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「デジカメ・オブスクラ」を作ってみよう!

〜スクリーンに映るレトロなイメージを撮影する
Reported by 上原ゼンジ

 写真機の原点とも言える「カメラ・オブスクラ」に映る像を撮影したらどうなるだろうか? 今回はこんな発想から実験をし、レトロな描写になる「デジカメ・オブスクラ」を工作してみた。

これがそのデジカメ・オブスクラで撮影した写真だ。ニコンのD700で撮影したのだが、ご覧のとおり35mmフルサイズの撮像素子が全く活かされない描写になった。

スクリーンに映る像を撮影

 カメラ・オブスクラというカメラの原型とも言える仕組みがある。箱にレンズを取り付け、ピントが合う位置にスクリーンを付けると、そこに像が映し出される。15世紀ぐらいから画家が絵を描くのに利用し始めたそうだ。牛乳の空き箱なんかでも簡単に工作することができるので、興味のある方は試してみていただきたいのだが、ただスクリーンに像が映るだけでも、素朴な感動が味わえます。

100円ショップで買った箱に凸レンズを1枚付けただけのお手製カメラ・オブスクラ。 箱の裏には半透明のスクリーンが張ってあり、ここに像が映る。ピントはフタの繰り出しにより調整する。

 私はそれをさらに発展させて簡単なカメラを作ったことがある。スクリーンにピントを合わせ、その位置に感光紙をセットして撮影をすれば、像がきちんと写るのだ。この時使った感光紙(富士フイルムのコピアートペーパー)というのは、日光写真のようなもので、アイロンを使って熱を加えると青いイメージが浮かび上がる。携帯電話で簡単に撮影ができてしまう世の中では、写真が写るということだけで感動することはできないけど、手作り写真機で像が定着できると素直に嬉しい。

 さて今回の実験は、そのカメラ・オブスクラのスクリーンに映るイメージをデジカメで撮影したらどうなるだろうか? というものだ。カメラ・オブスクラとデジカメを一体化させれば、外に持ち出してスナップ写真も撮れるはず。いったんスクリーンに映ったものを撮影した場合にどんな描写になるのだろうか? スクリーンに映っている像というのは、なんかアナログで素朴な感じなのだが、それを撮影することにより、レトロな描写にならないだろうかというのが、このたびの実験の目的だ。

感光紙をセットすると写真撮影も可能。家の玄関前で撮影した最初の1枚。手作りカメラで撮影をすると、人類で初めての撮影に成功したような気分が味わえる。 このカメラを使ってセルフポートレートに挑戦。30分間じっとして撮影したのだがイマイチだった。この顛末は拙著「こんな撮り方もあったんだ! アイディア写真術」をご覧いただきたい。

「DOF」? 「TtV」?

 この実験で重要なのはスクリーンの素材をどうするかということ。以前カメラ・オブスクラを作った時に使ったのは、透明クリアファイル。書類をまとめておくのに使う文房具です。透明というよりは半透明なので、スクリーン代わりに使うことができたわけだ。まあフィルムでもガラスでも紙でもいいから、半透明なものを探してくればいいということだ。ただし透明度が高くなければ像は暗くなってしまう。

 また、スクリーン自体にピントを合わせるわけだから、その素材の表面の“目”も重要だ。多少ザラザラしているのは味になるかもしれないが、写真に映りこんだ目が邪魔になるようだと困る。自然な感じだったら構わないけど、目が整然としているのも不自然。ドット柄や縞模様なんかは当然避けたいところだ。

 100円ショップなどで物色して見つけてきたのは、ポリエチレンなどの半透明な素材、それから炭酸カルシウム入りのゴミ袋やレジ袋。紙だったらトレーシングペーパーやグラシン紙などだ。これらの素材の表面をルーペで確認してみたのだが、目が不自然だったり、傷があったり、汚れていたりするようなものは使えない。たとえばレジ袋の場合、ムラが気になりボツにした。

 クオリティの高そうなものということで考え、カメラのフォーカシングスクリーンをネットで検索していたら「DOFアダプター」なるものを発見した。DOFは「depth of field」の略で、被写界深度のこと。ムービーの世界では、私が考えたようなものがすでにあり、被写界深度の浅い画を撮影するための方法として少し前に流行ったようだ。要するにフィルムを使わずにフィルムっぽく撮影したい場合に利用するためのシステムだ。

 ただしムービーで撮影する際にもスクリーンの目は気になるらしく、モーターを使ってスクリーンに振動を与え、目が映らないようにするらしい。でもレンズの先にモーターなんか付けたりしたら重たくなっちゃうし、そこまでの工作能力は私にはない。軽くて一眼レフの先に取り付けられるようなものを工作するのが、今回の狙いだ。

 そのDOF撮影を実現させるためのDOFアダプターを自作する場合のスクリーンとして重宝されているのが、キヤノンのフォーカシングスクリーン(Ee-A)という製品だという情報も見つけた。フォーカシングスクリーンというのは格子模様が入っていたり、いろんなタイプの製品があるのだが、格子が写真に写ってしまうのは問題なので、無地のスクリーンということで、この製品が利用されているということのようだ。

 このスクリーンを使った撮影方法について知り合いの写真家(増田雄彦氏)に話したら、増田さんはまた別の方法を教えてくれた。「TtV」(Through the Viewfinder)と呼ばれる手法で、二眼レフカメラのビューファインダーを別のカメラで撮影する方法だ。ファインダー部を取り出すのではなく、2台のカメラをそのままつなげてしまうというかなり大胆な方法だ。しかも像が映るファインダーというのはスクリーンではなく、レンズなのだという。今まではスクリーンを使うことだけを考えていたが、レンズを使うという方法もあるということだ。レンズを使ったら描写はどうなるのだろうか?

増田雄彦さんが「TtV」で撮影した写真。コダックDuaflexのファインダー上の像を写すとこんな感じになるのだ。増田さんの写真はこちらで見られます。(flickr「Through the Viewfinder」) 増田雄彦さんの「TtV」のシステム。OLYMPUS PEN E-P2 + ライカDG MACRO-ELMARIT 45mm F2.8 MEGA O.I.S + コダックDuaflex IVという組み合わせ。街中で撮影するにはちょっと勇気がいりますね。まだ手ブレ増幅装置の方がまし(?)
コダックDuaflex II。増田さんがヤフオクで探してくれたので、調子に乗って私も買ってしまいました。3,000円ぐらいだったかな。すでにフィルム(620フィルム)が生産されていないのと、普及製品だったため中古価格は高くない。 フタを開けると、そこにファインダーのレンズがある。ピントは固定なので、フレームを決めるために使う。
カメラをバラしてレンズだけを取り出した。周縁部のアールのおかげで「TtV」撮影をした時に、ちょっと流れるような描写になる。

どんな工作にするか?

 私の工作の構想としては、まず手作りの蛇腹の前に凸レンズを1つ取り付ける。これは以前紹介したトイ蛇腹レンズと同じ作り方だ。そしてレンズと反対側にスクリーンを付け、蛇腹の伸縮によりピントが合うようにする。その蛇腹レンズと一眼レフのマクロレンズを延長筒でつなぎ、スクリーンに映る像を一眼レフカメラで撮影するという方法だ。

 結局スクリーンとしてテストしたのは、インクジェットプリンタ用の半透明のフィルムとキヤノンのファインダースクリーン。そしてDuaflexのファインダーに使われているレンズ。それから蛇腹の前に取り付けたレンズは元々持っていた凸レンズとペンタックス オート110の18mmの交換レンズ。さらにフィルム用コンパクトカメラであるペンタックスPC-550をバラして取り出したレンズを使ってみた。

 工作方法と実際の描写は以下の結果をご覧いただくとして、結論を言えばなかなかユニークな写りになった。以前作ったトイ蛇腹との違いで言えば、被写界深度が浅くなったことと、スクリーンの目によるザラつきにより、フィルムの粒子のような感じになった。

 また、フランジバックが短くないカメラでも使えるところがいい。元々チープでレトロな感じが狙いだったのだが、その目論見は充分果たしていると言っていいだろう。例によって見た目がちょっとばかり目立つので、外で撮影してるとガン見されたりするのだが、その部分をちょこっと耐えれば、なかなかに可能性を持ったレンズと言っても過言ではないだろう。フォトキナに参考出品すれば良かったな。


―注意―

  • この記事を読んで行なった行為によって、生じた損害はデジカメWatch編集部、上原ゼンジおよび、メーカー、購入店もその責を負いません。
  • デジカメWatch編集部および上原ゼンジは、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。

像を映し出すためのスクリーン

インクジェットプリンタの用紙で乳白のフィルム。それをステップアップリングに張るか、フィルターの枠にガラスと一緒に挟み込む。 乳白のフィルムの目。コントラストを上げて、少し強調している。このザラザラが写真にも写るので、フィルムの粒子っぽい感じになる。
キヤノンのフォーカシングスクリーン(Ee-A)。黒いPPクラフトシートをカットして、フィルター枠に留めた。 PPクラフトシートをカットして、コダックDuaflexのファインダーレンズをはめる。ステップアップリングかフィルターの枠に固定して使用。

デジカメ・オブスクラのしくみ

ニコンD700にカメラ・オブスクラを装着した状態。AF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8G EDにケンコーデジタル接写リングを装着してスクリーンにピントが合うようにしてある。接写リングは必ずしも必要ではない。(今回の写真はすべてこのシステムで撮影) 左からカメラ・オブスクラ部、延長リング。カメラ本体となる。延長リングにはニコンの古い接写リング「K」を使った。
カメラ・オブスクラ部。蛇腹の折り方は「トイ蛇腹レンズを作ってみよう」を参照のこと。 蛇腹の裏側には、ステップダウンリングを両面テープで接着し、乳白フィルムを挟んだフィルターを取り付けた。
蛇腹の伸縮でピントを合わせるとスクリーンに像が映る。この像をマクロレンズで撮影するというわけだ。 凸レンズはテープを使って留めただけ。
今回の工作ではPPクラフトシート(0.75mm厚)を使っているが、カッターで切れるのがいいところ。サークルカッターを使えば、きれいな丸い穴を開けるのも簡単。 PPクラフトシートにステップダウンリングを接着。こうしておけば、ネジで簡単にフィルタやステップアップリングを付けることができる。
蛇腹に両面テープを張った状態。私の工作では両面テープがけっこう活躍する。乾くのを待つ必要がないし、粘着力が強いわりにはきれいに剥がすことができるので。 ペンタックス オート110用の広角18mmレンズを蛇腹に装着。
このレンズは落ちると嫌なので、強力な両面テープを使って接着した。透明で強力な両面テープは自動車用品を売ってる店で購入。 ペンタックス オート110用のレンズを装着すると重みでうなだれてしまうのだ。ちょっとカッコよくないので、輪ゴムで留めようと思っている。
ペンタックスPC-550をバラしてレンズを取り出そうとしているところ。感電することもあるらしいのでバラす場合はご注意を。感電しても責任は持てません。 ペンタックスPC-550から取り出したレンズ。焦点距離は28mm。今回は街中でスナップが撮りたいので広角系のレンズを用意した。それにあまり焦点距離が長くなると、蛇腹を延ばさないとピントが合わなくなってしまう。焦点距離の短いレンズを探すのがポイントになる。

スクリーンの比較

 レンズはペンタックス オート110用の18mmレンズで統一してスクリーンの違いによる描写を比較してみた。

キヤノンのファインダースクリーンを使うと、さすがに明るくてきれい。ただしケラれる範囲が広くなってしまった。35mm用ではなく6×6用などの大きなスクリーンを使ったほうがいいのだろうか? インクジェット用紙のフィルム。ファインダースクリーンと比べれば、かなり暗いし目のザラザラ感が出てしまう。でもかえってこのザラザラ感がいいかもしれない。
Duaflexのファインダーのレンズ。明るく、映る像もクリア。しかし、映る像が大きくなってしまった。凸レンズだからこういうことになるんだな。広角にしたい場合にはちょっと不利。またDuaflexらしさを出したければ、レンズ全体が写るようにしたほうがいい。

3種のレンズの違い

 今回、用意した3種のレンズの描写比較。スクリーンのテストの時には少しケラレが気になったので、接写リングを入れて、さらにスクリーンに近寄って撮影。スクリーンはインクジェット用のフィルムに統一。

凸レンズ1枚+インクジェット用フィルム。凸レンズ1枚だけだと軟調描写になる。使っているのは光学レンズではあるが収差の補正などが一切ない状態なので、こんな感じに写る。 同じ凸レンズに手製の絞りを付けてみた。かなり軟調度合いが変化した。この穴の大きさで描写のコントロールを行なう。
これがお手製の絞り。黒い紙に穴あけポンチで8mm径の穴を空けて、テープでレンズに張り付けた。これが絞りいくつに相当するのかというようなことは私には分からない。絞りがないとボケすぎだから、この程度がいいかな、という感覚だけで工作しているのだ。 ペンタックス オート110用の18mmレンズ+インクジェット用フィルム。さすがにちゃんとした交換レンズなので、凸レンズ1枚よりはまともな描写だ。
ペンタックスPC-550から取り出したレンズ+インクジェット用フィルム。これも凸レンズ1枚よりはかなりまし。でも逆に面白みはあまりないかな。

作例

※作例写真はすべてRAWで撮影し、Photoshop Camera RAWを使って色調整。Web用にリサイズの後、適宜アンシャープマスク処理を施しています。

 (1)ペンタックス オート110用の18mmレンズ+インクジェット用フィルムを使って。

この写真は蛇腹を上下に歪めて撮影しているので、下側がかなりボケている。こういう落差を出したいのであれば、ある程度ちゃんと写るレンズの方がいい。このボケ方はちょっと面白いと思う。 確かに被写界深度はけっこう狭くなる。それと周辺光量がかなり落ちているが、この感じも面白いな。まっとうなレンズではありえない描写。
これも左側のボケ具合に味があるな。これほどひどいレンズというのは、あまりないと思うが、なんか懐かしいような描写になるのはなぜだろう?

 (2)凸レンズ1枚+インクジェット用フィルム。

ペンタックス オート110のレンズと比べるとさらにひどい描写(笑)。でも嫌いじゃないなあ。これは蛇腹を横方向に歪めたので、右側のボケが激しい。 こういう写真を現像する場合というのは、マスクを作って部分的に明るさの調整を行なうのだが、これは何の調整もしていない。ナリユキで逆光のまぶしい感じを出したいと思った。
これらの写真は、ファインダーを覗いた時にはすべて天地逆さまに写っているので、なかなかフレーミングが難しいのだが、バッドチューニング感が楽しい。

 (3)Photoshopでセピア調に

 ペンタックス オート110用の18mmレンズ+インクジェット用フィルムを使って。

Photoshopの「白黒」を使ってセピア調に。こういう歴史的建造物を撮影すると本当に昔の写真みたいになって面白いなあ。でも江戸時代でももう少しまともに写ったと思う。 最後は愛犬チョコをセピア調で。最近アプリで周辺光量を落としたりできるけど、これが本物です(笑)。

告知

 デジカメWatchでの記事を含めた書籍「こんな撮り方もあったんだ! アイディア写真術」(インプレスジャパン刊)が発売されています。大幅に加筆し、撮りおろしの写真もたくさん収録しました。全ページが見られるチラ見せ動画も作ってみたのでご覧ください。

 







実験写真家。色評価士。レンズを自作したり、さまざまな写真技法を試しながら、写真の可能性を 追求している。また、カラーマネージメントに関する執筆や講演も行っている。著作に「ボケ/ブレ不思議写真術―カメラプラス」、「うずらの惑星―身近に見 つけた小さな宇宙 カメラプラス」(ともに雷鳥社刊)などがある。
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2012/10/19 00:00