材の厚みが増したのか、先代と重量はそれほど変わらないが重厚さが増した印象も受ける。

 とはいえ、基本的な仕組みは先代と同様で、収納時は閉じることができる前面カバーを開けることで、給紙口、排紙口をセッティング。そして、前面給紙/前面排紙の流れで印字が行なわれる。このとき、いったん背面部に用紙がはみ出すのも先代と同様である。

 前面カバー内にある給排紙口の上部にはCF/スマートメディア/SDメモリーカード/メモリースティックの各メディアに対応したカードリーダーを搭載。先代と本製品の違いは、このカードリーダーからのダイレクトプリントにあるのだが後述することにする。

 前面カバーの向かって左側には、PictBridge対応のデジカメを接続するUSB Aポートを搭載。また、見た目には分かりづらいが、USB Aポートの上部に赤外線ポートを備えており、携帯電話からのプリントも可能だ。


前面カバーと液晶パネルは折りたたむことができ、収納時はスペースを節約できる 印刷時はいったん用紙が背面方向にせり出し、前面方向に用紙を送りながら印刷される。写真はL判使用時に最大量せり出した位置。マニュアルには12cm以上のスペースを設けるよう記載されている 前面下部から給紙、前面上部から排紙される。給紙トレイには写真用紙なら20枚を一度にセットできる。このほか、前面部にはCF/スマートメディア/SDメモリーカード/メモリースティックに対応したカードリーダーを搭載

前面向かって左側部には、デジカメと接続するためのUSB Aポート、携帯電話からのダイレクトプリントを行なえる赤外線ポートを装備。またUSB AポートにはオプションのBluetoothユニット「BU-20」も接続できる 上面には液晶ディスプレイのほか、各種操作ボタンが並ぶ。[トリミング]ボタンが独立している点は非常に便利 背面部にはPCとの接続に利用するUSB Bコネクタと電源コネクタを備える。ACアダプタを本体内に内蔵しているのも、本製品の特徴の1つである

 さて、本製品最大の特徴となるのが、上面部に搭載された2.5型液晶ディスプレイだ。DS700では、カードリーダーは搭載していたものの、液晶ディスプレイは未搭載だったため、メモリカードからのダイレクトプリントを行なうにはビデオ出力を利用してテレビ等で作業を行なう必要があった。製品単体でのカードリーダーからのダイレクトプリントが可能になった点は大きな進化といえるだろう。

 一方で、ビデオ出力端子は省かれてしまった。搭載された液晶ディスプレイは2.5型という大きさはもちろん、ちょっと角度(とくに垂直方向)を変えると色合いが変化し、大人数で覗き込みながら写真を選ぶというスタイルには物足りない。大人数で写真を選ぶというニーズがそれほど高くないのかも知れないが、付いているぶんには困らない機能であり省かれたのは残念だ。当然、ダイレクトプリント作業は液晶ディスプレイの視認性の良い範囲で作業することになるわけなので、DS700には付属していたリモコンも本製品では省かれている。

 その液晶ディスプレイのメニューだが、印刷に直接関わる項目としてトップメニューから直接アクセスできるのは、「画像を選択して印刷」、「画像を選択して部数を変更して印刷」の2つ。そのほかはトップメニューにある「フォトアトリエ」のサブメニューとして、カード内全画像の印刷やインデックスプリント、シール用紙への印刷などのレイアウトプリントが行なえる仕組みだ。この点はDS700のテレビ出力時と同様の構成である。


 デジカメ側でまめに写真削除を行なっている人だと、全画像印刷にワンステップおかれるのは不便に思うかも知れないが、PCに保存しておく写真=印刷する写真ではない人ならば、このメニュー体系は分かりやすいのではないだろうか。

 ちなみに、印刷実行前には用紙や補正設定などが行なえる。補正メニューは製品側で自動補正させることもできるし、もう少し手動で細かく調整したい場合は明るさ、コントラスト、肌色の色合い調整などが設定できる。また、これらはPictBrigde接続で他社製デジカメを接続している場合にも設定を施すことができる。


メモリーカードからのダイレクトプリントを行なうさいのトップメニュー。左から順に1枚ずつ写真を選択しながら印刷する「フォトギャラリー」、写真ごとに印刷枚数を指定できる「DPEショップ」、全画像印刷やシール印刷などを行なえる「フォトアトリエ」、プリンタの設定やメンテナンスを行なう「ツールボックス」となる 印刷実行前に[用紙/設定]ボタンを押すと、用紙の指定やクオリティを設定可能。「きれい」はスーパーフォトペーパーを指定した場合のみ選択可能で、プロフェッショナルフォトペーパーを含め、ほかの用紙の場合は「標準」のみの選択となる

[用紙/設定]画面からは、画像の補正に関する指定も行なえる。画面の設定はデフォルト状態であるが、オートフォトパーフェクトのみが有効になっている 自動補正のほか、明るさ、コントラストなどは単独で調整可能。ここにある「色合い調整」とは肌色の赤色/黄色の強弱を設定する機能である

 また、便利なのが、こうした用紙/補正設定とは別機能として提供されている、「フォトアトリエ」メニュー内に用意された「色合い調整印刷」機能だ。これは、対象となる画像ファイルを選択すると色合い/コントラストを調整した9枚のインデックスプリントが行なわれ、この中から好みの色合いの写真を番号で指定してから、本番の印刷を実行する機能だ。複数枚に渡って利用するのは実用的ではないものの、ここ一番の印刷でイメージに近い写真に仕上げるのに便利だろう。


「フォトアトリエ」メニュー内にある「色合い調整印刷」では、まず、指定した画像の色合い/コントラストを調整した写真を9種類印刷する 印刷された9種類の色合いから、好みの番号の写真を指定すると、その色合いで本番の印刷が実行される インクカートリッジはDS700と同じく、3色一体型の「BCI-16 Color」を使用する。左はヘッド部で、こちらも着脱可能

 ちなみに、本製品のインクについてだが、3色一体型のインクカートリッジ「BCI-16 Color」を使用する。このインクカートリッジは先代のDS700と同一のもので、用紙も同社のインクジェット機のものが使える点を考えると、サプライ品の入手性も本製品の魅力の1つといえるのではないだろうか。

 さて、最後に本製品のドライバについて触れておきたい。本製品のドライバの設定画面は、基本的に同社のインクジェットプリンタであるPIXUSシリーズと同様の画面構成になっている。


 ただ、一点腑に落ちない点がある。それは用紙別に選択できるクオリティが異なる点についてだ。本体からのダイレクトプリントを行なう場合、スーパーフォトペーパーを指定すると「きれい」、「標準」の2段階が指定できるのだが、プロフェッショナルフォトペーパーを指定すると「標準」しか選択できない。


Windows用のドライバは、PIXUSシリーズと同様の画面構成 画像の自動補正に関してもドライバから指定が可能

 一方Windowsのドライバはどうかというと、スーパーフォトペーパーを指定すると「2:きれい」、「3:標準」が選べ、これはダイレクトプリント時と同様なのだが、プロフェッショナルフォトペーパーを指定すると「2:きれい」、「3:標準」を選べるほか、最高位の「1」を選べるようになる。この「1」が、本製品の最大解像度である4,800×1,200dpiを指すことになるだろう。


スーパーフォトペーパー使用時は本体でのダイレクトプリント時と同様「きれい」、「標準」の2段階を指定できる プロフェッショナルフォトペーパー使用時は、「きれい」、「標準」に加え、最高位を選択できる

 つまり、ダイレクトプリントの場合はスーパーフォトペーパーのほうが上位のクオリティを選択でき、PCからのプリントの場合はプロフェッショナルフォトペーパーのほうが上位のクオリティを選択できる、という仕組みになっているわけだ。


Easy-PhotoPrintの画質優先の設定を行なっておくと、スーパーフォトペーパーでも4,800×1,200dpiと思われる品質で印刷が実行される
 さらに、本製品にバンドルされている「Easy-PhotoPrint」の設定から、「[画質優先]を選択した場合は、最高品位で印刷する」を指定しておくと、スーパーフォトペーパーを指定した場合であっても、ダイレクトプリントの「きれい」以上の品質で印刷されるのだ。これはプロフェッショナルフォトペーパーを使って「1」の品質(4,800×1,200dpi)で印刷したときのクオリティに近い。

 このように、ダイレクトプリント、ドライバ設定、バンドルの印刷ソフトで、用紙と品質の組み合わせがまちまちなわけで、ちょっと分かりにくさを感じる部分である。


コントラストの高い鮮やかな印刷

 それでは、実際に印刷したサンプルを紹介したい。ここでは、すべてニコンD70(JPEG/Fine/L)で撮影した画像を使用。印刷結果をエプソンの「PM-A850」を使い600dpiでスキャンし、余白をトリミングした上で提示している。この際のトリミングには多少余りを持たせているので、本製品によるトリミング量の参考にしてほしい。なお、テストに使用した画像は下記に掲載した。

http://dc.watch.impress.co.jp/cda/special/2005/12/20/2928.html

 なお、印刷結果は2種類提示している。1つはCFからダイレクトプリントしたもの。これは本体メニューから「きれい」を選んで実行したもので、解像度は1,200×600dpiとなる。もう1つはPCからEasy-PhotoPrintを利用して最高品位(4,800×1,200dpi)で印刷したものだ。用紙は双方ともスーパーフォトペーパーを利用している。なお、自動補正は本体のデフォルト設定に従って、オートフォトパーフェクトのみ有効。ほかは無効にして実行している。


印刷結果(1,200×600dpi)



印刷結果(4,800×1,200dpi)



 まずパッと見は、コントラストが高く、非常にこってりした仕上がりになったという印象を受ける。とくに赤味の強さが特徴的で、人肌などは血色の良い人のような色合いを見せる。ただ、色が濃いためか、わざとらしい雰囲気も感じられ、好みが分かれそうな印刷となっている。

 インクジェット機に見られる粒状感は、「きれい」品質でこそ目を凝らせば見えるものの、現実的な観賞の仕方なら、まず気になることはないだろう。さらに4,800×1,200dpiになると、インクジェット機とは思えないほど滑らかな雰囲気になる。さすがに昇華型と比べるとざらつきも感じなくはないが、このレベルで不満に思う人は少ないのではないだろうか。

 もう一つ、細部まできっちり印刷している点が目に留まる。とくに細い線であっても、それがまわりの色に潰されることなく印刷されているし、ボケの部分も元画像に近い滑らかなグラデーションが描かれており、スペック上の解像度以上に細かい部分まで印刷できている印象を受ける。

 ちなみに、印刷速度は、

CFからの印刷(きれい):1分24秒
CFからの印刷(標準):1分18秒
D70からのPictBridgeを利用して印刷:1分28秒
PCから印刷(最高品位):2分45秒
PCからの印刷(きれい):1分22秒
PCからの印刷(標準):1分17秒


となっている。最高品位は待たされる感覚になるが、きれいまでのクオリティであれば、十分に満足できる結果といえる。

 ちなみに、この結果はいずれもオートフォトパーフェクトのみを有効にした状態であるが、ダイレクトプリント時に赤目補正/VIVIDフォト/ノイズ除去/顔明るく補正をすべて有効にしたところ、所要時間が20秒程度増したことを参考までに付け加えておく。


ダイレクトプリントでも一歩上の機能を求めるユーザーに

 本製品はカードリーダーと液晶ディスプレイを搭載した外観もあって、高機能なのではという印象を受けるかも知れないが、機能面では意外にシンプルで、写真印刷という点に特化して機能をセレクトしている。

 つまり、レイアウト印刷等の創造的な機能は最小限にとどめる一方、色合い調整印刷や自動補正などは充実している。かといってダイレクトプリントの手軽さを失ってはいない。手軽さと自由度、この2つを絶妙のバランスでうまくまとめた製品なのである。



URL
  製品情報
  http://cweb.canon.jp/selphy/ds810/index.html

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キヤノン、インクジェットダイレクトプリンタ「SELPHY DS810」(2005/08/23)



多和田 新也
1976年岐阜県生まれ。2002年より,主に自作ユーザー向け記事を中心にライターとして活動している。野鳥を中心に自然に親しむのを趣味とするが,写真撮影に使っているNikon D1H+Nikkor 500mm/F4P(と三脚)に押し潰されそうになる程度の体力しか持たないあたりが 悩みの種。

2005/12/21 15:18
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