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【写真展リアルタイムレポート】hana写真展「SO-CO-i-ra」

~「DP1」との出会いが生んだスナップ写真空間
Reported by 市井康延

DP1はデジタルカメラらしく、茎の細かい毛の1本ずつを描写しながら、全体ではやわらかい雰囲気が漂う

hanaさん愛用のDP1
 hanaさんは知人が撮ったシグマ「DP1」の写真をウェブ上で見て、このカメラがたまらなく欲しくなったという。早速購入し、いつものフィールドである家の近所の「そこいら」辺りを撮り歩いた。その結果、生まれたのが今回の写真展だ。

 「このカメラの何にそこまで惹かれたのか、自分でもはっきりとは分からない」とhanaさん。デジタルらしく細かいところはシャープに写っているのだが、全体的にぬるい感じが心地良い。フィルムっぽいといえばそうだが、それだけではない。この会場には、ここでしか味わえない街の空気感と、のんびりとした時間が流れているのだ。

 hana写真展「SO-CO-i-ra」はアップフィールドギャラリーで開催。会期は2008年9月26日(金)~10月13日(月・祝)。会期中無休。開館時間は12~19時。入場無料。ギャラリーの所在地はJR水道橋駅西口から徒歩3分、半蔵門線・九段下駅出口5から徒歩10分。

 10月3日(金)18時半からは作者と横木安良夫さんとのギャラリートークを行なう。参加費は500円(1ドリンク付)。予約不要。


hanaさん 会場の様子

 今回、会場での撮影は自由。作品を接写したって構わない。「私の写真をネットで知った人も多いから。どんどんネットに載せて、感想を聞かせてもらえる方が嬉しい」とhanaさん。


撮影場所は近所が中心

街を歩く時、視線をあちこち動かし、時にはしゃがんだりする。だから会場もそんな雰囲気だ
 hanaさんは、ブログにアップしていた写真で注目され、写真家としての活動を始めるようになった。が、自分自身は「本業はあくまでも主婦であり、母親なんです」と言う。

 だから自分の自由になる時間にしか撮らないので、撮影場所は自宅の近所が中心になるし、夕景はあるけど、夜景はない。夏休みやお正月など、子どもが長い休みになる期間は、撮影枚数がめっきりと減る。

「私は自分が楽しくて写真を撮ってきました。そして、その撮った写真の中から、その時々で求められるテーマなどにあわせて、選んでいくだけです」

 今回は、自分の大好きな街がこんな風に見られたら嬉しく思うだろうと考えながら写真を選んだ。ギャラリーは2つの部屋が合わさったような構造だから、最初の空間は路地を歩いているような雰囲気にし、2つ目の部屋は玩具箱のような雑多な楽しさを演出したという。

 最近、hanaさんの子どももデジタルカメラを学校に持って行くようになった。撮ったものを見ると友だち、置き忘れられたもの、夕焼けや空だったり。「私と同じことをやっているんですよね」。


「デジタルカメラはピントが甘いとすごく気になるけど、DP1だとそれも絵になるから不思議」

いつもバッグにはカメラ

 hanaさんは女子高の時に、写真部に入った。写真部は夏合宿の宿泊先が魅力的だったのと、学校行事の時に写真が撮れたからだ。

「長い時間、暗室作業をしたりした記憶はあるけど、不思議と具体的な作業の記憶は全く覚えていないんです」

 部活動では一眼レフ、プライベートではいつもバッグにコンパクトカメラを入れ、常に友だちを撮っていた。「写真はプリントを見ながら、友だちと盛り上がるために絶対必要なものだった。だから高校、大学でもみんなカメラは持っていましたね」という。

 就職してもその習慣は変わらなかったが、自分が結婚、子どもができると、写真の役割が変化した。人と会う時間が少なくなり、被写体も子ども中心になったことで、自分が見て楽しむために撮るようになったのだ。カメラもフィルムカメラから、デジタルカメラを使うようになった。

 「その頃から自分と直接関わりのないものをとるようになりましたね。街や歩いている人、花やモノだったり、雨が降って外に出られない日は、ベランダにたまった雨の滴を撮っていた。撮ることがひたすら楽しかったんです」

 2001年頃、毎日、たくさん撮っているのだから、ブログをやろうと思いたち、1日1枚ずつ花の写真をアップし始めた。そこでhanaさんと呼ばれるようになり、その名前が1人歩きするようになったのだ。


このベンチも、撮影した後、壊れてしまい今はもうないそうだ

田中長徳さんのアドバイスで一眼レフからコンパクトへ

出力には、初めてラムダプリントを使った

 「写真はいつも普通に見ている世界と、少し違う世界が撮れる。そこが面白い」とhanaさんは言う。1日で100カットから、多い時で300カットほどを撮り、彼女の場合は撮りっぱなしにせず、パソコン上で見直す。違う世界を見ることが楽しみなのだから、当然ではある。

 「その時、田中長徳さんに声を掛けていただきました。『面白い写真を撮るけど、キミの感性に一眼レフは合わないから小さいカメラを使いなさい』とアドバイスされたのです」

 その時、愛用していたEOS-1Dから、リコーのコンパクトデジタルカメラに変えた。

「久しぶりのコンパクトカメラはすごく新鮮でした。ファインダーをのぞかないでもシャッターが切れ、それまでと違う写真が撮れるようになった。手を伸ばしたり、カメラが入るところなら、どこでも撮れるわけです」


人のためには撮らない

 もう1つの転機が写真集「GR DIGITAL BOX」に参加したことだ。自分のために撮っていたhanaさんが、初めて人に見せる写真を撮ることになった。

 「最初、撮る時に頭で考えて被写体を選び始めた。皆んながカッコいいと思いそうなもの、キレイだと感じそうなものですね。そして上手に撮ろうと意気込んだ。そうなると、自分では全く楽しくないから撮れなくなってしまいました」

 それで人のために撮るという考えはなくした。

 「それまでは1枚を見せる感覚しかなかったのが、ある程度の点数で表現する楽しさを知りました。1枚だけ見たら何も語っていなくても、ほかの写真を合わせると生きてくる表現があるんですよね」

 hanaさんは写真を選ぶ時、プリントにして机の上に並べ、使わないカットを抜いていくという。「SO-CO-i-ra」では、DP1で撮った写真だけで構成したが、コンタックス「G1」やエプソン「R-D1」で撮ったものもしっくり馴染むことが分かったという。

「対してデジタル一眼レフで撮ったカットとは全く相性が悪い。並べると、一眼レフの写真は硬すぎて見えるんですよね」

 長年、カメラをもう1つの自分の眼にしてきたhanaさんにとって、個性的なカメラは新たな視覚をもたらすことになる。その出会いが生んだ空間には、スナップ写真の醍醐味が詰まっているのだ。



URL
  hana
  http://hana-photography.com/
  アップフィールドギャラリー
  http://www.upfield-gallery.jp/
  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/exib_backnumber/2008-9.html



市井康延
(いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。灯台下暗しを実感する今日この頃。なぜって、新宿のブランドショップBEAMS JAPANをご存知ですよね。この6階にギャラリーがあり、コンスタントに写真展を開いているのです。それもオープンは8年前。ということで情報のチェックは大切です。写真展めぐりの前には東京フォト散歩( http://photosanpo.hp.infoseek.co.jp/ )をご覧ください。開催情報もお気軽にお寄せください。

2008/09/30 00:15
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