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オリンパスE-3【第5回】
「階調オート」の実際と使いどころ

Reported by 北村 智史


 E-410やE-510になくてE-3にある機能のひとつに、SAT(シャドー・アジャストメント・テクノロジー)というのがある。おおざっぱにいうと、ニコンのアクティブD-ライティング、ソニーのDレンジオプティマイザーなどと同じような、ようは見かけ上のダイナミックレンジを拡張する機能である。

 「階調」の設定を「オート」にするとはたらくSATは、カタログによると「逆光時などでハイライト部の白トビとシャドー部の黒ツブレを抑える」もので、取扱説明書には「画像を細かい領域にわけて部分的に明るさを補正します。黒ツブレ・白トビの起きやすい明暗差の大きい画像に有効です」とある。ただし、「通常は[標準]に設定してください」とも書かれている。つまりオリンパス的には常用は推奨していなかったりするわけだ。

 「階調」の「オート」と「標準」を撮り比べたものを見ると、「オート」ほうは明るい部分はあまり変わらずに、暗い部分だけが明るくなっている。条件にもよるが、シャドー部のトーンを、1EVから1EV強に相当する分明るくしているように思われる。露出レベルは1/3EVほどアンダー気味(白トビを抑えるためである)になるケースが多い。

 もちろん、画像処理でやっているだけだから、持ち上げられたシャドー部はノイズが目立ちやすくなる(面積が広いと特に気になりやすい)。コントラストや解像感も多少低下してしまう。今回はあまり天気がよくなかったから、「オート」だとかえってネムいだけになってしまったりもした。一長一短である。

 それから、条件によっては「オート」と「標準」の差がかなり大きくなることもあるので、シャドー部を持ち上げる度合いが選べるようになっているとよかったのにと思う。実際、ニコンD300のアクティブD-ライティングは「強め」、「標準」、「弱め」の3段階、ソニーα700のDレンジオプティマイザーは「スタンダード」、「アドバンスオート」に加えて5段階の「アドバンスレベル設定」が選べる。「オート」と「標準」を見比べて、この中間ってのは撮れねぇのかよっ、と突っ込みたくなることもあった。


「階調」を「オート」にするとSATがはたらく。見かけ上だけだが、ダイナミックレンジを拡張してくれるので、輝度差が大きな条件で白トビや黒ツブレを軽減できる
 とは言え、選べたら選べたで、今度は撮影現場での悩みの種がひとつ増えてしまうだろう。ただでさえ、ホワイトバランスだの仕上がり設定だのと考えなくてはならないことが多いのに、そのうえSATのレベルが3段階から選べます、なんて言われたら気が滅入ってしまう。しまいには、「オフと弱から強の全部撮っちゃえ」なんてことになりかねない。

 それなら、オンとオフだけというシンプルさも悪くないかもしれない。「オート」と「標準」の2パターンだけなら両方撮ってもたいして容量は大きくならず、「階調」の設定自体もスーパーコンパネからぱぱっと切り替えられるので、手間もそれほどではない。撮影現場でああだこうだと思い悩むロスを考えれば、その方が時間の節約になっていいだろう。

 ちなみに、JPEG形式の画像は再生メニューから「階調オート」を適用することで、シャドー部を持ち上げる処理だけは行なえる(当たり前だけど、露出レベルは再生時にはいじれないからね)。画質面から考えるとあまり意味はないかもしれないが、「階調」を「オート」で撮った画像にも適用できるし、「階調オート」を適用して作成された画像に繰り返して適用することもできる。

 また、RAW形式の画像の場合、OLYMPUS Studio 2での現像時に、「階調」の設定を自由に切り替えられる。「オート」で撮った画像を「標準」で現像したり、その逆も可能だ。ただし、E-3内で処理するのと微妙に調整パラメーターが違うのだろう、RAW画像を「オート」で現像したものは、「オート」で撮ったJPEG画像とは同じ仕上がりにならなかったりする(OLYMPUS Studio 2の仕上がりの方がきれい)。また、露出レベルも調整が必要になるケースも多そうに思う。

 おおざっぱな結論としては、晴天で日なたと日陰が混在する条件では役立つ可能性は高い。逆光などで背景の白トビが気になるときや被写体の一部にだけ強い光が当たっているときなど、ハイライト部の白トビを避けようとすると中間調からシャドー部が暗く沈んでしまうような条件ではかなり使える機能だと言っていい。

 が、コントラストが高くない条件で白トビも黒ツブレも起きないようなら「標準」の方がきれいだったりする。なので、通常は「標準」、白トビと黒ツブレが同時に発生してしまうような輝度差が大きいシーンは「標準」と「オート」の両方で撮っておくというのがよさそうだ。


作例

  • 作例のリンク先は、OLYMPUS Studio 2でRAW現像した一部の作例を除き、JPEGで撮影した画像をコピーおよびリネームしたものです。
  • 作例下の撮影データは、使用レンズ/記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/実焦点距離を表します。


 「階調」を「オート」にすると、明るい部分はほぼそのままで、暗い部分だけが明るく写る。「標準」で撮ったカットと比べると、画面右側の建物の明るさは、「標準」でプラス1EV補正したカット(露出値では1・1/3EV明るい)に近い。無理やり持ち上げているのだから、画質的には若干だが低下する。ピクセル等倍で見ると、シャドー部のコントラストや解像感が悪くなっているのがわかる。


階調:オート(0EV)
ED 12-60mm F2.8-4 SWD / 3,648×2,736 / 1/250秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 51mm
階調:標準(0EV)
ED 12-60mm F2.8-4 SWD / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 51mm

階調:標準(+0.3EV補正)
ED 12-60mm F2.8-4 SWD / 3,648×2,736 / 1/160秒 / F8 / +0.3EV / ISO100 / WB:オート / 51mm
階調:標準(+0.7EV補正)
ED 12-60mm F2.8-4 SWD / 3,648×2,736 / 1/125秒 / F8 / +0.7EV / ISO100 / WB:オート / 51mm
階調:標準(+1.0EV補正)
ED 12-60mm F2.8-4 SWD / 3,648×2,736 / 1/100秒 / F8 / +1.0EV / ISO100 / WB:オート / 51mm

 「オート」にすると日陰になっている背景は明るくなる反面、画面全体のメリハリは弱まってしまう。このくらいの輝度差なら「標準」の方がきれいに仕上がるようだ。


階調:オート
シグマAPO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 150mm
階調:標準
シグマAPO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 3,648×2,736 / 1/160秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 150mm

 同じ露出補正値で撮り比べると、「オート」の方が明るい背景の白トビが少ないのがわかる。飛び具合を同じくらいにするには「標準」では1/3EVほど暗めに撮らないといけない。このカット以降は手持ち撮影(三脚禁止の温室内なので)。フレーミングやピントがそろってないのはご容赦いただきたい。


階調:オート(+0.7EV補正)
シグマAPO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 3,648×2,736 / 1/250秒 / F2.8 / +0.7EV / ISO100 / WB:オート / 150mm
階調:標準(+0.3EV補正)
シグマAPO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 3,648×2,736 / 1/320秒 / F2.8 / +0.3EV / ISO100 / WB:オート / 150mm
階調:標準(+0.7EV補正)
シグマAPO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 3,648×2,736 / 1/250秒 / F2.8 / +0.7EV / ISO100 / WB:オート / 150mm

 花びらの一部にだけ日が当たっている状態。同じ露出補正値だと「標準」は白トビが起き、同じ露出値だと影の部分が暗くなる。こういう条件だと「オート」がきれい。


階調:オート(+0.3EV補正)
シグマAPO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 3,648×2,736 / 1/100秒 / F4 / +0.3EV / ISO100 / WB:オート / 150mm
階調:標準(+0.3EV補正)
シグマAPO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 3,648×2,736 / 1/80秒 / F4 / +0.3EV / ISO100 / WB:オート / 150mm
階調:標準(0EV)
シグマAPO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 3,648×2,736 / 1/100秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 150mm

 画面右上の暗い部分の再現に差はあるものの、画面全体で見れば、「オート」と「標準」の差はあまりないと言っていい。


階調:オート
シグマAPO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 3,648×2,736 / 1/80秒 / F3.5 / +1.3EV / ISO100 / WB:オート / 150mm
階調:標準
シグマAPO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 3,648×2,736 / 1/60秒 / F3.5 / +1.3EV / ISO100 / WB:オート / 150mm

 背景の黄色のボケがちょっと違うくらいで、これもあまり差はない。


階調:オート
シグマAPO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 3,648×2,736 / 1/80秒 / F3.5 / +0.3EV / ISO100 / WB:オート / 150mm
階調:標準
シグマAPO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 3,648×2,736 / 1/60秒 / F3.5 / +0.3EV / ISO100 / WB:オート / 150mm

 データを見ると、ちゃんと「オート」と「標準」なのだが、ほとんど見分けがつかない。こういう条件だとほとんど効果はないわけだ。


階調:オート
シグマAPO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 3,648×2,736 / 1/100秒 / F4 / +0.7EV / ISO100 / WB:オート / 150mm
階調:標準
シグマAPO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM / 3,648×2,736 / 1/80秒 / F4 / +0.7EV / ISO100 / WB:オート / 150mm

 「標準」の方がメリハリはあるが、背景が暗くなりすぎている感じもするので、これは「オート」の方がよさそう(好みの問題な気もするが)。


階調:オート
ED 50mm F2 Macro / 3,648×2,736 / 1/20秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 50mm
階調:標準
ED 50mm F2 Macro / 3,648×2,736 / 1/15秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 50mm

 「【新製品レビュー】オリンパス『E-3』」のときにも載せた画像だが、今回は「オート」で撮ったオリジナルのJPEG画像に加えて、RAW画像をOLYMPUS Studio 2で「オート」のまま現像したJPEG画像、「標準」に切り替えて現像したJPEG画像も載せてみる。「オート」は「標準」よりもおよそ1EV分ほどシャドー部が明るくなっている。また、RAWから現像した「オート」の方が、部分部分のコントラストがよく、メリハリがある。


階調:オート(RAW+JPEGのオリジナルJPEG画像)
ED 12-60mm F2.8-4 SWD / 3,648×2,736 / 1/25秒 / F4 / -1.3EV / ISO100 / WB:晴天 / 60mm
階調:オート(OLYMPUS Studio 2で現像)
ED 12-60mm F2.8-4 SWD / 3,648×2,736 / 1/25秒 / F4 / -1.3EV / ISO100 / WB:晴天 / 60mm
階調:標準(OLYMPUS Studio 2で現像)
ED 12-60mm F2.8-4 SWD / 3,648×2,736 / 1/25秒 / F4 / -1.3EV / ISO100 / WB:晴天 / 60mm

 こちらはOLYMPUS Studio 2で「オート」で現像したもの。画面右側の建物を見ると、オリジナルのJPEG画像より仕上がりがいいように感じられる。これもRAWで撮るメリットと言える。


階調:オート(OLYMPUS Studio 2で現像)
ED 12-60mm F2.8-4 SWD / 2,736 / × / 3,648 / 1/250秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 51mm

 最後の比較は、オリジナルのJPEG画像、RAW画像を「オート」で現像したもの、「オート」で-0.5EV補正をしたもの。シャドー部のトーンを持ち上げた分中間調からハイライト部も影響を受けるわけで、だから明るくなりすぎるのである。オリジナルでは真っ暗に近い店の中の様子が、「オート」だとかなり出る。でも、もう少し控えめな方がいいような気がする。


階調:標準(RAW+JPEGのオリジナルJPEG画像)
ED 12-60mm F2.8-4 SWD / 3,648×2,736 / 1/250秒 / F7.1 / 0EV / ISO100 / WB:晴天 / 12mm
階調:オート(OLYMPUS Studio 2で現像)
ED 12-60mm F2.8-4 SWD / 2,736 ×3,648 / 1/250秒 / F7.1 / 0EV / ISO100 / WB:晴天 / 12mm
階調:オート(OLYMPUS Studio 2で-0.5EV補正で現像)
ED 12-60mm F2.8-4 SWD / 2,736×3,648 / 1/250秒 / F7.1 / 0EV / ISO100 / WB:晴天 / 12mm


URL
  オリンパス
  http://www.olympus.co.jp/
  製品情報
  http://olympus-imaging.jp/product/dslr/e3/
  オリンパスE-3関連記事リンク集
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2007/10/18/7222.html
  気になるデジカメ長期リアルタイムレポート(現在進行中・2008年終了分)
  http://dc.watch.impress.co.jp/static/backno/longterm2008.htm



北村 智史
(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。最初に買ったデジタルカメラはキヤノンPowerShot S10。 ブログ:http://ketamura08.blog18.fc2.com/

2008/01/25 09:03
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