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【写真展リアルタイムレポート】
横木安良夫写真展「Teach Your Children」

~30年以上前のフィルムをデジタルプリント
Reported by 市井 康延

 2006年のスタートを飾るのは、東京・目黒のアート・フォト・サイトギャラリーで1月10日(火)から開催されている横木安良夫写真展 『Teach Your Children』-Photographs 1967~1975 -(世代から世代へ)だ。会期は2月25日(土)まで。13時~19時。日、月曜休廊、入場無料。2006年3月1日~16日まで、京都の京都ギャラリーでも同展を行なう。


約300点の大小さまざまなプリントがぎっしりと展示される

昔の写真をデジタルプリント

横木安良夫氏
 横木氏は広告、ファッション、エディトリアルなど、幅広い分野で活躍する写真家だ。一昨年には、ノンフィクション「ロバート・キャパ最期の日」を上梓し話題を呼んでいる。ちなみに同書はこれまで明らかでなかったキャパの終焉の地を探す物語を軸に、偉大な写真家の実像の再現を試みた労作となっている。

 この写真展は、最初、横木氏がこれまで撮影してきた作品の集大成のような内容で考えていたそうだが、そのセレクトのために若い頃に撮ったモノクローム写真を取り出してみると、それがおもしろかった。

 「今の自分より写真が上手いような気がする(笑)。気持ちとしては違う写真家の作品を僕がプロデュースしたようだね」と横木氏は話す。作品はすべて銀塩プリント、ネガをスキャニングして、エプソン PX-5500とPX-7500によるデジタルプリントで出力している。カラー作品ではデジタルカメラを使っているが、モノクロは初めて。プリンタと紙が良くなり、想像以上のクオリティがでることがわかったからだ。

 「35mmフィルムからだと、ただスキャニングしただけではダメだ」という。写真としての雰囲気、銀塩プリントでいう粒状感のようなものが出てこないのだ。古いネガなので、かなりゴミやカビがついていて、それを丹念に補正したあと、意図的にノイズを入れてやる。「そうすると銀塩の真似ではない、デジタルならではの写真の雰囲気が出てくる」。

 会場には約300点ほどの作品が、多様なサイズで並べられ、紙質もベルベットファインや半光沢など、何種類かを使っている。かといって雑然とした感じはなく、トータルでモノクローム写真の迫力を感じさせてくれる。

 1点だけ銀塩プリントの作品があり、同じイメージがデジタルプリントで大きく引き伸ばされてもいる。そのふたつの作品の存在に、まったく違和感はない。「紙を選べるのがデジタルプリントの良さ。半光沢紙は銀塩ペーパーのバライタを思わせるところがある。プリンタと紙はさらに良いものが出てくるだろうし、これからが楽しみだね」。


使用機材のリスト。スキャナはフラットベッドとフィルムスキャナを併用。プリンタはインクジェット
写真展に先立って、インクジェットでモノクロの写真集を作成した

 撮影したのは日本大学芸術学部写真学科に入学した年から、篠山紀信氏のアシスタントを経て、フリーになった年までの約8年間に撮られたものだ。プロになる前の作品であり、もちろん未発表だ。都内や地元の市川、湘南、福生などの街を歩き回り、スナップした。

 「ほかの表現者と違い、写真家は被写体を凝視しない。何かいいなという感じがあったら、撮る。そして写真、プリントになってから、そこで初めてじっくりと凝視するんだ」。

 写真は言葉にできない「ある感じ」が伝えられるメディアであり、そこがおもしろいと横木氏はいう。その「ある感じ」ごと1枚の写真に封じ込めるために、写真家は感じた瞬間を切りとり、撮った写真によって検証するのだ。だから撮影においては、つねに偶然がつきまとう。いや、横木氏に言わせると「写真は偶然を呼び込める唯一のメディアだ」となる。

 「見たものを見たまま撮りたいなんて思ったことはない。その場では見えないものを撮りたいんだ。モノクロも、現実はカラーなんだから、眼で見えない世界。だからよりおもしろく感じるんじゃないかな」。


GR Digitalを愛用

横木氏のGR DIGITAL
 横木氏の撮影は、そうした方法論だから当然、撮影枚数は多くなる。その意味でも、デジタルカメラは横木氏にあった撮影ツールなのだ。いま、プライベートで愛用しているのはリコーのGR DIGITAL。最初は興味のなかったカメラだったが、昔の写真を見返すと、パンフォーカスで撮られたものが多く、そのおもしろさを再発見した。そこからこのカメラの出番となったわけだ。

 「カメラによって写り方は違う。描ける世界は変わるんだ。若い頃の写真を見返したことで、気持ちがモノクロモードになっているから、GR DIGITALではもっぱらモノクロ写真を撮っているよ」。

 だから写真家は撮影の用途や目的に応じてカメラを変える。またカメラを変えることで、違う世界が写るのを楽しんでもいる。「デジタルカメラが出てきたことで、写真を始めたころの新鮮な感性に戻れた。それもすごくよかったね」。

 横木氏はもともと写真にそう強い思い入れはなかったという。父親が新聞記者だったことで、報道写真は身近に感じていたが、写真を学んだのは大学に入学してからだ。それからフリーになるまでの間は、自分の写真を撮ることに夢中だった。

 「広告の現場に入ると、その当時はファッション写真が最先端のアートであり、仕事のほうがやはりおもしろくなっていったんだ」。そして30年後、かつての自分の思いが詰まった作品に出会った。これもある種の偶然の産物だろう。そこには昔の日本の断片が切りとられているのだが、時代の「ある感じ」が伝わってくる。ただ、その感じはきっとその当時にはなかなか感じ取れない種類のものかもしれない……と思わせる感じなのだ。

 まあ、言葉で納得しようとせず、会場で写真と向かい合ってみて下さい。


会場:アート・フォト・サイトギャラリー
   東京都目黒区下目黒6-20-29 Blitz-House/Tel.03-3714-0552
会期:2006年1月10日(火)~2月25日(土) (日曜日と月曜日は休廊)
開場時間:13時~19時(最終日は17時まで)
入場料:無料



URL
  アート・フォト・サイトギャラリー
  http://artphoto-site.com/gallery.html
  ニュースリリース
  http://artphoto-site.com/gallery_exh_061.html
  横木安良夫ホームページ
  http://www.alao.co.jp/

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市井 康延
(いちい やすのぶ)1963年、東京都生まれ。あの北島商店の肉を食べて育つが、水泳は大の苦手だった。写真とは無関係の生活を送り、1995年から約9年間、フォトギャラリーのスケジュール情報誌の制作に携わる。「写真に貴賎はない」が持論。

2006/01/12 12:38
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