D700に限らず、ニコンのカメラを使っていて、ややこしいなぁと思えることのひとつが、マイクロ(ニコン以外は「マクロ」だけど意味は同じ)レンズ使用時のF値の表示。というのは、ほとんどのメーカーが公称F値をそのまま表示する方式を採用しているのに対し、ニコンだけは露出倍数込みの実効F値表示方式なのである。
読者の皆さんには釈迦に説法な気もしないではないが、一応念のために露出倍数と実効F値について触れておくことにする。近接撮影時は無限遠のときよりも像面に届く光の量が減少してしまうため、マニュアル露出で撮るときには撮影倍率に合わせて露出を調整する必要がある。レンズを透過する光の量は同じだが、近接撮影時はレンズが像面から離れることになり、その分広い範囲に光が拡散するため、像面では単位面積あたりの受光量が減ることになるわけだ(レンズを懐中電灯、像面を懐中電灯に照らされている部屋の壁だと考えてみるとわかりやすいと思う。懐中電灯が壁から離れるほど壁の広い範囲に光が当たることになる、つまり光が薄まるため、その分だけ壁は暗くなる)。光の落ち具合を数字にしたのが露出倍数で、それを加味したのが実効F値である。
おおざっぱには、撮影倍率が0.5倍のときの露出倍数は2で、実効F値は公称F値よりも1段暗くなり、撮影倍率が等倍であれば露出倍数は4で実効F値は2段暗くなる。実際には、ほとんどのマクロレンズがフローティング機構やらインナーフォーカス、リアフォーカス方式やらを採用している関係で、等倍で実効F5.6にならないレンズもある。
で、何が問題かというと、「絞り開放から1段だけ絞りたい」ときに、F値をいくつにセットすればいいかがわかりづらいこと。たぶん、非ニコンユーザーの皆さんの頭上にはハテナマークがぷかぷかしているに違いない。大半のマクロレンズは開放F2.8だから、ここでもそういうことにして話を進めるが、F2.8のレンズを1段絞ったらF4に決まってる。普通はそう思う。そのほうがわかりやすいと思う。
が、ニコンは違う。実効F値方式なのである。実効F値は露出倍数を加味した数字なので、撮影倍率によって変動してしまう。なので、無限遠だと開放F値はF2.8だから1段絞ればF4だが、撮影倍率が0.5倍のときには開放F値がF4になるので1段絞ればF5.6、等倍なら開放F値はF5.6だから1段絞ってF8となる。
撮影距離と実効F値の関係 (F値表示が変化する撮影距離)
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60mm |
100mm |
150mm |
F2.8 |
無限遠 |
無限遠 |
無限遠 |
F3 |
― |
2.500m |
5.000m |
F3.2 |
1.500m |
1.200m |
1.500m |
F3.3 |
― |
0.750m |
1.000m |
F3.5 |
0.330m |
0.650m |
0.900m |
F3.8 |
― |
0.520m |
0.650m |
F4.0 |
0.260m |
0.470m |
0.600m |
F4.2 |
0.240m |
0.420m |
0.520m |
F4.5 |
0.227m |
0.370m |
0.470m |
F4.8 |
0.223m |
0.350m |
― |
F5.0 |
0.210m |
0.330m |
― |
F5.3 |
― |
0.320m |
0.420m |
※60mm=Ai AF Micro Nikkor F2.8 D、100mm=AT-X M100 PRO D、150mm=APO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM
※カメラはD700。露出の設定ステップは1/3段
※各レンズとも、フォーカスリングを無限遠から至近側に回し、F値の表示が変わった撮影距離です
※「―」は、F値が表示されなかったことを示します |
従って、絞り開放から1段だけ絞りたいのであれば、まず被写体にピントを合わせる(この段階で撮影倍率が決まる)→コマンドダイヤルを回して絞り開放にセットする(表示されるF値は露出倍数込みの実効F値である)→コマンドダイヤルを反対方向に1段分回す(1/3段ステップに設定しているなら、コロコロコロで1段だ)、とやるのが正解ということになるわけ。開放から2段絞りたければ、さらにコロコロコロを追加することになる。
ただ、ブツ撮りのときなんかにはこの方式はとってもありがたかったりする。公称F値を表示する方式のカメラでマニュアル露出で撮る場合、撮影倍率が変わると実効F値が変わるので、その分露出を調整してやらないといけない。表示上のF11は無限遠のときは実効F11だが、倍率が0.5倍のときは実効F16だし、等倍なら実効F22になる。だから、0.5倍の状態で露出を合わせてから等倍にすると、シャッター速度を1段遅くするか、絞りを1段開けてやらないと露出アンダーになってしまうのだ。頻繁に撮影倍率が変わるようだと、その分露出の調整も頻繁にやらないといけなくなるわけで、慣れればどうってことないのだけれど、それなりに面倒くさい。
ニコンのカメラは実効F値表示なので、撮影倍率が変わっても変化しない。F11にセットしたら無限遠でも実効F11だし、等倍でも実効F11。ずっとF11だから絞りもシャッター速度もいじらなくてOK。撮影倍率が変わっても露出を調整する手間はいらないかららくちんなのだ。まあ、アウトドアでは不便なところもある反面(AEで撮ってる分には露出倍数なんて気にする必要ないから、実効F値表示の悪い面が気になってしまうのだ)、インドアでは便利というわけだ。
ただし、まるっきり何も考えなくていいかというと、そういうわけでもない。例えば、F11は無限遠のときには開放絞りから4段絞ったところになるが、倍率が0.5倍のときは3段絞ったところになるし、等倍撮影時は開放から2段絞っただけ。被写界深度ってどこですか状態である。でも、F11という数字にはそれなりに絞り込んでる感があるので、撮ったあとで「けっこう絞り込んで撮ったのに深度が浅いなぁ」なんてことになりかねない。
絞りすぎると回折の影響が出てくるし、ローパスフィルター上のゴミの影も目立ってきたりするので、できればあまり深くは絞りたくない。でも、被写界深度をかせごうとすると、F22とかF32とかまで絞らないといけなくて、数字を見ていて気分が重くなったりもする。なので、開放から何段絞っているかがわかる公称F値方式と切り替えられるといいのにねぇと思うのである。
左が無限遠でのF5.6の絞り形状、右が撮影距離0.52m(撮影倍率0.5倍くらい)時のF5.6の絞り形状。撮影距離が違うので単純に比較するのはいけないと思うが、同じF5.6でも撮影距離によって絞りの径がかなり変わる。こうすることで像面に届く光の量が常に一定になるように工夫されているわけだ |
ところで、カスタム機能の中に「f2 中央ボタンの機能」というのがある。マルチセレクター(十字キー)の中央のボタンの機能を選べる項目だ。「撮影モード」では「フォーカスポイント(測距点)中央リセット」、「選択フォーカスポイント表示」、「使用しない」から、「再生モード」では「1コマとサムネイルの切り換え」、「ヒストグラム表示」、「拡大画面との切り換え」、「フォルダー指定」から選ぶようになっている。
このうち「再生モード」を「拡大画面との切り換え」にしておくのがおすすめである。背面左手側の拡大ボタンを使うと、画面の中央部が拡大されるのだが、見たい場所が画面の中央とはかぎらないので、拡大してからスクロールして見たい場所に移動するという手間が必要となる。それが「拡大画面との切り換え」でやると、選択した測距点を中心に拡大してくれる。選択した測距点の場所=ピントを合わせた場所=見たい場所と考えていいわけだから、この方式はとってもお利口で便利なのである。
実はこの機能、D700の前に使っていたD200にも搭載されていたのだが、中央測距点のままフォーカスロックしてフレーミング変更というパターンが多かったこともあって、選択した測距点を中心に拡大してくれているという実感がなかった。それがD700の51点測距だと、ピントを合わせたい部分に重なる測距点を選んで撮ったほうがフォーカスロックを多用するより効率がいい。その分選択した測距点を中心に拡大してくれるありがたみが増したわけだ。
もっとも、選択した測距点を中心に拡大になるのはAFのときだけで、MF時はどの測距点を選んでいても画面中央部から拡大するようになる。まあ、超音波モーター搭載レンズで“親指AF”にしていれば実質的にMFで使えるし、その場合はちゃんと選択した測距点を中心に拡大してくれるようになる。そういうあたり、超音波モーター搭載レンズのほうが便利だったりするのである。
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カスタムメニュー「f2 中央ボタンの機能」の画面
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同「撮影モード」時の設定画面。撮影時に中央ボタンを押したときの機能を選ぶ
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こちらは「再生モード」時の設定画面。個人的に「拡大画面との切り換え」がお気に入りだ
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中央ボタンで拡大するときの倍率を3段階から選べる。でも、いちばん使い勝手がよさそうなのは「低倍率」だと思う
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D700の再生画面。ヒストグラム付きの表示だ
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背面左手側の拡大ボタンを押すと、こんなふうに画面中央部を中心に拡大されていく。こういう画面の場合、なんもない背景がアップになっちゃったりするわけだ
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で、「拡大画面との切り換え」で中央ボタンを押すとこうなる。選択した測距点の位置(たいていはピントを合わせた被写体に重なっている)を中心に拡大してくれる。つまり、ピントが合っているかどうかチェックしたいところを拡大して見られるわけで、だからとっても便利なのだ
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この前手に入れたシグマのAPO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM。シャープだしボケもいいし超音波モーター(HSM)も内蔵。100mmマクロと違ってブツ撮りのときのパースペクティブが気になりにくいし、焦点距離が長すぎないのでハンドリングもいい。今回の撮影は全部このレンズで撮った
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縦位置にすると三脚座のノブがけっこうすれすれだったり。もちろん、横位置では問題ないですけど
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- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・0EVの撮影画像を別ウィンドウで表示します。
- ピクチャーコントロールはスタンダード、アクティブD-ライティング、ヴィネットコントロール、長秒時ノイズ低減はオフ、高感度ノイズ低減は標準で撮影しています。
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こういうかたよったフレーミングにすると、再生時の拡大表示で画面中央部を見せられても意味不明だったりする。中央ボタン押しで拡大表示にしておくと、ワンタッチでピントを合わせた部分の確認ができて便利だ
APO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 2.2MB / 1/1,250秒 / F5.6 / -1.3EV / ISO200 / WB:オート
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表示上はF16だけれども、撮影倍率が高い分の露出倍数を含めた実効F値なので、実はそれほど絞り込んでいるわけではない
APO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 2.7MB / 1/160秒 / F16 / -0.7EV / ISO200 / WB:オート
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100mmクラスの中望遠マクロに比べると、背景が大きくボケるので画面が整理しやすいのが強み
APO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 2.8MB / 1/500秒 / F8 / -0.3EV / ISO200 / WB:晴天
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このくらいの倍率でF8だと、開放から2段絞ってるかどうかってところだと思う
APO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 2.7MB / 1/640秒 / F8 / -0.7EV / ISO200 / WB:晴天
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この寒桜は等倍で撮ってるので、表示上はF8でも絞り開放から1段絞っただけの状態。だから、「被写界深度って何?」的状態だ
APO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 2.5MB / 1/800秒 / F8 / -0.3EV / ISO200 / WB:晴天
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こっちはもっと引きで撮っているので、それなりに絞れている。でも、焦点距離が長いから背景はけっこうボケてくれる
APO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 2.9MB / 1/500秒 / F8 / 0EV / ISO200 / WB:晴天
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木の幹のこぶをアップでねらってみた。がちがちにならない優しいシャープさは個人的にはかなり好み
APO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 5.4MB / 1/2.5秒 / F11 / -2EV / ISO200 / WB:晴天
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別の木の幹。それにしてもマイナス2.3EV補正って、最近じゃめったにやらないよなぁ
APO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 6.0MB / 1/6秒 / F11 / -2.3EV / ISO200 / WB:晴天
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例によって、AF-C(コンティニュアスAFサーボ)+“親指AF”で。このときはAFは役に立たなかったのでMFオンリーですけど
APO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 2.4MB / 1/100秒 / F11 / +0.3EV / ISO200 / WB:晴天
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風で揺れるし、というのもあって、たいていは手持ち撮影。180mmとか200mmとかだと腕力的に辛いけど、150mmはずっとあつかいやすい
APO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 2.9MB / 1/500秒 / F4 / -0.7EV / ISO200 / WB:晴天
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この倍率でF4だと、ほぼ絞り開放。超薄の被写界深度でもピントが合わせられたのは間違いなくD700のAF性能のおかげです
APO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 2.8MB / 1/640秒 / F4 / -1EV / ISO200 / WB:晴天
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梅に限ったことではないが、花の写真をピクセル等倍にすると雄しべとかまでくっきり見えてすごいっていつも思う
APO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 2.5MB / 1/500秒 / F6.3 / -0.7EV / ISO200 / WB:晴天
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F6.3なんていう半端な絞り値はまず使うことはないので、たぶん開放から1段絞ったところなのだと思う
APO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 2.7MB / 1/200秒 / F6.3 / -0.3EV / ISO200 / WB:晴天
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【2009年2月13日】「マニュアル露出で撮るときには撮影倍率に合わせて露出を補正する必要がある」を、「マニュアル露出で撮るときには撮影倍率に合わせて露出を調整する必要がある」に修正しました。
■ URL
ニコン
http://www.nikon.co.jp/
バックナンバー
http://dc.watch.impress.co.jp/static/backno/longterm2009.htm#d700
ニコンD700関連記事リンク集
http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2008/07/03/8783.html
北村智史 (きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。最初に買ったデジタルカメラはキヤノンPowerShot S10。
ブログ:http://ketamura08.blog18.fc2.com/ |
2009/02/12 13:38
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