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【写真展リアルタイムレポート】金森玲奈展「ちいさな宝物」

~猫を撮り続けて約10年
Reported by 市井康延


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 作者の金森さんは東京工芸大学写真学科に入学して以来、およそ10年間、ずっと猫だけを撮り続けている。その被写体になってきたのは街で出会う野良猫で、ほぼ一期一会の関係。が、そのうち一匹だけ、継続して追い続けてきた猫がいる。今回の写真展は、その彼女「さくら」との2002年8月から2007年9月14日までの記録だ。モノクローム(一部カラー)で捉えられたイメージは、見る人それぞれに余韻を響かせてくれるに違いない。猫好きでなくても楽しめるので、猫アレルギーでない人はぜひどうぞ。

 金森玲奈写真展「ちいさな宝物」はアップフィールドギャラリーで開催。会期は2008年9月5日(金)~23日(火・祝)。会期中無休。開館時間は12~19時。入場無料。ギャラリーの所在地はJR線・水道橋駅西口から徒歩3分、半蔵門線・九段下駅出口5から徒歩10分。


作者の金森玲奈さん。野良猫である「さくら」の写真で『富士フォトサロン新人賞2003』奨励賞を受賞。(ちなみに本城直季さんもこの年の奨励賞受賞者だった) ギャラリーはなかなかレトロなビルの一室。会場は3階ですがエレベーター完備なのでご安心を


会期中に一周忌を迎える

作品選びは感覚的なもの。「展示の配列はいつもギリギリまで決められないんですよね」と金森さんはいう
 金森さんが「さくら」に初めて会ったのは大学4年の時。その前年、雑誌『東京人』の記事で、東京駅前にある丸の内中央公園に猫とホームレスが暮らす場所があることを知った。しばらくして金森さんが訪れてみると、ちょうどそこに「さくら」がもらわれてきたところだった。推定で生後数カ月の彼女は、手のひらにすっぽり包めるほどの大きさしかなかったという。

 さくらの魅力と、東京駅前にエアポケットのように存在する『猫とホームレスが暮らす空間』に興味を持ち、金森さんは撮影に通うことにした。2005年にはさくらが病気で衰弱したことから、自宅に引き取り、昨年、亡くなるまで一緒に生活をしてきた。その間、さくらをモチーフにした写真で2回の個展を開いている。

「今回はさくらの一生というくくりで構成しました。会期中に一周忌を迎えるので、自分の気持ちを整理したかったこともあります」という。さくらが東京駅前で暮らしていた2002年から2004年までをB0サイズのパネルにまとめ、計7枚を展示し、その間に1点ものの写真を添えた。

 当初はパネル展示の1点ずつもバライタ紙で焼こうと考えていたが、トータルで300点を超す枚数を仕上げるのは時間的に難しく、インクジェット出力で行なった。データはフィルムからスキャニングし、パソコン上でデータを整えている。


東京駅のすぐ前に、こんな空間があったのだ。もちろん今はない

「猫は卒業しろ」と周囲はいうが……

 金森さんは大学選びの時に、初めて写真の道に進むことを考えたという。高校までに明確な目的が見つからず、美術に関心があったことから、「絵画は無理だけど、写真ならできるんじゃないかと思いました。入ってから、考えの甘さを思い知らされましたが」と笑う。

 猫はもともと好きだったが、カメラを持ってからは、特に野良猫の姿が目に入ってくるようになった。以来、猫一筋。「学校での自由課題の提出物、卒業制作、個展などすべて猫です。周囲からは『いい加減猫を卒業しろ』と言われ続けています」という信念の人なのだ。

 可愛さから撮り始めた猫だが、撮り続けているうちにそれだけではない野良猫の一面が気になり始めた。

「野良猫たちの目は家で飼っている猫と違うんですよね。いつもどこか怯えて、不安げな光がある。私が見た、感じた野良猫たちの姿や環境を、ほかの人にも伝えたくなりました」


撮っていくうちに、自分が一緒に写真に収まれないのが不満になり、こうして手を入れたり、影を写したりし始めた

猫と同じ目線で撮る

 学生の頃は、常にカメラを手に歩き、猫を見かけるとついていった。撮ることもあるし、遊ぶだけで終わりにすることもある。社会人になって、そう自由がきかなくなってからは、休日を使って池袋や新宿など、野良猫を探して都内の街を歩いている。

 金森流撮影法は、まず、猫に警戒されない距離でアイコンタクトをとり、少しずつ間合いを狭めていく。そして、大事なのは猫と同じ目線でいることだそうだ。

「歌舞伎町でもどこでも、猫を撮る時は這いつくばります。自動車の下に入り込むこともありますしね。最初は周囲の目が気になりましたが、何回か撮るうちに慣れました。友人はそんな私の姿を初めて見ると、かなりギョッとするらしいです」

 最初は50mmのレンズを使っていたが、今は20mmと28~70mmのズームを持ち歩いている。「できるだけ猫に近づきたいのと、背景を写し込んで撮りたい」からだ。ズームレンズは絶対追いつけない位置に走り去ったときなどに使い、ほとんどは20mmで撮っている。


モノクロの持つ非日常さがいい

 今はモノクロ中心だが、大学3年まではカラーで撮っていた。入学してすぐに、カラー写真を自分でプリントするカラー写真研究会に入部したことと、モノクロの暗室作業が苦手だったからだ。

「今は機械任せのカラーより、焼き込んだり、手作業の多いモノクロの方が好きです」

 表現自体も、モノクロの方が自分の写真にあっているという。

「写真は撮影者の記憶を紙に焼き付けるもの。頭の中にある記憶は、ちょっと不確かくらいなイメージであり、それを伝えるのはモノクロが持つ非日常さがあっていると思う」

「写真展を始めた頃は、自分が伝えたいことをキャプションで説明していましたが、それは自己満足に過ぎないと気づきました。私は事実を記録するだけで、あとは、それを見た人が自由に感じてもらえればいいと思っています」

 今回の展示では、後半、自宅で過ごし始めてからの写真が並び、最後の壁面には最期の日の1枚と、初めて出合った年の1枚が置かれた。

 当初、展示の締めは2007年9月14日の1枚にしようと考えていたそうだ。実際に飾り始めたら、1枚だけ写真が残ってしまい、展示できるスペースが、この最後の壁面しかなかったらしい。出会いの時と、別れの日の組み合わせは、実にステレオタイプな展開だと思いつつも、私はしばし見入ってしまった。さて、あなたはどうだろうか。


大学でカラー写真研究会に入ったが、その理由は部活紹介で見せられた写真がよかったから。ちなみにその時のプレゼンターは本城直季さんだったとか


URL
  金森玲奈
  http://blogs.yahoo.co.jp/rei7kanamori
  アップフィールドギャラリー
  http://www.upfield-gallery.jp/



市井康延
(いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。灯台下暗しを実感する今日この頃。なぜって、新宿のブランドショップBEAMS JAPANをご存知ですよね。この6階にギャラリーがあり、コンスタントに写真展を開いているのです。それもオープンは8年前。ということで情報のチェックは大切です。写真展めぐりの前には東京フォト散歩( http://photosanpo.hp.infoseek.co.jp/ )をご覧ください。開催情報もお気軽にお寄せください。

2008/09/09 00:13
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