新製品レビュー

PowerShot G1 X Mark III(実写編)

一眼レフ同等の画質性能 短い最短撮影距離や逆光耐性などレンズも優れる

「外観・機能編」でも説明した通りPowerShot G1 X Mark III(以下G1 X Mark III)は、キヤノンのコンパクトデジタルカメラの最上位に位置するフラッグシップモデルである。

主な特長は、前モデルとなるPowerShot G1 X Mark II(以下G1 X Mark II)の1.5型センサーがAPS-Cサイズセンサーへと大型化するとともに、G1 X Mark IIでは外付けだったEVFが内蔵され、それでいて約154gの小型・軽量化を達成していることだ。

APS-Cサイズセンサーとズームレンズを搭載したコンパクトデジタルカメラというのは、現状において稀有な存在。撮像センサーを大型化したことによってどのような進化があるのか、主に描写表現と使い勝手の点で見ていきたい。

新製品レビュー:Canon PowerShot G1 X Mark III(外観・機能編) ~小形軽量ボディでAPS-Cセンサーの描写が楽しめる

作品

G1 X Mark III最大の特長は何といっても大型化したAPS-Cサイズの撮像センサーである。デジタル一眼レフカメラにも採用されているAPS-Cサイズセンサーを搭載したということは、背景ボケの大きさもデジタル一眼レフと同等になるということ。

テレ端の焦点距離45mm(35mm判換算72mm相当)で猫を撮影した下の写真では、開放F値がF5.6と比較的暗めであるにもかかわらず、背景が大きくボケることで被写体が浮き上がり、立体的に表現されていることが見てとれる。小さなボディながら、デジタル一眼レフカメラにも匹敵する表現力を備えていることがG1 X Mark IIIの優れどころだ。

PowerShot G1 X Mark III / 1/500秒 / F5.6 / +0.7EV / ISO 100 / 絞り優先AE / 45mm

被写界深度が深くなる焦点距離15mm(35mm判換算24mm相当)のワイド端でも、被写体に近づいてF2.8の明るい開放F値を活かせば、下の写真のように背景を大きくぼかした表現が可能である。

PowerShot G1 X Mark III / 1/200秒 / F2.8 / +0.7EV / ISO 100 / 絞り優先AE / 15mm

猫の写真はバリアングル式の液晶画面を引き出しライブビューで撮影している。上下チルト式と違い、カメラが横位置だけでなく縦位置の場合であっても、液晶画面を見やすい位置に設定できる。

加えて、タッチパネルが採用されているので、小さなボディを右手に、引き出した液晶画面を左手に構えたうえで、左手の親指でAF位置をタッチしそのままシャッターを切るといった使い方ができ、非常に軽快かつ自由度の高い撮影ができた。

いつもなら「ちょっと撮り辛いな」と感じてしまうハイアングルでの俯瞰撮影も、小さなボディとタッチパネル採用のバリアングル液晶、そして速く高精度な「デュアルピクセルCMOS AF」のおかげで何の苦労もなく撮影することができた。

PowerShot G1 X Mark III / 1/320秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO 100 / 絞り優先AE / 15mm

撮像センサーが大型化したことによって、高感度性能もまた向上している。感度をISO6400に設定して撮影した画像では、極わずかな輝度ノイズの発生はあるものの、色ノイズの発生はほとんど見られず、十分な質感とシャープネスを保っていることがわかる。A4サイズやA3サイズにプリントしても、問題なく鑑賞できるだけの実力があると言えるだろう。

PowerShot G1 X Mark III / 1/40秒 / F5.6 / 0EV / ISO 6400 / 絞り優先AE / 30.8mm

G1X Mark IIIの高画質は、センサーの大型化だけではなく、搭載レンズの描写性能が優れていることも理由の1つだ。画面の周辺までコントラストとシャープネスは非常に高く、細部のディテールまで克明に再現した気持ちよい解像感をズーム全域で提供してくれる。

ボディとの最適化を図りやすい固定式レンズのアドバンテージという面もあるだろう。鮮鋭性が重要な風景写真などでもメインカメラとして十分に使うことができる。

PowerShot G1 X Mark III / 1/250秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO 100 / 絞り優先AE / 15mm

太陽などの強い光源を画面内に入れても画質を劣化させるようなゴーストやフレアはほとんど発生しない。交換不可の固定式レンズだけに、逆光耐性が高いことは嬉しいことである。

また、ほとんど真逆光の状態にもかかわらず、陰となったビルのシャドー部からハイライトとなる空の雲まで、黒つぶれや白とびを起こさず見事に豊かな階調を再現している点にも注目したい。

こうした広いダイナミックレンジも、APS-Cサイズセンサー・固定式レンズ・映像エンジン「DIGIC 7」が完璧に連携していることによるものだろう。

PowerShot G1 X Mark III / 1/1,250秒 / F5 / -0.3EV / ISO 100 / 絞り優先AE / 15mm

ワイド端ではレンズ先端から10cmまで近寄った接写が可能である。スモールサイズセンサーを搭載したコンパクトデジタルカメラなら大したスペックでないかもしれないが、APS-Cサイズセンサー搭載機で10cmと言うのは驚くべき近接撮影能力である。

デジタル一眼レフカメラに勝るとも劣らない高画質で手軽に接写できるのであるから、G1X Mark IIIならではの魅力ある表現としてぜひ活用したい。

PowerShot G1 X Mark III / 1/1,250秒 / F4 / +0.7EV / ISO 100 / 絞り優先AE / 15mm

一方、テレ端の最短撮影距離はレンズ先端から30cmとなっている。同程度の焦点距離をもつ交換式のAPS-C用レンズでも、このくらいの近接撮影は可能なことが多いので、こちらのスペックは月並みと言えるかもしれない。

ただ、内蔵EVFを使ってのライブビューによる「MF拡大機能」(もちろん液晶モニターでも可)やコントロールリングに割り当てたマニュアルフォーカスの操作性は、前モデルG1 X Mark IIより格段に向上しており使いやすい。

その意味でG1 X Mark IIIが「高画質な近接写真が(も)撮りやすいカメラ」であることに変わりはない。

PowerShot G1 X Mark III / 1/80秒 / F5.6 / -1EV / ISO 400 / 絞り優先AE / 43.4mm

60pフルHD動画(1,920×1,080ピクセル、59.94fps、35Mbps)も試してみた。1秒間の記録枚数が30p(30コマ/秒)の2倍となる60p(60コマ/秒)に対応しているため被写体の動きが滑らかで自然である。

また、G1X Mark IIIは光学式ブレ補正に電子式ブレ補正を加えた「ダイナミックIS」を強化しているため、手持ちでの撮影でも不自然なブレを起こすことなく高精細な動画を撮ることができた。

まとめ

外観がコンパクトデジタルカメラであるだけに、「まあそこそこの写真が撮れるのだろうな」くらいに考えながら撮影してしまったのであるが、出てくる写真がいちいち高画質なのでその度に驚いてしまった。

そう、見た目はコンパクトでもデジタル一眼レフカメラやミラーレスカメラと同等の写真が撮れる、それがG1X Mark IIIなのである。

それでいて使い勝手はコンパクトなカメラにありがちなチマチマしたものがなく、コントロールリングや電子ダイヤルの搭載、キヤノンらしくよく考えられたレイアウトによって、非常に具合よく思った通りの設定ができるのだから素晴らしい。

起動時や設定時のレスポンスやオートフォーカスなども早く快適で、まさに従来のコンデジの概念を打ち破る新しい感覚を覚えることができた。

小型・軽量ということでは同じようなコンセプトのミラーレスカメラと(価格を含めて)比較してしまいがちだが、もしも購入時に付属する標準ズームレンズしか使わないというのなら、各部を最適化して組み上げられたG1X Mark IIIにこそカメラとしての性能にアドバンテージがある。

コンパクトデジタルカメラの“最高峰”を選択したという所有欲も満たせるので一石二鳥というものだ。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。