【新製品レビュー】Nikon 1 V1
ニコン初のミラーレスモデルNikon 1 V1が、弟分となるNikon1 J1とともに10月20日いよいよ発売される。ネーミングに“1”とあるとおり1インチイメージセンサーを搭載し、ミラーレスモデルとしては初となる位相差方式のAFを採用する。マウントはこれまでのFマウントとは異なる新しい規格であることも話題だ。
大手量販店での店頭価格は、広角単焦点レンズ1 NIKKOR 10mm F2.8の付属する薄型レンズキットで10万4,800円前後となる。
■重厚感あるボディとシンプルな操作系
ミラーレスモデルといえば、いわゆる“ビッグ2”からはこれまでリリースされてこなかった。両メーカーとも研究していることは明言していたし、ネットなどではその噂が絶えなかったのだが、他のメーカーが相次いで発表、発売する中なぜか沈黙し続けてきたのである。そのビッグ2のひとつ、ニコンから満を持してミラーレスモデル2機種の発売が開始された。今回紹介するNikon 1 V1はその上位に位置付けされるカメラである。
手もとに届いたNikon 1 V1はブラックモデル。細かな梨地のような表面に、艶を抑えた塗装が施される。質感は思った以上に高く、所有欲を大いに満たすものである。
筆者個人が所有するOLYMPUS PEN E-P3と見た目で大きさを比較すると、幅は小さいものの、高さ、奥行きはわずかに上回る。アクセントとなるのが、トップカバーより一段高くなった液晶ビューファインダー(EVF)の部分だ。この部分のシェイプについては、どちらかといえばネガティブな評価が多いようだが、実物を目にするとそれほど悪く感じられない。これはこれでありかなと思わせるものである。
何かと話題となったヘッド部のシェイプ。実際に手にすると、思ったほどカッコ悪くはないが、やはりフォトジェニックとはちょっといい難い |
ホールディングした印象は、見かけ以上に重量感があるもので、手のひらにしっかりフィットし、写真を撮る気にさせる。シャッターボタンの位置は標準的な大きさの手の筆者にはピッタリである。グリップはないものの、カメラ前面部の小さな膨らみが絶妙に指にかかり持ちやすい。それでも、よりしっかりとホールディングしたいと思うユーザーは、オプションのグリップ「GR-N1000」(8,400円)を購入するとよいだろう。
操作系については、非常にシンプルだ。トップカバーには電源、シャッター、動画撮影の各ボタンがあるのみ。背面には撮影モードダイヤル、十字キー(ロータリーマルチセレクター)を中心とするボタン類のほか、目新しいものとしてフィーチャーボタンとサムネイル/拡大レバーが備わるが、全体的に必要最小限といった感じだ。
さらに、ここまでシンプルにしたかと思うのが、撮影モードダイヤル。プログラムオートや絞り優先オート、シャッター優先オートなどいった我々が日常使うことの多い撮影モードの表示はなく、それらは静止画撮影モードに設定した後、メニューで選択を行なうようになっている。
撮影モードはメニューから設定を行う。正直にいえば、ちょっと面倒 |
ちなみに、撮影モードダイヤルに搭載されるモードは静止画撮影モードのほか、動画撮影モード、シャッターを切ると動きや構図の最適な画像5コマを自動的に記録するスマートフォトセレクター、同じくシャッターを切ると静止画と約1秒間の動画を記録するモーションスナップショットモードの4つが搭載される。個人的には、うしろの2つのモードは、Nikon 1 V1のユーザーを考えると、前述のプログラムオートや絞り優先オート、シャッター優先オートなどを差し置いてでもここに搭載する必要があったか少々疑問の残るところである。
シャッターを切ると静止画と約1秒間の動画を記録するモーションスナップショットモードを設定したときの画面。テーマとは、モーションスナップショット画像の再生時に流れるBGMのことで、「きらめき」「ゆらめき」「やすらぎ」「愛らしさ」から選択できる |
シャッターボタンを押した時の感触はよく、機械式(メカニカル)のシャッター音も心地よい。連続撮影コマ速は、機械式で最高5コマ/秒を実現。電子式シャッター(エレクトロニック)を選択すれば、AFの追従する10コマ/秒のほか、AF固定の最高60コマ/秒も可能とする。機械式シャッターと電子式シャッターはメニューから任意で選ぶことができる。
なお、電子式シャッターを選ぶと無音撮影も可能で、演奏会などの撮影では重宝しそうだ。先のスマートフォトセレクターおよびモーションスナップショットモードでの静止画撮影も電子式シャッターによるものとなる。
液晶ビューファインダーを内蔵するのもNikon 1 V1のセールスポイントのひとつ。0.47型TFT液晶、カラーフィルター方式で約144万ドットとなる。スペックからエプソン製の液晶パネルを使用しているようである。のぞいた印象では、ファインダー像はちょっと小さ目。もう一回りほど大きいとさらに見やすくなったことだろう。とはいえ高精細のうえコントラストが高く、画像自体はたいへん見やすい。ピントの状況の確認なども比較的容易である。
液晶ビューファインダーは0.47型TFT液晶、約144万ドット。高精細でコントラストが高く見やすい。視度調整機能が付属する。アイピース横には、液晶モニターと電子ビューファインダー切り換え用アイセンサーが備わる |
アイピース横にはアイセンサーが備わり、のぞくと液晶モニターから液晶ビューファインダーに自動的に切り換わる。切り換わるタイミングはのぞいて一瞬タイムラグがあった後となるが、そこが改善されるとより一層使いやすく感じることだろう。
カメラ背面の液晶モニターは3インチ、92万ドットとなる。
ストロボレスとしているのもこのカメラの特長だ。トップカバーにあるNikon 1 V1専用のマルチアクセサリーポートに、専用のスピードライト「SB-N5」(1万7,850円)を装着する。個人的には同社を代表するニコンFやF2、F3の専用シューを思い出してしまった。このポートには、GPSユニット「GP-N100」(1万3,650円)の装着も可能としている。
トップカバーにあるマルチアクセサリーポートには、専用のスピードライト「SB-N5」やGPSユニット「GP-N100」の装着が可能。写真では、奥のほうに接点がわずかに見える。専用のカバーが付属する | インターフェースは、上よりマイク、HDMI、AV/OUTとなる。マイクの端子は、ステレオに対応する |
ストラップ用のリングの幅は、一眼レフ用のものとくらべると一回り小さい。当然、使用するストラップの幅も狭いものとなる | 撮影時の液晶モニターの画面。格子線を表示させている。電子ビューファインダーの表示も同じだ |
■1インチセンサーの実力は?
マウントはNikon 1マウント。これは次に述べるイメージセンサーが1インチとなったことで、今回新たに採用されたものである。従来のFマウントよりも直径は一回り小さい。電気的な接点は、Fマウントが内側上部にあったのに対し、Nikon 1マウントは下部に備わっている。レンズ取り外しボタンの位置、装着および脱着するための回転方向は両者同じなので、従来からのニコンユーザーは同じ感覚でレンズの交換ができるはずだ。フランジバックは17mm、焦点距離倍数は2.7倍となる。
Nikon 1 V1に搭載される「スーパーハイスピードAF CMOSセンサー」は、横13.2mm、縦8.8mm の1インチサイズとなる。フォーマットの呼び名は、フルサイズのFX、APS-CサイズのDXに対し、CXという。有効画素数は1,010万画素。センサーサイズが小さい分、無理に画素数を追い求めていないのは好感の持てるところだ。感度はISO100からISO3200まで。拡張機能でHi(ISO6400相当)まで設定を可能としている。
ニコン独自の1インチセンサーを搭載する。横13.2mm、縦8.8mmでアスペクト比は3:2。有効画素数は1,010万。一部の画素を位相差方式用のAFセンサーとして使用する | レンズ側のマウントの比較。大きさが異なることが分かる(左がNikon 1、右がNikon F) |
接点はCXマウントが下部に、DXマウントが上部に付く。レンズ取り外しボタンはどちらも同じ位置となり、装着および脱着時の回転方向も同じだ | Fマウントのボディキャップの意匠が変更になった際、「F mount」と記され話題となったが、その答えがコレ。CXマウント用のボディキャップには「1 mount」と記される |
最高感度はISO3200。拡張機能によりHi(ISO6400相当)の設定も可能としている。ちなみに高感度ノイズリダクションは、ONおよびOFFから選択を行なう |
センサーが小さくなった分、気になるのが高感度特性や階調再現性だろう。個人的には高感度ノイズはよく抑えているように思え、現れるノイズも粒が揃ったような感じでさほど嫌になるようなものではない。高感度ノイズリダクションはONとOFFのみで、強さは選べないが、解像感の低下は少なく、安心して使うことができる。
階調再現性については、APS-Cセンサー並みとはいわないまでも、ハイライトおよびシャドー部の再現性ともそれに近いように思える。いずれも、搭載する画像処理エンジン「EXPEED 3」の力もありそうだ。
このセンサーの大きな特徴といえば、フォーカスエリア内の一部の画素を位相差方式のAFセンサーとすることだろう。従来のコントラスト方式にくらべ、一眼レフ同様高速のAFを可能としている。AFセンサーとした画素の部分は、画像を記録することができないため“ドットヌケ”となるわけだが、画像処理で補間するという。
実際そのスピードは偽りのないもので、気持よいほど速やかに測距を行なう。最近ではOLYMPUS PENシリーズのようにコントラスト方式でも速いAFは存在するが、それらを凌ぐものである。さらに、コンティニュスAFでの被写体追従性も一眼レフに近いものがある。
フォーカスポイントは73点。暗い被写体用としてコントラスト方式のAFも合わせて搭載している。
フォーカスポイントは73点。コントラストAFも併用できる |
そのほかの注目できるところとしては、バッテリーだろう。ミラーレスモデルはボディサイズが小さい分、バッテリーも容量の小さいものを積むことが多い。しかし、常時液晶モニターあるいは液晶ビューファインダーを点灯させているため、持ちは決してよいとはいえない。
Nikon 1 V1では、同社のデジタル一眼レフカメラD7000のものと同じEN-EL15を採用する。今回のレビューでも、作例に400カットほど撮影し、このカメラ自体の撮影およびテキストの執筆時では電源を入れたままにしておくことが多かったが(空シャッターは幾度も切った)、最初の充電で十分間に合ったほどである。D7000のユーザーならバッテリーを共有できるのもうれしいところだ。
バッテリーは、D7000のものと同じ大容量のEN-EL15を採用。持ちがよく、昼間の撮影なら終日1個で対応可能だ | 同社のデジタル一眼レフカメラと同様、バッテリーの残量、および劣化度も確認できる |
撮影時に気になった部分といえば、なぜかAEブラケットが搭載されていないことである。センサーサイズが小さい分、レタッチ耐性は低く、RAWフォーマットからのJPEG/TIFF生成時も含めなるべく調整は避けたく感じる。そのため、スナップや風景撮影などではAEブラケットで撮影し、適正と思われる画像をピックアップしたほうが何かとよいのだが、そのような使い方ができないのである。Nikon1 J1と異なり、ベテランのユースも考えているのであれば、なおさらAEブラケットは必要だろう。次のファームウェアアップデートでは是非対応してほしいところである。
ファームウェアの現時点では全てバージョン1.00。個人的には次のファームアップでAEブラケットの搭載を期待したい |
■単焦点から高倍率ズームまで4本のレンズを投入
Nikon1シリーズには、今回4本のレンズが用意された。広角単焦点レンズ「1 NIKKOR 10mm F2.8」、標準ズームレンズ「1 NIKKOR VR 10-30mm F3.5-5.6」、望遠ズームレンズ「1 NIKKOR VR 30-110mm F3.8-5.6」、そして高倍率ズームレンズ「1 NIKKOR VR 10-100mm F4.5-5.6 PD-ZOOM」となる。いずれもコンパクトに仕上がっており、CXフォーマットならではといったところだ。
広角単焦点レンズはパンケーキタイプ、標準ズームと望遠ズームは沈胴タイプとなり、フォーカスリング上にあるボタンを押してレンズを繰り出して使用する。
広角単焦点レンズ1 NIKKOR 10mm F2.8を装着。フォーカスリングのように見えるローレット部はダミー | 標準ズームレンズ1 NIKKOR VR 10-30mm F3.5-5.6を装着した状態。ズームリングはワイド端側にセットしている |
望遠ズームレンズ1 NIKKOR VR 30-110mm F3.8-5.6を装着。テレ端にズームをセットした状態 | 電動式のズーミング機能を備える高倍率ズームレンズ1 NIKKOR VR 10-100mm F4.5-5.6 PD-ZOOM。このレンズも沈胴式だが、ズーム同様モーターで繰り出す |
今回の4本のレンズで驚かされるのが、いずれもフォーカスリングがないところだ。1 NIKKOR 10mm F2.8の鏡筒にはローレットが刻まれているが、それはダミーで回転はしない。
マニュアルでのフォーカスを行なうには、ロータリーマルチセレクターの下ボタンを押し、AFモードをMFに。ロータリーダイヤルの回転でフォーカスを行なうという、ちょっと面倒くさいものとなる。せめてAFモードの切り換えを同社のデジタル一眼レフカメラのようにレバー操作によるものにしてほしく感じるが、ボディをシンプルに見せるには致し方なかったのだろう。
最後に動画機能を見てみよう。1,920×1,080ピクセル(60i)のフルHD撮影に対応する。ステレオによる音声記録も可能だ。特筆すべきところとしては、640×240では400fps(再生30p)、320×120では1200fps(同)のスローモーション撮影も可能としており、動画表現の可能性の幅は広い。
■まとめ
Nikon 1 V1の登場では、そのセンサーサイズにガッカリした読者も多かったのではないかと思う。筆者自身も心待ちにしていただけに、当初少なからずショックであった。
しかし、これはニコンというカメラメーカーが、真剣にカメラの楽しみ方や在り方といったものを考えた結果からではないかと、このところ考えている。というのも、撮影の可能性を考えた場合、一眼レフカメラはミラーレスモデルの代わりになるけれど、ミラーレスモデルは決して一眼レフカメラの代わりにはならない。だったら、ミラーレスモデルはミラーレスモデルなりに、撮る楽しさに重きを置いた性能や機能でまとめあげたほうがよいと判断し、1インチセンサーのNikon 1 V1を世に送り出したように思えるからだ。
ちなみに、1/2.3型のイメージセンサーを搭載するペンタックスQも同様の考えのように思える。この考えに、今の私は強く同調してしまうとともに、ミラーレスモデルの本来のスタンスが見えて来たように思える。
先の震災によって、Nikon 1 V1の発表および発売は2カ月ほど遅れたと聞く。しかしNikon 1の登場で、ミラーレスモデルの勢力図が大きく変わることは間違いなさそうだ。
■実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
・ピクチャーコントロール
・感度
・作例
【2011年10月17日】交換レンズ装着時の写真が誤っていたのを追加しました。抜けていた1 NIKKOR VR 10-100mm F4.5-5.6 PD-ZOOMも追加しています。
2011/10/17 00:00