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リコーサービスセンターでシャッター調整&黒塗装を終えた筆者のGR DIGITAL。右は出荷時のスプリング
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最近は「こだわり」という言葉が乱発されているように思う。私はこの言葉が大嫌いだ。メディアにとっては便利な言葉だが、モノをほめる言葉としてはあまりに安っぽい。モノをつくるからには「こだわる」のはあたりまえのことだ。さまざまな創意工夫や苦労がこめられているのに、この言葉だけで形容していいとは思わない。GR DIGITALも「こだわりのコンパクトデジカメ」と語られてしまうのだろうか。それではあまりに悲しい。
GR DIGITALの試作機を手にしたとき、そして予約した実物が届いて箱から手にとったとき、「なんて持ちやすいカメラなんだ」と思った。持った右手に、まさに「はまる」かのごとく。GX8もしっかりしたグリップによる持ちやすさに感動したものだが、GR DIGITALはそれ以上である。
こういう体感的な部分を言葉で説明するのは難しいのだが、重心の位置がいいのではないだろうか。GR DIGITALは幅が107mmで、GX8の113.6mmより減っている。GX8は重いズームレンズがボディ端に設置されているので、グリップをしっかり握ったとしても、手首を中心とした回転半径と回転トルクは増える。これが手ブレの原因となるわけだ。一方GR DIGITALではレンズがGX8より中心寄りになので、短くなったボディ幅と相まって、とてもバランスがよい。GX8は手の動き以上に振り回してしまう感じがあったが、GR DIGITALは手の動きにきちんとついてくるのだ。
実際に撮影してみると手ブレによる失敗率は、やはりGR DIGITALのほうが少ない。撮影する前からしっくりくると思っていたが、いざ撮影してみるとよくわかる。カタログスペックと店頭展示品だけでは評価が難しいカメラだと思うが、撮影に連れ出すと、評価はがらりと変わるのではないだろうか。
発表当時の写真でまったく感じがつかめなかったのが、グリップ部分の質感だった。プラスチックにシボ型押しなのか、ライカのようなグッタペルカなのか。実際にはラバーが貼ってあるのだが、試作機を触ったときは、正直驚いた。滑らない。手に吸い付くようだ。まだ一度も路面にこすりつけられていないタイヤのようでもある。好みもあると思うが、私はかなり気に入った。ただし難点もある。汚れがついたからといって、ティッシュペーパーや乾いたハンカチなどで拭くと、繊維ホコリが付着して取りにくい。まあこれは、それだけ滑りにくいということで、いいほうに受けとめたい。
というように、重量バランスにすぐれてホールド感バツグンのボディに、滑りにくいグリップ。そして背面にはきちんと右手親指を置くスペースがある。ではそれぞれの操作・表示部分はどうなっているだろうか。
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ツインダイヤルはとても便利
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露出補正操作は右上のズームボタンで
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ADJ.ダイヤルを押した状態(仏語メニューに設定しています)
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GR DIGITALで物議をかもしているのは、光学ファインダーがないことだろう。私個人的には大歓迎だ。これまで、液晶モニターを装備するデジタルカメラで光学ファインダーを使ったことはほとんどなく、1999年に買ったバッテリーの持ちが悪い200万画素機で仕方なく使ったぐらいだ。なので、私にとってのファインダーは背面の液晶画面となっている。
液晶モニターは2.5型。広くて見やすくなったとよろこんでいたが……しかし、手放しで喜んでいられない問題もある。屋外で快晴のときはかなり見づらいのだ。明るさ調整もあるにはあるのだが、面積が広くなったぶん、見づらい場合はよけい気になる。さらに縦方向の視野角が狭いように思う。上下に傾きを変えると、映像が反転して見えることがある。ヒストグラムはのんきに「白飛びしてませんよ」と教えてくれるが、それ以前に液晶モニターをなんとかしてくれ~と悲鳴をあげたくなる。
それならオプションの外部ファインダーを使うべきだということになろうが、私としてはGR DIGITALのコンパクトなボディが気に入っているので、できれば付けずに持ち歩きたいのだ。外部ファインダーはまだ入手していないので、そのうち試してみようと思うが、常用するとは思えない。
GR DIGITALの操作部分でのウリは、前面と背面のツインダイヤル(アップダウンダイヤルとADJ.ダイヤル)だろう。GX8でも前面ダイヤルをくるくる操作して、一眼レフのような操作感を楽しんでいたが、GR DIGITALのツインダイヤルの便利さを味わうと、もう戻れない。マニュアルモードでは前面ダイヤルで絞り値を、背面ダイヤルでシャッタースピードを操作でき、これがたまらなくいい。カメラをいじくってるぞ、という感じなのだ。コンパクトカメラの操作はどこかデバイスを操作している感じがしていたのだが、GR DIGITALはしっかりとカメラの操作だ。
デジタルズームのスイッチには露出補正などを割り当てられる。これがとても気に入っている。白飛びしそうだなと思ったら、簡単に-0.3EVや-0.7EVにできるからだ。
デジタルズームといえば、GR DIGITALに関心をもつ人がどれだけこの機能を使うのだろうか。あえて28mm相当の単焦点レンズという、突き抜けたコンセプトのデジタルカメラにデジタルズームが必要だろうか。このあたりに、GR DIGITALが突き抜けきれなかった何かを感じる。デジタルズームはあくまでも非常用という考えかたもできるかもしれない。ただ、この操作はとてもいいアイデアだと思うので、露出補正とホワイトバランスだけではなく、ユーザーが好みの項目を設定できるとさらにいいのではないかと思う。
背面のADJ.ダイヤルを押すと、よく使う設定項目を簡単に呼び出せるようになっている。GX8やRシリーズにあったADJ.ボタンの発展型だ。ここに好みの項目を2つ追加できる。欲をいえば、すべてユーザー好みにできるとよかった。露出補正とホワイトバランスは最初から選択可能になっているが、私の場合、露出補正はズームボタンと重なってしまう。とはいえ、このダイヤルのおかげでメニューボタンをほとんど押すことがない。
■ サービスセンターでシャッター調整&レンズ名黒塗りを体験
レリーズボタンのフィーリングには好みがあると思う。私の場合、購入時は少し重く感じた。GR DIGITALではレリーズボタンの重さ調整ができるということで、そこでさっそく銀座にあるリコーカメラサービスセンターを訪問した。
サービスセンターにはシャッターの重さとして3段階のサンプル機が用意されており、そのなかから選ぶようになっている。軽いほうに2段階、重いほうに1段階だ。私は1段階軽くすることにした。さらにレンズ鏡胴のレンズ名表記を黒仕上げに変更してみた。
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リコーカメラサービスセンター受付にて。筆者のGR DIGITALを受付嬢に手渡す
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シャッター調整用のサンプル機。事前に3段階の重さが確かめられる
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デフォルト状態の筆者のGR DIGITAL(右)。左はサービスセンターのサンプル
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両方のサービスが完了するまでの所要時間は15分ほど。リコーカメラサービスセンターに持参すればその場でやってくれる。レリーズボタンの重さ調整は3,150円、レンズ名黒仕上げは4,200円。
レリーズボタンの重さ調整は、要するにスプリング交換だ。購入時にセットされていたスプリングは、もし復元したくなったときのために返却してくれるのもうれしい。レンズ名黒仕上げは、鏡胴と同色にペイントする。これで近接マクロ撮影のときに映り込みを防げるようになったが、私の場合は見た目優先で、精悍でかっこよくなる気がしたからだ。実際黒くして満足している。
これらのサービスを受けるには銀座のリコーカメラサービスセンターに直接行く必要がある。銀座に平日の日中に行くのは大変だが、レリーズボタンの重さ調整は、ユーザー自身がサンプル機で感触を確かめてからでないと不可能だ。室内にはリコーの歴代カメラが展示してあり、調整待ちの時間も退屈しない。応対もすばらしく、GR DIGITALに何か起きたら、ここへ駆けつけようという気にさせてくれる。
レリーズボタンの重さ調整をコンパクト機で実施しているカメラメーカーは聞いたことがない。私は、GR DIGITALは「執念」のデジタルカメラだと思う。いまどきこんなデジタルカメラを出しますか? 私はもちろんいい意味でいっている。銀塩GRを振り返らずに、GR DIGITALとはどうあるべきかを追求することで、無比の「突き抜けた」デジタルカメラとしてバージョンアップしていってほしいと思う。
■ 作例
※作例のリンク作は撮影画像をコピーしたものです。
※写真下の作例データは、記録解像度/露出モード/露出時間/レンズF値/露出補正値/ISO感度/実焦点距離を表します。
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大阪にはよく行くが、通天閣をこうやって撮ったのは初めてだ
3,264×2,448 / 絞り優先AE / 1/133秒 / F5.6 / 0EV / ISO64 / 5.9mm
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明度差が大きくて難しい画づくりになってしまった
3,264×2,448 / 絞り優先AE / 1/164秒 / F4.5 / 0EV / ISO64 / 5.9mm
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思ったより黄色くなかった御堂筋。こういう説明調の写真は好みではないが
3,264×2,448 / 絞り優先AE / 1/32秒 / F4 / 0EV / ISO88 / 5.9mm
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■ URL
リコー
http://www.ricoh.co.jp/
製品情報
http://www.ricoh.co.jp/dc/gr/digital/
リコー GR DIGITAL 関連記事リンク集
http://dc.watch.impress.co.jp/cda/compact/2005/09/15/2305.html
気になるデジカメ長期リアルタイムレポートバックナンバー
http://dc.watch.impress.co.jp/static/backno/longterm.htm
( ケニー・オブライエン )
2005/11/28 00:03
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