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【写真展リアルタイムレポート】「¥3,000円で写真売りましょ! 買いましょ! 展」

~国内アートマーケットを創造する第一歩に
Reported by 市井康延

この企画は横木安良夫氏(左)と五味彬氏(右)が立ち上げたShINCプロジェクトの第1弾企画。今後、プロのためのワークショップや写真展の企画など活動を広げていく計画だ
 日本に写真のアートマーケットを作りたい。日本の写真界における究極の命題だが、ここ数年、その意識が特に高まってきている。その中で写真家の横木安良夫氏五味彬氏が企画したのが、この「¥3,000円で写真売りましょ! 買いましょ! 展」だ。

 プロ、アマ問わず、自分の写真プリントを売りたい人を公募。出展は一口10点で、5,000円の手数料を払えば参加できる。会場にはブックが並べられ、名乗りを上げた約140名によるおよそ1,400点が自由に見られるようになっている。「買うことが前提にあると、不思議とプリントの見方が真剣になる」とはある来場者の感想。この展示は、スリリングなその差を体験できる得がたい空間なのだ。

 ShINC project主催「¥3,000円で写真売りましょ! 買いましょ! 展」はギャラリーコスモスで開催。会期は2008年10月21日(火)~11月2日(日)。月曜休館。開館時間は11~19時。入場無料。ギャラリーの所在地はJR線、東京メトロ南北線、都営三田線・目黒駅西口から大鳥神社方面へ徒歩10分。住所は東京都目黒区下目黒3-1-22谷本ビル3階。

 10月24日19時からは、アート写真マーケットを考えるワークショップ(参加無料)を開催。講師はファインアートギャラリーを主宰する福川芳郎氏、写真家の横木安良夫氏、五味彬氏。


ギャラリーの場所は目黒駅から権之助坂を下って山手通りを越えたすぐ 壁には作品のサムネイル画像と、出展作家名が貼りだされている

出展作品は約140名による1,400点

こうしてファイリングされている写真を購入できる。これは横木氏のプリントで、最近ウラジオストックで撮影したスナップ

 会場には、手前にアートマーケットで流通している海外著名写真家のオリジナルプリントが展示され、奥に今回の主役であるプリントがブックに入って置かれている。来場者は、それぞれ真剣な面持ちでブックに見入っている。一見、レアものを扱う中古レコード店のような雰囲気にも思える。

「出品している約140名中、僕が知っている写真家は20名くらい。プリントを郵送してきた人が半分くらいいたので、その人たちは地方で活動するプロやアマチュアたちだと思う。集まった作品のクオリティは驚くほど高いよ。それはびっくりした」と横木氏はいう。作品のバリエーションも多彩。モノクロ、カラー、風景、ポートレート、スナップなどさまざまあり、デジタルプリントがおよそ9割を占める。

「赤城(耕一)君は、3,000円とはいえ販売する作品だからと、銀塩モノクロプリントを焼いてきた。それは早くに売れてしまったみたいだけどね」

 ブックの中のプリントが商品であり、来場者は気に入ったものをブックから出してカウンターで精算する。となると、会期が追うごとに、見るプリントが少なくなりそうだが、「それだけは気をつけたい」と横木氏はいう。


写真家自身の意識を変えよう

ブックの順番は主催者以降は申込み順。「五味は2番だったんだけど、名前にちなんで53番を自分で選んだんだ」と横木氏は笑う
 横木氏が今回の企画に込めた意図は、一般の人に写真プリントを買う楽しみを知ってほしいことが究極の目標としてあるが、その前に、売る側の写真家の意識を変えることにあった。

「写真家本人が意外とプリントを買っていない。まず写真家が買う側の意識、買う気持ちを理解することが大事だと思ったんだ」

 一般的な美術品の金額で考えると、3,000円は取るに足らないように見えるが、個人的に衝動買いする額としては安い金額ではない。日本ではまだ写真がアートマーケットとして確立されていない以上、「現実的な金額から始めるしかない」として、この金額に決めたという。

「プロにとっては常識はずれの額かもしれないし、ギャラリーと契約している写真家は、気持ちはあっても参加できない人がいることも分かる。ただこれは特別な場。こうした呼び水も必要だと思うんだよね」


クオリティが高いのは、意識の高い写真家が集まったから

この入口を入ると、いつものギャラリーとは違う空間が待っている
 雑誌やCDジャケットの撮影などを行なうフリーカメラマンの佐野円香さんは、偶然この企画に参加することになった。「この企画の前の作品展を最終日に見にきたら、会場に五味さんがいらして、誘われました」という。本展の初日は21日で、誘われたのは19日。作品を持ち込んだのは翌日の20日だ。

 彼女自身、プリントを売ることは知っていて、関心はあったが、具体的にどう展開すればいいかが分からないでいた。自作品をプレゼンテーションするブックを作っていたので、早速、そこから作品を5カット2点ずつを選んだのだ。

「選ぶ基準が分からなかったので、1点で飾って眺めて気持ちいいものをチョイスしました。売れるなんて思っていませんでしたが、今日、1点売れたらしくて、とても嬉しいです」

 写真家の岡嶋和幸氏は「写真展で展示したものは出せないので、来年発表しようと思っていた海の写真を出品しました」という。自宅近くの外房の海をここ1年近く撮っていて、『潮騒』がテーマだそうだ。

「飾ってもらうことを前提に、余白を多めにとってプリントしました。B4のフレームにマット加工をしてもらえると、映えると思います。売るだけではなく、僕も3点買いました。犬がテーマではないのに、犬が写っている作品がちょっと気になったのです」


参加者はブログで増えていった

「実は最初、20名くらいしか参加者が集まらなかったんだよ」と横木氏は明かす。そこで岡嶋さんやhanaさんら、知り合いの写真家に声をかけ、ブログなどで積極的に告知してもらい始めた。それで一気に参加者が増えたのだ。

「ブログではずいぶん話題を集めているみたい。次はこの動きを写真界だけでなく、一般に広げるようにしていきたい」

 日本で写真プリントをアート作品として捉えるようになったのは、そう古いことではない。1970年代に写真家の細江英公氏が、アメリカでの経験から『オリジナルプリント』という概念を日本に紹介したのだ。日本で初めてとなる写真の画廊、ツアイトフォトサロンが東京にできたのが1978年のこと。

 さて、日本でオリジナルプリントはアートとして流通するのか。それはあなた自身が会場で体験して、判断してみてほしい。



URL
  ShINC project
  http://www.shinc.jp/
  ギャラリーコスモス
  http://www.gallerycosmos.com/

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市井康延
(いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。灯台下暗しを実感する今日この頃。なぜって、新宿のブランドショップBEAMS JAPANをご存知ですよね。この6階にギャラリーがあり、コンスタントに写真展を開いているのです。それもオープンは8年前。ということで情報のチェックは大切です。写真展めぐりの前には東京フォト散歩( http://photosanpo.hp.infoseek.co.jp/ )をご覧ください。開催情報もお気軽にお寄せください。

2008/10/23 15:52
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