デジカメ Watch
最新ニュース

オリンパスE-520【第5回】
実はダブルで効くライカDレンズとの組み合わせ

Reported by 北村智史


 デジタル一眼レフの中で、オリンパスのカメラにしかできないことがある。センサーシフト式手ブレ補正のカメラと、レンズシフト式手ブレ補正のレンズと組み合わせることだ。

 ご存知のとおり、オリンパスとパナソニックは同じフォーサーズを採用している。そのため、オリンパスのカメラにはパナソニックのレンズがつけられるし、その逆にパナソニックのカメラにオリンパスのレンズをつけることもできる。

 当たり前の話だが、レンズシフト式を採用しているメーカーはセンサーシフト式の一眼レフカメラは作ってないし、手ブレ補正はレンズシフト式の方がいいと主張してもいる。その一方で、センサーシフト式のメーカーはレンズシフト式のレンズは作っていないし、もちろん、手ブレ補正はセンサーシフト式の方がいいと主張している。

 シグマもタムロンも手ブレ補正レンズは作っているが、シグマはソニー用とペンタックス用には手ブレ補正を入れていないし、タムロンはキヤノン用とニコン用しか発売していない。なので、2つの手ブレ補正を2つとも持てるのは、オリンパスのカメラとパナソニックのレンズを組み合わせたときだけなのである。

 厳密にいうと、オリンパスのカメラはE-3、E-520、E-510の3機種だけ、パナソニックのほうは、D Vario-Elmarit 14-50mm F2.8-3.5 ASPH.、D Vario-Elmar 14-50mm F3.8-5.6 ASPH.、同14-150mm F3.5-5.6 ASPH.の3本に限られる。手ブレ補正のない組み合わせ、例えばE-420にD Summilux 25mm F1.4 ASPH.のなんかは当然除外である。

 もちろん、カメラとレンズの両方でいっぺんに手ブレ補正が動いたらまず間違いなくまともなことにはならない。カメラ側がシャッター速度で4段分、レンズ側が3段分の補正能力を持っているから、合わせて7段分の手ブレ補正が……なんてことにはならないんである。なにしろ、互いに協力しあうようにプログラムされているわけではない。だから、カメラとレンズがそれぞれ勝手に手ブレを打ち消そうとすれば、たぶん補正しすぎになって、かえってブレてしまうことになるのではないかと思う。

 手ブレ補正がダブルで入っているのにかえってブレてしまうなんてのは馬鹿らしいわけで、そういうことにならないようにと、オリンパスとパナソニックで相談して、両方の手ブレ補正がオンになっていた場合の挙動についてルールが決められた。以前、筆者が聞いたところによれば、両方オンになっていた場合はカメラ側の手ブレ補正だけが有効になるとのことだった。で、レンズ側の手ブレ補正は強制的にお休みになると思っていたわけだ。


D Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6 ASPH. MEGA O.I.S.
 ところが、である。E-520にパナソニックの14-150mm F3.5-5.6を装着してみたところ、オリンパスのレンズとは違う気配がする。もしやと思って望遠端までズームしてみると、レンズ側の手ブレ補正が働いているように思えたし、耳を当ててみると、たしかに「シー……」というような、かすかな音がする。

 レンズの手ブレ補正のスイッチをオフにすると音は消える。なので、手ブレ補正が作動している音だと考えて間違いはないだろう。じゃあ、カメラ側の手ブレ補正がオフになっているかというと、ちゃんとオンになっている。

 両方オンになっているときはカメラ側が優先。レンズ側はお休みのはず。でも、動いてる。いいのか、これで。大丈夫なのか? もしかしたら、カメラかレンズかあるいは両方が壊れていて、本来動かないはずのレンズ側の手ブレ補正が作動しているとかだったらどうしよう。

 などと考え出すとキリがないので、オリンパスさんに電話をかけて教えていただいた。

 で、調べてもらったところ、その動作であっているとのこと。カメラとレンズの両方の手ブレ補正がオンになっていると、待機中(つまり、シャッターを切っていないとき)はレンズ側の手ブレ補正が働いていて、露光時(シャッターを切ってるとき)だけはカメラ側の手ブレ補正が働くのだそうな。ライブビュー時も同様で、やはり待機中はレンズ側、露光中はカメラ側といったふうに、自動的に切り替わる。

 ようするに、カメラ側の手ブレ補正がオンになっている場合、レンズ側の手ブレ補正は完全にオフになると思っていたら、実はそうではなくて、露光時以外はオンのままということなわけだ。なるほど。


右から、ライカD Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6 ASPH.、ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6、同ED 14-42mm F3.5-5.6。こうやって並べて見るとそれほどでもないが、手に持つとライカDレンズの大きさと重さはかなりのもの
 さて、ここらでおさらいをしておこう。理屈の上では、レンズの光学性能にまったく負荷のないセンサーシフト式の方が画質面では有利とされる。レンズ設計の難易度の問題もあるし、補正光学系の移動量が大きな条件では、画質に悪影響が出る可能性がある。ただし、ファインダー上はブレたままというのが泣き所である。

 特に望遠レンズではブレブレのファインダー像と格闘しながら撮ることになるので、被写体を見ること自体が簡単ではなくなってしまう。カメラが安定しないとフレーミングも落ち着かないわけで、画面をばっちり決めたいときにも不利となる。それに、人間にとってしんどい条件というのは、カメラにとってもしんどかったりする。

 ファインダー像がブレている状態では、AFセンサー上に映る像もブレているわけで、そうなるとピント検出が難しくなって、AFスピードや精度に悪影響を与える可能性が出てくる。これがレンズシフト式だとAFセンサーに映る像もブレのない安定した状態にできるのでAFにも有利になる。もちろん、これも理屈の上での話であって、実際にどれくらいの違いが出るのかはわからない。

 こんなふうに、それぞれに一長一短があるわけで、どちらがいいとか優れているとかを決めるのは難しい。が、オリンパス+パナソニックの組み合わせが理想的なのは間違いない。ファインダー像とAFセンサー上に映る像はレンズシフト式で安定させられる。フレーミングやAF性能の面はばっちりだ。一方、露光時にはセンサーシフト式に切り替わるので、画質への影響も最小限に抑えられる。

 なんだかもう、いうことなしである。広角から中望遠の範囲であれば、わりと安定した構え方もできるのでセンサーシフト式だけで十分だが、35mm判換算で200mm相当以上の望遠域にもなると、ファインダー像のブレが気になってくる。そのセンサーシフト式の弱い部分をレンズシフト式でカバーできるのだから、めちゃめちゃ強い。もしかしたら、無敵と言ってもいいかもしれない。

 ただ問題は、ライカDレンズは安くない、ということ。オリンパスのZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6と同ED 40-150mm F4-5.6の2本のレンズを足すと、D Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6と同じズームレンジになるが、この2本はダブルズームキットで買うと実質3万円で手に入ってしまう。ボディと別にばらばらで買ったとしても6万円でお釣りがくる。

 対するD Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6は実売13万6,000円ほど。オリンパスの2本をばらで買うときの2倍以上というか、ダブルズームキットより10万円も高いというか、とにかく目玉がでんぐり返るほどのお値段なんである。重さだって、オリンパスのが2本で410gの軽さなのに、D Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6はレンズ1本で530g。けっこうずっしりなのだ。


 10万円を超えるレンズなのだからよくて当たり前だが画質はいい。高倍率ズームの割に広角端の歪曲収差は少ない(ライカDレンズとしては曲がるほうだけれど)。加えて、AF駆動は超音波モーターなので、速いし静か。いいところをあげていけばいくつも出てくる。でも、高いし重い。欠点もでかい。

 レンズシフト式に切り替えて使えるといっても、効果はE-520のセンサーシフト式の手ブレ補正の方が上だったりする。ファインダー像が安定するメリットはたしかにあるが、写りにダイレクトに響くわけでもないから我慢のしようもある。だから、よほど経済的に余裕がある人以外にはおすすめしない。13万円も予算があるなら、3万円でダブルズームを買って、残りでZUIKO DIGITAL ED 12-60mm F2.8-4 SWDとか、同ED 50-200mm F2.8-3.5 SWD(こちらはちょっと予算オーバーですけど)とかの、「気合いを入れて撮りに行くぞ」的シーンに合うレンズを買い足した方が利口そうな気がする。

 でも、おカネがあまってたら間違いなく買う。間違いなくあまってないし、あまることなんて一生なさそうな気もするけど、欲しいモノリストに書き加えておきたいレンズである。

  • 作例のリンク先のファイルは、JPEGで撮影した画像をコピーおよびリネームしたものです。
  • 作例下の撮影データは、使用レンズ/記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/実焦点距離を表します。


手ブレ補正テスト結果

こんな写真を200枚撮って、1枚ずつピクセル等倍で「ブレてる」、「ブレてない」とチェックするわけ。不毛な気分にひたりたい人には向いているかも
D Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6 ASPH. / 3,648×2,736 / 1/250秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:晴天 / 150mm
 カメラの手ブレ補正のオン/オフ、レンズの手ブレ補正のオン/オフの計4パターンで50枚ずつ撮影し(連写じゃなく1枚ずつシャッターボタンを押している)、ピクセル等倍で画像をチェック。「まあこれなら許してやってもいいかな」以上の枚数を「○枚」とした。

「カメラON」ではカメラ側の手ブレ補正が働き、「カメラOFF」かつ「レンズON」のときのみレンズ側の手ブレ補正が働く。公称値はE-520のがシャッター速度で4段分、レンズの方が3段分なので、おおむね公称値どおりの結果と言える。

 本音をいうと、このテストをやりたくてパナソニックのレンズを借りたのだが、両方ハイブリッドで使えるんなら、あえてテストするまでもなかったような……。

手ブレ補正テスト結果
  ○の枚数 ○の率
カメラON・レンズON 50 100%
カメラON・レンズOFF 50 100%
カメラOFF・レンズON 42 84%
カメラOFF・レンズOFF 33 66%


作例

エッジの立ったキレのよさならZUIKO DIGITALの方が上だろうが、優しい丸みのあるシャープさはライカDレンズならではの味だと思う
D Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6 ASPH. / 3,648×2,736 / 1/25秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:晴天 / 28mm
広角端では多少タル型の歪曲収差が出る。しかし高倍率ズームとしてはかなり良好。というか、素晴らしい。ただし、ライカDレンズなんだからと思うとちょっと微妙ではある
D Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6 ASPH. / 3,648×2,736 / 1/6秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO100 / WB:オート / 14mm

ライブビューでうんとローアングルから撮ってるのだけれど、写真を見てもそういう感じはしない。うーんって感じである。ちゃんとE-520のコントラストAFも使えた
D Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6 ASPH. / 3,648×2,736 / 1/30秒 / F5.6 / -1EV / ISO100 / WB:オート / 14mm
以前のようなオリンパスブルーとまではいかないが、やっぱり青空の表現は独特のものがある。普通だとホワイトバランスの色温度をちょっといじったりしないとこんな青にはなってくれない
D Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6 ASPH. / 3,648×2,736 / 1/500秒 / F8 / -1.3EV / ISO100 / WB:晴天 / 14mm

高倍率ズームにかぎらず、広角端で四隅までこれだけきちんと像があるレンズはあまりない。さすがはライカDレンズ。まあ、その分お値段はしっかりですけど
D Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6 ASPH. / 3,648×2,736 / 1/6秒 / F5 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 14mm
普通に撮ってて、ひょいっと300mm相当の望遠域までズームできるのが高倍率ズームのいいところ。でも、広角端から望遠端までこれだけの性能を持っているレンズはほかにないと思う
D Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6 ASPH. / 3,648×2,736 / 1/250秒 / F10 / -0.3EV / ISO100 / WB:晴天 / 150mm

ズームレンズで撮ったのを見ると、広角端と望遠端で撮ったのばっかりになってしまう。これは数少ない中間域のカット。と言っても、ダブルズームならちょうど標準と望遠の境目あたりの画角だったりする。
D Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6 ASPH. / 3,648×2,736 / 1/500秒 / F11 / -0.7EV / ISO100 / WB:晴天 / 44mm
某テレビの時計。かなりかっこいいです。動くところを生で見てみたかったけど、時間がなくて残念
D Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6 ASPH. / 3,648×2,736 / 1/100秒 / F6.3 / -1.3EV / ISO100 / WB:晴天 / 47mm

はしごみたいに見えるだけで、決してそういうわけではありません。上り下りはできない……はず
D Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6 ASPH. / 3,648×2,736 / 1/320秒 / F10 / -1EV / ISO100 / WB:晴天 / 14mm
ビルの屋上のアンテナ群。こういうのを撮るときにレンズシフト式の手ブレ補正があると、ファインダー像がプルプルしなくてすむからうれしい
D Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6 ASPH. / 3,648×2,736 / 1/400秒 / F9 / -0.3EV / ISO100 / WB:晴天 / 150mm

浜離宮恩賜庭園の御茶屋。人気があるらしく、中に入るには待たないといけないらしかった
D Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6 ASPH. / 3,648×2,736 / 1/160秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:晴天 / 14mm
ちょっと陰ってきたかなと思ったらもこもこと雲でいっぱいになって、これは逃げた方がよさそうだなと思って屋根のある場所に退避したら、いきなり台風が来たみたいな吹き降りになった
D Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6 ASPH. / 3,648×2,736 / 1/500秒 / F11 / -0.7EV / ISO100 / WB:晴天 / 14mm

こちらは雨上がり。雲に合わせてカメラを傾けて撮っただけなので、ビルが斜めになってるわけじゃありません。念のため
D Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6 ASPH. / 3,648×2,736 / 1/320秒 / F11 / 0EV / ISO100 / WB:晴天 / 150mm


URL
  オリンパス
  http://www.olympus.co.jp/
  製品情報
  http://olympus-imaging.jp/product/dslr/e520/
  気になるデジカメ長期リアルタイムレポートバックナンバー(E-520)
  http://dc.watch.impress.co.jp/static/backno/longterm2008.htm#e520
  オリンパスE-520関連記事リンク集
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2008/05/20/8468.html



北村智史
(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。最初に買ったデジタルカメラはキヤノンPowerShot S10。 ブログ:http://ketamura08.blog18.fc2.com/

2008/07/16 00:07
デジカメ Watch ホームページ
・記事の情報は執筆時または掲載時のものであり、現状では異なる可能性があります。
・記事の内容につき、個別にご回答することはいたしかねます。
・記事、写真、図表などの著作権は著作者に帰属します。無断転用・転載は著作権法違反となります。必要な場合はこのページ自身にリンクをお張りください。業務関係でご利用の場合は別途お問い合わせください。

Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.