デジカメ Watch

【特別企画】デジカメをGPSで楽しむ

Reported by 塩田 紳二

 自分が撮った写真でも、しばらくすると「これどこで撮ったのかなぁ」と思うことがある。デジカメでは、Exifに記録されている撮影日時と自分の過去の行動記録などから、おおよその場所を推定することもできる。整理のいい人は、画像ファイルの入れてあるフォルダなどから場所を推定できるかもしれない。

 デジカメで使われているExifには、実はGPSデータを記録するための仕様が定義されている。細かく言えば、GPS用のIFD(Image File Directory)が定義されていて、ファイル内に撮影した場所を記録できるようになっている。

 つまり、ここに撮影した場所をGPSで測定した緯度経度として記録しておけば、あとからでも、地球上のどこで撮影したのかがわかるわけだ。市販の地図ソフトの中には、このGPS-IFDを使って、地図上に縮小画像を表示してくれるものなどがある。

 この記事では、Exifの機能を使う方法や楽しみ方などを紹介しよう。


GPSとは?

 GPSとは「Global Positioning System」の略で、米軍が打ち上げた衛星を使って緯度経度を測定するシステムである。現在では、地球のまわりに29個のGPS衛星が打ち上げられている。

 簡単にいうと、衛星には正確な時間を持つ原子時計があり、電波で現在時刻を送信している。これを受信すると、現在時刻と送信されてきた時刻との差から衛星までの距離がわかる。複数の衛星からの距離がわかれば、衛星の位置を元に計算すると、自分の位置を測定することができる。

 各衛星は決まった軌道を通っている。この軌道は地球を取り囲むように6種類あり、各軌道に最低4つの衛星が配置されている。軌道は、地球から約2万km離れており、衛星は12時間で軌道を1周する。このため、衛星の各時刻での位置は計算で求めることができる。また、GPSから送られてくる電波の中には、衛星自身の位置を計算するためのデータが含まれている。

 地球上のどこでも、5~6個の衛星が常に見えるようになっているため、これを使ってどこでも位置測定が可能になるわけだ。

 ただし衛星からの電波を直接受信しなければならないため、都市部などでは、ビルの影になる衛星は利用できない。電波の到達時間を測定するから、直接受信できる電波のみが有効で、1回他のところで反射してしまった電波は位置測定に利用できないのだ。なお、GPS関連用語では、位置測定を「測位」と呼ぶ。また、時刻と位置を組みにし、移動した軌跡を記録した情報を「トラック」と呼ぶ。

 GPSは、1575.42MHz(L1)と1227.60MHz(L2)の2つの電波を使う。一応、L1は民間用、L2は軍用となっているが、非軍用機器でもL2を利用するものはある。衛星はいくつもあるのに周波数が2つしかないと、ぶつかってしまうのではないかと思われるが、ここにCDMA技術が使われており、同一周波数であっても、複数の衛星からの電波を別々に受信することができる。

 なお、GPSはもともと自動車などの乗り物での利用を想定していることから、徒歩程度の速度での移動は誤差が大きくなりやすい。移動速度が大きいと受信状態も頻繁に変わり、徒歩と比べると受信状態が良くなる可能性が高い。これに対して徒歩では、受信状態は大きく変化しにくく、受信状態が悪いことが続く可能性が高い。また、自動車は、街中であっても道路の中側を走っているので天頂付近の衛星からの電波を受信しやすいが、徒歩だとビルのそばになるため、天頂近くの衛星であってもビルの影になってしまうことが多い。

 このため、GPSを街中で使うと、車のナビゲーションシステムとは違ってあまり正確に位置測定ができないし、場合によっては位置測定自体が行なえない場合もある。また、ナビゲーションシステムには、GPS以外にも精度を上げるための工夫がいくつかある。GPSと聞いて車のナビゲーションシステムのような正確さを期待するとちょっとがっかりする。あまり過大な期待は禁物である。また、野山など都市部外であっても、立木や枝などにより受信状態が妨げられることもあるので注意が必要だ。


ExifにGPS情報を記録する方法

 デジカメ画像に位置情報を記録するには、大きく2つの方法がある。

(1) GPSなどが接続できるデジカメを使う
(2) 撮影後、位置情報を追加記録する

 (1)は最も簡単な方法なのだが、問題がある。というのは、GPSを接続できるデジカメというのは非常に限られているのである。世の中にこれだけ多くのデジカメがあるというのにメーカーとして正式に対応しているカメラは少ない。

 ただし、デジカメではないが、auなどのGPS搭載携帯電話では、内蔵のカメラで撮影した画像に位置情報を記録する機能がある。デジカメではないものの、最近では解像度も上がってきているので1つの方法ではないかと思う。ただ、携帯電話の場合、GPSを内蔵しているとはいえ、位置測定には、回線接続が必要となり、携帯電話が使えない場所では位置測定ができない。国内なら、よほど辺鄙なところに行かない限り問題はなさそうだが、いまのところ海外では使えないものがほとんど。

 (2)の方法は、どんなデジカメであっても、対応が可能な方法である。ただし、Exifの撮影時間を元にGPSのトラックデータから位置を推定してGPS-IFDに書き込みを行なうソフトウェアが必要となる。また別途、トラックデータの記録が必要なGPS受信機も必要だ。

 とりあえず今回は、(1)の方法のうち、GPSを直接接続可能なデジカメを使う方法を紹介することにする。


Caplio Pro G3とCFGPS2

 リコーのCaplio Pro G3(以下G3と略す)は、SDメモリーカード用のスロットとは別に、CFスロットを持つ324万画素のデジタルカメラだ。発売は2003年6月だが、ファームウェアのバージョンアップが地道に行なわれており、最新のものは今年の7月に公開されている。


リコー Caplio Pro G3
G3底面のCFスロット。画像を記録するためのSDメモリーカードスロットは本体側面にある

 G3のCFスロットには、GPSカードの他にPHS通信カードやBlutooth、シリアル、無線LANカードなどが接続可能だ。このため、CF型GPSカード以外に、GPS機器をシリアルやBluetoothカード経由で接続することも可能だ。利用可能なGPS機器には、次のようなものがある。

 アイ・オー・データ機器 CFGPS2(CF)
 ソキア R80D(シリアル)
 ソニー GU-BT1(Bluetooth)
 EMTAC D1598(Bluetooth)

 今回は、G3とアイ・オー・データ機器のCF型GPSカードであるCFGPS2との組合せで評価を行なってみた。


GPSのアンテナが底部に

 G3は、ファームウェアが更新されているとはいえ2003年に発売された製品であり、最近のデジカメと比較すると少々劣っているのはしかたがないところ。とはいえ、解像度などを気にしなければ、これでも十分である。

 G3のCFスロットは本体底面にある。だから、CFGPS2を取り付けると、液晶モニターの下にそのアンテナ部が飛び出すという形になる。見た目はともかくとして、撮影時には注意する点がある。GPS受信機は、天頂近辺の衛星を受信するようになっているため、アンテナの向きが問題になる。CFGPS2は、スロットから飛び出している部分にアンテナがあり、ロゴのある面を上に向けて利用しなければならない。そうなるとG3に取り付けた状態では、レンズが下向きになり、液晶モニター面が上になってしまう。


CFGPS2をG3のCFスロットに装着したところ

 撮影していないときにはこの状態でもかまわないし、また短時間ならば、アンテナが天頂を向いていなくともGPS情報が有効である(受信ができなくなって10分間は、最後の位置を記憶してJPEGファイルに書き込みが可能)。調子にのって撮影を続けていると、電波が受信できなくなってしまうことがある。撮影後は、アンテナを上に向けるといったことを繰り返す必要があり、ちょっと面倒である。

 なお、オプションの外部アンテナを使ったり、あるいはBluetooth経由で接続するGPS受信機などを使えば、この点は改善されるようだ。ただし、今回は、機材の関係でこの組合せを試すことはできなかった。

 もう1つの問題は、コールドスタート時に測位可能になるまでの時間である。G3ではこの時間が長く、状態によっては数分以上待たねばならない。実際上空が開け、衛星の位置も悪くない状態でも10分程度時間がかかってしまったことがあった。なにか初期化に問題があるのかもしれない。まあ、衛星の配置や受信環境の問題もあり、G3Proの問題とも言い切れないのだが。

 1回同期すると、その後電源オフしても短い時間であれば、同期までの時間は短くなる(このような場合をウォームスタートという)。同期していない時間が長いとコールドスタートしてしまう。

 解決方法として、G3に装着する前にアイ・オー・データが提供しているPC用のソフトウェアで1回動かすというものがある。このソフトを使えば、受信場所での衛星配置や受信状態をチェックできる。このソフトで位置測定が可能になったのち、PCから取り外してG3に装着すると比較的短時間で同期が行なわれるようだ。


実際に使ってみる

 今回は、米国取材にG3を持って行った。そこで、サンノゼ近辺やサンフランシスコの市内でG3+CFGPS2を使ってみた。

 1回は自動車で移動中に利用し、もう1回は徒歩で利用した。

 GPS付きとはいえ、1度測位が可能になったら、あとは、単にシャッターを押すだけ。使い方は、普通のデジカメと変わらない。また、GPSによる測位情報を書き込んでいるからといって特に書き込み時間が長いということもない。

 注意するのは、GPSアンテナを長い間、下に向けないようにすることだけである。

 このG3では、GPSからの測位情報がとぎれると最後の位置を10分間保持する。つまり、この状態で撮影した画像は、すべて同じ位置で撮影されたことになってしまう。徒歩ならば、ほとんど問題はないが、自動車などで移動中の場合には注意が必要だ。写真を撮っては、アンテナを上向きにすることを繰り返す必要がある。その手の動きは、なんだか、昔の手動巻き上げの銀塩カメラを使っているかのようである。

 徒歩で歩きながら撮影するような場合には、アンテナを上に向けたまま、手に持って歩き、写真を撮るときだけ、レンズを向けて撮影ということになる。今回は、特に首かけストラップなどを使わなかったので、ずっと手に持ったままにした。できれば、GPSアンテナを上に向けたまま首から下げられるストラップが欲しいところ。

 今回は町中でためしたが、実際にはこういう写真だと、写っている建物などからおおよその場所が推定できる。だから、たとえば植物など、どこにでもあるようなものや、背景がわからない人物スナップ写真など、写真自体からは、場所を推定できないような撮影に使うと有効だ。写真が趣味というよりも、野鳥や植物観察その他、屋外の趣味でデジカメを使うといった使い方のほうが、メリットがあるのかもしれない。

 ただ、やはり徒歩で都市部だと誤差はかなり大きい、100m以上の誤差が出ることもある。撮影時にGPSアンテナが上を向かないというG3+CFGPSの構造に起因する部分もあるが、基本的には、都市部ではこんなものだ。


撮影写真を地図上で表示

カシミール3DによるGPS情報を持つデジカメ写真の表示。サンフランシスコ市内での撮影。写真には花しか写っていないが、GPS情報からUnion Squre近辺であることがわかる。地図上の写真アイコンにチェックマークが付いているのが該当の位置
 GPS-IFDが記録されたJPEGファイルを扱える地図ソフトには、アルプスの「プロアトラス」シリーズなどがあるが、今回は、インターネットからも入手可能な「カシミール3D」を利用してみた。

 カシミール3Dは、米国政府が提供している地図データを利用できるため、日本のみならず、米国で撮影したJPEGファイルも地図上に表示できる。もちろん、国内だけの利用であればプロアトラスなど日本国内地図のソフトでも問題はない。筆者がじっくり写真など撮る海外取材のときぐらい。まあ、物珍しいこともあって、いろいろと写真を撮ることが多い。なので、海外地図にも対応しているこのカシミール3Dを使っているという次第。

 カシミール3DでGPS情報を持つJPEGファイルを扱うには、「デジカメ写真プラグイン」を利用する。これは、標準で付属しているため、特に問題はないだろう。

 また米国の地図を扱うなら、「USGSプラグイン」を利用する。なお、今回は、米国地図データの入手方法については特に解説しない。カシミール3Dのヘルプファイルやホームページなどに詳しい説明があるので、それを参照してほしい。

 カシミール3Dを起動したら、撮影地域をカバーする地図ファイルを開き、地図を表示させる。デジカメプラグインの「地図上に表示する」チェックボックスをONにし、「ブラウザ起動」ボタンを押す。カシミール3Dウィンドウ左側に表示されたブラウザで、G3で撮影したJPEGファイルのあるフォルダを指定するだけで、地図上に地図上に縮小画像がアイコンになって表示される。表示されるのは、選択しているフォルダ内の画像だけ。また、あまりJPEGファイルの数が多いと表示に時間がかかるので、大量の画像ファイルがあるなら、予め複数フォルダに分割しておいたほうがいいかもしれない。


サンフランシスコ市内のセブンイレブンを撮影。ここは住所が711になっている。場所はMarket Streetである
地図の表示倍率を変えたところ。なお、地図上に表示する写真アイコンのサイズは設定により変更することができる

黄色い線が実際に歩いたルート。撮影したところは街中で、高いビルが多く、GPSの受信状態はあまりよくない。それで誤差が大きく、ルートからかけ離れた位置が記録されてしまっている
こちらは、自動車での移動。青い線は、別のGPS受信機で記録したデータによる軌跡。こちらは受信状態が良く、誤差も少ないため、軌跡からそれほど離れていない
ビデオカードで有名なNVIDIAの横を通ったときの写真。気になったものを撮影して、あとから場所がわかるのは便利

カシミール3Dでは、Exifデータ内のGPSデータの編集も行なえる。地図と見比べて、正しい位置へ修正することも可能
 実際表示させてみると、ぴったりと歩いた通りとはいかない。これは、衛星受信状態により、位置測定に誤差が出るからである。場合よっては100m程度、少ない場合でも数m程度の誤差はある。これがカーナビなら、車の速度や道路情報を組み合わせて正確な位置を推定している(マップマッチング)のだが、通常のGPS受信機にはこういう機能はないので、誤差が出てしまうのである。なお、カシミール3Dでデジカメ写真を表示させているとき、写真のアイコンをドラッグ&ドロップすることで位置情報を修正させることも可能(プロパティで緯度経度を直接修正することもできる)。

 知らない所へでかけて、写真を撮ったとき、あとからそれを地図と組み合わせて見るのは結構楽しい。また、撮りためてしまった写真をあとから行き先別に整理するときなどもGPS情報があると簡単だ。




塩田 紳二
雑誌編集者、メーカー勤務を経て、フリーランスライターに。幼少の頃から写真を撮るも、いまだに腕が上がらない。へんなものばかり撮っているからなのかも。現在は、コニカミノルタDiMAGEA1とカシオQV-R4を使用中。解像度、画質より使い勝手を重視するタイプで、次期機種を選定すべく、Excelで比較表を更新する日々が続く。

2005/11/22 16:56
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