デジカメ Watch

【新製品レビュー】富士写真フイルム FinePix S5200

~高感度における画質が改善したレンズ一体型高倍率機
Reported by 安孫子 卓郎

 上位機種の「FinePix S9000」と同時に発表された10倍ズーム機が「FinePix S5200」だ。S9000と同じくISO1600での撮影が可能だが、CCD画素数、レンズズーム比などの基本スペックを抑え、さらにCF/xDピクチャーカードのダブルスロットや、マニュアル操作関連を省略した下位モデルという位置付けにある。価格もS9000より3万円ほど安く、5万円弱の店舗が多い。


手ブレに有効なテレ端F3.5の10倍ズームレンズ

 本体はレンズ一体型らしいL字型フォルムで、レンズは沈胴式ではなく固定式。大きなグリップと共に、カメラをしっかりホールディングできる。背面には親指をおくスペースもしっかり確保されており、持ちやすさに大変配慮したデザインである。




 撮像素子はスーパーCCDハニカムHR、1/2.5型の有効512万画素。出力は最大2,592×1,944ピクセル。スーパーCCDハニカムゆえ同じ比較はできないが、最近は1/2.5型でも600万画素タイプが多く出てきているので、画素数の少なさが気になるかもしれない。

 だが一般的な使用では、500万画素と600万画素は画質面において「十分」と「十分プラスα」くらいの違いでしかない。むしろ画素数を増やすことで感度の低下など無理が出てくる可能性もあるため、本機の512万画素も「ほかより少ない」よりは、「十分」と考えるのが正しいだろう。

 レンズの焦点距離は、35mm判換算で38mm~380mm相当。F値は3.2~3.5。テレ側でF3.5というスペックは、手ブレを防ぐには有効である。最短撮影距離は、マクロモード広角側で10cm。テレ側で90cm。テレ側の90cmはまずまずだが、さらに近寄る「スーパーマクロモード」などの機能がないのは残念。液晶モニターは1.8型低温ポリシリコンTFTカラー液晶で、画素数は約11.5万画素。EVFは0.33型のカラー液晶で、こちらも約11.5万画素。視度調節機構も付く。

 ストロボはオートポップアップが可能なリトラクタブルタイプ。大きくポップアップするのはよいが、手動で持ち上げることはできない。つまんで持ち上げることもできるが、爪がかかるような突起がなく、無理矢理隙間に爪を差し込んで持ち上げているようで、あまり心地よくはない。強制発光したい場合でも、最初の1回はオートポップアップさせることになる。


 起動はシャッターボタンの周りについた電源レバーを回し、再生と撮影モードを設定するタイプ。一方ズーム操作は、背面上部に設置された2つのボタンで、テレ側、ワイド側へと動かす。

 絶えず液晶モニターを見ながら撮影する薄型コンパクトの場合はこれでもよいが、S5200のように10倍ズームともなると、手ブレのことを考え、液晶モニターよりEVFでの撮影が多くなる。しかしEVFを使うと、ダイヤルやズームボタンのボタン配置に慣れないうちは、その都度EVFから目を離してズーム操作をする人も出てくるだろう。シャッターボタン周りにズームレバーがついていれば、目を離すことなくそのままズーム操作が可能なので、利便性は高い。逆に起動や終了、再生は、体から離した状態で行なう操作であり、現在のズームボタンの位置にあっても何ら問題はない。

 ボタンレイアウトで特徴的なのは、左肩にAF/MFの切替ボタンが付いていること。ここでC-AF/S-AF/MFを切り替える。使いやすい位置に付いているため、うっかり押してしまわないようにロックも付いている。

 ただMFの操作が、露出補正ボタンを押しながらズームボタンの左右で行なうタイプなので、あまり操作性は良くない。またピント位置を示すガイドバーなども出ない。フォーカスエイドマークは出るものの、基本的には液晶画面での判断を強いられるため、MF撮影は特殊な場合に限られるだろう。とすれば、フォーカス切替スイッチがここまで使いやすい位置になくても良かったのではという気もする。

 なお、最近の富士フイルムは連写モードを省く傾向があり、オートブラケット機能のない機種もある。ただし、S5200は3コマのオートブラケットが可能で、連写性能は秒2コマと遅めであるが、一応でもオートブラケットが使えることは評価できよう。


xDピクチャーカードスロット 電池室

高い増感性能、ISO感度オートの適用範囲を広げたい

 バッテリーは単三電池4本を使用。アルカリ乾電池の場合はCIPA基準で250枚。富士フイルム製2500mAhのニッケル水素充電池4本で500枚の撮影が可能である。また本体内にニッケル水素充電池の放電機能をもち、メモリー効果による電池の消耗を防ぐ工夫がなされている。

 メディアはxDピクチャーカード。保存形式はJPEGのほか、CCD-RAWも選択できる。動画は640×480、または320×240ピクセルで、30fps。AVI形式のMotion JPEGで、モノラルの音声付き。動画撮影中のズームはできない。

 撮影モードはP/S/A/Mとフルオート、動画、シーンモードと、ブレ軽減モードとなる。シーンモードは、ブレ軽減/ナチュラルフォト/人物/風景/夜景。ナチュラルフォトもブレ軽減と同様にISO1600まで増感するモードだが、こちらはストロボがOFFとなり、暗い場所でも自然に撮れるというモード。

 シャッタースピードは15~1/2,000秒。AFは平均的な速さで、この種の製品で最速の部類ではないが、それほど遅くもない。露出補正は、露出補正ボタンと十字ボタン左右の同時押し。個人的には露出補正ボタンを押した後、補正モードを数秒間だけ維持してくれれば使いやすかったと思う。

 メニューは最近の富士フイルムが共通して採用している方式だが、一度項目の中に入って設定し、また元へ戻って次の項目へ移動するという操作のため、以前のメニューよりも操作は煩雑になる。

 ただメニュー項目の中で頻繁に使いそうなのはホワイトバランスくらいで、記録画素数、ISO感度、フォトモードは専用の「F」ボタンで切り替える。どうせならFボタンにホワイトバランスも入れてくれれば、メニューの操作が煩雑になってもあまりデメリットを感じずにすんだのではないだろうか。


撮影時画面例 撮影時に3画像前まで表示する「アシストウインドウ表示」 日付再生

FinePix PHOTO MODE(ピクセル) FinePix PHOTO MODE(ISO感度) FinePix PHOTO MODE(FinePixカラー)

ホワイトバランス 測光モード AFモード

 最も不満を感じたのがISO感度の設定方式だ。P/A/S/Mモードでは、ISO感度オート設定が選択できない。ISO64/100/200/400/800/1600相当から設定でき、必ずどれかの任意固定となってしまう。3倍ズームくらいの機種ならば、64か100に固定することもよいが、10倍ズームともなれば、さすがに64固定では厳しいものがある。どうしても400くらいにはしておかないと、手ブレが発生してしまう。

 S5200の売りは高感度にある。実際コンパクトデジカメとしては群を抜く増感性能であり、400程度なら常用してもよいと思わせるくらいにノイズは低減されているのだが、余裕があるならより高画質で撮りたいと思うのが人情だろう。たとえノイズが他機種より少なくても、ハイライト部分の階調制御は低感度のほうが有利だし、400でも従来機種より高画質とはいえ、64より高画質なわけでもない。つまり、望遠側では高感度、しかしそれ以外なら低感度にしたいわけだが、そうすると、シャッター速度を確認しながら、毎回ISO感度の設定し直すことになりかねない。

 もっとも、P/A/S/Mではなく、AutoモードではISO感度のオート設定が選べる。しかし、Autoモードではストロボもオートのみとなり、露出補正も不可能。ポップアップするストロボを押さえつけて非発光にすることも可能だが、その場合、絞りとシャッター速度は発光時の設定になっているのでこの方法は使えない。PモードやAモードに感度のオート設定を入れてくれれば、きわめて使いやすくなるはず。ファームウェアの改善を早期に望みたい部分である。


まとめ

 筆者は、画素数が増えることに対して否定的見解を持つものではない。画素が増えていくことはより精密な描写が可能となることであり、良いことだとは思っている。しかし500万画素を超えてくると、画素数を増やしたことによって得られるメリットは次第に減少し、何かが犠牲になるとすれば、一概に喜んでばかりもいられない。特に高画素化の場合、デメリットが前面に出るケースのほうが増えてくると思っている。

 S5200は、画素数を500万画素に据え置いたものの、その分ISO400/800/1600相当など高感度における画質の改善が見られており、トータルでは画素数を増やすよりも良好な写真が撮れるケースが多いのではないだろうか。今後はさらに速いAFや、さらに速い連写、バッファの増加、手ブレ補正の採用により、増感性能がより以上に有効に働くだろう。

 一眼レフが低価格化していく中、本機のような存在は趣味の世界よりもより実務的な分野において、支持を受けていくのではないかと考える。そういう意味からも、PモードなどでもISO感度のオートは是非ともほしい機能だ。

 一方で実務的ということからすれば、いつも400で撮影し、それ以上高画質でなくても良いという考えも成り立つわけで、割り切って使うならば、一眼レフ以上の小型軽量を持つ実用機種として、評価できる存在だろう。


作例

※掲載した作例は撮影データをリネームしたものです。縦位置のものは、サムネールのみ回転していますが、拡大画像はあえて回転せずに掲載しています。クリックすると撮影した画像が別ウィンドウで表示されます。

※キャプションの作例データは、画像解像度(ピクセル)/露出時間/レンズF値/露出補正値(EV)/ISO感度/ホワイトバランス/焦点距離/です。



●ISO感度

 ISO64と400の比較。背景のボケなどを見ると400では階調性が悪くなっていることがわかる。しかし、それほど気にしなくても使えるレベルといえるだろう。


【ISO64】
2,592×1,944 / 1/125(秒) / 3.2 / 0 / 64 / オート / 63
【ISO400】
2,592×1,944 / 1/350(秒) / 5 / 0 / 400 / オート / 63

 ISO400、800、1600の比較。陽の当たっている部分は増感しているので大きく飛ぶが、肝心のレッサーパンダをブレずに撮ることを優先するなら、増感という選択肢は十分存在する。どこまで許容するかは撮影者の判断によりけりだが、動物園などなら許容できるのではないだろうか。


【ISO400】
2,592×1,944 / 1/210(秒) / 3.2 / -0.7 / 400 / オート / 63
【ISO800】
2,592×1,944 / 1/180(秒) / 3.2 / -0.7 / 800 / オート / 63
【ISO1600】
2,592×1,944 / 1/340(秒) / 4.5 / -0.7 / 1600 / オート / 63


●画角


【広角端】
2,592×1,944 / 1/120(秒) / 3.2 / -0.3 / 64 / オート / 6.3
【望遠端】
2,592×1,944 / 1/120(秒) / 3.2 / -0.3 / 64 / オート / 63


●ホワイトバランス


【晴天】
2,592×1,944 / 1/320(秒) / 5 / 0 / 64 / オート / 6.3
【日陰】
2,592×1,944 / 1/340(秒) / 5 / 0 / 64 / オート / 6.3


●FinePixカラー

 フォトモードで設定できるFinePixカラー3種「F-スタンダード」、「F-クローム」、「F-B&W」の比較。F-クロームはかなり派手な色作りになる。


【F-スタンダード】
2,592×1,944 / 1/350(秒) / 3.2 / -0.7 / 400 / オート / 63
【F-クローム】
2,592×1,944 / 1/340(秒) / 3.2 / -0.7 / 400 / オート / 63
【F-B&W】
2,592×1,944 / 1/340(秒) / 3.2 / -0.7 / 400 / オート / 63


●マクロ

 ワイド側の最短撮影距離は10cmなので、ネイチャーフォトらしいマクロ撮影には苦しい。テーブルフォトなどならば問題ない。テレ側は90cmまで寄れるのでまずまず。近寄りにくい昆虫などには便利だ。


2,592×1,944 / 1/136(秒) / 3.2 / 0 / 64 / オート / 6.3 2,592×1,944 / 1/350(秒) / 5 / -0.3 / 200 / オート / 63


●ブレ軽減

 プログラムAEでISO400に増感して-2/3の露出補正をかけ、そのままブレ軽減モードに移行したところ、感度は200まで下がった。露出補正もキャンセルされてたため、やや白く浮いた。


【プログラムAE】
2,592×1,944 / 1/500(秒) / 5.6 / -0.7 / 400 / オート / 63
【ブレ軽減】
2,592×1,944 / 1/450(秒) / 3.2 / 0 / 200 / オート / 63


●ストロボ

 ストロボの発光と非発光で大幅に色味が違う。通常、ストロボ光により青っぽくなるのだが、ホワイトバランスで青みをカバーするように働いているようだ。


【ストロボ非発光】
2,592×1,944 / 1/320(秒) / 3.2 / -0.7 / 400 / オート / 63
【ストロボ発光】
2,592×1,944 / 1/125(秒) / 5 / 0 / 400 / オート / 63


●そのほか


檻の隙間に手を伸ばして撮影。小さいレンズと液晶ファインダーならではの撮影で、一眼レフでは難しい
2,592×1,944 / 1/340(秒) / 3.2 / -0.3 / 200 / オート / 6.3
ISO200での撮影だが、これくらい写れば増感しても問題はあるまい
2,592×1,944 / 1/480(秒) / 5.6 / 0 / 200 / オート / 63

蟻塚に草を入れ、取り出して横を向いてなめる。その一瞬だけ横顔が見えるのでシャッターを押す。EVFは1/30秒のタイムラグがあるはずだが、間隔をはかるとタイミングを合わせることも可能。タイムラグは短いと考えてよいだろう
2,592×1,944 / 1/280(秒) / 4.5 / -0.7 / 200 / オート / 63
手前と奥、2頭のシマウマにピントが合っている。一眼レフの超望遠ではどちらかがボケるのが普通であり、相当絞り込まないと両方にピントは合わない。絞りすぎると手ブレも起こしがちだ。ボケない利点も多い。
2,592×1,944 / 1/550(秒) / 6.4 / 0 / 200 / オート / 63

ホテイアオイの花。一眼レフと比較して厳しく見れば、もうひとつではあるものの、コンパクトデジカメとしては十分な画質。これ以上を望むなら一眼レフへということだろう
2,592×1,944 / 1/320(秒) / 5 / 0 / 200 / オート / 63
透過光でヒマワリの花びらを写す。透過光部分の黄色もちょうど良く発色しており、期待通りの写りとなっている
2,592×1,944 / 1/450(秒) / 3.2 / 0 / ISO64 / オート / 6.3


URL
  富士写真フイルム
  http://www.fujifilm.co.jp/
  製品情報
  http://fujifilm.jp/personal/digitalcamera/finepixs5200/

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富士フイルム、有効512万画素の高感度高倍率ズーム機「FinePix S5200」(2005/07/28)



安孫子 卓郎
(あびこたくお) きわめて頻繁に「我孫子」と誤変換されるので、「我孫子ではなく安孫子です」がキャッチフレーズ(^^;。大学を卒業後、医薬品会社に就職。医薬品営業からパソコンシステムの営業を経て脱サラ。デジタルカメラオンリーのカメラマンを目指す。写真展「デジタルカメラの世界」など開催。現在パソコン誌、写真誌等で執筆中。

2005/09/14 00:44
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