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【新製品レビュー】キヤノン PowerShot S2 IS

~手ブレ補正機構付き光学12倍ズーム搭載の高倍率機
Reported by 塙 真一

 最近は、安価なデジタル一眼レフカメラも人気があるが、持ち歩くのに便利な高倍率ズーム機種も一定のユーザー層に安定した人気がある。そんなジャンルに新機種が登場した。キヤノンのPowerShot S2 ISである。従来モデルのPowerShot S1 ISのズーム倍率とCCDの画素数を一段とスペックアップして、さらに動画機能を充実させたのが特徴である。


光学12倍ズームの手ブレ補正付きレンズを搭載

 キヤノンのPowerShot S2 IS(以下、S2 IS)は広角から望遠までを1台でカバーする、いわゆる高倍率ズーム機だ。

 従来モデルとなるPowerShot S1 ISは光学10倍ズームに320万画素CCDという組み合わせだったが、S2 ISでは焦点距離36~432mm相当(35mm判換算時)の画角をカバーする光学12倍ズームが採用され、撮像素子も500万画素へとアップしている。





 この組み合わせは現在の高倍率ズーム機の標準的なスペックといえる。ライバル機となる松下電器のLUMIX DMC-FZ5は焦点距離が同じ、コニカミノルタ DiMAGE Z5も焦点距離が35~420mmとわずかに違うが、同じく12倍ズーム+500万画素である。

 また、これらのモデルに共通の性格として「手ブレ補正機能」の搭載が挙げられる。DiMAGE Z5は「CCDシフト方式」、S2 ISとDMC-FZ5はレンズ内に手ブレ補正レンズを組み込んだ「光学式」を採用している。


手ブレ補正の設定。「撮影時」、「流し撮り」などを選択できる
 S2 ISの手ブレ補正機構(IS)は光学式で、すでに一眼レフカメラのレンズにも採用されているキーテクノロジだけあり、信頼性も高く、撮影中の手ブレを確実に補正してくれる。

 また、手ブレ補正機構の設定も豊富だ。通常の「入」に加え、レリーズした瞬間だけ補正が働く「撮影時」、上下方向のぶれのみを補正する「流し撮り」などのモードも用意されている。

 撮影では普段から手ブレ補正機構を「入」にしておけばよいが、撮影シーンによって設定を切り替えて使うと、さらに効率的な手ブレ補正が行なえる。


USMの採用で高速なズーミングが可能

 12倍もの高倍率ズームになるとズームスピードがとても気になる。S2 ISは、ズーム駆動用のモーターに「超音波モーター(USM)」を採用した点も見逃せない。これによりワイド端からテレ端までを約1秒でズーミングできるし、なによりもズーミング時の動作音が静かなのがうれしい。

 さらに動画撮影時にもズーム操作ができる。動画にズームの動作音が混じることもない。このあたりの使い勝手は、もはやデジカメというよりもDVカメラと同品質といってもよいだろう。

 そして、S2 ISのもうひとつの大きな魅力は、画像処理エンジンに定評のある「DIGIC II」が採用されたことだろう。ご存じのようにDIGIC IIはデジタル一眼レフカメラのEOS DIGITALシリーズをはじめ、最新コンパクトモデルにも採用されている画像処理エンジンだ。この例に漏れず、S2 ISもDIGIC IIが搭載され、500万画素の画像の高画質化に大きく貢献している。

 特にAWB(オートホワイトバランス)が的確で、室内外を問わずほぼ満足のいく発色になる。コンパクトデジカメの場合は、ほとんどのユーザーがAWBのまま撮影をすると思われるので、AWBの精度はとても大切だ。


回転式の1.8型低温ポリシリコンTFT液晶モニターを搭載 液晶モニターを閉じて、EVFで撮影することもできる。ボタンレイアウトはキヤノンのコンパクトデジカメ共通のものだ

本体底面には単三アルカリ電池4本が装着できる。カタログ値の撮影枚数は約130枚だが、実際にはこの2倍以上は撮影できた MFボタンとマクロボタン。マクロボタンを長押しするとスーパーマクロモードに設定され、ワイド端で0cmからの撮影が可能となる

 本体の背面にある液晶モニターは1.8型で、上下左右に回転可能なバリアングル式である。S1 ISの1.5型に比べれば大きくなったが、ボディサイズを考えると2型かそれ以上の液晶がほしいところだ。

 また、ファインダーはEVFである。光学式であれば液晶モニターとの使い分けにも悩まないが、さすがに12倍ズームではズーム倍率がありすぎて光学式ではとても実現できないのだろう。

 やはり、他社のモデルを含めてこのクラスは、少々残念だが“EVFと液晶モニターの組み合わせで撮影することに慣れるしかない”ということなのだろう。


デジタル一眼レフカメラ並みに豊富な撮影機能

 ISO感度はオートのほか、ISO50、100、200、400の計5種類ある。上げるほどに比例して順当にノイズは増えていくが、それでも以前の機種のようにISO 100までが実用で、それ以上は非常用ということはない。

 S2 ISは、ISO400の画像でも、条件によって十分に実用レベルである。たしかに、人物撮影などでISO 400の常用は人によって厳しいかもしれない。しかし、風景やスナップではまず高感度ノイズが気になることはなかった。

 撮影中に気になったのは、AFの合焦速度についてだ。AFは液晶モニターを見ながら任意の一点に測距点を移動できる「アクティブフレームコントロール」が搭載されるなど機能的には満足できる。

 だが、コントラストの低い被写体などではピント合わせに迷うことも多く、撮影中にイライラさせられる場面もあった。ズーミングスピードも速く、撮影レスポンスも悪くないからこそ、もう少し軽快なAFの合焦速度を期待したくなってしまう。


ポップアップ式の内蔵ストロボ。ストロボの上げ下げは手動で行なう 液晶モニターは1.8型とやや小振りだが、明るさも十分で屋外でも見やすい

 撮影モード数は豊富だ。モードダイヤルの構成を見ると、EOS Kiss Digital Nなどのデジタル一眼レフカメラよりも数が多いほどだ。

 撮影モードは「プログラムAE(P)」、「絞り優先AE(A)」、「シャッタースピード優先AE(S)」、「マニュアル露出(M)」のクリエイティブゾーンと、「ポートレート」、「夜景」、「スティッチアシスト」などのイメージゾーンに分けられる。

 そして、ダイヤル上に設けられたシーンモードは「ポートレート」、「風景」、「夜景」の3種類に限定されている。

 ただし、それに加えて「SCN(スペシャルシーンモード)」というポジションが用意されている。これは「新緑/紅葉」、「スノー」、「ビーチ」、「打ち上げ花火」など6種類のシーンモードをメニューから切り替えるようになっている。

 つまりモードダイヤル上にはよく使うシーンを厳選して配置し、それ以外はメニューから設定を切り替える仕組みだ。モードダイヤルを雑多にすることなく、シーンモード数を増やそうとする発想には好感が持てる。


ムービーカメラとしての使い勝手も上々

 そしてもうひとつ、S2 ISが力を入れている機能として、動画撮影機能が挙げられる。

 動画の形式はAVIで、コーデックはMotion JPEG、 音声データはWAVE(ステレオ)である。記録画素数は、640×480ピクセル(VGAサイズ)で30fpsの動画記録ができる。

 残念なのはMPEG-4形式ではないことだ。MPEG-4形式はファイルの圧縮率が高く、より長時間の録画ができるので採用してほしかった形式だ。


ファインダーの右側にあるボタンは、動画録画用の「ムービーボタン」。モードダイヤルの位置にかかわらず、いつでも動画を撮影できる
 先にも述べたが、動画撮影中のズーム操作ができるし、ズーム動作音も気にならない。さらに録画中でもAE、AFもきちんと動作する。もちろん、光学式の手ブレ補正機構も働く上に、さらに本体前面のマイクがステレオ対応になった。

 ここまでくると、もはやスチルカメラのおまけ機能というよりは、本格的なムービーカメラといっても過言ではない。

 実際に、動画撮影は背面の「ムービーボタン」によっても即座に録画ができる。もちろんモードダイヤルでも動画撮影に切り替えられるが、モードダイヤルの位置にかかわらずボタンひとつでムービーの記録が開始されるのはとても便利だ。

 静止画撮影中にふと動画の方が面白いかも? と感じる場面も多い。そんなときにムービーボタンを押すだけで簡単に動画撮影ができるので、動画を積極的に撮ってみる気になるのだ。

 さらに驚くべきは、動画撮影中にシャッターボタンを押すことで静止画の記録もできることだろう。実際に動画の撮影中に静止画を記録すると、動画の画面上では一瞬とぎれてしまうことと、シャッター音が録音されてしまう。これも肯定的にとらえれば、動画に対して「あっ、そうそう、ここで静止画を撮ったんだよね」といった意味の効果音や臨場感を生んでいるともいえる。

 高倍率ズームカメラをほしいと思うユーザー層は、子どもの運動会などを撮影したいというファミリーユーザーが多く含まれているはずだ。そんなファミリーユーザーは、できればデジカメ以外にも、DVカメラも併用して、子どもの記録をたくさん残しておきたいと思うものだ。こんな欲張り派のファミリーユーザーにはまさにぴったりなカメラといえるだろう。


楽しい「マイカラーモード」と0cmマクロ

 もうひとつ、筆者が気に入っている機能として「マイカラーモード」を紹介したい。

 マイカラーモードには「ポジフィルムカラー」、「あざやかブルー」、「あざやかレッド」など9種類のモードが搭載されている。特に楽しいのが「ワンポイントカラー」や「スイッチカラー」といった一風変わったモードだ。

 ワンポイントカラーは、画面上で指定した色以外をモノクロにするモードで、スイッチカラーは特定の色だけをまったく別の色に記録してくれるモードだ。

 見た目とはまったく違う色合いの写真に仕上げることが可能なので、撮影自体が楽しくなってくる。

 そしてこのマイカラーモードは、カラーを適用した画像と別にオリジナル画像を記録できる。つまり、色を変えて遊んでいても、しっかりと標準の画像も別ファイルで記録されるので、初心者でも安心して楽しめる。

 このほかにも、マクロ撮影の機能が強化されている。最短でなんと0cmまでの撮影ができる「スーパーマクロ」機能が搭載される。

 0cmといえばレンズにぴったりとくっつけて撮影するようになるため、光を透過しない被写体では画面が真っ暗になってしまう。

 必ずしもオールマイティな機能とはいえないが、光を透かした花びらなどはきれいに撮影できるので、レンズ前0cmという驚異的なスペックを、撮影のアクセントとして活用してほしい。


撮影時の情報表示 露出補正 ホワイトバランス

やや大柄なボディになってしまったのが残念

 機能的な話ばかりになってしまったが、最後に外観的な印象を述べたい。

 もっとも残念なのがS1 ISよりもサイズが大きくなってしまった点だろう。

 これはズーム倍率を12倍にアップしていることも関係しているのだろうが、重さで約35g、幅と奥行きも若干サイズアップしている。特に奥行きは1cm弱も厚みを増しており、少々ずんぐりとした印象を与える。

 操作性がよく、使い勝手に不満がないのが唯一の救いといえるのだが、スリム化が進むコンパクトデジカメにおいて、本体のサイズが大きくなったのは少々痛い部分だ。

 ちなみに、バッテリーは単三アルカリ電池4本を使用する。カタログによると約130枚の撮影が可能となっているが、筆者が実写したところでは2倍以上は撮影可能であった。

 これはストロボをほとんど使わなかったことと、ビューファインダーの使用が多かったことなどにもよる。それでも運動会などの撮影では予備電池を1セットも用意しておけば十分に撮影できる省電力設計は誰にとってもうれしい部分だろう。


作例

※作例のリンク先は、撮影した画像データそのものです(ファイル名のみ変更してあります)。クリックすると撮影した画像が別ウィンドウで表示されます。

※キャプション内の撮影データは、画像解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値(F)/ISO感度/露出補正値(EV)/焦点距離です。


●ISO感度

 さすがにISO400まで感度アップすると色ノイズが目立つが、それでもコンパクトデジカメとしてはノイズが少ないと感じる。人物ポートレートなどでなければシーンによって積極的に感度アップを行なってもよいだろう。


【ISO50】
1,944×2,592 / 1/25(秒) / 2.7 / 50 / 0 / 6
【ISO100】
1,944×2,592 / 1/50(秒) / 2.7 / 100 / 0 / 6

【ISO200】
1,944×2,592 / 1/59(秒) / 3.5 / 200 / 0 / 6
【ISO400】
1,944×2,592 / 1/100(秒) / 4 / 400 / 0 / 6

●ホワイトバランス

 ホワイトバランスの決定が非常に難しいシーンだが、逆にAWBの優秀さがうかがえる。太陽光や電球などのプリセットホワイトバランスを積極的に利用することで、さまざまな絵づくりが楽しめる。

 撮影データはいずれも、2,592×1,944 / 1/2(秒) / 2.7 / オート / 0 / 6。


【オート】 【太陽光】 【くもり】

【電球】 【蛍光灯】 【蛍光灯H】

●画角

 36mm相当のワイド端では鳥の細部をうかがい知ることはできないが、さすがに432mm相当のテレ端では細部までしっかりと写っている。デジタルズームをONにしておけばさらに4倍のズームが可能だ。緊急用と考えれば十分な画質といえる。


【ワイド端】
2,592×1,944 / 1/59(秒) / 2.7 / オート / 0 / 6
【テレ端】
2,592×1,944 / 1/25(秒) / 3.5 / オート / 0 / 72
【テレ端(デジタルズーム併用)】
2,592×1,944 / 1/40(秒) / 3.5 / オート / 0 / 72

●歪曲収差

 ワイド端では陣笠収差が目立つ。ワイドレンズの描写にありがちなタル型収差に比べ、さらに不自然に見えやすい。また、テレ端ではわずかながら糸巻き収差が見られる。こちらはほとんど気になるレベルではない。


【ワイド端】
2,592×1,944 / 1/59(秒) / 4 / 50 / 0 / 6
【テレ端】
2,592×1,944 / 1/100(秒) / 4 / 50 / 0 / 72

●色効果

 ファンクションボタンの「色効果」を変更すると、面倒な設定変更なしでさまざまな発色、色合いの描写が楽しめる。特に「くっきりカラー」と「すっきりカラー」は発色を変えずに彩度だけコントロールできるので、うまく使い分けると便利だ。


【色効果OFF】
2,592×1,944 / 1/250(秒) / 4 / 50 / 0 / 17.3
【くっきりカラー】
2,592×1,944 / 1/320(秒) / 4 / 50 / 0 / 17.3
【すっきりカラー】
2,592×1,944 / 1/320(秒) / 4 / 50 / 0 / 17.3

【ソフト】
2,592×1,944 / 1/320(秒) / 4 / 50 / 0 / 17.3
【白黒】
2,592×1,944 / 1/320(秒) / 4 / 50 / 0 / 17.3
【セピア】
2,592×1,944 / 1/320(秒) / 4 / 50 / 0 / 17.3

 マイカラーモードのうち「スイッチカラー」を試してみた。変更したい部分の色と、どの色に変更するかを設定するだけで、このようなお遊びカットが簡単に撮れる。オリジナルの画像も別ファイルとして保存しておけるのも嬉しい。


2,592×1,944 / 1/800(秒) / 4 / オート / 0 / 6 2,592×1,944 / 1/800(秒) / 4 / オート / 0 / 6

動画のダウンロードはこちらから。AVI形式(60.16MB)
●動画

 動画の記録はAVI形式で行なわれる。音声がステレオ録音されるのが特徴だ。動画撮影中にシャッターボタンを押すと静止画の記録が行なえるが、音声にシャッター音が入ることと、一瞬画面が黒くなるのが気になる。


●一般作例


光が当たっている耳の一部などを見ると、「DIGIC II」による画像処理の優秀さを感じる。シャドー部のノイズも十分に許容範囲といえるだろう
2,592×1,944 / 1/25(秒) / 3.5 / オート / 0 / 34.3
ビルの壁面に反射する夕日を撮影。ハイライトの飛び際は偽色が出やすい部分だが、それもしっかりと抑えられている
2,592×1,944 / 1/320(秒) / 4 / オート / 0 / 26

ワイド端で遠景の風景を撮影した。解像感は5メガクラスとして標準的と感じるが、のっぺりとした部分に偽色が多いのが気になる
2,592×1,944 / 1/640(秒) / 4 / オート / 0 / 6
逆光に光る植物が美しかったため、432mm相当のテレ端で撮影した。テレ端で約90cmからの撮影が可能なため、テレマクロ的に花などを撮影できる
2,592×1,944 / 1/400(秒) / 4 / オート / 0 / 72

AFモードをスーパーマクロに設定し、レンズ先端部を花びらに押しつけるようにして撮影した。0cmからのスーパーマクロモードならこのような写真も簡単に撮れる
2,592×1,944 / 1/400(秒) / 4 / オート / 0 / 6
ISO400で夜景シーンを撮影。もっともノイズの乗りやすいシーンだが、手ブレ補正機構のおかげで1/15秒というスローシャッターでも十分に手持ち撮影が可能だった
2,592×1,944 / 1/14(秒) / 2.7 / 400 / 0 / 6

池のきらめきが美しかったのでシャッターを切ったのだが、露出補正なしでも思い通りの描写となった。影の部分は完全に黒つぶれしており、かなり思い切った露出設定を行なうようだ
2,592×1,944 / 1/1,000(秒) / 7.1 / 50 / 0 / 17.3


URL
  キヤノン
  http://canon.jp
  製品情報
  http://cweb.canon.jp/camera/powershot/s2is/

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塙 真一
(はなわ しんいち)スナップや風景写真、ペット、人物撮影のほかに、最近ではグラビアアイドルのDVDパッケージ写真やカレンダー撮影も精力的にこなす。ほとんどすべてのデジカメをテストする強者テスターというキャラクターでカメラ雑誌に好評連載を持つほか、パソコンやレタッチソフトなどの造詣も深くパソコン誌などの各誌にも連載を持つ。カメラ好きが高じて購入したデジカメの数は数十機にも登る。

2005/06/27 00:02
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