特別企画

EOS Rシステムで使うSIGMAレンズ【風景・星景編】

14mm F1.8 DG HSM|Art / 24-70mm F2.8 DG OS HSM|Art / 60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM|Sports

EOS R5 / 14mm F1.8 DG HSM|Art / 14mm / マニュアル露出(6秒・F1.8) / ISO 1600

昨年発売された「EOS R5」「EOS R6」が好調な売れ行きを示しています。

同時に、キヤノン純正RFレンズのラインナップも急速に充実しています。ただし、一眼レフEOS(EFマウントレンズ)ほどの多様性を実現するのはまだ先の話でしょう。

この連載は、EOS RシリーズのボディにSIGMAのEFマウントレンズを装着して、その画質や作品表現を確かめるものです。定評あるSIGMAレンズが、最新のEOS Rシステムでどのような魅力を見せてくれるのでしょうか。

今回は「風景・星景編」として、茂手木秀行さんに撮影と解説をお願いしました。(編集部)

茂手木秀行

1962年東京生まれ。日本大学写真学科卒。ドローン空撮を含めて広告撮影の仕事の傍ら、風景・星景写真の作品制作を続けている。

前回までの【スナップ編】【動物園編】はこちらです。


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今回登場するSIGMAレンズは、 「14mm F1.8 DG HSM|Art」「24-70mm F2.8 DG OS HSM|Art」「60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM|Sports」 の3本になります。

上段が60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM|Sports、下段左より14mm F1.8 DG HSM|Art、24-70mm F2.8 DG OS HSM|Art
いずれのレンズもEOS R5への装着にはキヤノン純正「コントロールリングマウントアダプター EF-EOS R」を使用した


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4,500万画素に高解像SIGMAレンズを組み合わせる

筆者は現在、九十九里と山梨に拠点を置き作品撮影をおこなっている。今回は九十九里を起点に房総半島南東部で風景と星景を撮り歩いた。

風景・星景を撮るには多くのユーザーがそうであるように移動はもっぱらクルマだ。もっぱらと書いたのは必要に応じてバイクでの移動もするからだ。良い風景を求めて歩くと軽自動車でさえ、停めることを躊躇われる場所が多いからだ。

今回使った機材のラインナップは超広角14mmから超望遠600mmまでがさして大きくはないカメラリュックに収まってしまう。

リュック内上が60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM|Sports、左は14mm F1.8 DG HSM|Art。EOS R5に装着しているのが24-70mm F2.8 DG OS HSM|Art

しかもカメラはEOS R5。有効約4,500万画素である。この高画素数を満足させるレンズには高い解像力が必要なのはいうまでもないことだ。つくづくすごい時代になったものだと改めて思い直した。

SIGMAのハイクオリティラインナップはArt、Contenmporary、Sportsの3ラインに分かれるがどれもシャープさに定評がありユーザーの満足度が高いものだ。風景はもちろん、星景写真にも高い解像力は必要なのだ。


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伸びやかな視界でその場所の雰囲気を描き出す……14mm F1.8 DG HSM|Art

14mm F1.8 DG HSM|Art
マウントアダプター EF-EOS Rを介してEOS R5に装着

14mm F1.8 DG HSM|ArtをEOS R5に装着してみると大きく黒々と濡れた瞳のようなレンズ第一面が印象的だ。内部反射の少ない抜けの良い描写を連想させるのだ。ボディとの大きさのバランスもいい。

ところで人間の視野は意外と広く、左右195度上下125度ほどだ。しかしそれはただ見えているだけであって色や形を判別できる範囲は60度から120度である。広くなんとなく見ているという状態で120度ほどあるという解釈でいいだろう。14mmの画角は114度であるので、これとちょうどマッチする。

14mmの画角が新鮮で魅力的に見えるのは、ただ見ている風景あるいは感じている風景を画像としてよく見える範囲に凝縮してくれるからなのだ。凝縮された風景を後から見直すことで発見や驚きも生まれてくる。風景写真にはなくてはならないレンズだ。


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14mmの画角いっぱいに広がる原野。これほど広い原野は東京近郊ではもはや珍しい。真夏の日差しの中に秋を到来を予感させる鱗雲が広がった。ここでの空気感を素直に表すためにカメラを水平近くに構えてパースをつけないようにした。

F2.8としているのは近景から遠景へと穏やかなピントの変化を作ることで距離感を表現するためだ。解像力の高いレンズならではの選択である。

EOS R5 / 14mm F1.8 DG HSM|Art / 14mm / マニュアル露出(1/6000秒・F2.8) / ISO 100


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海沿いの道から見える秋の星座。カシオペア座、ペガサス座、アンドロメダ座などが写っている。中央の光芒はアンドロメダ大星雲だ。

EOS R5 / 14mm F1.8 DG HSM|Art / 14mm / マニュアル露出(30秒・F2) / ISO 3200

最周辺まで星はほぼ点として写っている。周辺まで星が点に写ってくれないと美しい星景写真として成立しない。

F4程度に絞ることが必要なレンズが多い中、本レンズではF1.8開放でも十分に点として写ってくれる。非点収差やコマ収差が極めて少ないのだ。


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濡れた岩肌に溢れる木漏れ日。本レンズのシャープさはこのような写真でも遺憾なく発揮される。

中央部がシャープなのは当たり前として、最周辺でも像の流れを感じさせることなく高い解像力を維持している。

EOS R5 / 14mm F1.8 DG HSM|Art / 14mm / マニュアル露出(1/160秒・F2.0) / ISO 100


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渓流に横たわる倒木。根こそぎ倒れ剥き出しになった根に興味をそそられる。近景に主要被写体を置きパースをつけて画面に動きを持たせるのが、一般的な14mmの使い方と言えるだろう。人間の視覚にはパースはつかないので、新鮮に、動きを感じて見えるのだ。

EOS R5 / 14mm F1.8 DG HSM|Art / 14mm / マニュアル露出(1/100秒・F2.8) / ISO 100


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ボディと違和感のない高級感あるデザイン……24-70mm F2.8 DG OS HSM|Art

24-70mm F2.8 DG OS HSM|Art
マウントアダプター EF-EOS Rを介してEOS R5に装着

24-70mm F2.8 DG OS HSM|Artのデザインは秀逸である。単体として見てもシンプルで高級感があり上品だ。

そして何より、ズームを繰り出した時に、太い鏡筒がせり出してくるのが良い。ここが細いとなんだかがっかりしてしまうのだ。そこに、フォーカス切り替えボタンなどが精密な機械らしさを表現している。

EOS R5とのマッチングはマウントアダプターを介してさえ違和感のないものだが、レンズ鏡筒の外装仕上げを場所によって変えているからだろう。ただ黒いものの中に表面仕上げを変えることで躍動感を生み出しているのだ。

カメラ・写真は趣味性の高い分野の製品であるだけにこうしたことが所有する悦びにつながる点は重要なのだ。もちろんそれは高い光学性能があってのことだが、筆者の知人のプロカメラマンにも、本レンズの愛用者が多いことを申し添えておく。


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全てのカメラ・レンズメーカーにとって24-70大口径ズームはブランドの顔となる重要なレンズと言えるだろう。それゆえ各社力の入ったレンズ揃いである。

そのような中、本レンズは格段に色収差が少なく、作例のような逆光が当たる状況でも被写体にフリンジが付くことはない。「SIGMAはシャープ」とされる定評に結びついているのだ。

EOS R5 / 24-70mm F2.8 DG OS HSM|Art / 70mm / マニュアル露出(1/200秒・F2.8) / ISO 100


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夏の天の川中心部。作例のように画像に地上の風景を含まない星の写真は星野写真と呼ばれる。夏になると撮りたくなる被写体だ。毎年撮っても変化はないのだが……それだけに機材の進化や質が分かる資料となっていく。

EOS R5 / 24-70mm F2.8 DG OS HSM|Art / 70mm / マニュアル露出(30秒・F2.8) / ISO 3200

本レンズは14mm同様、開放から非点収差・コマ収差が大変に少なく最周辺までほぼ点として星が表現されており、星景・星野写真にうってつけのレンズである。

ちなみに星も東から登り西に沈む。これを日周運動というが、この動きのため24mmであっても10秒程度の露光で星は線を引くように流れて写ってしまう。そこで日周運動の動きをキャンセルするために赤道儀という機材を使う。この作例ではKenko Skymemo Sを使用した。


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渓流の穏やかな流れに映る光を表現するために、シャッター速度を遅くした。一方であまり絞り込んで解像力を落としたくないので、F11とした。

EOS R5 / 24-70mm F2.8 DG OS HSM|Art / 70mm / マニュアル露出(0.3秒・F11) / ISO 100

本レンズも含め、近年の高性能レンズでは、最高の解像力を発揮するのはF4からF5.6だ。さらに絞ると被写界深度は深くなっていくが小絞りボケによる解像力の低下は避けられないため、表現したいものとバランスを考えて絞りを選ぶ必要がある。

本作例では光と色合いの柔らかさが主題であるため、極限のシャープさは求めていない。


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夏らしい積乱雲を望みながら波打ち際の道を歩く。先にも述べたがF5.6では全画面にわたって最良の解像力となる。

被写界深度も十分であるし、スナップ風景向きの絞り設定だ。画面左上の見切れたところに太陽があり、ゴーストを生みやすい構図だが、本レンズには全く影響がなかった。

EOS R5 / 24-70mm F2.8 DG OS HSM|Art / 24mm / マニュアル露出(1/1,000秒・F5.6) / ISO 100


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自分の視覚を再認識する光学10倍ズーム……60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM|Sports

60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM|Sports
マウントアダプター EF-EOS Rを介してEOS R5に装着

本レンズは今回試用した中で唯一Sportsラインに属するレンズだ。高い光学性能に加えてスポーツ撮影向きの手ブレ補正、速いAF速度など手持ちでの動体撮影を意識した仕様である。

撮影目的が風景・星景であるのでAFに関しては特段のお話はできないが、600mm手持ちでも被写体をじっくりと観察できる光学手ブレ補正機構・OS(Optical Stabilizer)が魅力的だ。

そして何よりの魅力は60-600mmという焦点距離にある。先に人間の視覚の話をしたが、さらに追記するなら色と形を判別できる以上に、「色と形を良く判別できる」視覚は40度から60度だ。そして視覚のうち最も解像力が高くよく見える範囲はおよそ2度である。

つまり何かに注意を向けた時、視覚として判別しているのが40度~60度、仔細に物を見ようとしてよく見えている範囲がおよそ2度ということだ。

本レンズの画角はおよそ40度から4度で、実によくこの視覚を内包しているのだ。これは興味を持ったものをより良く見たいという欲求に素直につながっている。

風景の中で自分が興味を持ったものをまず600mmで仔細にみる。その後ズームで引きながら周りの情景を入れてくるとなぜそこに興味を持ったのかを再確認できるし、興味を持った部分を引き立てる構図もすぐに見つかるのだ。

ぜひこの体験をしてみてほしい。もう一度写真の楽しさを再発見するはずだ。


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日没直後、夕闇の山並みを近景に東京を望む。家路を辿る山道を車で走りながら、遠くに望む街明かりの中から即座に東京タワーを見つけ出した。遠く判然としない光の点から自分でも驚くほど的確に見つけ出したのだ。グレゴリーの犬で知られるように、知っているもの、形は即座に認識できるのだ。

EOS R5 / 60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM|Sports/ 600mm / マニュアル露出(2秒・F6.3) / ISO 160

600mmで覗いてみると、夕闇に溶ける山並みの向こうによく知っている東京タワーの灯りをみることができた。この山並みがあるから、より魅力的に映ったのだ。

撮影は三脚につけておこなったが、本レンズの三脚座はアルカスイスプレートになっており、最近の三脚には手早く取り付けでき秒単位で光が変わってゆく日暮れどきの撮影にも便利なものだった。


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主題はもちろん虹である。だが、この場所でシャッターを切ったのはそこに家があったからだ。家があることで自然現象である虹が人の生活に結びつく。それによってここを通りかかる自分の姿を表しているのだ。

そのように思いながら、600mmにしてこの家をフレーミング、そこからズームを引いてゆき、今の気持ちを表せるような構図とした。

手ブレ補正機構OSのおかげで、手持ちながらしっかり気持ちを考えつつ一連の作業をすることができた。

EOS R5 / 60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM|Sports/ 96mm / マニュアル露出(1/2500秒・F5.0) / ISO 100


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房総半島に広がる崖と岩場の風景。荒々しいその姿が魅力的だ。崖をズームしてから引いてくることで手前の岩場と対比させ、荒々しい姿を描いた。

EOS R5 / 60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM|Sports/ 117mm / マニュアル露出(1/60秒・F22) / ISO 100

双方を被写界深度に収めるため、絞り値はF22とした。このF値では小絞りボケによって解像感は落ちてしまう。

そこで、PhotoshopCameraRAWからDNGディテール強化をおこなってからRAW現像した。Light RoomClassicにも同様の機能があるので、大きく絞ってシャープさが足りない時には試してみてほしい。画像次第の面もあるがシャープさを取り戻すことができる。直接小絞りボケを改善する機能ではなく、ベイヤー配列を最適化する機能だ。


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いて座に浮かぶメシエ8干潟星雲(画面下)とメシエ20三裂星雲(画面上)。夜空にはこうした星雲がたくさんある。新しい恒星が生まれつつある領域や恒星が寿命を終えて爆発した残骸であったりする。

EOS R5 / 60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM|Sports/ 600mm / マニュアル露出(121秒・F6.3) / ISO 1600

天文ファンはこうした星雲を見ながら、宇宙への思いを馳せるのだ。このほかにも星団というたくさんの星の集まりもあったり、超望遠で撮る夜空はなかなかに賑やかなのだ。

星雲・星団のアップも星景・星野同様、画像最周辺まで星が点として写らないと作品として成立しない。

本レンズは作例で見て明らかなように最周辺まで星は点として写り、二つの星団を引き立ててている。なぜなら、周辺で像の流れがあるとそちらに視線が誘導され、散漫な印象になってしまうからだ。また星雲の間ディテールの描写には解像感も大事な要素になるが、本レンズの色収差の少なさも効いている。

上の写真は星雲・星団を撮るためのセットアップだ。EOS R5と60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM|Sportsを少し大きめの赤道儀に載せているが、実際の撮影ではこれにフードとレンズヒーターなどが加わる。

本レンズには、焦点距離刻印ごとにロックできる機構があり、天頂付近の撮影でもレンズが落ちることなく大変ありがたい機構だ。

また本レンズ直下にある小さな望遠鏡のような二つの赤いデバイスはCCDカメラであるが、一つはPlate Solvingという技術で現在レンズが向いている位置を割り出したり、目的の天体を導入するための装置。もう一つは精密に星の動きを追いかけるための装置だ。

これらのデバイスによって、肉眼では見えにくい星雲や星団を捉えることができ、またブレのない点像を写すことができる。

金額的にはややハードルが高いものだが、フイルム時代からすると運用の手間も金額も10分の1になっていると言える。興味を持った方は天体望遠鏡専門店のホームページで、まずは情報収集してみてほしい。


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まとめ

この10年ほどの間の日本製レンズの高性能化は伸長著しい。高性能化の指標は高い解像力とボケの美しさである。

そしてどのレンズも高性能化しているのでレビュー記事には「シャープさと柔らかいボケ」という一言が並ぶことになる。しかしながら、その中にも各社あるいはレンズラインアップごとに特徴がある。すなわちボケの立ち上がりの速さであったり、周辺像の違いであったりする。それらの目的は、レンズの使い方にとって適切な距離感の表現であったり、全体のヌケ感の調整である。

ここで収差に注目すると球面収差と色収差は特にボケとシャープさに影響を与えている。もちろんどちらの収差も少ないに越したことはないが、ことに球面収差の残存量は被写体との距離によって変化する。よって全群繰り出し式のレンズの場合、特定の距離で美しいボケ、特定の距離で美しいとは言えないボケということもありうる。

そこでIF(インナーフォーカス)やRF(リアフォーカス)と呼ばれるレンズ群ごとに繰り出す方式が採用されるのだ。目的はもちろん、どのような被写体距離でも美しいボケを引き出すためだ。

ここで、もともとレンズ群ごとで制御してきたズームレンズが活きてくるし、長くズームレンズを作り続けてきたSIGMAの技術が活きるポイントなのである。

さて、ここで美しいボケとはどのようなものか。理想はただボケること。現実の描写では点光源がフラットな円盤状に描写される状態である。輪線ボケと言われる円盤の淵が明るくなる状態でない。

輪線ボケは線状の被写体が二線ボケとなる原因であり、輪線ボケが集合するとざわついた背景となる。しかしながら、ボケが円盤状となるか輪線ボケとなるかは解像力と密接な関係があり、双方でバランスを取らねばならない。

こうした点を念頭に置きながらSIGMAのレンズを眺めてみると特段に色収差を減らしつつシャープさに結びつけ、その分シャープさに関わる球面収差とボケの美しさのバランスをとっているのだとわかる。これは一つの設計理念であるが、それをラインアップ全てのレンズで統一していることがSIGMAの魅力である。

多くのユーザーがSIGMAはシャープだと言う、その声がSIGMAのブランディングを代弁していると言えるだろう。いまの日本のレンズの描写は「レンズの味」と言う情緒的な言葉だけではなく、仕様や使い勝手も含めてメーカーが発するブランディングにこそ、目を向けるべきなのだと改めて心を新たにした。

制作協力:株式会社シグマ

1962年東京生まれ。日本大学写真学科卒。ドローン空撮を含めて広告撮影の仕事の傍ら、風景・星景写真の作品制作を続けている。