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キヤノン EOS 5D【第8回】
DPPでの現像のコツ

Reported by 本田 雅一


 キヤノン自身に話を伺う前まで、RAW現像ツールのDigital Photo Professionalには多くの疑問があった。その現像結果やパラメータの違いによる振る舞いが、カメラ内部の処理と全く異なるからだ。

 その後、カメラ内部と同じアルゴリズムのRAW現像は「RAW Image Task(もしくはEOS File Viewer)」が担当し、DPPの処理はプロフェッショナル向けにワークフローと処理内容を最適化したツールだと聞かされ、ある程度納得はしていた。

 しかし、完全に納得しているというわけでもなく、Adobe Camera RAWがEOS 5Dに対応したので、それとの比較を交えながらDPPによる現像のクセや素性を探ってみた。


徹底して解像感にこだわった絵作り

 筆者は普段、あまりDPPを使ってこなかった。現像速度がやや遅いというのも理由だが、個人レベルで使う場合、現像パラメータを変更しながらチューニングしたいと思う画像は、そうそう数が多いわけではない。

 加えてキヤノンの場合、RAW現像とカメラ内現像の品質差(画の質という面ではかなり違うが)はさほどない。撮りっぱなしでそのままRGBを取り出すだけなら、絵の品質向上を目指してRAWからの現像を行なう必要性はあまり感じていなかった(もちろん、ちょっとした色かぶりや露出の調整には便利なので、RAWとJPEG同時記録を行なう事は多い)。

 そこでEOS 5Dを使うまではAdobe Photoshop CS2やPhotoshop ElementsのRAW現像プラグインを使用してきた。画質面で評価の高いRAW現像ツールは他にもあるが、前述したように普段使いの中では「JPEGの結果が気に入らない時にRAWからやり直したい」というもの。また、印刷出力したい場合は、結局そこからレタッチを行なう事がほとんどなので、素材としての素性が良ければ十分。それよりも高速性やレタッチ時のワークフローが簡単になる方が良いと思っていたからだ。

 さて、実際にAdobe Camera RAWの最新版で5Dがサポートされ、これらを比べてみた。
 まずDPPの大変に優れたところから。

 DPPで現像した画像は非常に解像感が高い。DPPはISO感度が高い場合でも、色ノイズを平均化せず、ISO1600以上の現像結果を拡大すると砂絵のようにノイズが出てくる事が知られている。このためISO感度が上がるほどに解像感が下がっていく、といった振る舞いにならない。砂絵っぽくなるのは善し悪しだが、画像処理を行なった後から元に戻す事はできないのだから、素材を作る上では良い方向だと思う。

 しかし解像感の高さは、何もISO感度が高い場合だけに感じられるものではない。ISO100で撮影された場合でも、被写体のディテールが強く浮かび上がる。また、黒地に赤といった配色など、色が滲みやすいシチュエーションでも輪郭が曖昧にならず、シャープに描く。これら一連のチューニングは、ピクセル等倍で拡大しなくとも印刷結果から読み取れるほどだ。

 一方、DPPのコントラストはやや強い。Adobe Camera RAWは比較的ニュートラルな明暗のトーンカーブを描く。黒側の沈み込みや白ピークの伸びやかさは不足するが、階調が判別しやすくシャドウとハイライトの階調は、DPPよりも多く残る。DPPもカメラ内現像に比べると階調の粘りはあり、ピクチャースタイルを「ナチュラル」にするとさらに階調重視となるが、Adobe Camera RAWの方がさらに一歩粘る。

 Adobe Camera RAWでもトーンカーブを変更すれば、もっとコントラストを重視した絵作りにもできるが、基本的な傾向として浅めのトーンと言える。色乗りもDPPの方がしっかり乗る。特に肌色とも関係する赤系の色が、しっかりと高純度で乗る印象が強い。

 現像結果をそのまま使うつもりなら、DPPでパラメータをしっかりと設定して出力するのが良いが、後処理をPhotoshopなどで行なうならばAdobe Camera RAWの方が良いという人もいるかもしれない。しかし、個人的にはDPPの実力を改めて感じた。筆者のようなフォトレタッチのプロではない人間が後処理で色々工夫するよりも、DPPで最終の絵を作ることを考えた方がずっと良い結果が出そうだ。


Adobe Camera RAWによる現像は、明暗のトーンがリニアでハイライトとシャドウの階調が粘るが、中間調の濃度はしっかり出る。やや眠くメリハリは感じないが、素材としては悪くない。なお、若干アンダー気味に現像される印象だ
左がDPPを用いニュートラル設定で現像した結果、右はAdobe Camera RAW。DPPは刺繍部分の白が若干飛んでいるが、Adobe Camera RAWは粘る。ややアンダー気味に現像されるのも原因だろう。ストラップや黒いセーターのディテールなどはDPPの方が明瞭で全体的に解像感も高い

ピクチャースタイルの勘所

 EOS 5Dで初めてカメラ内のピクチャースタイル現像がサポートされたが、ピクチャースタイルのうち、Kiss Digitalや20Dのデフォルトと同じ絵作りとなるノーマル、EOS-1D系と同一のナチュラル、従来のDPPにオプションとして存在した忠実設定を除くと、なかなか使いどころが難しい設定が続く。

 たとえば「ポートレイト」の場合、肌が白く透明感のある描写になるとの触れ込みで、実際、そのような結果になるが、全くうまく行かないケースもある。

 キヤノンによるとポートレイトのスタイルは、ポートレイトでよく使われているフィルムの特性を研究したものとの事。具体的には赤から黄色にかけての色相で輝度の高い領域は輝度をやや持ち上げて色濃度を控えめにしているという。これは赤い服を着ている人物を撮影した時、赤い服の発色がおかしくならないようにするためだ。

 つまり、露出が正確ではない写真に対してポートレイトスタイルを適用すると、キヤノン側が意図しない結果になる。このあたりがポートレイトスタイルを使う上での難しさだろう。RAWからのポートレイトで現像の場合は、パラメータで露出を変えながら肌色の描写を見極めるといい。

 また、ポートレイトスタイルを適用すると、肌色がやや赤っぽくなる場合もあるようだ。もう少し緑を乗せて肌色を黄色方向に……と思う場合は、「色あい」スライダーを用いるといい。キヤノンから聞いて初めて知ったのだが、ボディ内現像パラメータやDPPの「RAW画像調整」タブで指定する色あいは、色相全体を回すのではなく、赤から黄色にかけての色相を中心にシフトさせる。

 もちろん、他の色にも影響は及ぶが主な調整対象は赤から黄色、つまり肌色に対して強く作用する。全体の色合いを回転させるパラメータは「RAW画像調整」タブではなく、「RGB画像調整」タブの色あいスライダーでなければ変えることができない。


初代EOS Kiss Digitalで完成したコンシューマ向けEOS Digitalのデフォルト。シャープネスと濃度を1段階下げればEOS 10Dと同じ絵作りになる。素材というよりは、そのまま印刷する用途で使いたい
EOS-1D系の絵作りを踏襲するニュートラルは、対象となる色域(ここではsRGB)に対して階調性が素直に残るように明暗のトーンと彩度を収める。このためスタンダードよりソフトなコントラスト感で、色も薄味に。素材としての素性の良さを重視しており、濃度以外はAdobe Camera RAWのデフォルトにも近い

ポートレイトでは肌色が明るく透明になるように調整されているという。しかし濃度の濃い赤にはあまり影響がないのが赤い服からもわかるだろう
肌色はシャドウにかけて、やや赤っぽく見えたので、色合いを少し緑方向(黄色)にシフトさせてみた。ここでは判りやすく2段階動かしたが、プラス1ぐらいの設定が良さそうだ

 さて、ポートレイトとともに使いどころが難しいのが風景スタイル。初めて使った時には、あまりのコントラストと濃度の高さ、嘘っぽさに驚いたが、ふと昔ベルビアで撮影した写真を見ると、確かに嘘っぽい色。ベルビアに代表される高彩度のポジフィルムを真似たのが風景スタイルとすれば、納得できる設定と言える。

 このスタイルは過去のアマチュア向け機種(EOS 20Dなど)に対して適用すると、空など青系の色にノイズが浮かび上がってくるが、S/Nの良いEOS 5Dのセンサーならばあまり目立たない。そのまま印刷するポジからのダイレクトプリントと似た仕上がりになる。

 とはいえ、少々不自然な気もするので、個人的には「色の濃さ」をマイナス方向に2段階ソフトさせて使っている。厳密には異なる絵作りだが、以前、好きだったEOS D60に近い風合いになると思うのだがいかがだろう?

 ピクチャースタイルは、追加のスタイルもダウンロードが開始され、フィルムを変えるように絵作りを選べるのは楽しいが、ポートレイトや風景のような用途を限定したものは、いずれもカメラ内JPEG生成に使うのにはためらいが残る。しかしRAWでの作業ならば、露出にしろホワイトバランスにしろ、最適な状態に調整し、結果を見ながら選択できる。

 今後、我が家ではDPPの出番が増えてきそうだ。



風景スタイルはハマるとキレイだが、sRGBでは能力を発揮できない。特に空の色はディスプレイ上では完全に飛んでしまう。最近の青方向に色域を拡大したプリンタと組み合わせて使いたい
ディスプレイ上でも階調が失われない絵が欲しい場合は、濃度をマイナス方向に2ほど動かすと良さそうだ

左の画像に対して、インターネットで配布されているオプションのピクチャースタイルからトワイライトを使ってみた。なんでもない普通のビルの写真が紫に染まる薄暮の風景へと変化する


( 本田 雅一 )
2006/01/30 00:01
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