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富士フイルム FinePix S5 Pro【第7回】
ダイナミックレンジの調整を試してみる

Reported by 木村 英夫


 FinePix S5 Proの数多い特長のうち、先代のS3 Proから引き継がれているものひとつのが「ダイナミックレンジの調整」だ

 一般に、デジタルカメラは、フィルムに比べて明暗差が大きい被写体の再現に弱く、そのような被写体では、明るい部分の階調がなくなる白トビや、暗いところがベタの黒になる黒ツブレが起きやすいとされている。人間の目はフィルムよりも明暗差に強いため、撮影現場で見えていたものがフィルムには写らない、ということがあったが、デジタルではより顕著に起こることとなる。

 風景撮影で極端に明暗差が大きい場合、例えば「明るい空と暗い海」といった被写体なら、空の部分(明部)にND、暗部(海面)は素通しとなる特殊なフィルター「ハーフNDフィルター」といったものを使って明暗差を調整し、ひとつの画面に両方を再現する方法がある。ところが「ハーフNDフィルター」は明暗差が直線的に調整できるものでないと使えない。逆光下の撮影で、明部も暗部も画面に入り交じっている場合は、デジタルカメラのダイナミックレンジ自体が大きくないと再現できず、画面の多くが白トビ、黒ツブレしてしまう、ということになりかねないのだ。

 写真教室などでよく指導されることのひとつに「曇った空の日は、空をあまり入れないように」というのがある。曇り空とはいえ、地上にある被写体とは明暗差が大きく、空は真っ白に表現されてしまう。デジタル画像における白とは、データが「ない」ことになり、仮にトーンを調整してハイライトを暗めに調整したとしてもベタのグレーとなり、何も見えてこないのだ。

 S5 Proでは、先代のS3 Pro同様に「S画素とR画素の2段構え」になっているハニカムCCDを採用している。S5 Proでは、CCDが「スーパーCCDハニカムSR Pro」になったが、基本的な原理は同じで、サイズが大きいS画素と、サイズが小さくダイナミックレンジを拡大するR画素の2段構えとなっており、ダイナミックレンジを100%以外に変更すると、R画素にも画像が記録され、従来なら白トビするところが、絞り値で2段分まで白トビせずに写し出すことができるという。

 以前のRAW現像の時に知ったことだが、フィルムシミュレーションモードをSTD以外にセットした場合でも、R画素の情報は記録される。ただ、フィルムシミュレーションモードをSTDにしないと、ダイナミックレンジの変更はできない。

 ダイナミックレンジを変更するには、メニューから「D-RANGE」を選択する。


D-RANGEを選択したところ。100%から400%までの6段階
ダイナミックレンジの選択には「AUTO」もある

 ダイナミックレンジ(D-RANGE)が選択できるようになったのは、先代のS3 Proからだが、S3 Proでは、100%以外に「230%(W1)」と「400%(W2)」の2段階のみだった。今回はきめ細かく変更できるようになった。

 ダイナミックレンジの「100%」とは、ダイナミックレンジの変更ができなかったS2 Proのダイナミックレンジを指しているという。そこから400%が絞り2段分ということは、露出倍数と一緒で、200%が「絞り1段分」ということになるのだろう。

 ダイナミックレンジをひろげると、中間域からハイエストライトの白までの範囲がひろがるという。白トビをしないようにしたければ「常にダイナミックレンジを400%に設定しておけばいいのでは?」とも思えたが、中間のトーンがひろがるぶん、コントラストがなくなっていくように思える。そのため、被写体を確認しながら適切なダイナミックレンジを選べるようにしているのだ。

 ダイナミックレンジの調整を、実際の撮影で使ってみた。逆光の撮影では、メインの被写体と背景の明暗差が激しく「背景が全く白トビをしてしまう」というケースが少なくない。アンダー目に撮影して、後でPCを使って調整、という方法もあるのだろうが、撮影現場でダイナミックレンジの拡大で白トビをなくすよう、調整できればありがたいと思う。

※作例のリンク先のファイルは、撮影した画像です。作例をクリックすると、別ウィンドウで等倍の画像を開きます。
※画像下のデータは、レンズ/記録解像度/露出モード/露出時間/絞り/露出補正値/感度/焦点距離/ホワイトバランス/フィルムシミュレーションモード/D-RANGEです。


逆光下での撮影。カメラの求めた適正露出ながら、見た目より暗く写っている
AF-Sニッコール18-55mm F3.5-5.6 DX / 4,256×2,848 / 絞り優先AE / 1/180秒 / F9 / 0EV / ISO100 / 55mm / AWB / STD / AUTO
見た目に近くなるよう、プラス側に露出補正。ダイナミックレンジ100%では、背景が白トビしてしまう
AF-Sニッコール 18-55mm F3.5-5.6 DX / 4,256×2,848 / 絞り優先AE / 1/90秒 / F9 / +1EV / ISO100 / 55mm / AWB / STD / 100%

同じシーンでダイナミックレンジ400%を選択。白トビがほとんどなくなった
AF-Sニッコール 18-55mm F3.5-5.6 DX / 4,256×2,848 / 絞り優先AE / 1/90秒 / F9 / +1EV / ISO100 / 55mm / AWB / STD / 400%
ダイナミックレンジ「AUTO」でも、白トビが起こらないよう調整されている
AF-Sニッコール 18-55mm F3.5-5.6 DX / 4,256×2,848 / 絞り優先AE / 1/90秒 / F9 / +1EV / ISO100 / 55mm / AWB / STD / AUTO

Hyper-Utility HS-V3の画面で、比較してチェックするとわかりやすい
 ダイナミックレンジを「AUTO」にしておけば、適切なダイナミックレンジが選択され、白トビが少なくなるように調整される。ただ、Hyper-Utility HD-V3で画像の情報を確認しても、D-RANGEの項目はAUTOとしか表示されない。実際の撮影時にダイナミックレンジをどれにすればいいか迷う場合は、オートでよさそうだ。

 今度は被写体そのものが白の場合も試してみた。白は反射率が高いから白く見えるのだが、さまざまな色が混在している中で、白の部分の露出がダイナミックレンジの範囲に入っていないと白トビを起こしてしまう。工事現場にあるクレーンを中心にし、クレーンの後ろにあるビルの壁が白く、ダイナミックレンジの設定によっては白トビしてしまうのを確認しながら撮影してみた。

 液晶モニターで白トビ警告が出るのを見ながら撮影すると、この被写体の条件の場合、170%までは白トビの箇所が多いのだが、230%としたところでだいぶ白トビ警告が減り、300%でほとんどなくなった。後でPCの画面で、Hyper-Utility HS-V3を使って、白トビを改めてチェックした。撮影場所の都合で手持ち撮影となったためか、マルチパターン測光の測光データに差違があったらしく、230%のカットだけが1/3段遅いシャッターとなり、画面が明るめ出たのだが、それでも230%のカットで白い壁の部分を拡大すれば、壁面の継ぎ目が見えてくる。「今までは白トビしてしまったものが画面に再現できる」というのは驚きだ。


AF-Sニッコール 18-55mm F3.5-5.6 DX / 4,256×2,848 / 絞り優先AE / 1/160秒 / F9 / +2/3EV / ISO100 / 55mm / AWB / STD / 100%
AF-Sニッコール 18-55mm F3.5-5.6 DX / 4,256×2,848 / 絞り優先AE / 1/160秒 / F9 / +2/3EV / ISO100 / 55mm / AWB / STD / 130%
AF-Sニッコール 18-55mm F3.5-5.6 DX / 4,256×2,848 / 絞り優先AE / 1/160秒 / F9 / +2/3EV / ISO100 / 55mm / AWB / STD / 170%

AF-Sニッコール 18-55mm F3.5-5.6 DX / 4,256×2,848 / 絞り優先AE / 1 / 142秒 / F9 / +2/3EV / ISO100 / 55mm / AWB / STD / 230%
AF-Sニッコール 18-55mm F3.5-5.6 DX / 4,256×2,848 / 絞り優先AE / 1/160秒 / F9 / +2/3EV / ISO100 / 55mm / AWB / STD / 300%
AF-Sニッコール 18-55mm F3.5-5.6 DX / 4,256×2,848 / 絞り優先AE / 1/160秒 / F9 / +2/3EV / ISO100 / 55mm / AWB / STD / 400%

 輝度差が大きい逆光下での撮影や、白い被写体など、ダイナミックレンジの調整によって白トビを避けて撮影できる、というのには大きなメリットを感じる。ただ、S3 Proよりも選択肢が多くなったぶん、何%に調整したらいいか迷うところだ。私自身はAUTOに設定することが多くなりそうだ。

 フィルムシミュレーションで、F1(プロネガ調)やF2(ベルビア調)などのモードを選択していると、ダイナミックレンジ調整はできない。そこで、自分の好みに調整するために「COLOR」をHIGHに調整して撮影する、ということも多そうだ。ただ、トーンをHIGHにすると、黒ツブレが発生するケースも見られた。

 S5 Proを使うメリットであるダイナミックレンジ調整を、風景や逆光下の人物撮影など、どんどん活用していきたい。


AFニッコール 28mm F2.8 / 4,256×2,848 / 絞り優先AE / 1/640秒 / F8 / +2/3EV / ISO400 / 28mm / AWB / STD / 230%
AF-Sニッコール 18-55mm F3.5-5.6 DX / 4,256×2,848 / 絞り優先AE / 1/28秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 23mm / AWB / STD / 400%
AF-Sニッコール 18-55mm F3.5-5.6 DX / 4,256×2,848 / 絞り優先AE / 1/45秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 26mm / AWB / STD / 170% / COLOR:HIGH

AF-Sニッコール 18-55mm F3.5-5.6 DX / 4,256×2,848 / 絞り優先AE / 1/125秒 / F8 / +1/3EV / ISO100 / 55mm / AWB / STD / 230% COLOR:HIGH / TONE:HIGH / SHARPNESS:HARD フォクトレンダーウルトロン 40mm F2 / 4,256×2,848 / 絞り優先AE / 1/80秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 40mm / AWB / STD / 400% COLOR:HIGH / TONE:HIGH / SHARPNESS:HARD / 内蔵ストロボ使用
フォクトレンダーウルトロン 40mm F2 / 4,256×2,848 / 絞り優先AE / 1/60秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 40mm / AWB / STD / 400% COLOR:HIGH / TONE:MEDIUM SOFT / SHARPNESS:HARD / 内蔵ストロボ使用

フォクトレンダーウルトロン 40mm F2 / 4,256×2,848 / 絞り優先AE / 1/200秒 / F4 / 0EV / ISO100 / 40mm / AWB / STD / 400% COLOR:HIGH / TONE:MEDIUM SOFT / SHARPNESS:HARD


URL
  富士フイルム
  http://fujifilm.jp/
  製品情報
  http://fujifilm.jp/personal/digitalcamera/finepixs5pro/
  富士フイルム FinePix S5 Pro関連記事リンク集
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2006/12/08/5218.html


( 木村 英夫 )
2007/03/30 12:14
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