EOS Kiss Digital N(以下Kiss)のレポートも今回で最後となる。
3月18日の発売日以来、約2カ月使ってきた印象をまとめて締めとしたい。
■ “一眼レフとしては”小さなボディ
2月の発表会で見たときから、Kissの小ささと軽さには惚れていた。それでも2カ月持ち歩いてみると、やっぱり一眼レフとあって「大きい」と思うことが多い。取り出しやすさを重視してトートバッグを使うことが多いのだが、かなりの場所を占めてしまう。望遠ズームを、もう1本いれるかどうか迷うことが多かった。
もう一つ、街角で撮影しているときの人の目線から、ボディの大きさを感じることが多かった。一眼レフとしてはコンパクトとはいえ、黒い大きなカメラを構えて撮影していると視線を感じることが多い。通り過ぎる人々の目線がきている写真が多いことでそれを感じる。
気弱と言われれば甘んじるしかないが、つい街中を避けて、公園や動物園など、カメラを構えていても目立たない場所へ足を向ける機会が増えた。特に最近、防犯を呼びかけるポスターが目立つようになった路地裏や小さな公園でKissを取り出すのは勇気がいる。
■ 快適なレスポンス
いったん撮影を始めてしまえば、一眼レフならではの快適さはコンパクトカメラとは比べものにならない。
起動やオートフォーカスをはじめとする、全体のレスポンスの良さは快適だ。通い慣れた上野動物園の回遊コースを歩いていても、コンパクトデジカメの場合よりも撮影枚数が2倍近くになる。つい気持ちよくてシャッターを押す回数が増えてしまうのだ。
また、バッテリの持ちが良い。電源スイッチを入れっぱなしにし、シャッターボタンを半押しにすることで復帰するような使い方でも丸1日は持つ。予備バッテリーも購入したが、充電を忘れた時以外は、使う場面はなかった。
■ 期待はずれのファインダー
ちょっとがっかりしたのはファインダーだ。思っていたよりも暗い上、倍率が低く、視野率も低い。
ファインダーが暗いのは、装着した標準ズームレンズのせいもあるが、同じレンズを付けたEOS 20Dと比べるとかなり差がある。両機の階級の差を一番感じる部分だ。
倍率も低く、ピントの合う範囲が狭いマクロ撮影では、ピントが確認しにくくて困ることもあった。マニュアルフォーカス時代の一眼レフの、高倍率のファインダーが懐かしい。ああいうファインダーが普及機種に載ることは、もうないのだろうか。
一番困ったのが視野率の低さで、思っていないものが写りこんでいることがあった。プリンアウトする場合にはトリミングしてしまうので問題ないのだが、PCのディスプレイで見ているときはノートリミングが基本なので困ってしまう。
甚だしい例では、ビルの窓から遠景を撮っていたときに、ファインダーからは見えなかった窓枠が画面隅に入っていたことがあった。せっかくの一眼レフなのだから、次の機種では、もうちょっとがんばってほしい部分だ。
また、これは撮影する側の責任なのだが、背面の液晶がファインダー代わりにならないので、猫などを撮るときにローアングルのカットが少なくなってしまった。アングルファインダーなどを使うという手もあるが、自分でもアングルの変化を心がけることが必要だろう。
■ 軽快なシャッター音
Kissのシャッター音は、あまり大きくなく、ちょっと軽い音色で、自分では大変好ましいタイプだ。
大きな音ではないものの、機械が動くことによって自然に発生するシャッター音は、コンパクトデジカメの電子音とは比べものにならない。撮影枚数が多くなりがちな理由の1つは、このシャター音がリズムを作るからだと思う。
ただし、静かな発表会場で、つぎつぎと表示されるプレゼンテーション画面を撮っている場合には、気が引けなくもない。こういうときは無音で撮れるコンパクトデジカメの方が向いている。
■ 上々の画質
ノイズが少なく、記憶色系のキヤノンの絵作りには好き嫌いがあるが、私は好きな方だ。
それでも現像パラメーターが出荷時設定の「1」だと、コントラストが強調されすぎて、やや白飛びする印象なので、最近は「2」に設定している。パラメーター1では、コントラスト/シャープネス/色の濃さが強くなっているので、気になる人は2を試してほしい。さらに突き詰める場合は、各項目を個別に設定することもできる。
また、画素数については、ラージファインで使ってきたが、L判への印刷やPC画面での鑑賞が中心の私の使い方ではもったいないぐらいだ。ミドルファインで撮影可能枚数を増やす方がいいかもしれない。
■ 画面の縦横比率
Kissをはじめとする一眼レフでは、画面の縦横比が3対2になっている。コンパクトデジカメに多い4対3よりも、やや横に広い。
やはり4対3の比率が多いPC画面上で見ていると、ちょっともったいない。35mmカメラは、基本的に、ずっとこの比率でやって来たわけだが、デジタルになった時点で、もうちょっと自由になってもいいのではないかという気もする。いやがる人もいるかもしれないが、個人的には、4対3の比率のモードを作ってくれるとありがたい。
なお、3対2のデータを、L判用紙(127×89mm)にフチなしでプリントアウトする場合は、横方向が思ったよりもトリミングされることが多かった。ただし、ファインダーの視野率分の余裕があるので、ほとんど問題になることはない。
■ 撮像素子のホコリ対策
覚悟はしていたが、撮像素子のホコリの付着は悩ましく、気を遣った。ほおっておくと、すべてのコマの画面の特定の部分にぼんやりとした影が映り込んでいて、がっかりさせられる。
取扱説明書にしたがって、高圧のエアダスターを避け、大型のゴム製ブロアーで撮像素子の清掃を行なっている。週末、撮影から帰ると、必ず清掃するというパターンだ。こういうときはオリンパスのEシリーズがうらやましくなる。Kissは、一般のユーザーがターゲットの製品だけに、なんとか解決してほしい問題だ。
■ まとめ――優秀なデジタル一眼
いくつかの欠点はあるものの、Kissの一番好きなところは、撮っていて楽しいカメラだということだ。登場としたときのインパクトでいえば、前モデルの方が大きかったかもしれないが、カメラとしての完成度は比べものにならない。
キヤノンの歴史の中でも、初代Kissやマニュアルフォーカス時代のAE-1などの名機を思わせる優秀なモデルだと思う。これが初代のEOS Kiss Digitalであれば、もっと話題になっただろうにと思うと残念な気がするほどだ。
少なくとも、人にデジタル一眼レフの機種選定を相談された場合には、自信を持って勧められる機種であることは保証する。
※作例のリンク先は、撮影した画像そのものです(ファイル名のみ変更しています)。
※キャプション内の撮影データは画像解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値(F)/露出補正値(EV)/ISO感度/ホワイトバランス/レンズの焦点距離(mm)です。
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晴天下の白い花だとパラメーター1では白トビした感じになりやすい。もちろん、露出も考えなければいけないのだが。
EF 55-200mm F4.5-5.6 / 3,456×2,304 / 1/750秒 / 11 / 0 / 400 / オート / 200mm
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レスポンスが良いので、カラスのように動きの激しい被写体にも追随できる。
EF-S 18-55mm F3.5-5.6 / 3,456×2,304 / 1/250秒 / 11 / 0 / 400 / オート / 55mm
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もっとローアングルから撮りたいが、ついついこういう高い位置から撮ってしまう。
EF-S 18-55mm F3.5-5.6 / 3,456×2,304 / 1/350秒 / 11 / 0 / 400 / オート / 22mm
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左上の青空の部分に撮像素子のゴミ。レンズ交換したカットでも同じ位置だったので、空が入っていたカットはほぼ全滅。
EF-S 18-55mm F3.5-5.6 / 3,456×2,304 / 1/500秒 / 13 / 0 / 400 / オート / 18mm
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■ URL
キヤノン
http://canon.jp
製品情報
http://cweb.canon.jp/camera/eosd/kissdn/
( 伊達 浩二 )
2005/05/16 00:01
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