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富士フイルム FinePix S5 Pro【第5回】
フィルムシミュレーションを使う

Reported by 木村 英夫


 私がS5 Proを入手した、と知った友人達は「どうしてD200と同じようなカメラを1.5倍する値段で買うの?」と聞いてくる。でも、「ベルビア調モードやネガ調モードが入っている」とひと言説明すると、プロや古くから写真を撮っている人は納得することが多い。単に「デジタル一眼」というだけでなく、フィルムで培った色再現や階調をデジタルで再現できるということに興味を持たれる。フィルムシミュレーションは、S5 Proにおける「ほんの一部の機能」に過ぎないのだが、このカメラを選ぶ理由として強い動機になり得る特長だ。

 富士フイルムで出しているフィルムには、さまざまなキャラクターのものがある。最もスタンダードなリバーサルフィルムは「プロビア」、より忠実な色再現を狙ったポートレート用のものが「アスティア」、そして風景写真用として絶大な人気を誇るのが「ベルビア」。実際よりも派手な色合いに再現してくれる、イメージカラーのフィルムである。

 スタジオ撮影などに使われるネガカラーの「PRO」シリーズもラインナップされている。ネガの方がリバーサルよりもラチチュードが広く、再現域の幅が広いという利点がある。

 フィルムでの撮影では撮影目的によって、フィルムを使い分けることがあったが、銀塩カメラはフィルム1本を取り終えるまで入れ替えできないという問題がある(APSを除く)。S5 Proはフィルムシミュレーションのセッティングを変えてやれば、1枚ごとに性格の違う撮影結果を得られる。そう考えれば、S5 Proは「“万能フィルムの入った銀塩カメラ”のように扱えるデジタルカメラ」だといえるのではないだろうか?

 フィルムシミュレーションモードはS3 Proにも搭載されていたが、S5 ProはS3 Proよりも種類が増えて、5種類になっている。F1、F1a、F1b、F1c、F2と名付けられたそれぞれのモードは、ポートレート撮影系の「F1」関係と、風景向けのベルビア調モードであるF2に大きく分けることができる。

 実際に撮影してみて、一般論で言われる「風景はベルビア(=F2)」ではないことがわかってきた。風景だから派手な色というわけでなく、地味ながら中間トーンが豊富で、日本画のような落ち着いた風景に見せる方がよいこともある、ということをS5 Proは教えてくれた。F1系のモードとF2モードでは、液晶モニターの視認性が決して良くない戸外でも、チェックすれば違いがわかるくらいの差が出る。


 曇り空の下、思い通りの色合いを求めてフィルムシミュレーションモードを変え、液晶モニターで確認しながら撮影した。紅梅はF2モードで色が派手に出過ぎ、F1では地味過ぎる。STDでの撮影が最良に感じた。白梅はオートホワイトバランスで青みが強く出そうなので、ホワイトバランスを日陰に設定、F2モードが最も狙い通りの色調となった。

 天候や被写体の色調、撮影意図によって現場で彩度、色調、階調をコントロールできるフィルムシミュレーションモードは、本当に楽しめる。前回試したRAW現像でもいいのだが、撮影時に意図に合った結果が得られれば、後処理で苦労することがない。

※作例のリンク先のファイルは、撮影した画像です。作例をクリックすると、別ウィンドウで等倍の画像を開きます。

●紅梅
 使用レンズはAF-S DX Zoom Nikkor ED 18-55mm F3.5-5.6 G(46mm域で撮影)。絞り優先AE(1/40秒 / F5.6)、ホワイトバランスはオート、感度はISO100。


F2
F1
STD

●白梅
 使用レンズはAF-S DX Zoom Nikkor ED 18-55mm F3.5-5.6 G(55mm域で撮影)。絞り優先AEで+1.33EVの露出補正をかけた(1/35秒 / F8)。ホワイトバランスは日陰、感度はISO100。


STD
F1
F2

 続いて、人物撮影でも、各フィルムシミュレーションモードの違いを実写で確認してみた。色再現の違いも検証するため、ホワイトバランスのセットを撮影時の光源に合った「白色蛍光灯」の固定にする。

●人物
 使用レンズはAF-S DX Zoom Nikkor ED 18-55mm F3.5-5.6 G(48mm域で撮影)。絞り優先AE(1/4.5秒 / F5.6)、ホワイトバランスは日陰、感度はISO400。


STD
F1
F1a

F1b
F1c
F2

F1aモードとF1bモードの黒ツブレ部分の比較
 STDだと、髪の毛の一部が黒くつぶれているが、F1モードでは再現できている。その代わり、肌色は白く再現されている。プロ用ネガを想定しているということで、中間のトーンが豊富になっているためだろう。

 F1に対してF1aは彩度をアップ、F1bは野外ポートレート向け、F1cは階調を硬めにしているという。黒ツブレの部分だけを比較すれば、F1とF1a、F1bとF1cがそれぞれ同傾向。F1aとF1bの間に大きな差があることがわかった。

 F2では肌色の色乗りがよくなっているものの、シャドー部とのコントラストが強く効き過ぎて不自然な描写となった。それぞれのモードの違いは液晶モニターのヘルプ画面で解説を見ることができるが、実際に撮影してみることで傾向をつかむことができた。


人物撮影に便利な「フェイスズームイン」機能

 FinePixシリーズのコンパクト機では、早くから「顔検出によるAF/AE」を売り物にしていた。ラボ機材等で顔を検知し、顔にプリント露光を合わせるというノウハウを持っているためだろう。いかにも富士フイルムらしい機能だ。

 S5 Proでは、顔検出でAFを動作するわけにはいかないものの、撮影後の画像から顔を検知し、ボタン操作で顔をアップにして再生することができる「フェイスズームイン機能」がつけられた。人物撮影が多い写真館では、ピント合焦の確認の他、目つぶりをしていないかなど被写体の表情の確認に使えるという便利そうな機能だ。

 画像が再生状態になっているとき、液晶モニター左側に並んでいるボタンの一番下にある、人物のアイコンのボタンを押せば、顔部分をアップで見せてくれる。

 実際の撮影では、顔認識は必ずしも百発百中とはいかず、人物の顔の撮影をしていても認識しない場合もあった。その場合はボタン操作で、中央部分の拡大再生となる。


液晶モニター左下にあるのがフェイスズームインのボタン
再生モード時、左上にフェイスズームインのアイコンが表示されているときは、顔認識ができている

再生モード時、左上にフェイスズームインのアイコンが表示されているときは、顔認識ができている

 フィルムシミュレーションモード、フェイスズームイン機能とも、富士フイルムならではのノウハウをデジタルに応用した技術だ。それだけに今後のさらなる進化を望みたいところだ。

 また、フィルムシミュレーションモードを使っていると「久々にフィルムで撮ってみるとどんな感じに写るのだろう?」と気になることもある。フィルム撮影派にも面白く、フィルムをあまり使ったことがない「デジタルで写真を覚えた人」にも面白いという点で、このカメラがフィルムを見直すきっかけになると思う。それだけに、各モードの名前は「F1」、「F2」ではなく「プロネガモード」、「ベルビアモード」とフィルム名をズバリつけてほしかった。

※画像下のデータは露出モード/露出時間/絞り/露出補正値/感度/ホワイトバランス/フィルムシミュレーションモード/レンズ(焦点距離)です。


絞り優先AE / 1/60秒 / F4.2 / 0EV / ISO100 / AWB / F1 / AF-S DX Zoom Nikkor ED 18-55mm F3.5-5.6 G (31mm) /内蔵ストロボ使用
絞り優先AE / 1/80秒 / F4.5 / 0EV / ISO800 / AWB / F2 / トキナー AT-X M100 PRO D(100mm F2.8)

絞り優先AE / 1/400秒 / F8 / 0EV / ISO100 / AWB / F2 / トキナー AT-X M100 PRO D(100mm F2.8)
絞り優先AE / 1/400秒 / F9 / 0EV / ISO100 / 100mm / AWB / F1b / トキナー AT-X M100 PRO D(100mm F2.8)

絞り優先AE / 1/500秒 / F4.5 / +0.33EV / ISO100 / AWB / F2 / トキナーAT-X 840 D 80-400mm F4.5-5.6(80mm) 絞り優先AE / 1/350秒 / F4.5 / +0.33EV / ISO100 / AWB / F1b / トキナーAT-X 840 D 80-400mm F4.5-5.6(80mm) 絞り優先AE / 1/60秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / AWB / 内蔵ストロボ使用 / F1b / AF Nikkor 28mm F2.8


URL
  富士フイルム
  http://fujifilm.jp/
  製品情報
  http://fujifilm.jp/personal/digitalcamera/finepixs5pro/
  富士フイルム FinePix S5 Pro関連記事リンク集
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2006/12/08/5218.html


( 木村 英夫 )
2007/03/09 01:05
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