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キヤノン EOS-1D Mark III【第5回】
高輝度側階調優先の威力

Reported by 野下義光


 前回、EOS-1D Mark IIIの最大の特徴とも言える高速連写性能について試してみましたが、その性能を活かす連続撮影枚数も先代のEOS-1D Mark IIよりも大きく向上しています。

 ファインダーの右下に表示される連続撮影可能枚数は、ISO100・各種ノイズ低減OFFの状態でRAWで30枚、JPEG L(圧縮率最低)では86枚。

 同じ条件でEOS-1D Mark IIだとRAW20枚、JPEG L(圧縮率最低)で28枚でした(EOS-1D Mark II Nでは数枚増える)。

 画素数も増え、さらにA/D変換が14bitとなり、RAWの容量は大幅に増えたのにも関わらず、連続撮影可能枚数が増加している裏には、大幅なバッファメモリーの増量がうかがい知れます。


実際の連続撮影枚数が増加するワケ

 特筆すべきは、ファインダーに表示される連続撮影可能枚数は最低保証値であることです。撮影する絵柄によっては、さらに多くの連続撮影が可能なのです。

 キヤノンのRAWは圧縮して記録されるため、撮影する被写体で圧縮率が異なります。そのため圧縮しやすい均一な絵柄(一面の青空など)では約8MB、複雑な絵柄では約15MBの容量となります。

 EOS-1D Mark IIでは約5MB~10MBでした。しかし、EOS-1D Mark IIの場合、どんな被写体を撮影しても実際の連続撮影可能枚数は、ファインダー右下に表示される枚数を超えることはありませんでした(もちろん、下回ることもありませんでしたが)。


高感度時のノイズ低減を「する」に設定すると大幅に連続撮影可能枚数が減少する。ISO100:RAWでは30枚→14枚になった
 つまりは、実際のRAWの容量が5MBでも10MBでも連続撮影可能枚数は同じだったのです。ということは、少容量の被写体ではバッファがフルに使われていないのでは? それとも画像処理能力の限界? という疑問を抱いておりました。

 ところが、EOS-1D Mark IIIはこの点でも進化があり、圧縮しやすくデータが少容量となる被写体ではバッファをフルに使い切るためか、実際の連続撮影枚数が大幅に伸びるのです。一方、圧縮しにくい大容量となる被写体でも、ファインダーに表示される連続撮影可能枚数は確保されています。

 実際に試した連続撮影枚数が以下の表です。ISO100で1/8,000秒に設定した状態でのファインダー内の連続撮影可能枚数と、実際に撮影した最高連写の結果を比較したものです。連写が途切れるまで撮影しました。

 連写中にもメディアへの書き込みが行なわれるので、敢えて条件を厳しくするため書き込み速度が遅いマイクロドライブを装填しました。また、圧縮しやすい画像を得るため、ボディキャップを閉め全黒を写しています。

 実際にはここまで均一な画面を撮ることは稀有かもしれませんが、連続撮影枚数の最高値としてご参考ください。

ファインダー内表示と
実際の撮影枚数
保存形式 ファインダー内表示 撮影枚数
JPEG L 86枚 125枚
RAW 30枚 40枚


 ただし、連続撮影可能枚数は設定条件によっても変化(減少)します。例えば最高値はISO100、各種ノイズ低減OFF。ISO感度を上げるとノイズ成分が増え圧縮しにくくなり、減少します。

 また画像処理上の問題か、それともその処理にバッファメモリを用いるためか、長時間露光のノイズ低減ONで若干、高感度撮影時のノイズ低減ONで大幅に減ってしまいます。なので、連続撮影可能枚数を重視したい場合は、各設定を吟味する必要があります。


高輝度側階調優先について

高輝度側階調優先はメニュー画面で設定を行なう。RAWでも予め設定しておく必要があり、現像時ではこの設定も解除もできない
 キヤノンのデジタル一眼レフカメラでは初めて搭載された14bitA/D変換。これに伴ってか、「高輝度側階調優先」という機能が設定されました。読んで字のごとく高輝度側の階調を優先させる、つまり白トビを軽減させようとする機能です。

 設定はメニュー画面で「する」に設定するだけ。JPEGもそうですが、RAWもあらかじめカメラでの設定が必要で、現像時の設定でこの機能を設定・解除することはできません。最小のISO感度は200となり、取り扱い説明書には「暗部のノイズが増える場合もある」とのことです。

 おそらく、特別にダイナミックレンジを広げるわけではなく従来レタッチで行ってきたように少しアンダーに撮って中間調を持ち上げるような処理を行なっているのではないかと推測しています(実際どんな処理を行なっているのか概要でいいから、とキヤノンに訊いてみましたが「秘密」ということで教えてもらえませんでした)。

 これは非常に使えます。どうしてもISO100で撮りたい場合や、あえてきっちり白トビさせたいなど特別な理由がない限り、常に設定して筆者は撮影しています。取り扱い説明書にあった暗部のノイズについても特に気になるほどの違いは見出せませんでした。低減できるのは白トビ(RGBの各値がすべて255)だけではなく色飽和(RGBの各値いずれかが255)についても同様です。

 筆者が専門とするポートレートでは、肌を血色の良い明るい健康色に調整しようとするとどうしてもRが色飽和を起こしがちでいかに色飽和を起こさずに調整するかで苦労してきましたが、EOS-1D Mark IIIの高輝度側階調優先は、この問題を一気に解決してくれました。


 高輝度側階調優先を用いなくてもレタッチ技術を駆使すれば同等の仕上がりが得られるのかもしれませんが、筆者にはそこまでのスキルもなく、仮にあったとしても大量の画像を処理するには膨大な時間を要することでしょう。


高輝度側階調優先を設定していないと、上面液晶のISO感度表示は「0」が大きい
高輝度側階調優先を「する」に設定すると「0」が小さくなり、一目で設定されていることがわかる

作例

 白トビと色飽和の違いがわかりやすいようにPhotoshop CS3のCamera RAWにて白トビ(正確には色飽和)警告表示をさせてみました。富士急ハイランドのメリーゴーランドの木馬はより白トビしやすいようにコントラストを強くしています。

  • 作例のリンク先のファイルは、JPEGで撮影した画像をコピーおよびリネームしたものです。
  • 作例下の撮影データは、使用レンズ/記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/実焦点距離を表します。
  • 強調のため一部の項目を1行目に抜粋した場合もあります。


高輝度側階調優先「する」
EF 24-70mm F2.8 L USM / 3,888×2,592 / 1/500秒 / F8 / +1.67EV / ISO200 / WB:太陽光 / 24mm
高輝度側階調優先「しない」
EF 24-70mm F2.8 L USM / 3,888×2,592 / 1/500秒 / F8 / +1.67EV / ISO200 / WB:太陽光 / 24mm

高輝度側階調優先「する」 高輝度側階調優先「しない」

高輝度側階調優先「する」
EF 70-200mm F2.8 L USM / 3,888×2,592 / 1/500秒 / F8 / -0.33EV / ISO200 / WB:太陽光 / 100mm
高輝度側階調優先「しない」
EF 70-200mm F2.8 L USM / 3,888×2,592 / 1/500秒 / F8 / -0.33EV / ISO200 / WB:太陽光 / 100mm

高輝度側階調優先「する」 高輝度側階調優先「しない」

高輝度側階調優先「する」
EF 35mm F1.4 L USM / 3,888×2,592 / 1/100秒 / F10 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光 / 35mm
高輝度側階調優先「しない」
EF 35mm F1.4 L USM / 3,888×2,592 / 1/100秒 / F10 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光 / 35mm

高輝度側階調優先「する」
高輝度側階調優先「しない」

撮影協力:富士急ハイランド
http://www.fujiq.jp/



URL
  キヤノン
  http://canon.jp/
  製品情報
  http://cweb.canon.jp/camera/eosd/1dmk3/
  気になるデジカメ長期リアルタイムレポート(EOS-1D Mark III)
  http://dc.watch.impress.co.jp/static/backno/longterm2007.htm#eos_dmk3
  レンズ交換式デジタルカメラ機種別記事リンク集(EOS-1D Mark III)
  http://dc.watch.impress.co.jp/static/link/dslr.htm#1dmk3


( 野下義光 )
2007/08/22 00:19
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