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【写真展リアルタイムレポート】高橋明洋写真展「♭-broken(フラットブロークン)」

~デジタルは自分の作品表現を導くのに最適なツールだ
Reported by 市井 康延

高橋明洋さんは1960年生まれ。1999年から作家活動を始める。一時は運送業のアルバイトで糊口を凌いでいた苦労人でもある
 高橋明洋さんが多分割撮影を始めたのは、1m四方の大きさに出力できる画質を得たかったからだ。

 しかし、撮影した画像を組み合わせてできた写真は「何か違和感や、微かな不気味さを漂わせていた」という。見た目で判別できるわけではないが、それは数秒単位でズレた画像を重ねているからか、微妙に異なる消失点が混在する故か。

 今回の写真展は、デジタルカメラだからできる写真表現に1999年から取り組んできた作者が形にした、4つ目のトライアルだ。

 高橋明洋写真展「♭-broken(フラットブロークン)の会場は新宿ニコンサロン。会期は2008年1月22日(火)~28日(月)。会期中無休。開館時間は10~19時。最終日は16時まで。入場無料。


会場には展示できなかった作品も載せた手製のオリジナル作品集も設置。表現することに貪欲なのだ
被写体は変哲もない街の断片なのだが、作品の感触は1枚ずつ異なる

D80にシフトレンズを装着

 写真表現には、撮影者が伝えたいことを明確に理解して始める場合と、撮影者自身、何が表現されるのかわからずに撮り続ける場合がある。高橋さんは、確実に後者だ。

 これまでコンパクトデジカメなどで軽いデータ量の写真を多く撮ってきた反動で、プリントを考えた写真を撮りたい欲求に駆られたという。そこで思いついた撮影方法がシフトレンズを使った多分割撮影だった。「シフトレンズを回転させることで、13枚の画像が撮影できる。三脚を立ててカメラを固定したら、シャッターを押し、レンズを回し、シャッターを押すを繰り返します」。

 カメラはデジタル一眼レフのD80で、28mmのシフトレンズを付けている。撮影は日中、自宅から自転車で出発し、気になる風景があると撮影する。多くは人のいない風景だが、なかには家族連れで賑わう公園を撮ったものもある。「人など動く被写体がある場合は、撮影枚数を増やして、画像を重ねるときに同じ人が重なって入らないように選びます」。画像を合成していくなかで微妙につながらない部分は、Photoshopで直す。

 RAWで撮影し、TIFFに変換し画像処理を行なう。重なる部分を抜き出すと、ちょうどスクエアな画像となり、最終的には61×61cm、200dpi程度のデータになる。制作時間は1点1~2時間程度で、この個展までに約200点を制作した。

 会場にはエプソンの大判プリンタ「PX-9500」で出力した105×105cmの12点と、PX-7500で出力した61×61cmの76点が壁面と床に並ぶ。「会場での展示の仕方は、レイアウトソフトで並べ方を1点ずつ考えました。そこはまったくの感性。自分のなかで合うか合わないかです」。


展示作業にレイアウト図は欠かせない
展示作業は高さを合わせてから、左右のバランスなどを考えて進めていく。今回の作業時間は約2時間強

Webは最小単位の表現活動

会場では1面に105cm四方のプリントを置き、あと3面と床には61cm四方のプリントを展示した
 撮影し、それを発表していくことで、何かが見えてくる。そうすると、次のアプローチが見えてくる。そうして高橋さんはWebサイトと個展の両方で、表現活動を続けてきた。今回の表現がなぜ試みられたか。そこに至る過程をちょっと振り返ってみる。

 高橋さんはもともとグラフィックデザイナーで、コラージュ表現に興味を持ったことから、その素材作りのため写真を始めた。それがいつしか写真表現そのものに関心が移っていったのだ。

 最初の個展は2000年に新宿ニコンサロンで開いた「路上のもの」。「デジタルカメラで何ができるかを考えたとき、毎日、たくさん目にして撮影できるものがいいと思い、道に落ちているものを撮ることに決めた。気になったものを撮るんだけど、そう思ってみると、予想以上にいろいろなものが落ちているんだよね」。

 撮るだけでは自分のなかだけで完結してしまうので、日々、Webにアップする。これを「最小単位の表現活動」と高橋さんは呼ぶ。「反応はあまりなかったが、Webで発表することで自分の中の“表現する気持ち”が回り始めるのを感じた」。約2年間、日々、撮影と作品のアップロードを続け、最終的に個展を開くことでこのシリーズは区切りをつけた。

 「路上のもの」の途中から始めたのが、2002年に個展として発表する「RIVERBED」だ。ある日、近所を流れる鶴見川の流れが細くなり、普段は見えない川底が露出しているのを見かけた。そして、そこには路上以上にいろいろなモノが散乱しているのを発見した。

 「調べると月に2回ほど、干潮で水が引くことが分かった。これはスゴイと、撮り始め、月1回、Webで発表し始めました」。川底には人間の日常生活にあるものがほとんどあった。なかには入れ歯、動物の骨、下着、大人のおもちゃなど、普段は目にしないようなものまである。「これも2年ほど撮って、個展を開き、終わりにしました。ただこれは10年後、もう1度撮って、どんな変化があるのかを見比べてみたいと思っています」。

 次に取り組んだのが「On a Palm」、手のひらの上という意味だ。ここでは5つの被写体を決めて、撮影した。それは新聞の折込みチラシ、外に落ちているスーパー、コンビニのビニール袋、歩いている人々、ペットの犬、ガーデニングの植物。「多くの人がどこかで自分は独特な部分を持っていて、人と違う生活を送っていると思っている。けれど本当は孫悟空がお釈迦様の手のひらの上から出られなかったように、同じシステムのなかで動いているに過ぎない。それを検証しようとしたんです」。


今回のシリーズにも、路上に落ちていたモノの作品が含まれている。「路上にあるモノは今でも気になるんです」 路上にあったものは床に置いて展示している

撮ったものから自分が何を受け取るかが重要

 高橋さんは現在、大学や専門学校で、デジタル作品の制作とWebで発表する授業を行なっている。「教わるだけでは分からない。自分でやってみて、続けていくことでしか見えてきません」。

 Webで発表することは「最小の表現活動」として大事な方法だが、それだけで終わってしまっていては「自己満足にしか過ぎない。まずは続けていくことが必要ですよね。そのなかで何か自分に返ってくるものを見つけて、そこからまた形にしていければいい。やり始めても反応がないといって、途中でやめてしまう人が多いんだけどね」という。

 今回の「♭-broken」では、「これまでモノばかり撮ってきたから、今度はストレートにやってみよう」と思ったという。そう、これが高橋さんなりのストレートなのだ。

 「学校の講師はしていますが、普段は昼間、家にいて、写真を撮りに行ったりしている。日常と少し外れた生活を送っているわけです。そうした視点から日常生活を見ると、普通の人が見えない部分が見えるのではないか。それが最初にこの写真を自分で見たときに感じたズレや不気味さの正体かと思うのですが、僕自身、まだはっきりとはわかっていません」。

 高橋さんの話を聞くと、写真表現へのアプローチの自由さに気づかされるとともに、デジタルカメラがその有効なツールであることがわかる。あなたの目に、今回の作者の企みはどのように映るのだろうか。


一見、ワンショットで撮った写真のようだが、違う時間にいる人々が1枚のなかに存在している こうした不思議さをかもし出す作品もある


URL
  新宿ニコンサロン
  http://www.nikon-image.com/jpn/activity/salon/index.htm
  高橋明洋(boz003.org)
  http://www.boz003.org/



市井 康延
(いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。灯台下暗しを実感する今日この頃。なぜって、新宿のブランドショップBEAMS JAPANをご存知ですよね。この6階にギャラリーがあり、コンスタントに写真展を開いているのです。それもオープンは8年前。ということで情報のチェックは大切です。写真展めぐりの前には東京フォト散歩( http://photosanpo.hp.infoseek.co.jp/ )をご覧ください。開催情報もお気軽にお寄せください。

2008/01/23 00:07
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