新製品レビュー

Canon EOS R5(前編:単写編)

“5”らしい密度感 一眼レフキラーとなり得る高レスポンス

2020年2月の開発発表などから、その存在が明らかになっていたキヤノンのフルサイズミラーレスカメラEOS R5。7月9日に先日紹介したEOS R6とともに詳細がアンベールされました。7月30日よりEOS R5は発売されているのですでにその実力を知っている人も少なくないことと思います。前回はEOS R6についてお伝えしましたが、今回も前後編にてEOS R5のインプレッションをお伝えしていきます。前編は、スナップメインの単写編です。それではさっそくファーストインプレッションから、撮影時の感触や実写結果についてお伝えしていきたいと思います。

EOS R6とのスペックの違い、EOS R6のレビューについては以下の記事もご参照ください。
・スペック比較:解説:キヤノン「EOS R5」と「EOS R6」の違い
・EOS R6レビュー:Canon EOS R6(前編:単写編)
・EOS R6レビュー:Canon EOS R6(後編:連写編)

ファーストインプレッション

EOS R6と同じ感じの元箱に既視感と若干の寂しさを覚えつつ、対面したEOS R5はEOS R6と比べて明らかにワンクラス上の質感と風格を放っていました。「金属外装だから」という理由で矛を収めるには不十分な気がします。眺めているだけでも想像以上に差を感じたので「EOS R6が本命だろう」と考えていた筆者の気持ちは早々に揺らぎはじめました。

手にすっぽりと収めてみると、EOS R6と比べて約50g重いってのもありますが、ソレ以上に手に伝わってくる質感が高く、内部が「密」な感じになっている印象で手には“確かな安心感”。この感じは確かに「5」であります。

EOS R6を華奢に感じたわけではありませんでしたが、R5に触れてみるとR6の外装をちょっとだけチープだなと思ってしまうのは事実。

ボディをグルリと見渡してみるとシンクロ接点が設けられていますし、メディアスロットの防滴処理もシッカリしている印象です。なにより後ダイヤル(サブ電子ダイヤル1)と背面ダイヤル(サブ電子ダイヤル2)の操作感が明らかにワンランク上。「ミドルクラスとは違うのだよ」というキヤノンの主張が聞こえてきそうです。「5」の系譜に連なる製品だと、同社が自信を見せている理由がよくわかります。

前回のEOS R6をレビューした際の感触的な違いを簡単にまとめると、表面の仕上げの微妙な違いなのか、EOS R5には同R6にはなかった「EOS 5Dっぽさ」が濃厚に感じられ、これは確かに「5である」と理解させられました。

しつこく「5だ」と繰り返したのは、日本では5系っぽい雰囲気で登場したEOS Rには感じなかったことだから。

外装については耐衝撃性の観点からポリカーボネートをはじめとするプラ系素材の方が実用面では優れていると、筆者は考えています。というのも、金属外装は衝撃を受けた際の力の減衰性がプラ系素材ほどには良くないので、大きな衝撃を受けた時の応力をどう分散させていくか? という点において全体の設計が大変です。

一方で熱容量や熱の移動、つまり放熱性(熱伝導)に関わる部分では、プラ系と比べて金属外装に優位性があります。その優位性がアダとなる場合もあり、例えば真冬の撮影では熱伝導の高さが災いしてどんどん熱が逃げていき、三脚使用時には三脚や雲台の素材にもよりますがボディ底面部や三脚ネジを伝って豪快に熱が移動します。分かりやすく言えば三脚が大きなヒートシンクやラジエーターみたいな役割になるということです。

外装をヒートシンクとして使う設計にするとしても、夏は陽射しで内部が温まっちゃうし、冬は前述の通り冷え過ぎたりといったメリットとデメリットが背中合わせになってきます。カメラの場合、PCのように冷却性能だけを追求する訳にもいきませんので、そうしたバランスを探る難しさがあるわけです。

だってカメラはタフな状況での使用も想定されているのに、精密機器だからね。

さらに言えば防塵防滴にも対応することも求められてくるわけで。耐衝撃への配慮も含めると、設計の難易度は非常に高くなっていきます。なので、設計者は「煙突(放熱塔)生やせれば良いのに……」とか「いっそのことペルチェ素子載せちゃう?」って一度は考えたんじゃないかな?

とまぁ、素材の選択にしろ設計にしろ、これらの「得手不得手」を考慮した上で、結果的にEOS R5では最適解として金属外装が採用されるに至ったのだと思います。

1点だけ悲しかったところを挙げます。それはクイック設定画面のカスタマイズです。EOS 5D Mark IVにあったので当然EOS R5にもあるだろうと思っていたのですが、EOS R6に搭載されていないことを知った時は仕方無き事、と思っていましたが、EOS R5でも非搭載だったことは少々残念に感じました。カスタマイズって有用かどうかは別として、“自分仕様に出来る”ってのがキモだと考えているからです。

EVF

EOS R5のEVFは、EOS R6と比べてワンランク上のスペックを有しています(R5は約576万ドット、R6は約369万ドット)。室内で簡単にチェックした感じでは、表示までのレスポンスがEOS R6より僅かに遅く感じました。具体的にはEVFを覗くと同時に表示されるEOS R6に対して、覗いてから一瞬のタイムラグ(つまり真っ暗)の後に表示されるEOS R5、という違いです。「実写フィールドでその違いが感じられるか?」について、実写時に少し注意して観察してみたいと思いました。

精細感については、正直そこまでの違いは感じないかなぁ、という印象。使い比べれば多少の違いは判別出来るハズとは思いますが、EOS R6のクオリティーは十分以上に高いし、そもそもEOS R6から約1週間のインターバルを経てから触れたEOS R5のEVFに対して「ヤバ! 全然違う……」とは微塵も思わなかったので、スペックの差から期待するほどの違いは無いのでは、と思っています。

一眼レフ並みのスリープ復帰

スリープ状態からの復帰速度はEOS R6とほとんど同等で、シャッターボタン半押しから、一眼レフ並みの感覚で撮影可能になるのは、実に気持ちが良いです。

EOS R6で気になったEV5を下回るシーンでは、やはりEOS R6と同じように表示レートが下がってカクカクした表示になりました。そういう仕様なのか、ファームウェアのアップデートで今後改善するものなのかについては、現時点では不明です。特に写真館やスタジオを含む室内でストロボを交えて撮影するようなポートレートシーンでは、大口径の単焦点レンズを積極的に選んだり、地明かりを少し明るめにしたほうが良いかも知れません。まぁ、カクカク表示でもOVFよりは暗所での視認性は遥かに高いと思いますが。

EOS R6のレビューでも記述した事だけど、手に伝わる感触が良いとソレだけでもモチベーションが上がります。クラシックカメラのフラッグシップモデルとか舶来モデルなどは、それこそ腰が痺れるほど気持ちイイからね。“理屈じゃない気持ち良さがあるカメラ”は、それだけで価値があるものです。

ということで、EOS R6しか知らないウチはまだ良かったけど、EOS R5に触れてみると「EOS R5こそが真打ち」という気持ちが強くなりました。「麻酔(分割払い)を打ってでもEOS R5にすべし」という悪魔の囁きが聞こえてくるようです。撮影前からこの調子なので、否応なしに期待は高まります。

単写スナップメインでの印象

EOS R6と同じく、起動やスリープ明けのレスポンスの良さが好印象。実写フィールドでのEVFの表示レスポンスについては、室内で簡単にチェックした時よりも一瞬のラグを感じました。EOS R6ではEVFを覗いた瞬間に真っ暗だったという記憶はあまりなかったのですが、EOS R5では結構ありました。EOS R5のEVFを単体で評価するなら、“不満を感じない範疇ではある”、と思いました。

これほどの表示クオリティと覗きやすさを持つEVFであれば、EOS R6と同様にOVFに拘らなくても良いと判断する人が、今後増えてくるのではないでしょうか。

ちなみに、で言えば筆者の感覚では覗き心地と表示クオリティだけで言うなら同じドット数のパナソニックのLUMIX S1シリーズが僅差で勝っているように思います。が、レスポンスに限って言えばEOS R5の方が上。どちらを選ぶ? と言われれば、レスポンスでEOS R5を推したいと思います。

少し撮影してみて「あれ?」と感じたのはAFの違い。AF性能についてはEOS R5とEOS R6で同等という話です。実際にAF制御のクセは、EOS R6と同様に1点やピンポイントではやはり奥気味ですし、ゾーンだと至近優先気味に動作している様子。ある程度しっかりとクセを掴んでシーンに応じて使い分けていくことが、歩留まりを向上させるポイントになりそう、という感想についても同様でした。

では、どこに違いを感じたのか。筆者は被写体の掴み具合に違いを感じました。追従性や捕捉性と言った方が分かりやすいかもしれません。ワンショットAFの時点では、EOS R6に比べて、ちょっと掴みが良いように思いました。

EOS R5 / RF50mm F1.2 L USM / 絞り優先AE(F1.8・1/1,000秒・-1.7EV) / ISO 100
EOS R5 / RF50mm F1.2 L USM / 絞り優先AE(F1.8・1/400秒・±0EV) / ISO 100
EOS R5 / RF50mm F1.2 L USM / 絞り優先AE(F2・1/1,000秒・-0.3EV) / ISO 100

あくまでも推測の域を出ないのだけれど、単純に発売時期の都合でEOS R6のファームウェアが最終版じゃなかった可能性も否定出来ませんし、EOS R6の試用時はレンズのファームウェアも最新のものではなかったので、その分の違いを感じたのかもしれません。

最終的な結論は発売後のEOS R6を同時比較する時まで出せませんが、ともあれ今回試用したカメラに限って言えば「EOS R5の方がAF性能はちょっと上っぽいな」という印象でした。

作例

ガラス越し、のような反射と透過のあるシーンはちょっと苦手。安定して反射側にAFさせたがる傾向がありました。MFである程度フォローしてやるとAF合焦するけど、再度AFさせるとまた反射側にAFします。

EOS R5 / RF24-70mm F2.8 L IS USM(70mm) / プログラムAE(F3.5・1/125秒・±0EV) / ISO 100

さすが約4,500万画素って感じの細部再現性。「EOS 5Ds Rを超える解像感」ってのは伊達じゃない感じ。まぁレンズも画質設計も違うから超えて当然って気もするけど、事実として非常に写ります。

EOS R5 / RF24-70mm F2.8 L IS USM(50mm) / プログラムAE(F8・1/500秒・±0EV) / ISO 100

壁の塗りの再現も凄いけど、扉の窓を見るとやたら解像していることが分かります。こういうの見ちゃうと「やっぱR5だな!」って思わされるよね。階調再現性もカメラJPEGとしてはEOSイチかなぁ。

EOS R5 / RF70-200mm F2.8 L IS USM(124mm) / プログラムAE(F5・1/400秒・+0.7EV) / ISO 100

ひまわりのうぶ毛が……。似たような条件でEOS R6でも撮ってたんだけど、EOS R6はココまで写ってませんでした。高解像機の良くないところというか、魔性なところは良いレンズが欲しくなるところだと思います。早急にシグマはRFマウントレンズを……、あれ?

EOS R5 / RF50mm F1.2 L USM / プログラムAE(F2・1/2,000秒・+2.0EV) / ISO 100

前述の通り苦手なシーン。AFで狙い通りにピントを合わせられなかったのでAF後にMFして撮ったけれど、EVFのクオリティ高いから拡大表示しなくてもピントはペーパーナプキンにバッチリ。

EOS R5 / RF24-70mm F2.8 L IS USM(70mm) / プログラムAE(F3.5・1/125秒・-1.0EV) / ISO 100

カメラの感じが良いので、筆者の趣味に振った撮り方をしたくなりました。デフォルト設定はあまり好みじゃなかったのでフィルター効果で「赤フィルター」を適用しています。

EOS R5 / RF70-200mm F2.8 L IS USM(119mm) / 絞り優先AE(F4・1/500秒・-1.3EV) / ISO 100

一眼レフだと慎重になる画面の周辺部でのAFも、ミラーレス機ならAF精度を全く気にすることなく撮れる。

EOS R5 / RF50mm F1.2 L USM / 絞り優先AE(F1.8・1/2,000秒・-0.7EV) / ISO 200

反射があっても顔があると迷わずビシバシAFするのが興味深いところ。画像認識技術が素晴らしい。顔+追尾優先AF、かなり凄いです。

EOS R5 / RF24-70mm F2.8 L IS USM(70mm) / プログラムAE(F3.2・1/80秒・±0EV) / ISO 100

なんか気になって撮った1枚。拡大してみると、木製の柱が過ごした年月がありありと表現されていて、自分がどこに惹かれて撮ったのか?を後から再確認できた。そういう解像度の使い方もあるんだな、という発見。

EOS R5 / RF24-70mm F2.8 L IS USM(56mm) / プログラムAE(F6.3・1/320秒・+0.7EV) / ISO 100

高感度性能

撮影日に約2週間の違いがありますが、気になる人もいるかと思い、EOS R6のレビュー時と同じシーンで撮影しました。マルチショットノイズリダクションについても同様にチェックしています。

EOS R5 / RF24-70mm F2.8 L IS USM(50mm) / 絞り優先AE(F11・1/60秒〜1/8,000秒・±0EV) / ISO 400〜ISO 51200
ISO 400
ISO 800
ISO 1600
ISO 3200
ISO 6400
ISO 12800
ISO 25600
ISO 51200

筆者の感覚では、EOS R6は予想以上に健闘しているな、という印象です。というのも、これまでキヤノンの30MP以上のセンサーの高感度画質は、他社機と比べた際にどうしても褒められなかったから。

でもそうした不安をEOS R5ではしっかり払拭していると感じました。さらにいえばEOS R5では画素数の多さをいかして、出力時に拡大率を低く抑えることが出来るので、ディスプレイで等倍表示するよりも実際には高いISO感度設定が使えると思います。

ISO感度を中間値にした場合
EOS R5 / RF50mm F1.2 L USM / 絞り優先AE(F1.6・1/80秒・-1.0EV) / ISO 640

解像性能についてもかなり細かいところまで分離出来ているので、スペックに対する期待を満足させてくれそうです。

ISO感度を高感度域にした場合
EOS R5 / RF50mm F1.2 L USM / 絞り優先AE(F1.8・1/80秒・-2.0EV) / ISO 8000
ISO感度を高感度域にした場合
EOS R5 / RF50mm F1.2 L USM / 絞り優先AE(F2.8・1/80秒・-0.7EV) / ISO 10000

マルチショットノイズリダクション

EOS R6の時と同じ船が停泊していたので、同様にマルチショットNRのテストをしてみました。レンズは前回とは違ってRF24-70mm F2.8 L IS USMを使用しています。

画像を見るとISO 3200以上でNRの効果が明確になっていると思います。が、高解像故なのか拡大するとちょっとモヤッと感が出ているような……。鮮鋭感を重視するなら感度設定はISO 1600まででワンショット、ISO 6400以上でノイズ感の低減を重視するならマルチショットNRという使い分けが筆者的には出来そうです。こうやって見るとEOS R6の高感度画質はなかなかに魅力的。

EOS R5 / RF24-70mm F2.8 L IS USM(50mm) / 絞り優先AE(F11・1/125秒〜1/4,000秒・±0EV) / ISO 1600〜ISO 51200
ISO 1600
NRなし
NRあり
ISO 3200
NRなし
NRあり
ISO 6400
NRなし
NRあり
ISO 12800
NRなし
NRあり
ISO 25600
NRなし
NRあり
ISO 51200
NRなし
NRあり

バッテリーのもち

EOS R6のテスト時と同じく電源をあまり切らずに、デフォルトの電源設定で、ほぼEVFを使用し、メカシャッターによる単写オンリーで撮影してみたところ、UHS-IIのSDカードを使用した場合で約500ショット(撮影時間は5時間弱)撮影後のバッテリー残量は平均して15%程度でした。

エコモードで同様の撮影スタイルでトライしてみたところ、500ショットで残量36%でした。なので筆者の使い方では通常設定で550ショット、エコモードでは650ショットくらいを目安にバッテリー交換するのが安全な運用になりそうです。

EOS R6と比べるとカタログスペックの差と同様に、約10%程度EOS R5の方がバッテリーの消費が多い感じです。さらに言うとα7 IIIやα7R IVなどのNP-FZ100バッテリーを使うカメラと比べるとEOS R5の方がバッテリー消費は大きそうです。

ちなみにエコモードにせず、EVF表示を滑らかさ優先にすると、単写で400ショットはちょっと無理かもしれません。もちろん連写したりコマメに電源管理すれば達成できるかも? とは思いますが、試した限りでは1時間半程度のスナップ撮影で電源OFFせず100ショットして平均約40%のバッテリー消費でした。

ちなみにスマホアプリ(CameraConnect)を使い、Wi-Fiに接続した場合は、かなりバッテリーを消費する感じ。“画像チェックに熱中していると20%程度はサクッと消えてなくなる”と思っておくと、肝心な時にバッテリー残量が無くなっているという悲劇を回避出来ると思いました。

ということで、静止画の撮影のみの使用であっても、丸一日撮影を楽しもうとすると、EOS R6と違ってEOS R5は予備のバッテリーをバッグに忍ばせておかないと終盤はちょっと落ち着かないかもしれません。

手ブレ補正

EOS R6の時はレンズのファームウェアが間に合わなかったので本来の性能を発揮出来ていませんでしたが、“今回は違う”、ってことで試したら、なんだか不安になるくらい強力でした。レンズ側と協調制御による手ブレ補正ですが、ガッチガチに止めようと思うと1秒程度の露光時間が実用上の限界にはなるけれども、使えるレベルで良いなら2秒以上の露光でも楽勝です。不完全な状態のEOS R6ですら感動的だったのに、本当に驚きました。これが第2世代に突入したEOS Rシリーズの真の実力なのでしょう。

EOS R5 / RF70-200mm F2.8 L IS USM(70mm) / プログラムAE(F11・0.8秒・±0EV) / ISO 100
EOS R5 / RF70-200mm F2.8 L IS USM(34mm) / プログラムAE(F6.3・1.3秒・-0.3EV) / ISO 100

暗所AF性能

前回(EOS R6)と同じ被写体と環境で暗所性能をチェックしました。大体EV-5くらいのシーンに地明かりを設定しています。EOS R6と同じ構図にするとAF出来なかったので被写体を90度回転させて若干光源に近づけてAF位置も画面中心寄りに設定。僅かに光源の出力を上げています。

テストは、それでもAF出来たり出来なかったり、というほぼ低照度環境における限界といえる条件で実施しました。公開されている、EOS R6とのスペック差は0.5EVだけど、感覚的には0.5EV以上1.0EV未満の差があるように思います。それでも半端なく凄いんだけどね。

EOS R5 / RF50mm F1.2 L USM / マニュアル露出(F1.2・4秒・±0EV) / ISO 3200

総合的な感想—今回分の撮影を終えて

EOS R5を一言で表現すると若干乱暴な言い方ですが、“ナチュラル・ボーン・DSLR・キラーズ”、つまり“生まれついての一眼レフ殺し”、となりそうです。“ナチュラルボーンキラーズ”は映画のタイトルにもあるよね。他にも“ナチュラルボーンマスター(生まれついての達人)”こと武藤敬司選手を連想する方も多いことと思います。ちなみに筆者は後者寄りです。どうでもいいですね。

「それだけ特別な存在なんだ」って言うと大袈裟なんだけれども、ほとんど全ての部分が一眼レフの上位互換になった初めてのカメラ、という気がしたので引用しました。なのでEOS R6以上に「山が動いた(キヤノン、本気出した)」って感じ。良い意味で裏切られたような、非常に清々しい気持ちです。

ちゃんとEOS 5Dクラスの質感があるし、手に触れる部分やEVFの覗き心地、操作に対するレスポンスなどの使い心地に至るまで色々な部分が本当にハイレベル。EOS R6で撮影した際にも思ったことですが「一眼レフがミラーレス機へと進化したらこうなるんだろうな」っていう期待に応えたカメラに仕上がっています。

今までは「ミラーレス」っていうと、突然変異体というかニュータイプというか、カメラという括りでは同じなんだけど根っこの部分が別の「違うジャンルの製品」っていう感じがずっとしていました。

ひょっとすると「シェアの競合を避けるために、あえてミラーレスと一眼レフで違う文法を採っていたのか?」と邪推したくもなるほどの違いを、今回第2世代となったEOS Rシリーズから感じました。同じキヤノンの製品で例えて言うなら、EOS Mシリーズを引き合いに出すと分かりやすいかも。EOSの名字は持ってるけど「えーと、IXY DIGITALさん宅のお兄ちゃんかしら?」って感じが強いEOS Mシリーズに対してEOS R5や同R6は「あら、EOS 5D Mark IVさんところの息子さんね?」ってすぐに分かるくらいに使用感が違います。こうした例えで表現することに対しては非常に悩みましたが、それだけの覚悟を製品から感じたので、あえてこのような表現をしています。

ミラーレス機って「コンパクトでハンドリングも良さそうだから導入したけど、なんだかパッとカメラをとり出して撮影する機会が減ったような気がする」っていう人が、筆者の周りに限ってみてもワリといます。そういった人にこそ手にとって欲しいカメラだと感じました。

ところで、「チリ」のあるデザインってカメラでは凄く新鮮に見えます。EOS Rも、EOS R6もそうでした。が、正直に言えば賛否ある意匠だと思っています。EOS R5を、ためつすがめつ眺めていると「チリのクリアランスが均一じゃないから、なんだか精密機器って感じが希薄」という印象を抱きました。これはあくまでも筆者の感じ方では、という話ではありますが、50万円に迫ろうかという高価格帯にある製品にとって「何故チリのある意匠にしたのだろう」という疑問は、ネガティブな要素であるように思います。公式Webページでは「細部まで精緻化されたデザイン」って掲げているんだから知りたいよね、パーツをわけたり、チリを織り込んだ意匠を採用した理由が……。

だって約50万円だもん。ここまでくれば、あと2、30万円くらい誤差みたいなものだから、少し背伸びすればハッセルブラッドやライカにだって手が届く。この2社の製品にはどこかクラフトワーク的な物語があるし、元箱だって豪勢で頬ずりしたくなる逸品。スペック以外にも「物語」が欲しいと思うのは筆者だけでしょうか?

文中、逐次使用感をEOS R6と比べながら書いてきていますが、数日間にわたって撮影してみた感想をまとめると、AFと質感以外はEOS R6の方が、筆者にとっては好感触でした。EOS R5は画素数からくる自由度の高さ――例えば「1.6倍クロップ撮影でも17MPある」みたいな余裕であったり、精度の高いAFは、使っていて実に気持ち良いものです。

対して、EOS R6を好ましく思った点を挙げると、例えばモードダイヤルの有無があります。やはり、モードダイヤルには操作性の良さがあると思えます。「Fvモードでの運用に慣れてしまえば全然気にならないのでは?」と考えて、積極的にFvモードを使いましたが、それでも筆者にはモードダイヤルでAvモードやTvモードに切り替えて使った方が気持ちの切り替えも出来るし、迅速に操作できる感じがあって肌に合うという印象です。1カ月程度使いこんでみるとまた違った感想になるかも知れませんが……。もちろん、モードダイヤルがあると何かに引っ掛けた際に破損のリスクがある、という考えもあるので使用スタイルによるところではあります。

他にはデータハンドリングの良さと高速性。EOS R5の画像をチェックするのは「こんなに写るの?」という驚きがあって楽しいですが、楽しいのは200枚くらいまで。それ以上の枚数となるとPC負荷の大きさからストレスが溜まりました。EOS R6はサクサク表示され、連写画像であってもピントチェックが捗りましたが、EOS R5はそうはいかず「やはり45MP機の画像は重いのだ」と否応なしに気づかされます。

参考までに筆者のPC環境はiMac 27インチ(Late 2015)です。プロセッサは3.3GHzのCore i5(Core i5-6600:第6世代/Skylake)で、メモリは32GB。GPUはAMD Radeon R9 M395。内蔵ドライブは2TBのフュージョンドライブ(SSD領域128GB)です。もちろん、最新世代に比べれば非力である事は否めませんが、画素数が24MPクラスのデータであれば現在でも仕事に使って不満のない性能です。

こうした作業時のレスポンスは大量に撮影する人ほど顕著に感じられる部分なので「日々の積み重ね」という観点でみると少し考えさせられるものがあり、カメラ性能だけを見て「良いぞ!楽しいぞ!」とは言えない気持ちになります。

次回は高速性について触れたいと思います。

豊田慶記

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。