新製品レビュー

Panasonic LUMIX S1R(外観・機能編)

ハイエンド機らしい質感のフルサイズミラーレスカメラ

2008年にマイクロフォーサーズシステムの1号機、LUMIX G1を発表したパナソニック。一眼レフカメラとは異なり、クイックリターンミラーを持たないレンズ交換式のライブビュー機だ。いわゆるミラーレス機の歴史がここから始まった。

そのG1から11年、ソニー、ライカ、ニコン、キヤノンに続き、パナソニックもフルサイズミラーレス機を誕生させた。それが4,730万画素の「LUMIX S1R」と、2,420万画素の「LUMIX S1」だ。パナソニックは、これからフルサイズのLUMIX Sシリーズと、マイクロフォーサーズのLUMIX Gシリーズの2システムで展開していく。ほぼ同時期に登場したニコンZシリーズやキヤノンEOS Rシリーズがミドルクラスなのに対し、LUMIX S1RとS1はプロをターゲットにしたハイエンド機なのが特徴だ。今回はLUMIX S1R(以後S1R)を試用した。

ずっしりとした本格ボディ

スタイリングは直線的で、LUMIX G9 PRO(以後G9 PRO)に似たデザインだ。LUMIX Gが誕生して間もない頃はデザインに一貫性がない印象もあったが、現在はそれぞれのシリーズでまとまりが出てきたように感じる。S1RもすぐにLUMIXとわかる形だ。

一見すると、ボディもレンズも大柄なのが目立つ。LUMIX Gシリーズの大きさを見慣れた目には、とてもボリューミー。フルサイズ一眼レフカメラの上位モデルといった感覚だ。またバッテリーとメモリーカードを装填した際のボディ重量も1kgを超えるヘビー級。ミラーレスカメラというと小型軽量ボディをイメージしやすいが、S1Rはそれに当てはまらない。標準ズームレンズのLUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.を装着すると約1.7kgになる。

手にするとバランスは良く、数字ほどの重さは感じないものの、やはりずっしりした重量が伝わってくる。グリップも大きく、手が小さい人にはやや持ちづらいかもしれない。

ライカのLマウントを採用

マウントはライカのフルサイズミラーレスカメラ、ライカSLと共通のLマウント。ライカ、パナソニック、シグマの3社でLマウントアライアンスが締結されたのは大きな話題になったので、ご存知の方も多いだろう。S1RにはライカSLレンズが装着でき、ライカSLにもLUMIX Sレンズが装着できる。そしてこれから発売されるシグマのLマウントレンズも、ライカSL、LUMIX S1R/S1の両方に装着可能だ。

ここでは、S1Rと同時に発表された3本のレンズ、「LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.」、「LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.」、「LUMIX S PRO 50mm F1.4」を使用した。広角24mmから望遠200mmまでカバーし、明るい標準50mmも用意。キットレンズにもなっている24-105mmは1/2倍までのマクロ撮影も可能なので、多くのシーンはこの3本で対応できるだろう。実用的なラインナップだ。

なお、70-200mmと50mmのLUMIX S PROレンズは「Certified by LEICA」として、ライカ基準で製造された高級ラインだ。LUMIX GのレンズはLUMIXブランドとライカDGブランドがあるが、LUMIX Sには同じマウントでライカカメラ社のレンズもあるため、ライカブランドは使われていない。

4,730万画素+ボディ内手ブレ補正

S1Rの撮像素子は有効約4,730万画素の35mmフルサイズCMOSセンサー。高解像を引き出す光学ローパスフィルターレス構造や、センサー面の反射によるフレアやゴーストを防ぐARコートが施されている。しかもボディ内手ブレ補正も搭載し、ボディ単体で5軸補正+シャッタースピード5.5段分の効果、レンズ内手ブレ補正と併せたDual I.S. 2では5軸補正+6段分を実現している。画像処理エンジンのヴィーナスエンジンも新型だ。

カメラ上面はG9 PROと同じくステータスLCDを持ち、WB、ISO、露出補正のボタン配置も同じだ。

大きく変わったのが電源スイッチ。G9 PROではシャッターボタンと同軸だったのだが、S1Rは上面に移った。ところが、これが決して使いやすいとは思えない。右手の人差し指でも親指でも操作しづらく、スイッチを内側に押してオンというのも違和感がある。ミラーレスカメラは一眼レフカメラよりバッテリー消耗が激しいためマメに電源のオンオフを繰り返すので、G9 PROと同じようにしてほしかった。もしかして、シャッターボタン周囲は電源スイッチのパーツが入らなかったのだろうか。やや残念に感じた部分だ。

電源スイッチ横のイルミネーターボタンを押すとステータスLCDの照明が点き、暗所でもカメラの状態が確認できる。また背面の再生ボタン、Qボタン、戻るボタン、消去ボタン、DISP.ボタンも点灯する。

モードダイヤルとドライブダイヤルの位置もG9 PROと同じだ。ただG9 PROではモードダイヤル中央のロックボタンが、ロックとロック解除のトグル式だったのに対し、S1Rはボタンを押しながらダイヤルを回す方式になった。これは好みや慣れもあるので、どちらが良いかは一概には言えない。迅速さより確実な操作ではS1Rだろう。

モードダイヤル。下段がドライブモードダイヤル。

連続撮影もG9 PROと同じく「I」と「II」があり、それぞれ機能の割り当てが可能だ。例えばIに高速連写、IIに6Kフォト、などが設定できる。なお高速連写はピント固定で最高約9コマ/秒。AF追従連写は約6コマ/秒。4,730万画素の高解像機としては十分に高速だ。

ジョイスティックが使いやすい

コントロールダイヤルやファンクションを兼ねた十字ボタンなど、背面も基本的な操作レイアウトはG9 PROを踏襲している。特に使いやすいはジョイスティックだ。親指で測距点変更などがスムーズに操作できる。設置位置もG9 PROより外側になり、より自然に親指が掛かる。

ジョイスティック。

また本体が大柄な分、ボタンの配置や大きさに余裕を感じる。ボタンやダイヤルを押した感触も良好だ。操作部の感触がプアーだと高級感は下がるのだが、S1Rはハイエンド機らしい操作感が得られる。またダイヤルやタッチパネルなどの誤操作を防ぐロックレバーを装備。今回の撮影では特に有効そうなシーンはなかったが、スタジオで同じ設定のまま撮影する場合に便利そうだ。

ロックレバー。

背面モニターは、富士フイルムX-T3やX-H1などと同じ仕組みの3軸チルト式を採用。LUMIX Gシリーズではモニターを横に出すフリーアングル式が中心だったが、この3軸式はLUMIX初だ。3軸チルト式はレンズの光軸に近い位置でモニターを見られるのがメリットで、背面モニターで構図を決める際に違和感なく扱える。

圧倒的に優れたファインダー

S1Rの大きな魅力がEVFだ。有機ELパネルを採用し、"瞳の解像力に迫る"という約576万ドットの解像度を誇る。新型ヴィーナスエンジンによる120fpsのフレームレートは実に滑らかだ。明るさや色調整も可能。ファインダー倍率は0.78倍と大きく、V.MODEボタンを押すと0.74倍と0.70倍にも変更できる。G9 PROでは気になったファインダー像の歪曲もなく、他社も含めたすべての機種の中で、最も優れたEVFと言っても過言ではない。

側面のV.MODEボタン

ボディ前面にはFn1ボタン、Fn2ボタン、そしてFnレバーを装備。それぞれ機能の割り当てができる。Fnレバーは「1」を通常モード、「2」をサイレントモードにしておくと、音が気になる場所ですぐ無音撮影が可能になって便利だ。

メモリーカードはXQDとSDのダブルスロット。SDはUHS-IIに対応する。XQDは高速で読み書きでき、近々登場するCFexpressにもS1R/S1はファームウェアアップデートで対応するため、汎用性のSDと将来性のXQDという組み合わせにしたのだろう。スロットは、スロット1のXQDが下側、スロット2のSDが上側となっている。

端子は上からマイク、ヘッドホン、USB Type-C、HDMIだ。USB Type-C端子は充電のみならず、ケーブルから給電しながらの撮影も可能になっている。

バッテリーは新型の「DMW-BLJ31」。撮影可能枚数は通常設定で約340~380枚(24-105mmレンズ使用時)。USB端子の他、付属のバッテリーチャージャーでバッテリー単体の充電も可能。また、別売で電源供給用のACアダプター&DCカプラーも用意している。

バッテリーを装填するところ。
バッテリーチャージャーもUSB Type-C端子から給電する。

進化したAF機能

大きく進化したのはAFだ。225点マルチAFは自動認識機能を装備。AIのディープラーニング技術により、被写体を自動認識する。それは人体、顔、瞳だけでなく動物も認識。鳥、イヌ科、ネコ科の認識が可能だ。認識すると被写体を四角い枠で囲み、複数の場合はジョイスティックでメイン被写体の切り替えもできる。

変更したい機能がすぐ呼び出せるQボタンも、押した際の表示をLUMIX Gシリーズから一新。視認性が向上している。

Qボタンを押して表示されるメニュー。

またメニュー画面も新しくなった。やや階層が深くなった気もするが、タブが2列になったことでどのジャンルの機能を選んでいるのかわかりやすい。

そしてフォトスタイルには新たに「フラット」を追加。コントラストや彩度を低くし、柔らかい雰囲気の写真が撮れる。

ユニークな機能がHLGフォトだ。HDR動画に用いられるHLG(ハイブリッドログガンマ)方式で撮影した写真をHSP形式でRAWとJPEGに記録。HDRテレビやHDRモニターにHDMIケーブルで接続して、広いダイナミックレンジの写真が鑑賞できる。テレビも製造するパナソニックらしい機能だ。

G9 PROから搭載された、ボディ内手ブレ補正を活用して高解像の写真が撮れるハイレゾモードはS1Rにも採用。センサーをシフトさせながら8回撮影し、カメラ内で合成処理を行うことで4倍の画素数が得られる。S1Rは、なんと約1億8,700万画素相当だ。しかも2つのモードがあり、動いた被写体はスローシャッターのようにブレるMODE1と、動きのある被写体は合成処理を行わないMODE2が選べる。また記録はRAWのみ。あまりにデータ量が大きいため、カメラ内では処理ができないからだ。S1RのRAWに対応したSILKYPIXなどのソフトを使って現像する。

ハイレゾモード
ハイレゾモード内に、被写体ブレに対応する設定もある。

動画記録は最大4K60p。フルサイズミラーレス機で4K60pの内部記録が可能なのは、S1RとS1だけだ。ここもビデオグラファーのユーザーが多いパナソニックらしさが感じられる。

ハイエンド機の感触を実感

大柄で重いが、ホールドした時のガッチリ感やボタン類の操作感、ファインダーの視認性の高さやシャッターを切った感触は、さすがハイエンドと思わせるものだ。次回の「実写編」では、実際に撮影した際の印象をレポートする。

藤井智弘

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になり、カメラ専門誌を中心に活動。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。