新製品レビュー

Canon EOS 90D(実写編)

ミラーレスの実用性も併せ持つ本格一眼レフ

ミドルクラスながらAPS-Cサイズの約3,250万画素CMOSを搭載したデジタル一眼レフ、キヤノンEOS 90D。オールクロス45点AFや約10コマ/秒の連写性能を備え、ライブビュー時はデュアルピクセルCMOS AFによるミラーレス機並みの高速AFを可能にしている。

また、ガッチリしたボディや視野率100%ファインダー、タッチパネル式のバリアングル液晶モニターを装備。Bluetoothでスマホとの常時接続も可能だ。仕様の詳細は、先にお届けした外観・機能編をご覧いただきたい。

それでは、EOS 90Dを実際に使用した印象はどうだろうか。レンズは、キットレンズである「EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USM」を使用した。

実写

小さな川に架かる橋から撮影。遠くのビルや、木々の枝や葉もよく解像している。レンズも高倍率ズームながら解像力が高い。さらに高性能レンズを使用すれば、より高い解像力が得られそうだ。また天気は生憎の曇りだが、空の階調再現も申し分ない。

EOS 90D EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USM(18mm) ISO 100 F8 1/80秒

フルサイズより小さい撮像素子で3,000万画素を超えると、解像力は高くても質感再現は劣ると思いがちだ。しかしEOS 90Dの3,250万画素CMOSとDIGIC 8の組み合わせはダイナミックレンジが広く、車の曲線が見事に表現できた。マルチコントローラー1による測距点移動もスムーズに行えて使いやすい。

EOS 90D EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USM(135mm) ISO 100 F5.6 1/125秒

一眼レフはクイックリターンミラーを内蔵しているため、シャッター音はミラーレス機より大きい。とはいえEOS 90Dは籠るような音で響かず、住宅地で見かけた光景をスナップするのも撮りやすかった。ミラーはフルサイズ機より小さく、防塵・防滴構造なので密閉性が高いのも理由かもしれない。

EOS 90D EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USM(74mm) ISO 100 F8 1/200秒

木製の扉にある、手の形をした金属製の取っ手が目に入った。素材の雰囲気を活かした写真を撮るのにも、EOS 90Dの高い解像力が威力を発揮する。同じく素材の雰囲気を重視したテーブルフォトのような撮影にも使ってみたいカメラだ。

EOS 90D EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USM(116mm) ISO 400 F8 1/30秒

ライブビューでも快適に撮れるカメラだが、強い逆光ではさすがに背面モニターは見辛く、ファインダーを覗きたくなる。この写真も自分の顔に直射光が当たっている状態だが、EOS 90Dの光学ファインダーはクリアで見やすく、思い通りの撮影ができた。

EOS 90D EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USM(135mm) ISO 100 F5.6 1/125秒

白っぽい壁に囲まれた道路標識。壁の階調は出しながら標識はつぶさないようにするため、オートライティングオプティマイザを「強」に設定した。いちいちメニュー画面から入らず、Qボタンとタッチでスピーディーな操作が行える。

EOS 90D EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USM(18mm) ISO 100 F11 1/125秒

レストランの窓に並べられたワインボトルを、手前に植木の前ボケを入れて撮影した。18-135mmのレンズを装着したEOS 90Dは決してコンパクトとは言えないが、それでも高倍率ズームレンズを装着した35mmフルサイズの一眼レフカメラより軽快に扱える。そのため街のスナップや旅写真でもフットワークを活かした撮影が楽しめる。

EOS 90D EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USM(135mm) ISO 400 F5.6 1/100秒

ライブビューに切り替えて、ウエストレベルで構えた。EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USMのようにデュアルピクセルCMOS AFが効果を発揮するレンズと組み合わせれば、ライブビュー撮影のレスポンスはミラーレス機そのものといえる快適さ。そのためアングルや撮影条件によっては、積極的に光学ファインダーから切り替えて使いたくなる。ライブビュー時の測距エリアも最大横約88%、縦約100%と光学ファインダーより圧倒的に広いため、ここでも画面の端にあるスクーターのヘッドライトにAFポイントを合わせた。

EOS 90D EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USM(18mm) ISO 100 F3.5 1/320秒

一眼レフカメラを使う大きなメリットのひとつが動体への対応だろう。光学ファインダーは動体を追いやすく、AFも追従しやすい印象だ。もちろん最新のミラーレス機は動体に強い機種もあり、EVFタイムラグもほとんど気にならなくなってきた。それでもまだ、動く被写体に合わせてカメラを振ったときのファインダーの見やすさから、一眼レフを手放せない人は多い。ここでは走ってくる都電を高速連写で狙った。EOS 90DはAFもシャッターもレスポンスが良く、シャキシャキと小気味よく撮れる。

EOS 90D EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USM(121mm) ISO 800 F8 1/400秒

APS-Cサイズで3,000万画素を超えるとなると、果たして高感度画質はどうなのだろうか。画素数が増えると、それだけ暗所撮影は苦手になるイメージが強い。結果として、ISO 800まではISO 100とほぼ同じ感覚で使用できる印象だった。ISO 1600からは画像を拡大すると高感度らしさが感じられるが、まだ気にならないレベル。ISO 3200から細かなディテール再現が難しくなり、ISO 6400は高感度らしいノイズ感がある。それでも、ここまでは常用できる画質だ。ISO 12800になると色調がくすんでくるが、それでSNSなどのWeb掲載には実用できるほど。拡張感度となるISO 25600は、ややカラーバランスが崩れてノイズ感も強く、緊急用という印象だ。ISO 6400で夜の建物を撮影すると、拡大しなければ高感度とは思えないほどの画質なのがわかる。APS-Cの3,250万画素でも暗所に強くなっているのを実感した。

EOS 90D EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USM(18mm) ISO 6400 F5.6 1/10秒

今やすっかりお馴染みになったフィルター機能も搭載している。EOS 90Dでは、ラフモノクロームやソフトフォーカスなど、11種類のクリエイティブフィルターを装備。その中でも注目なのが、HDRを使ったフィルターだ。「HDR絵画調標準」「HDRグラフィック調」「HDR油彩調」「HDRビンテージ調」の4種類から選べる。どれも3枚を連写し、合成とフィルター処理を経て個性的な仕上がりが得られる。ここではHDR油彩調に設定。木の枝の輪郭が強調され、水面の雰囲気も油彩画っぽさを感じる。合成処理に時間がかかるのが気になったが、ユニークな写真を手軽に楽しめる機能だ。

EOS 90D EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USM(50mm) ISO 4000 F5 1/1250秒

これから「一眼レフ」を志す人に

レンズ交換式カメラがミラーレス機の時代に移ろうとしている今、一眼レフであるEOS 90Dを使ってみると、改めて「カメラらしさ」を感じた。グリップを握り、クリアな光学ファインダーを覗きながらシャッターを切ると、クイックリターンミラーが動く音が聞こえる。長年一眼レフを使ってきた筆者にとって、EOS 90Dは親しみやすさが伝わってきた。

また、「本格派=一眼レフ」と思っている人もまだまだ多いだろう。そして「一眼レフ」という言葉もまた魅力的だ。それは半世紀以上に渡って日本のカメラメーカーがリードしてきた光学機器への特別な感情もあるのかもしれない。それでいてEOS 90Dには、最新のミラーレスカメラに匹敵するライブビュー機能も備わっている。これは一眼レフとミラーレスのハイブリッド機と言っても過言ではない。スポーツや鉄道は光学ファインダーで、瞳AFを活用したポートレートや三脚に据えて風景を狙う場合はライブビューで、など被写体によって使い分けができる。しかも3,250万画素の高精細で、高感度にも強い。

キヤノンの製品ラインナップではミドルクラスに位置づけられてはいるものの、画質も操作性も非常に高いレベルにある。すでにEOSの一眼レフシステムを持っている人だけでなく、スマホからステップアップして、これから「一眼レフ」で写真を撮りたいという人にも注目してほしいカメラだ。

藤井智弘

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になり、カメラ専門誌を中心に活動。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。