特別企画

XQDメモリーカードの実力に迫る!

未来を見据えたインターフェースを採用
ポテンシャルはハイエンド機のみではない

>>>「動物写真家 野口純一によるXQDメモリーカード実使用レポート」はこちら

高速書き込み・読み出しに、堅牢性も兼ね備えたソニーのメモリーカード「XQD」。この記事の掲載時点では、対応している機種はまだ少なく、正直いってあまり一般的とは言いがたい。はたしてこのメモリーカードの実力と将来性は? そこでXQDメモリーカードの開発者インタビューを急遽決行することになった。向かった先はXQDの規格策定に携わり、XQDカードの商品化もおこなっているソニーの、御殿山テクノロジーセンター。インタビューにはストレージメディア事業部 メモリーメディア商品部 プロメモリー企画課 統括課長である木村仁氏と同部 設計2課 統括課長である中島大輔氏のお二方が応じてくれた。

XQDメモリーカードのフラッグシップモデル、Gシリーズ
商品企画の木村氏
設計の中島氏

XQDを開発する理由となったのは近年のデジタルカメラのイメージセンサーの高画素化に伴いRAWファイルなどのように大容量化し、メディアへの高速書き込みが必要になってきたからです。もちろん、新しいメディアを開発するわけですから、現状をカバーするだけではなく、先々までずっと使えるメディアを目指しています。そのためにXQDのコンセプトとしては、拡張性、高速性、高信頼性という点にしました。このために着目したのがインターフェースです。コンパクトフラッシュ(CF)カードなどが採用しているPATAやSATAなどのインターフェースは速度面での限界が見え始めてきていたため、XQDのインターフェースの選択肢からはずしました。そこで高速で将来性のあるPCI Expressインターフェースを採用、いかにXQD小型のフォームファクターで高速化を実現するかがコントローラー開発のKeyでした。

PCI Expressは、Gen3に拡張され、さらに高速なGen4も策定が進んでいます。それに加えて、PCI Expressは、下位互換性があり、XQDはフォームファクタを変更することなく、今後のバージョン拡張に対応できる仕様となっているため、従来の技術を継承しつつ、新技術を投入するのが容易であり、対応機器メーカーにとっても、コストや開発期間の縮小が見込めます。

こうしてPCI Express Gen1に対応したXQD Version.1.0が定まり、初のXQDメディアであるHシリーズ(読み出し速度・書き込み速度125MB/s)が2012年に登場、次いで2013年にリード・ライトを180MB/sに向上したSシリーズとリード125MB/sのNシリーズが発売されることとなる(HおよびSシリーズは生産完了)。そして、前記の言葉通り、2014年初頭にはPCI Express Gen2に対応したXQD Version.2.0へとバージョンアップを果たし、同年10月にはこれに対応したGシリーズが登場した。速度は書き込みが350MB/s、読み出しが 400MB/sで、言うまでもなくデジタル一眼カメラに搭載されているメディアとしては今のところ最速となる。この規格をD4でいち早く採用したNikonは先見の明がある。

PCI Expressは既にGen3が定まっており、Gen4も策定が進められている。これまでのXQDの流れから考えるに、恐らくは既に対応するための動きは始まっているのではないだろうか。

XQDは拡張性の高いPCIeを採用しており全て下位互換を保てる

こうして、メモリーカードとしてはべらぼうな転送速度を実現したXQDだが、速度の向上に伴って不安が残るのは、よくささやかれている高速化に伴う消費電力の上昇だ。膨大なバッテリ容量を備えたハイエンド機ならばともかく、メインストリームの中級機やエントリー機への搭載が厳しいとなると将来的に困るようにも思えるのだが……。

確かにフラッシュメモリーの速度を上げるということは、多数のフラッシュメモリを一気に活性化させることなので、どうしても書き込み中の消費電力は上がってしまいます。ただ、書き込みが終わるとすぐにスタンバイモードに入る機能を用意することで、消費電力を下げることが可能です。よくPCI Express=消費電力が大きいと言われるのですが、そこはご安心ください。消費電力は大きいですが、それも倍や3倍に増えるわけではありませんし、書き込み速度はGシリーズだと環境によってはCFカードなどの従来メディアの倍以上まで伸びます。このグラフを見て頂くとわかりやすいと思いますが、書き込み時間が大幅に短くなるため、消費電力“量”(Wh=ワット時)はむしろ従来のメディアよりも少なく抑えることができます。

消費電力“量”の比較。消費電力はXQD Gシリーズの方が大きいが、書き込み時間が短いため、トータルの消費電力“量”(面積)はXQD Gシリーズの方が小さい

消費電力は従来よりも抑えられる上に、書き込み速度も向上するのであれば、むしろハイエンド機よりもバッテリー容量やバッファ容量の少ない中級機やエントリー機でこそ重宝がられるように思える。また、ハイエンド機でもXQDの速度を当初より想定してバッファの性能を向上すればさらにパフォーマンスが引き出せることになる。しかも、帯域にはまだまだ余裕があるとのことなので、少ない搭載バッファ量で連写性を向上するなど開発の幅は広がりそうだ。

ホストデバイスからカードへの書き込みについての不安は解消されたが、PCへの転送についてはどうだろうか?

これは当然PC側に依存することになりますね。転送先がSSDならばパフォーマンスが引き出せますが、HDDの場合にはHDDの書き込み速度がボトルネックになり、思ったほどパフォーマンスが引き出せないということになってしまいますね。

パソコンへの転送時間比較。64GB一枚分のデータをMacBook Airに転送する時間
※Windows側の制限により、Windowsマシンでの転送速度はMacよりも遅くなります

SSDもかなり安価にはなってきたが、まだビットコストはHDDにかなわない。このため、大容量データの外付けストレージとしてはHDDを使用している人が大半だろう。ただ、SSDの低価格化はかなりの速度で進んでおり、ノートPCではSSD内蔵のものが増えてきているのも事実であり、XQD~PCのパフォーマンスを堪能できる環境が整ってきている。

さて、3つの基軸の最後である高信頼性についてもお話をうかがってみたい。これはメディア自体の堅牢性、耐久性と言い換えてもよいだろう。速度などに比べて派手な売りには繋がりにくいものの、写真家などのプロ層からは従来メディアの耐久性に対する不満は一度ならず耳にした。例えばSDメモリーカードなどは軽くて薄くて内蔵するにはうってつけである反面、壊れやすく紛失もしやすい。筆者はこの方面ではオーソリティであり、何枚のSDメモリーカードを損壊、紛失したか知れない。掃除の際に発掘して、嬉しいような虚しいような甘酸っぱいような気分を抱くのも嫌いではないが、失くしにくいに越したことはない。こうした声に対してXQDはどのような回答を示したのだろうか。

XQDの先見性について熱く語ってくれた

XQDは、お客様が持ちやすいサイズで堅牢性と高速性の両立を考えてこのサイズに決定しました。XQDは耐久性の観点から端子の配置や外装の強固さなどに注目して設計をおこなっています。まずは端子ですが、デジタル一眼カメラで多く採用されているCFカードでは、ホスト機器側の端子がピン形状だったため、差し込み時に曲がる、折れるということがよく言われてきました。またSDについては端子が剥き出しとなっているため、仕事ではできれば使いたくないという声もきいておりました。このため、XQDの端子が外装で隠れるような設計にしています。

あとは外装の強化、内部の保護という点についてですが、メディアの厚さを3.8㎜にした理由の1つはこの堅牢性を確保するためですね。どうしても強度が落ちてしまう肉の薄い部分にも、しっかりと板金で補強を入れているので、ちょっとやそっとでは壊れません。弊社でおこなった耐外力試験では150N(ニュートン)以上の結果が得られました。また、外装材料には、耐久性の高い材料を選定しており、プロの方でも安心して使用していただけるように注力しています。ちなみにこの厚さに決定したもう1つの理由は将来性を考えて複数のNANDフラッシュのパッケージを配置できるサイズを意図したためですね。あと、これは耐久性ではなく信頼性に関してですが、当然ながらコントローラーにはウェアレベリング、エラー訂正コード、データリフレッシュといった機能は搭載しています。

端子が外装で隠れる設計
外装材料の耐衝撃性比較(コンシューマー用一般グレード材料とXQD使用材料の分子量比較)

このように実に心躍る性能を備えたXQDだが、XQDに対応しているイメージングデバイスはと言うと、ニコンのスチルカメラD4、D4S(Gシリーズのパフォーマンスを出せるのはD4S)、ソニーの4Kビデオカメラくらいとなっている。ただ、先にも書いたがXQDのポテンシャルはハイエンド機だけのものとするのはもったいない。エントリー機、中級機にこそ望みたいところだ。例えばミラーレスカメラに搭載されれば、持ち前の機動性と連射性能に拍車がかかって非常に面白いカメラに仕上がるのでは?などと妄想してしまう。

普及ということでは、まだまだこれからのXQDだが、多くのユーザーが、CFやSDメモリーカードに満足しているわけではない。SDメモリーカードはメディアとデータの堅牢性ということではとても心配だし、CFはCFastも含めてSATAの速度面での限界がきている。なので未来を見据えたメモリーカードは、インターフェースにPCI Expressを採用しているXQDだと、筆者は考えている。XQDが多くの機種で使えるようになれば、写真や動画の世界はもっとおもしろくなるに違いない。

製品パッケージにはカードリーダーと延長ケーブルが付属している

動物写真家 野口純一によるXQDメモリーカード実使用レポート
※デジタルカメラマガジン 2015年3月号もご覧ください

飛来して来た丹頂が着地する瞬間を連写で狙った。高速連写が複雑な羽の動きを余すところなく記録する。XQDメモリーカードの超高速性能が支える連写能力によって、最高の1枚を選べる余裕が生まれた

2012年春、ニコンの新たなフラッグシップカメラ「D4」が登場したときに、カメラの仕様表を見て記録媒体項目に見慣れない名称「XQDメモリーカード」を見つけたのが、このカードとのつきあいの始まりです。私は野鳥や動物を撮影するときに連写をするのですが、常々CFカードの書き込みスピードには物足りなさを感じていました。

XQDメモリーカードは転送速度がCFカードより速く、さらに連写の連続撮影枚数まで増えると知って迷うことなく導入を考えました。というのも、D4はD3Sより画素数が増えて、連写速度がさらに高速化していましたから、記録メディアにより高速性が求められると思ったのです。D4を手に入れてXQDメモリーカードを使ってみたら、すぐにこのカードの優位性が実感できました。

当時最速のCFカードを使っていたのですが、データの書き込み時間の短さが撮影中にはっ きりと分かったからです。上空に舞う海鷲たちを繰り返し連写しても、書き込み中のランプが点灯するのを見たことがないほど。「いつでも必要なときに、必要なだけシャッター が切れる。決定的な瞬間を撮り逃すことがない」。実際に使用してみて分かった、絶対的 な安心感です。

それに書き込みスピードが速いということは消費電力も少ないということにも気がつきました。「より長時間撮影することができる」。XQDメモリーカードへの安心感が撮影の集中力をより高めてくれて、より良い作品が撮れるようになりました。

パソコンへの転送時間が速くなったことも非常に助かります。現場では常にパソコンの電池容量が気になりますから。新しいGシリーズもすぐに手に入れて使っていますが、従来より大幅にスピードアップをしているのが体感できます。しかもGシリーズは新しい規格に対応したメディアです。XQDメモリーカードはGシリーズのように、新しい規格に対応していき、スピードや容量ともに発展性が期待できるのも良い点だと思っています。

D4、D4Sユーザーでしたら一度は使ってほしいメディアですね。このスピードは高画素のカメラならさらに実力を発揮できる気がします。カメラの性能をさらに高めてくれる、非常に楽しみなカードだと思います。

野口純一(のぐちじゅんいち)

1968年埼玉県生まれ。2輪・4輪エンジニアの経験後2000年北海道に移住、2002年より野生生物の撮影に取り組む。北海道を中心に撮影をしてきたが、近年国外の面白さにも目覚め始めたところ。公益社団法人 日本写真家協会会員。

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