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【プリンタ特集2006冬】レビュー[日本HP Photosmart C6175]
[2007/01/10]


2006年



PIXUS MP960
 一昨年、「スーパーフォトボックス」のキャッチコピーで単機能インクジェットプリンタを大幅にリファイン。スッキリとしたデザイン、前背面両給紙メカ、自動両面印刷機構、耐退色性能向上などを得たキヤノンのPIXUSシリーズ。昨年はスーパーフォトボックスの進化をテーマに、単機能機向けに開発されたスーパーフォトボックスのメカニズムをインクジェット複合機の世界にも持ち込んだ。

 では今年はどのような進化を果たしたのか? キヤノン インクジェットデバイス商品企画センター・課長の山崎学氏、専任主任の山田稔氏に話をきいた。

 ご存知のようにキヤノンという会社は、コピー機や業務用FAX、あるいはデジタル複合機などでもわかるように、OA機器メーカーとして古くから知られてきたベンダーである。一方でバブルジェットプリンタに端を発するコンシューマプリンタにも力を入れ、インクジェットプリンタの写真画質向上でも、ライバルとの間でしのぎを削ってきた。

 しかし数年前までのキヤノンは、この二つの分野における経験を、インクジェット複合機の世界において、上手に融合することができていなかったように思う。どこかちぐはぐさが残るラインナップが続いていた、というのが率直な感想だった。

 そうした印象に変化が起き始めたのが昨年のこと。大ヒットとなったスーパーフォトボックスを基礎に、事務機ではないコンシューマ向け複合機としての機能性、コピー機メーカーとしてのノウハウなどを詰め込んだ。


洗練度を上げることで、幅広いユーザーに高い価値を提供

キヤノン インクジェットデバイス商品企画センターの山崎学課長(左)と山田稔専任主任
-- 今年、キヤノンはどのようなコンセプトで新たな価値を提案しようというのでしょう?

「昨年、複合機へと進化したスーパーフォトボックスを、今年は“洗練”させることに力を入れました。高画質と高速の追求をさらに突き詰めたのはもちろん、誰でも使える複合機を目指して操作性をより洗練させています。また昨年来、導入している業務用コピー機の技術もさらに進化させましたし、デザイン面でもシリーズ間の一貫性を持たせ、背の低い圧迫感のないデザインに統一しています。スーパーフォトボックスは、リビングルームに置いても違和感のないプリンタを目指していますから、そうした意味でも高さを抑え、全体の質感を高めたデザイン性は重要だと考えています」

-- 画質はどのような点で改善しているのでしょう?

「1pl、9,600dpiという、昨年実用化し、現在でも世界最高のスペックを持つエンジンを、今年は普及価格帯にまで展開してます。写真画質がより重要と捉えるユーザーには7色インクモデル、顔料系黒インクを備えることでユニバーサルな画質を目指した5色インクモデル、価格対性能に優れた4色インクモデルがあります」

-- 速度の面では、MP600が旧モデルに比べ2倍のヘッド長を持つようになりましたが、他機種もフチなし印刷の速度が上がっています。どのような仕組みで高速化を図ったのですか?

「L判フチなしの印刷速度は、昨年モデルのMP800の32秒がもっとも高速でした。しかし、今年のMP810では18秒にまで高速化しています。また、MP960もL版が昨年モデルの39秒から29秒になりました」

「これはダブルエンコーダを採用したためです。エンコーダとは、用紙位置を認識・制御する部品のことで、従来機や他社機では給紙方向にしか装備されていません。今回はこの部品を排紙方向にも取り付け、フォト用紙の後端印刷時に紙送りが遅くなる現象を最小限に抑えることが可能になりました」


PIXUS MP810
-- MP600ではヘッドの長さを2倍にし、MP960、MP810、MP600ではダブルエンコーダを採用したとのことですが、それ以外にフォト印刷の高速化に寄与した要素はありますか?

「はい。MP810の場合、インク滴サイズを従来の2種類から3種類に増やし、改行の回数を減らすことで速度を上げる工夫もしています」

-- 3種類の異なるノズルを用意し、少ないパス数による高速化と小ドロップによる高精細化、多階調を両立させたということですね。しかし、小さいインク滴を複数ドロップする場合と、大きなインク滴を一度に落とす場合では、用紙上での反応は違います。高速化には有効ですが、濃度の比較的高いところで、細かなディテール感の喪失などの問題が、過去の可変ドロップレットシステムではありました。そのような画質面での問題は出ないのでしょうか?

「インク滴の配置を最適化することで、従来と変わらない画質を実現した上で、大きなインク滴を効果的に使うように工夫しています。3サイズのインク滴を使うことで、実際に画質が落ちるのか、それとも落ちないかについては、実際に印刷された結果を見て判断していただきたいと思います」

【お詫びと訂正】記事初出時、MP810のノズル長が長くなったと記述しましたが、MP600の誤りでした。MP810ではノズル長は変わっておらず、3サイズのインク滴による高速化が図られています。


ダブルエンコーダによりフチなし印刷を高速に
MP810では3サイズドロップレットにより高速化

-- 洗練というキーワードに話を戻すと、ユーザーインターフェイスの改良が重要でしょう。複合機は家族全員が必要なときに共有することが多い。パーソナルプリンタとの大きな違いは、個人向け製品として使い込めるだけの機能性と、家族の誰もが使いこなせる操作性の両立が不可欠なことです。

「はい、そのためにユーザーインターフェイスを一新しました」

「ここ数年のインクジェット複合機は、各社機能の追加によって利便性を上げることに注力してきました。しかし、機能追加を毎年繰り返してきた結果、機能が増えすぎ、せっかくの多機能をユーザーが知らないまま使っていることも多くなっています。今回、我々が取り組んだのは、初心者でもマニュアルを読まずに、あらゆる機能を使いこなせるようにすることです」

-- 十字方向キーも兼ね備えたイージースクロールホイールが配置され、ボタン数が極端に少なくなりました。具体的には、これをどのように使いこなすかが、簡単さに繋がっていくのでしょう。ユーザーインターフェイス構築のコンセプトを教えて下さい。


イージースクロールホイール。左端にナビボタンが見える
「従来はモードキーを配置し、自分が何をやりたいのかをボタンで選択し、それから作業をスタートさせていましたが、今回はホームボタンを一度押せば、あとはホイールでやりたいことを選択すると、次にその機能モードで何が出来るかといったように、階層的にユーザーが使いたい機能にたどり着けるようになっています」

「この際、液晶画面上のアイコンで機能を表示するだけでなく、その機能がどんな意味を持っているのかを文字で伝えるようにしました。ユーザーは説明を見ながら必要な機能の判断を行なえます。ユーザーは、何か機能を使いたい場合に、まずホームボタンを教えてもらえば、あとは画面を見ながら操作することでなんとかなる、という作りになっています」

「また、コピー機能ではコピーするイメージのプレビューを液晶画面上に表示できますが、ここでホイールを回すと印刷イメージの拡大縮小を行えます。画面を見ながら、用紙上でどのぐらいの大きさにしたいかを、数値入力ではなく感覚的なホイールの回転によって決められるようにしました。この機能はメモリカード内の画像を表示するブラウザやトリミング印刷でも利用可能です」

-- もうひとつ、ナビボタンも大きなサイズで配置されましたね。

「ナビボタンも開発に力を入れたポイントです。通常、よく使う機能をマニュアルを読まずに使いこなせるように、ナビボタンを選んでやりたい作業を選択すると、その方法が示されます。単なるオンラインマニュアルではなく、実際の作業ともリンクしているので、言われた通りに操作していれば、説明を見終わるまでには最終的に成果を得られる、といううところまでお手伝いするんです」

-- 昨年来、業務用のコピー機で蓄積した技術を応用していると案内されていましたが、今年の製品ではどのような点がさらに進化したのでしょう?

「色再現の精度が向上しています。カラーコピーは色を含め、元原稿の複写を行なう機能ですから、原稿に対して色も忠実に再現しなければなりません。今年モデルでは、カラー原稿をコピーし、そのコピーからさらにコピーをしても、色のズレが少ない。このことからも、色再現の精度が高まっていることがわかるはずです」

「さらに、文字、グラフィック、写真と原稿の内容を判別し、それぞれのエリアごとに異なる画像処理を行なっています。このような処理を行なうことで、コピー時にも文字部分では顔料ブラックが使われ、文字がキレイにコピーされるよう輪郭をスッキリと見せる処理が行なわれます。さらに、写真と認識された部分では、元原稿のハーフトーンとの干渉で発生するモアレを抑え、先鋭感を必要とするエッジ部を強調するなど、画像の内容と出力メディアに適した画像処理とインク選択を行なうソフトウェアが組み込まれています。これらはカラーコピー機に長い間取り組んでいたキヤノンの開発成果を反映させたものです」


PIXUS MP600
「また、デザインにも関連する部分ですが、スキャナ部の原稿抑え部分にボタンを配置しているのも、コピー機能をより便利に使っていただくための工夫です。ボタンを隠し、メカっぽさを見せないために折りたたみ式になっていますが、そうした見た目の改善だけでなく、雑誌コピー時などにコピーを取る反対側のページが操作面にかぶって使いづらいといった問題を避けることが可能です」

-- デジタルカメラの画素数は毎年向上しています。ダイレクト印刷時のサムネイル表示や印刷速度といったパフォーマンスは改善しているのでしょうか? その際の画質はPCプリントの場合と同じでしょうか?


「画質は全く同じです。印刷速度はPCからの方が高速になりますし、また細かな設定を行なった場合は異なる画質になる場合もありますが、デフォルトでの写真印刷では結果は同じです。また速度面では処理LSIチップは同じですが、ソフトウェアの最適化により高速化を果たしました」

-- キヤノンのプリンタは、他社よりも写真の自動補正機能について、あまり積極的ではない印象があります。作品出力であれば忠実性が求められるでしょうが、コンシューマ向けの場合は、フィルム写真でのDPE出力機にように、忠実性よりも結果的にキレイに見えるよう作る方がウケはいいでしょう。このあたりをどのようにお考えですか?


「我々はカメラメーカーということもあるでしょうが、素材に対して可能な限り忠実であるべきという考えを持っています。キヤノンナチュラルフォトカラーで、ある程度、我々の絵作りは完成しています。自動補正は最小限に抑えて、あとはユーザーが意図しない出力にならないよう、程よい絵作りで出力させています」

-- 今年、プリンタを新たに購入しよう、あるいは買い換えようと考えている読者には、どんな点に注目して製品を選んで欲しいと考えていますか?

「プリンタを使いこなしてもらうには、豊富に備えている機能を使いこなせる簡単さに加え、いつでも思いついた時、すぐに使おうという気にさせる素早い出力が不可欠だと思います。使いたいと思ったときに、何らかのストレスを感じるようでは、そのうち使いこなそうという意欲を削がれるからです」

「まずは使いこなしやすい製品であること。そして、ストレスを感じさせない操作性と速度を実現していること。これらに気をつけて製品を選んでいただければと思います」



URL
  キヤノン
  http://canon.jp/
  製品情報
  http://cweb.canon.jp/pixus/

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キヤノン インクジェットプリンタ 2006年冬モデルの進化ポイント(2006/09/26)



本田 雅一

2006/12/08 19:19
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