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ニコン D2X【第8回】
D2XとNikon Captureの目指す未来とは何か?

Reported by 三浦 健司


 ニコンは、RAW画像の「NEFファイル」とRAW現像ソフトの「Nikon Capture」に、デジタル時代の写真の未来を託したメーカーだと、筆者は思っている。

 初代のデジタル一眼レフカメラの「D1」では「NTSC色空間」を、続く「D1X」では「Adobe RGB色空間」を据えて、そこから現像される広大な色空間でニュートラルな色を作り出している。

 そして、現在の「D2X」と「Nikon Capture 4」の両者の関係は、デジタル写真時代の写真家に、新たなイメージを創造させる刺激たっぷりの十二分な能力を備えている。

 そこで今回は、D2XとNikon Capture 4を利用することが、写真家の創造性にどのような利益をもたらすのかを考察したい。


 D2Xに限らず、RAW撮影を前提にすると、写真表現にかかわる各種設定はとても簡単になる。露出だけに集中して撮影をして、ニュートラルなRAW画像から、すべての色や階調は撮影後にNikon Capture 4で作り出せばよいからだ。

 こうすればリスクを冒すことなく自分好みの写真に仕上げられる。言い換えればニュートラルな画像を元にして、風景ならベルビア風の味付けを、女性ポートレートならコダックEPP風、複写ならEPN風のカラーバランスといったようなことを、後工程のRAW現像で被写体別に処理できる。

 そこで筆者は、ニュートラルなRAW画像をD2Xで得るために、カメラ設定で輪郭強調を「しない」、階調補正を「コントラスト弱め」、カラー設定を「モードI」、色空間を「Adobe RGB」にしている。こうすることで誇張のきわめて少ないニュートラルな画像ができる。これは、いわば「純水」のようなデジタル“ネガ”画像といえる。


 ここで銀塩フィルム時代の写真環境を思い出してほしい。

 銀塩時代の写真家は、スポンサーやクライアントの要求を満たすために、まずカメラとレンズを選んでから、次いでフィルムのポジかネガかを選択し、さらに撮影時の“レンズ前”にあたるフィルターワークも含めたシビアな品質管理をしてきた。

 当然、こうした写真の多くは、当初に要求されたイメージ通りに仕上がるが、反面では写真家の経験値に基づく予定調和な結果になりがちだ。このとき写真家が創造性を尊重すればするほど「実はもっと的確に要求を満たす描写や色合いもあったのではないのか」という疑念が生じることになる。

 しかし、多くの場合は、写真家も“自分を偽って”まで貪欲に表現にこだわることは希であり、クライアントの要求に実に素直に従う仕事をすることが多い。

 これは銀塩フィルムというメディアの性質から、後でエフェクトを加えにくいための当然の帰結ともいえる。銀塩時代は、撮影後にまったく新たな発想を思いついても、できあがった状態から多様な表現や描写を模索することが難しかった。

 悲しいことだが、銀塩フィルムというメディアでは、「イメージはひとつの描写しか受け入れることができなかった」のである。ここに銀塩時代の創造性の限界がある。


 ところが、デジタル時代のD2XとNikon Capture 4はどうだろう。

 Nikon Capture 4の「追加RAW調整」機能の設定にある「輪郭強調」、「階調補正」、「カラー設定」、「彩度設定」の簡単な組み合わせだけで、風景から商品、人物までをそれぞれ最適な表現にできる。このほかにも、細かい部分の描写など、わずかな違いも調整できる「LCHエディタ」のように、まるでかゆいところに手が届くような機能もある。

 さらに別売だがnik multimediaが開発したフィルター効果演出ソフトウェア「nik Color Efex Pro 2.0」を使えば、「フォギー」、「クロス現像」、「早朝」、「夕方」のイメージまで簡単に表現できる。


 写真の歴史150年の間に培われた描写にかかわるテクニックは星の数ほどある。筆者はすでに30年近く写真を生業にしているが、“古今東西”のすべてのテクニックに通じているはずもない。はっきりいえば、いつだって自らのイメージの貧困に嘆息している。

 だが、D2XとNikon Capture 4の組み合わせならば“己の貧困な写真”からでも、いままで知らなかった描写を繰り返しシュミレーションすることで多様な表現を知ることができる。ひとつのRAW画像から、100年前のイメージも喚起できるし、ファンタジーやリアリズムすら描写できる。

 こうして新しく知った表現は、その人間の精神に饋還されて、次回の撮影で必ず活かされる。

 こう考えればRAW現像の世界は、イメージの完成画像を作り出す機能のみならず、次なる“写欲”を刺激する素材の確保という、両義性を持つことになる。

 銀塩フィルムの種類がひとつ、またひとつと消えていき、これまで培ってきた「描写」と「表現」にかかわる多様性が失われている。このような状況の中で、RAW現像は“写真150年の描写”を内包しつつ、写真家の創造性を強く刺激してくれる。

 このような大役を簡単かつ的確にこなすNikon Capture 4という存在は、ニコンにとってD2Xと並ぶ“双璧の道具”といえるだろう。


 畢竟、RAW画像=デジタル写真とは、“自分の可能性をとことん掘り下げる資産”なのである。

 最後になるが筆者のNikon Capture 4の作例を紹介して筆を置きたいと思う。


※作例のリンク先は、左が撮影した画像データそのもの(ファイル名のみ変更してあります)で、右がイメージ現像した画像です。クリックすると撮影した画像が別ウィンドウで表示されます。

※キャプションの撮影データは、画像解像度(ピクセル)/露出時間(秒)/絞り値(F)/露出補正値(EV)/ISO感度/レンズ焦点距離(mm)です。


【オリジナル画像】
2,848×4,288 / 1/250(秒) / 9 / -0.3 / 100 / 55
【100年前風】
単純なセピアや調色を施したモノクロ写真は、安価な画像処理ソフトでも簡単に生成できる。そこでNikon Capture 4で、画面周囲に光線かぶりを作り、さらにざらつきも加え過去を感じさせる作風にしている

【オリジナル画像】
4,288×2,848 / 1/125(秒) / 8 / 0 / 100 / 24
【インフラレッド風】
銀塩時代の赤外線写真はそれに対応するフィルターとフィルムがあれば簡単に撮影できた。いまやその描写を的確に知る人も少なくなってきた。今回は筆者の記憶に基づき、nikフィルターを駆使して描写してみた

【オリジナル画像】
2,848×4,288 / 1/50(秒) / 8 / 0 / 100 / 24
【ネガプリントフィルターワーク風】
ネガプリント時にエフェクトを加えるテクは、15年ほど前に北米から渡来した。とくにレンズ前に黒のストッキングをかけシャドウ部をにじませる描写は広く浸透したテクニック。で、これに近似させた。

【オリジナル画像】
4,288×2,848 / 1/800(秒) / 5 / -0.3 / 100 / 200
【ファンタジーフォグ風】
銀塩時代は、ソフトフォーカーフィルターを何枚も所有し被写体に合わせ使い分けていた。絞り値や光線状態でも効果かは異なり思い通りには行かない。が、Nikon Capture 4ではリスクなしで思い通り

【オリジナル画像】
2,848×4,288 / 1/160(秒) / 8 / 0 / 100 / 116
【ベルビア&PLフィルター風】
フジのベルビアはプロアマ問わず人気の高いフィルムだ。とくに風景には絶大な人気を誇る。そこで、この人気のテイストを盛り込みコントラストと色彩をアップした。青空の濃淡はPLの効果を演出


URL
  ニコン
  http://www.nikon.co.jp/
  製品情報(D2X)
  http://www.nikon-image.com/jpn/products/camera/digital/slr/d2x/
  製品情報(Nikon Capture 4)
  http://www.nikon-image.com/jpn/products/software/capture4/
  製品情報(nik Color Efex Pro 2.0)
  http://www.nikon-image.com/jpn/products/software/nik/


( 三浦 健司 )
2005/07/20 01:06
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