購入してからずっと気になっていた機能がある。セットアップメニュー内にある「AF微調節」だ。ちょっといじってみたいと思うのだが、D300のピント精度には概ね満足しているし、それでAFが狂ってしまたらと思うと躊躇してしまう。とはいえ、やっぱり気になって仕方がない。
そこでリアルタイムレポートへの紹介も兼ねてニコン開発担当者に話を訊く機会を得た。機能の詳細と調節の仕方をメインにインタビュー記事として紹介したい。お話を伺ったのはニコン映像カンパニー開発本部の原田壮基さん。最新のAF-S NIKKOR 24-70mmF2.8G EDの開発設計担当者でもある。
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セットアップメニューにある「AF微調節」
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ニコン映像カンパニー開発本部の原田壮基さん
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──まずは「AF微調節」機能をD300に搭載された経緯をおきかせください。
この機能を搭載した理由としましては、お客さまのニーズにお応えする形で搭載いたしました。しかしながら、レンズによってAF精度のバラツキがあるわけではありません。ニコンとしましては、AF機能もレンズも当然そのような機能は必要ないということで設計、製造を行なっています。
──メニューではセットアップに入っていますね。
あまりこだわりなくセットアップメニューに搭載することにしました。しつこいようですが、基本的にはなくてもよい機能と考えております。
──調整の方法を教えてください。
まずはこの「AF微調節」機能を理解していただきたいと思います。至近距離で新聞紙や定規を撮影して調整される方がいらっしゃいますが、そのような調整方法は誤差が大きくかえってピントが外れることが多いためおすすめしません。
取扱い説明書には、AF微調節の画面に表示されるスケールの目盛が何に対応するのか書かれていませんが、このスケールは被写体側で何cmのズレ、といった量ではなく、像面側のズレに対応します。AF微調節は被写体側のピントのズレ量を調整するものではなく、像面側のズレ量を調整するものです。例えば、像面側で0.1mmのズレは、被写体側のズレに換算すると撮影距離やレンズの焦点距離に応じて大きく変ります。
近距離でのAF微調節が適さない理由は、近距離の撮影は多くの誤差要因を持っていて、近距離で設定したAF微調節のほんの少しの誤差が、距離が離れることで大きな誤差になってしまうからなのです。
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AF微調節をするには、人の全身が画面いっぱいに入るくらいの距離をとる。被写体とカメラは平行になるように
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──ではどのくらい距離をとればよいのでしょうか? またどのような被写体が向いているのでしょうか?
カメラをタテ位置にし、人の全身が画面いっぱいに入るくらいがいいでしょう。どの焦点距離でもそのくらいの距離をとっていただければよいかと思います。
至近距離からの撮影では、正確な調整はできません。また、白黒がはっきりしているようなもので、模様などがあまり細かくないものをAF微調節用のターゲットとするようにしてください。その際、AFエリアモードはダイナミックAFモードではなく、シングルポイントAFモードに切り替えてください。
さらに重要な点として、ターゲットはカメラに対して平行で、十分大きなものを使用してください。定規を斜めにしてその目盛りを撮影されている方もいらっしゃるようですが、AFフレーム内に複数の距離が存在することになり、狙った箇所に合わない可能性が高くなります。使用するフォーカスエリアは一番よく使われるものか、真ん中がよいでしょう。室内などの暗い場所で行なうのではなく、昼間の屋外など、明るい場所で行なうのが適しています。
ピント合わせでは、何度かピントを合わせなおして、数回撮影して傾向を確認することで、AF微調節の狙い値の精度が向上します。その際、1枚撮影するごとに一旦ピントを大きく外し、改めてAFで合焦させるようにします。ちなみにスケールをプラスに設定すると後ピンになり、マイナスに設定すると前ピンになります。
AF微調節で注意することといえは「ターゲットとの撮影距離を十分とる」、「撮影するターゲットは大きく適切なものを選ぶ」、「ターゲットは平面をカメラに平行に」「適切な環境で行なう」となります。
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プラスにすると後ピンに、マイナスにすると前ピンになる
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12本のレンズの設定値を保存しておける
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──ズレはかなり出るものなのでしょうか?
結局、デフォルトがよいことがご確認いただけると思います。あとは個人の好みとなります。例えば、ポートレート撮影で瞳に合わせるか、若干前ピン化してまつ毛に合わせるか、といった違いなどです。
また、ピントが合っていることを判断するには、コントラストを重視するか解像力を重視するかでも異なってきます。専門的には「周波数の違い」という言葉を使いますが、細かなものと大きく粗いものとでは、ベストなピント位置がほんの少しではありますがズレることがあります。被写体をクッキリとさせたいか、細かなものを緻密に撮りたいかは好みが分かれると思います。両方同じピント位置であればよいのですが、至近距離ではそうでないレンズもあります。
ですから、至近距離での新聞の文字や定規の目盛りなどを撮影すると、それらが像面上でどのぐらいの細かさなのかによって、ピント位置が変ってきます。ところが遠距離ではそのような細かい被写体と粗い被写体でのピント位置がほぼ変らないため、近距離の「ある細かさ」の被写体でのピント位置でAF微調節を行うなと遠距離でかえってずれてしまうのです。
──デフォルトのピントはどういうふうに決められているのですか?
弊社の長い経験から導かれたピント位置の定義を基本としていますが、最終的には多くの実写などを元にして、設計者と品質保証の担当者で決めています。通常の使用状況であれば、コントラスト重視の場合も、解像力重視での場合もほぼ同じピント位置になるように設計/製造されています。特にAF微調節を行なわなくてもご満足いただける製品となっています。
■ AF微調節の実例
この例ではピクチャーコントロールがビビッドに、アクティブD-ライティングがONになっているが、より正確に微調節の効果を見極めるなら、ピクチャーコントロールをニュートラルに、アクティブD-ライティングをOFFにしておく。
※すべて4,288×2,848ピクセル/絞り優先AE/F2.8/+0.7EV/WB:プリセット/AF-S DX 17-55mm F2.8 G ED/実焦点距離55mmで撮影しています。
※画像下の数値はAF微調節の値です。
※サムネールをクリックすると、等倍の画像を開きます。
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■ URL
ニコンD300関連記事リンク集
http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2007/08/24/6897.html
大浦タケシ (おおうら・たけし)1965年宮崎県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、二輪雑誌編集部、デザイン企画会社を経てフリーに。コマーシャル撮影の現場でデジタルカメラに接した経験を活かし主に写真雑誌等の記事を執筆する。プライベートでは写真を見ることも好きでギャラリー巡りは大切な日課となっている。カメラグランプリ選考委員。 |
2008/05/14 11:53
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