【緊急連載】新メモリーカードCFexpressを徹底理解する

第3回:最新カメラがCFexpressを必要としているワケ

EOS-1D X Mark IIIをベースに比較検証

今回は、カメラから見たCFexpressについて深く掘り下げてみたい。具体的なカメラスペックを取り上げ、最新のカメラがCFexpressカードを必要とする理由を、具体的な数値情報にもとづいて計算・整理し、メモリーカードの高速な読み書きが静止画や動画にもたらす進化のあり方を見ていくことにする。

なお、本記事中で取り扱っているカメラは、各社で最もデータ転送量が多いと推測される機種をピックアップしている。また、本記事執筆時点でCFexpressカードで仕様を公表しているカメラとして、キヤノンのEOS-1D X Mark IIIをひとつの軸にすえて解説している箇所がある。あくまでも現時点でCFexpress採用のメリットを検証することを⽬的としてのことである。読み進めるにあたって、ご承知おきいただければと幸いだ。

メモリーカードの重要な役割のひとつは「速やかにバッファを解放する」こと

本題に入る前に、カメラとメモリーカードの関係を明確にしておきたい。撮影者にとって、メモリーカードの最も重要な役割は、“撮影した写真や動画を確実に正しく記録すること”である。これは言うまでもない。

カメラ機能上という点で言えば、もうひとつの重要な役割がある。“撮影データをコンスタントに素早く記録し、バッファを速やかに解放すること”である。そうすればカメラは撮影者の次のアクションにサクサク対応できるし、スリープ状態になって消費電力を節約することもできる。メモリーカードは、カメラが持つ性能をフルに発揮できるよう、裏方として働いている。

カメラとメモリーカードの関係

カメラとメモリーカードを、記録と速度の観点から整理すると以下のように3つのパターンに分けることができる。

(ア)カード記録速度>撮影データ量

カードの記録速度が撮影データ量より大きくて、バッファにデータが溜まらずスムーズに記録されていく状態。このときカメラはサクサク動く。撮影者には何のストレスもないだろう。

(イ)カード記録速度<撮影データ量

カードの記録速度が撮影データ量に追い付かず、バッファがどんどん溜まっていく状態。撮影者は(ア)と何ら変わらない状態だが、カメラはバッファ残容量の減少に焦り始めている。

(ウ)バッファフル

バッファがフルになり撮影が止まってしまう状態。カードはバッファに余裕を作るため必死に記録している。この間カメラ操作が限定的になる場合もあり、撮影者にはカメラがモタモタしているように感じられるだろう。カメラ背面のランプは点滅している。点滅が止まればバッファは解放されたことになる。

カメラにとっては、常に(ア)「カード記録速度>撮影データ量」の状態が一番理想的である。つまりメモリーカードが、生成される撮影データ量を超える速度で記録できれば良いのだ。しかしデジタルカメラの進化は著しく、なかなかそうはいかない。次にその現実を見ていこう。

各社カメラのデータ転送量は巨大化の一途

カメラメーカー各社のホームページで公表されている仕様表から、データ転送量の最も大きいと推定されるカメラを各社1台ずつピックアップした。その上で、最大容量のRAW+JPEGで最高速連写した場合の秒間転送データ量を計算し、一覧にしたのが下の表である。カメラの最高性能をメモリーカードがどれくらい支えることができるのか確認していく。

RAW+JPEG記録容量に最高速の連写コマ数をかけたものが「秒間転送データ量」である。連写により1秒間に最大どれくらいのデータ量が生成されるかを知ることができる。

RAW+JPEG記録容量 × 最高速の連写コマ数 = 秒間転送データ量

データ量は、最も大きいカメラで2,100MB、最も小さいもので449MBとなった。センサーの高画素化と連写の高速化により、カメラ内で生成されるデータ量が巨大化しているのが良く分かる。富士フイルムのGFX100などは、RAW+JPEGワンショットだけで291MBとSD UHS-II(以下UHS-IIと表記)の最高速度とほぼ同等である。

このデータが示すように、ハイエンドカメラで1秒間に生成されるデータは、XQD、UHS-IIの最高速度(理論値500MB/秒~312MB/秒)を、既にほぼ超えている。したがって連写開始からバッファフルまで一直線という状況なのである。

これではサクサク動くどころか、バッファ容量をどんどん増やさないと数秒で連写が止まってしまう。カメラはポータブル機なので電源供給に制限もあり、小さな筐体で熱対策も必要である。大きな筐体で電源供給も潤沢なパソコンで測定されるカードの最高速度を引き出すことは、そもそも難しいということも付け加えておきたい。

バッファは高コスト部品のひとつなので、その増量はストレートにコスト高につながるし、仮にバッファを増やしたとしても、増やした分だけ解放までの時間がより多くかかることになり、モタモタ感は解消できない。カメラ製品におけるデータを生成する工程の高画素化・高速連写化は、データを記録する工程のメモリーカードの高速化が伴わなければ、デジタル機器としてバランスを欠いたものになってしまう。その点を次の項で検証してみたい。

既存の高速メモリーカードの限界が近づいている

各社カメラの連写が止まるまで、すなわちバッファがフルになるまでの撮影可能枚数と、その総データ量を見てみよう。連写可能枚数をRAWのみで公表しているメーカーもあるので、同条件で比較するためRAW単独で最大容量の連写データで計算した。バッファがフルになる条件に大きくかかわるため、参考として末尾に主要なメモリーカードを追加してある。

最大RAWファイルサイズに連写可能枚数をかけたものが「総データ量」である。どれくらいのデータ量でバッファがフルになるかを知ることができる。

最大RAWファイルサイズ × 連写可能枚数 = 総データ量

CFexpressを採用する1DX3については後に述べるが、他のカメラは全て数秒で連写が止まる。総データ量も1GBから4GBの範囲に揃っている。

転送されるデータ量がメモリーカードの最高速度を超えていることを考えれば、連写可能枚数と連写可能時間は、カードの速度よりもバッファの大きさに依存していると推定することができる。すなわち、データ量の大きさに対してカードの速度が遅すぎるため、カメラはバッファに頼らなければならない構造になっているのだ。

ハイエンドカメラは今後も進化し続けるだろうし、その進化は現状の巨大なデータ量がさらに巨大化することにもなるだろう。バッファ量を増やすことは改善策にはなるが、カードの速度をそのままにしてバッファ量を増やせば、バッファ解放までの時間が増えることになり、根本的な解決策にはならない。バッファの解放はカード速度に依存するからである。その意味で、既存の高速メモリーカードは、高性能カメラの機動性を支えるには既に限界に近づいている。CFexpressが生まれたのにはそのような背景がある。

CFexpress:カメラのデータ生成工程と記録工程のバランスを取る

下図は、バッファに流れ込むデータ量に対するCFexpressとUHS-IIの速度を相対的に示したものである。データ量は、先表の秒間転送データ量から引用し、カード速度は理論値を用いている。CFexpressは、UHS-IIの6倍以上の速度でデータの「出口」を拡大し、速やかにバッファ解放を実現する役割を果たしていることが視覚的に理解できるだろう。

CFexpressは、記録速度を飛躍的に向上させることで、カメラのデータ生成工程とデータ記録工程のバランスを取り、カメラの機動性をさらに向上させることを目的としている。

EOS-1D X Mark III:CFexpress採用でカメラが高性能化する一例

1DX3は、CFexpressベースで仕様を公表した初めてのデジタルカメラである。連写可能枚数は1,000コマ以上、連写秒数は62.5秒以上、総データ量は22GB以上にもなり、桁違いの数値となった。総データ量22GBについては、それだけのバッファ容量を持つことは考えにくいので、上図に示したように、CFexpressの速度のアドバンテージを活かし、バッファにデータが溜まらない状態を長く維持していると考えられる。

キヤノンは製品Webページ上で「映像エンジンによる高速処理とバッファメモリーの容量アップ、カード書き込み速度の向上などにより1,000コマ連写」が可能になったと明記している。データ生成工程と記録工程の高速コラボレーションということだろう。後ほどEOS-1D X Mark II(以下1DX2)と比較して、さらに検証してみたい。

EOS-1D X Mark III
EOS-1D X Mark II

連写は「100m走」、動画は「マラソン」のようなもの

これまでは連写をベースにメモリーカードの役割をみてきた。次は動画である。高精細動画も高速メモリーカードが必要であることに変わりはないが、速さの質が連写とは全く異なる。連写が、スタート直後から一気に加速しゴールする「100m走」のようなものだとすれば、動画は、コンスタントにラップを刻んで走り切る「マラソン」に例えることができる。

動画では、カメラが毎秒コンスタントに同じ大きさのデータをバッファに送り込んでくる。メモリーカードはそのペースに合わせてコンスタントに書き込まなければならない。カードの記録速度が一時的にでも遅くなり、送り込まれるデータのペースに間に合わなくなると、最終的にバッファはフルになってしまい動画は停止する。そのプロセスを図示してみた。

上図左の「原則」を見てほしい。カメラの撮影データを送り込む量と、メモリーカードの記録速度が一定であれば、バッファに負担をかけず安定して動画の記録ができる。これが動画記録の原則である。「例外」として、一時的に大きく速度が低下しても、バッファを有効に活用して凌ぎ、速度を元に戻すことができれば録画は継続される。できなければバッファはフルになり動画記録は停止する。

動画は途中で停止しては意味がない。最適なカードは、すごく速いけれど「100mまで」というカードではなく、コンスタントに一定速度以上でかつ長時間の記録を確実にできるカードである。「動画はマラソン」という意味がお分かりいただることと思う。

動画で必要なのは「最低速度が速いこと」

しかし、フラッシュメモリーを使うメモリーカードにとって、コンスタントに高速で記録することは大の苦手である。メモリーカードでの記録速度の一例をモデル化した下のグラフを見てほしい。

青いラインはメモリーカードの典型的な記録パターンを図示したものだ。ほぼ一定速度で記録している途中、速度が大きく低下するタイミングが時々起こる。この速度低下はガベージコレクション(ゴミ回収)によるものだ。

ガベージコレクションと速度低下に関する詳しい解説はこちら

メモリーカードについている「R」ロゴの意味とは?

メモリーカードは、その特性として、定期的にメモリーの記録エリアを確保する作業が必要となる。これがガベージコレクションだ。その時グラフに見るように速度は著しく低下してしまう。動画はコンスタントにデータを生成し、止まることが許されないので、カードの記録サイクルの中で一番遅い速度(最低速度)が動画記録の速度基準となる。動画記録で基準となるのは最高速度ではなく、最低速度なのだ(SD規格で使われているスピードクラスは同じ概念である。例えば、ビデオスピードクラスV60であれば、最低速度60MB/秒を示している)。

すなわち4K、6Kなど高精細動画の記録で求められるメモリーカードとは、最低速度が高速のカードである。必然的に最高速度も速いカードになる。陸上競技で例えれば、「100mも速いけれどマラソンも速い」ということになる。ハードルの高さが分かるだろう。実は、最高速メモリーカード規格のCFexpressにとってもハードルが高い。高速な最低速度を期待させるからである。

CFexpressは高精細動画記録の選択肢を増やす

カメラが動画記録に際してメモリーカードに求める性能を見てみよう。各社の仕様をまとめてみた。

ここでもCFexpressを採用する1DX3のデータは突出している。最低速度330MB/秒はCFexpressでなければ実現できない速度だ。さらに言えばCFexpressの中でも選ばれたカードだけが実現できるレベルである。キヤノンは動画でもCFexpressのポテンシャルを最大限に活かそうとしていることが見てとれる。

1DX3はCFexpressスロットをデュアルで搭載する

他のカメラは全て50MB/秒もしくはそれより低い。これは、UHS-IIのV60最低速度60MB/秒を意識したものだと思う。CFexpressを採用すれば、この上限を取り外し、高精細動画の選択肢を増やすことができるだろう。CFexpress採用のデジタルカメラが増えた時、動画撮影の世界はどのように拡がっているのだろうか? と期待してしまう。

業務用ビデオカメラにとっては、CFexpressの採用は重要な選択肢のひとつになるだろう。キヤノンは、EOS C500 Mark IIにCFexpressを採用し、5.9K Cinema RAW Lightの内部記録(必要転送速度263MB/秒)を実現した。これからもCFastやXQDから移行するカメラが増えていくことと思う。

EOS C500 Mark II

先に述べたように、動画はメモリーカードに高度で厳格なスペックを求める。動画撮影に相応しい「高速マラソン型」のCFexpressが次々に発売されれば、これまで実現できなかった動画撮影が実現できるようになり、動画の世界での存在感を高めていくことだろう。

EOS-1D X Mark IIIとMark IIの比較:CFexpressで遂げた進化の確認

同じキヤノンの1DX3と1DX2を比較することで、CFexpressのもたらす効果をより具体的に知ろうと思う。仕様を比較してみる。

連写性能から見ていこう。センサーサイズは2,010万と2,020万画素と同等であることから、RAWやJPEGなどのファイルサイズも約30MBとほぼ同等である。連写コマ数が秒間14コマから16コマに増えたことにより、秒間転送データ量が74MB増えている。にもかかわらず連写可能枚数は12倍以上の1,000コマ以上となっている。文字通り桁違いの進化だ。

1DX3の総データ量が30GBに達しているのは、先にも述べたが撮影データ量とカード速度のバランスが取れており、バッファがフルになりにくいシステムだからだろう(ただし「Canon指定基準325GBカード使用時」と付記されているので、CFexpressカードならどれでも同じ結果を導くとは限らないので要注意だ)。

1DX2のデータ総量は2,349MBと他社カメラと同等の数値である。その意味では、データ処理速度の進化やバッファ容量の増加などその他の要素があるとはいえ、1DX3における桁違いの進化の要因がCFexpressにあることは疑いない。CFexpress採用の直接的な効果がここにある。

次に動画性能であるが、CFexpress採用のアドバンテージがストレートに表れている。CFast採用による4K60P内部記録を実現した4年前から、さらに転送速度を3.3倍の330MB/秒に上げ5.5K RAW動画の内部記録を実現した。動画はメモリーカードに高度で厳格なスペックを要求するので、CFexpressとCFastの性能差がカメラの性能差にはっきりと表れた。動画性能の飛躍的向上にもCFexpressの効果を見ることができる。

CFexpressを採用すればカメラはここまで高性能になれるよ! ということを1DX3は数値で明確に示してくれた。今後採用するカメラが増えることで、これまで想像できなかったような性能や機能をもつカメラが出てくるかもしれない。

1DX3のリリースを初めて見た時には1,000コマ以上の「以上」が気になった。実際にどれくらい連写できるのか非常に興味深い。CFexpressのポテンシャルを考慮すれば、秒間データ転送量が約480MBであるから、撮影条件、使用するカード次第では、容量フルまでノンストップで連写する可能性がある。もしそうだとすれば、毎秒16コマ連写できるのも関わらず写真撮影ではバッファがフルにならないことになる。これは革命的な進化と言えるのではないだろうか。発売後にテストするのが楽しみである。

まとめ

CFexpressが必要になった理由と、CFexpress採用の効果を、具体的な機種の性能をもとに見てきた。今回の論点をまとめてみよう。

[1]カメラのセンサー高精細化と連写高速化で、カメラが生成する撮影データが巨大化し、現行の高速メモリーカードでは、カメラ内データ処理のバランスを保つことが難しくなった。
[2]4Kや6Kなど、高精細な動画撮影にかかわる要求に応えるため、最低速度がより高速なメモリーカードが必要となった。
[3]CFexpressを採用することによる具体的な効果を、キヤノン1DX3と1DX2の比較で確認した。

今後ハイエンドカメラを中心にCFexpressの普及が進んでいくことによって、これまでにあった制限や上限(バッファの解放時間、連続撮影枚数、高精細動画など)の多くが過去の話になるときが来るかもしれない。その時にはカメラの機動性は飛躍的に増しているだろう。しかしまた様々な技術の進化によって、新たな制限や上限が生まれるかもしれない。カメラと共に進化を続けられるようなメモリーカード規格であることが、CFexpressの理想であり、理念である。そのことを少しでも理解してもらえれば幸いである。

次回予告

まだまだ語り尽くせていない内容がある。次回は、これまで3回にわたってお伝えしてきた連載内容を踏まえて、編集部などに寄せられた質問に回答する方法で、読者の方々の疑問・質問にお答えしたい。

大木和彦

おおきかずひこ:プログレードデジタル日本代表。ソニー、マイクロソフトなど数社を経て2006年サンディスク入社、2013年マイクロンに移りレキサーを担当。その後現職。13年以上に渡りフラッシュメモリービジネスに従事。「イメージング業界をメモリーカードから盛り上げる」がモットー。