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【写真展リアルタイムレポート】山岸伸「瞬間の顔」

~写真家・山岸伸の原点がここにある!
Reported by 市井 康延

作品が飾られた会場に入り、山岸さんの足取りが軽くなり、テンションが少し上がったのを感じた
 山岸伸さんが60人の男たちを撮った。「えっ!? 女の子じゃないの?」と違和感を持つ人が大半かもしれない。だが、柔道家の吉田秀彦選手は長く撮っているし、阪神タイガースの桧山進次郎選手でも写真展を開いている。かように男性も撮っているのだが、やはり山岸さんの場合、グラビアアイドルを撮った写真の印象が強すぎるのだろう。

 それでも会場に1歩入ると、これまで見たポートレート写真展と違う雰囲気があることに気づく。それが写真家山岸さんの味であり、そこに写真の面白さがあるのだ。

 そんな「山岸伸写真展 瞬間の顔」の会期は、3月15日(木)から28日(水)まで。会場は東京 神田のオリンパスギャラリー。日曜、祝日休館。開場時間は10~18時(最終日は15時まで)。入場無料。


写真家の交友範囲は驚くほど広い

 写真は名前の50音順で並べられた。DJの赤坂恭彦さんから、俳優の渡辺大さんまで、さまざまな業界で活躍する人々が集まっている。それは山岸さんの友人だったり、興味がある人だったり、いろいろ。

 著名人を撮ったポートレート展というと、7~8割方、誰もが知っている有名人で占められていることが多い。もちろんそれが悪いというわけではないのだが。

 この写真展では、ミュージシャンの坂崎幸之助さんやカールスモーキー石井さん、俳優の津川雅彦さん、政治家の中川昭一さん、武部勤さんといった誰もが知る著名人の中に、秋葉原駅クリニックの大和田潔院長や、初代統合幕僚長の先崎一さん、横浜中華街・萬珍楼の林兼正社長という人が並ぶ。

 そんな年齢、職業、出身地、出自さまざまな人々が、みんな仲良くいい味を出している。最近、ニュース番組では厳しい顔でお目にかかることが多い鳩山由紀夫さんも、実に穏やかな顔つきをしているし、サンズエンタテインメントの野田義治社長は不思議な飄軽さを振りまいている。

 そのほか枚挙に暇がないが、それぞれコクがあって、会場がおいしいブイヤベース状態になっているのだ。その調理人、山岸さんにレシピをうかがってみた。


写真家としてのスタートは西田敏行さんから

 山岸さんの写真家としてのスタートは、俳優の西田敏行さんを撮り始めたことだった。そこで同じ劇団にいた安田成美さんに出会ったことが、女性ポートレートの世界で活動するきっかけだったのだ。

 「僕は人間が好きなので、被写体は最初っから人。根っからおしゃべりが好きだし、女性が好きだから。だけど男が人を撮っていったら、誰でも女性のほうが多くなっていると思うよ。それが自然だよね」と話す。

 その結果が350冊を超える写真集になり、現在はインターネットサイトとブログなどにも活動の場が広がっている。山岸さんは現在、最も忙しい写真家の1人であることは間違いない。

 その山岸さんが昨年から、無理やり時間を作って、プライベートで撮り始めたのがこのシリーズだ。依頼されたわけではなく、まったく発表のあてもなく、自分のために撮りだした。

 「きっかけは言葉にしにくいんだけど。好きな人たちを、仕事の写真じゃなく撮っておきたい、自分の写真として残しておきたいって思いからかな」。

 そして山岸さんは最近、ある人に言われて、心に残っているという言葉を話してくれた。

 「その人はある時、“写真がうまくなったんじゃないんだよ。歳をとってきたんだ”って言ったんだ。仕事でこれだけたくさん撮っているんだから、どんどん写真はうまくなっているよ。ただそれとは別に、年齢を重ねたことでの何かが加わっている。彼はそれを言いたかったんだと思うんだ」。

 かっこいい言葉で表現すれば、それは円熟ということなんだろう。


会場ではいろいろな発見があるはず。そのひとつが組み合わせの面白さで、そのひとつが自民党政調会長の中川昭一さんと、横浜市長の中田宏さん。それを見た山岸さんも「偶然ながらこの組み合わせはすごいね」と大喜びだ 写真家の橋口譲二さんは昨年7月、山岸さんの事務所に来てくれたときに撮ったヒトコマだ

自分が出ない、素直な写真が撮りたかった

 山岸さんが撮影で重視しているポイントのひとつが「光」。写真家なら当然のことではあるのだが、1枚の写真は自然光やライティングを調整して、作品を作り上げていく。だからいつもは多くの機材を使っていた。

 「今回はオリンパスのE-500と、キヤノン EOS-1Ds Mark II。ストロボもカメラに付いている奴、なんって言ったっけね。あれを使って撮ったよ。撮りたいのは出会った一瞬の表情だからね」。

 撮られるほうもいつもの山岸さんの撮影スタイルを知っているから、カメラ1台を手にして現れた姿を見て、驚く人が多かったという。

 「横浜市長の中田さんは、『あれ、もう終わり? スケジュールを空けちゃったから、折角だからお茶でも飲もうよ』って、話ができたりして、楽しく撮影させてもらえました」。

 漫画家の弘兼憲史さんのときは、弘兼さんのオフィスがあるビルの中で撮ったのだが、撮影していると警備員が来て、「撮影は禁止です」と注意されたという。最近のビルは撮影にはやたらにうるさいのだ。

 「それでもそこでの弘兼さんの雰囲気がよかったから、守衛さんが離れた後も隠れて撮っていたら、監視カメラでバレてるんだ。また、すぐにきて“撮影は駄目って言ったでしょう”って怒られた」と笑う。違う場所で撮り直したそうだが、やはりそこでのカットが一番良かったようだ。

 ほぼ全員、撮影は、その人の仕事場や、その近辺で行なった。相手のスケジュールに合わせて、そこに出向き、撮影は短く、その場の雰囲気を一番大事にして撮った。

 「今回はできるだけ自分を出したくなかったんだよね。撮られる人にも素直に撮られてもらった。もうそれだけでいいんだ。そうやってみてわかったのは、自分がこういう撮影がすごく好きだってことだね」。

 最初は自分のために撮っていた写真だったが、今回の写真展の開催が決まってしまうと、悠長にはしていられなくなった。昨年11月と12月に集中して、およそ7割の人を撮ったという。

 「最初はもっとたくさんの人を撮ろうと思っていたんだけど、会場が決まってしまうと、それにあわせなければならないから。ここだと最高で60人が限界。その人数に合わせて、人を絞り込んでいったんだ」。

 その期間はレギュラー以外の仕事は断り、この撮影だけに集中した。山岸さんの場合、個人の写真家であると同時に、スタッフを抱える山岸伸写真事務所という会社の社長であるわけだから、その判断はかなりのリスクを背負うのは想像に難くない。

 さらに2カ月の間に、これだけ忙しい人たちのスケジュールを調整して撮ること自体、すごいことですよねと問いかけると、「段取りは全部、うちのスタッフがやってくれたから、僕はまったく大変な思いはしていないんだ」という。

 マネージャーの蓮見美和さんに伺うと、撮らせてもらう人には2カ月先のスケジュールまで教えてもらって、段取りを組んでいったという。さらに1日で効率よく何カ所かを回れるように、移動時間が短くなるような組み合わせも考えた。元横綱・大乃国さんを撮りに芝田山部屋に出かけたのは朝稽古中の早朝。「親方は“気合が入リ過ぎだよ”って笑っていたけど、そういう理由もあったんだよね」。


劇団朱雀の早乙女太一さんや、松山バレエ団の清水哲太郎総代表など、魅力的な人物が集まっている 柔道家の吉田秀彦さんもいつも以上にリラックスムード。その両脇にはドンキホーテの安田隆夫会長と、NHKエンタープライズの吉村芳之・ドラマ番組ディレクターがいる

写真家はかっこいい職業なんだ

 写真界の第一線を長く走り続けながら、写真を始めたころの「写真が好きだ」という気持はなくしていない。山岸さんが写真を始めたころ、憧れた写真家の1人が立木義浩さんだった。

 「今だって写真家は時代の先端を行く職業だと思うけど、今の若い人たちは僕らのころのような憧れを写真家に持っていないでしょう? ここにいる60人のような、こんなに素敵な人たちに会えるし、クリエイティブですごく良い仕事なんだけど、僕たちはそれを伝え切れていないよね」。

 今回の写真展は、これまで写真とあまり接点のなかった人たちにも足を運んでほしいという、山岸さんの強い願いも込められている。1つはここに登場してくれた60人の、それぞれのファンの人たちだ。

 写真展の開催期間中は、必ず1日に1回は会場に詰める予定だという。初日も、都内のスタジオで撮影の仕事があったが、「16時には終了させて、17時には会場に駆けつけようと思っています」と気合十分だ。

 「写真展は写真家のスタート地点だと思う。自分の撮った写真に対する反応が目の前でわかるのだから。ものすごい緊張感だよ。良いと言わせたいから。撮らせてくれた人にも、それを見てくれる人にもね」。

 写真集「瞬間の顔」(1,260円、大洋図書刊)も3月15日に発売。写真集は1人1人に会う感じだが、写真展は60人が勢揃いした場所に同席する、ここでなければ味わえない空間といえるだろう。もし仮にパーティで同じメンバーが同席したとしても、見知らぬあなたや私にこんな表情は見せてくれるはずもない。それは、ここだけに実現する贅沢な空間なのだ。



URL
  山岸伸事務所
  http://www.yamagishi-shin.com/
  オリンパスフォトギャラリー
  http://www.olympus.co.jp/jp/gallery/
  山岸伸写真展「瞬間の顔」
  http://olympus-imaging.jp/plaza/gallery/2007/gallery070315.html



市井 康延
(いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。灯台下暗しを実感する今日この頃。なぜって、新宿のブランドショップBEAMS JAPANをご存知ですよね。この6階にギャラリーがあり、コンスタントに写真展を開いているのです。それもオープンは8年前。ということで情報のチェックは大切です。写真展めぐりの前には東京フォト散歩( http://photosanpo.hp.infoseek.co.jp/ )をご覧ください。開催情報もお気軽にお寄せください。

2007/03/15 18:29
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