新製品レビュー

ライカT(実写編)

コンパクトな高解像レンズと落ち着いた絵作り

 ライカの新システムカメラ、ライカT。アルミのブロックから削り出したユニボディや、背面の液晶モニターに3.7型の全面タッチパネルタイプを採用するなど、個性的なカメラに仕上がっている。しかも、そのタッチパネルの操作感は、まるでスマートフォン。ライカらしいクラフトマンシップと、現代ならではの使い勝手を併せ持ったカメラだ。

 本稿では先にお届けした外観・機能編に続き、ライカTの画質インプレッションをお届けする。

 ライカTの撮像素子は、APS-Cサイズの有効1,630万画素。レンズ一体型のライカXシリーズ現行モデルとほぼ同じスペックだ。フィルム選択(仕上がり設定)は、スタンダード、ヴィヴィッド、ナチュラル、白黒ナチュラル、白黒ハイコントラストの5種類で、これもライカXシリーズと同じ。

 そして画作りもライカXシリーズと同様、スタンダードは彩度が低め。一見すると、とても地味に見える。日本メーカーのデジタルカメラは、標準が目を引きやすい鮮やかな仕上がりになる傾向が強いが、ライカは全く異なる。ヨーロッパらしい落ち着いた仕上がりといえる。ただしフィルム選択をヴィヴィッドにすると、彩度もコントラストもグンと上がり、メリハリのある写真になる。

 またそれぞれ彩度、コントラスト、シャープネスの調整が可能なので(白黒はコントラストとシャープネスのみ)、自分の好みに合わせた仕上がりに設定できる。DNG形式のRAWからは、付属のLightroomで自在に調整できるが、JPEG派はカメラ側で好みの設定を探すのが、使いこなしのポイントのひとつと言えそうだ。

感度

 ISO感度は、ISO100をベースに、最高はISO12500。拡張感度は持たない。今はAPS-CサイズでもISO51200が設定できる機種がある時代。ISO12800にも届かない高感度は、数字だけ見ると物足りなさがある。しかしISO800までは、ISO100とほぼ同じ仕上がり。ほとんどノイズ感がない。ISO1600で拡大するとわずかにノイズが見られる程度。ISO3200からノイズが目立ってくるが、無理にノイズを消すことをしていないため、被写体のディテールが損なわれていない。

以下のサムネイルは青枠部分の等倍切り出しです
ISO100
ISO200
ISO400
ISO800
ISO1600
ISO3200
ISO6400
ISO12500

 またノイズ自体も不自然さがなく、例えばISO6400でモノクロにすると、フィルムの粒子を思わせる雰囲気があり、表現によっては効果的になる。主観にもよるが、通常はISO1600まで常用域。ISO3200は実用範囲内、という印象だ。実用十分な高感度性能だろう。

遠景(解像力)

 レンズは標準ズームのVARIO-ELMAR-T f3.5-5.6/18-56mm ASPH.(35mm判換算で27-84mm相当)と、単焦点のSUMMICRON-T f2/23mm ASPH.(35mm判換算で35mm相当)の2本を使用した。

 標準ズームは、この焦点域とF値を見ると、いわゆるキットレンズを思い浮かべる人がいるだろう。しかしこのレンズは、オールメタル製。ピントリングやズームリングにゴムを使わないところは、ライカMレンズを彷彿させる。手にした質感の高さや重量感は、ライカらしい高級感だ。23mmも同様に高級感のある仕上がり。どちらもシンプルなデザインで、ライカTによくマッチする。ズームリングもピントリングも、適度なトルク感でスムーズに回転し、快適な撮影が楽しめた。

 VARIO-ELMAR-T f3.5-5.6/18-56mm ASPH.の描写は、絞り開放からズーム全域で解像力が高い。画面四隅は中心部と比べるとわずかに甘さがあるものの、よほど拡大しないと気にならないレベルだ。またワイド側で絞り開放でも、周辺光量低下が少ないのも好感が持てた。

 SUMMICRON-T f2/23mm ASPH.も、絞り開放からシャープだ。しかも形の崩れない、自然なボケ味が楽しめる。35mm相当は、ライカMシステムでも50mmと並ぶ人気のある画角。日常の光景を作品に仕上げたくなるレンズだ。また大口径ながらコンパクトなので、携帯性に優れている点も見逃せない。

VARIO-ELMAR-T f3.5-5.6/18-56mm ASPH. 広角端
VARIO-ELMAR-T f3.5-5.6/18-56mm ASPH. 望遠端
SUMMICRON-T f2/23mm ASPH.

 2014年9月のフォトキナでは、これらに加えて広角ズームのSUPER-VARIO-ELMAR-T f3.5-5.6/11-23mm ASPH.と、望遠ズームのAPO-VARIO-ELMAR-T 3.5-4.5/55-135mm ASPH.も発表されたライカTシステム。これからの発展がとても楽しみだ。

まとめ

 ライカTはスマートフォンやタブレット端末などのスマートデバイスを日常的に使いこなし、ライカで作品を撮りたい人に最適なカメラだ。アルミ削り出しの美しいユニボディと、コンパクトで解像力の高いレンズを手にするのは、ライカTならではの悦びだ。またライカMアダプターTを使えば、ライカMレンズもライカTで使用できる。そのためすでにライカMシステムを愛用している人のサブとして、あるいはいずれライカMシステムを使いたい人の入口としてもおすすめできる。

作品集

 以下すべて、フィルム選択「標準」で撮影したJPEG。

バイクのハンドルなど、金属部分を見ると、とてもシャープで質感再現がとても高いことがわかる。また赤い壁のトーンも豊か。A3ノビのプリントでも余裕の画質だ。VARIO-ELMAR-T f3.5-5.6/18-56mm ASPH. / ISO100 / F8 / 1/160秒 / ±0EV / 45.4mm
逆光で葉を撮影。透明感のある仕上がりだ。また葉の先端のボケは形が崩れていない。背景のボケも良好だ。逆光でもフレアやゴーストがない点も好感が持てる。VARIO-ELMAR-T f3.5-5.6/18-56mm ASPH. / ISO100 / F5.4 / 1/160秒 / ±0EV / 50.3mm
望遠側でほぼ最短で撮影。絞りは開放。造花のバラの質感がよくわかる。遠景も近接も優れた描写力のレンズだ。またISO400に設定しているが、ノイズ感はほとんどない。VARIO-ELMAR-T f3.5-5.6/18-56mm ASPH. / ISO400 / F5.6 / 1/200秒 / ±0EV / 55.9mm
絞り開放でも甘さのないシャープな描写だ。ボケ味も申し分ない。マイナスに露出補正して、わずかにアンダー目にすると、落ち着いたスタンダードの色調に深みが出てくる。SUMMICRON-T f2/23mm ASPH. / ISO100 / F2 / 1/400秒 / -0.7EV / 23mm
明暗差のある条件でも白とびや黒つぶれしにくい。ライカTはシャッター音が静かなので、街中をさり気なく撮影できる。スナップに向いたカメラだ。VARIO-ELMAR-T f3.5-5.6/18-56mm ASPH. / ISO100 / F8 / 1/400秒 / ±0EV / 18.1mm
インド料理店のサンプルに、SUMMICRON-T f2/23mm ASPH.で思い切って近づいた。AFは特筆するほど速いわけではないが、日常の光景を撮るには不満を感じない。SUMMICRON-T f2/23mm ASPH. / ISO100 / F2.8 / 1/200秒 / ±0EV / 23mm
フィルム選択「スタンダード」は彩度が低めのため、鮮やかな赤いテーブルとイス以外はモノトーンに近い雰囲気。まるでテーブルとイスだけカラーのような写真になった。VARIO-ELMAR-T f3.5-5.6/18-56mm ASPH. / ISO400 / F5.6 / 1/100秒 / ±0EV / 55.9mm
夕暮れに空を見ると月が出ていた。ライカTはよく使うアイコンを設定したり、自分好みにカスタマイズすれば、撮りたい瞬間にすぐ反応できる。SUMMICRON-T f2/23mm ASPH. / ISO400 / F4 / 1/50秒 / ±0EV / 23mm

藤井智弘

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になる。現在はカメラ雑誌での撮影、執筆を中心に、国内や海外の街のスナップを撮影。公益社団法人日本写真家協会会員。