切り貼りデジカメ実験室

FUJINON 13mm F1.1をPENTAX Q-S1に装着

8mmムービーカメラから超大口径レンズを移植

「PENTAX Q-S1」に「FUJINON 13mm F1.1」という超大口径レンズを装着。実はこのレンズ、1973年発売の8mmフィルムカメラ「フジカ シングル-8 AX100」に固定装備されたものだ。これをカメラ本体から摘出し「05 TOY LENS TELEPHOTO」の鏡筒を改造して仕込んでみた。「フジカシングル-8 AX100」は普及タイプの安価なムービーカメラだが、このレンズの潜在能力が相当であることが、今回の実験で判明した

フジカ シングル-8の超大口径レンズがデジタルで蘇る

中古カメラ店のジャンクコーナーで「フジカ シングル-8 AX100」というカメラを手に入れた。シングル-8 AX100は1973年に富士フイルムから発売された、8mmカメラだ。8mmカメラとは、8mmフィルムを使って、映画を撮るカメラだ。

映画の規格はフィルムの幅によって70mm、35mm、16mmとあって最も小型なのが8mmだ。ホームビデオが普及し始める昭和の終わり頃までは、アマチュア用ムービーは8mmが主流だった。富士フイルムは1965年に8mmフィルムを独自規格のマガジンに入れた「シングル-8」システムを開発し、フィルム、カメラ、映写機などさまざまに商品展開していた。

そして、1973年に発売されたのがAX100なのだが、このカメラはなんと、「FUJINON 13mm F1.1」という超大口径レンズを搭載しているのだ。F1.1クラスの超大口径レンズは、どのメーカー製も最高性能を誇り、非常に高価だ。しかしAX100はあくまで初心者向けの簡単カメラなのである。当時の値段を調べると2万2,600円とあって、同時代の普及タイプ35mmコンパクトカメラと同程度だ。

こんなクラスのカメラになぜF1.1の大口径レンズが搭載されているのか? 実はこのカメラは“暗さに強い”ことを最大の謳い文句にしていたのだ。同時発売されたISO200の高感度シングル-8フィルムをセットすれば、ろうそくの炎でも撮影が可能とされていた。

しかしあくまで初心者向け8mmカメラであるため、露出はオートのみで、ピントは固定である。つまりボタンを押すだけで誰でも簡単に撮影できるが、露出はおろかピント調整もできない。FUJINON 13mm F1.1は焦点距離が短いぶん被写界深度は深いだろうが、開放F1.1ともなればピントはそれなりにシビアになるはずだ。

しかし、そもそも画面サイズが小さい8mm映画は粒状性が悪く、またムービーはスチル写真ほどピンぼけが気にならないため、この仕様でOKと判断されたのだろう。

そのように一点豪華主義のAX100なのだが、その豪華すぎるレンズを現代のデジタルカメラに装着すると、どのような描写をするのか? を試してみたくなったのである。

幸いにもそのような実験にうってつけのカメラがあり、それが「PENTAX Q-S1」だ。このカメラはレンズ交換式ながら、1/1.7型という極小撮像センサーを採用しており、これがシングル-8の画面サイズ(5.79mm×4.01mm)と同クラスなのである。

というわけでAX100を分解してレンズを摘出し、PENTAX Q-S1に装着してその描写のポテンシャルを確認してみることにしたのだ。
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フジカシングル-8 AX100は1973年に富士フイルムから発売された、8mmフィルム(フジカシングル-8)を使用するムービーカメラだ。初心者向けでありながらFUJINON 13mm F1.1という超大口径レンズを搭載し“暗さに強い”ことをウリにしていた。それでいてピントは固定式で、露出はオートのみ、ファインダーはブライトフレームのない透視式、という至って簡素な仕様である。デザインは□と○を基調としたシンプルなもので、今見てもなかなかオシャレだ
撮影の際は、側面の蓋をパカッと開けてシングル-8フィルムのマガジンをポンとセットするようになっている。この簡単操作が、富士フイルム独自の8mmムービー規格「シングル-8」のウリだった。他にモーター駆動用の単3電池2本と、CdS露出計用の水銀電池を使用する
さて今回はAX100に装備されたレンズを本体から摘出し、PENTAX Q-S1に移植する改造を試みる。この2つは全く性質の異なるカメラだが撮影画面が極小サイズという点で共通しており、そのためレンズの転用も可能なはずなのだ
いよいよ工作に移るが、まずカメラ本体のネジを外し、前面カバーを外すと、内部メカが露わになる。レンズ前面に2枚の絞り羽根があってCdS露出計の針と連動し、光の強弱に応じて露出調節する仕組みになっているのがわかる。また、シャッターを駆動させるためのベルトとプーリーも見える。こうしたカラクリを見るだけで面白いのも、フィルムカメラの魅力だ
カメラ本体から、レンズを摘出したことろ。F1.1の大口径ながら、直径約15mmのミニサイズだ。しかし鏡筒は金属製で、しっかりと精密に作られている。このカメラの構造は合理的かつシンプルで、レンズも比較的簡単に取り外しできる。そのため今回は、いざとなったらカメラにレンズを戻すことができる可逆改造になった
次に、PENTAX Q用レンズ05 TOY LENS TELEPHOTOを用意した。スペックは18mm(100mm相当)F8で、ピント調節はできるが絞りは固定だ。このレンズは純正品ながら5,000円前後と安価で、改造のベースとしても適している。この鏡筒を改造してFUJINON 13mm F1.1を組み込むことにする
取りあえず05 TOY LENS TELEPHOTOのネジを外し、バラバラに分解してみる。レンズそのもの(右前)は非常に小さいが、大きめのレンズ枠パーツにはめ込まれ、これ以上は分解できない
05 TOY LENS TELEPHOTOのレンズ本体(右前)だけを削り取り、残ったパーツにFUJINON 13mm F1.1をピッタリはめ込むための穴開け加工をする。当然ながらこちらは不可逆改造になったが、取り出した超小型レンズはまた何かの改造に使えるかも知れない
加工したレンズ枠パーツにFUJINON 13mm F1.1をはめ込んで固定する
全てのパーツを組み立てると、Qマウント仕様のFUJINON 13mm F1.1が完成する――と言いたいところだが、実際にはカメラに装着してピント位置を確認しながら、何度か分解組み立てを繰り返し、少し無限遠オーバーに余裕を持たせる感じで調整した
完成したレンズを裏側から見たところ。後玉のカバーパーツは元々ちょうど良いサイズの穴が開いていて、加工は不要だった。マウントの電子接点と回路は取り除いてある。これがあると元の05 TOY LENS TELEPHOTOのExifデータが画像に記録されてしまうのだ
Q-S1に装着したところ、一見して違和感がない。ピントはMFで調節するが、絞りはF1.1の固定仕様だ。撮影前にメニューから「レンズ焦点距離」を「13mm」に設定すると、これに適した手ブレ補正が作動し、Exif情報にも反映される
参考までに「Qマウント改造FUJINON 13mm F1.1」(60mm相当、中)と「01 STANDARD PRIME」(47mm相当F1.9、左)と、「05 TOY LENS TELEPHOTO」(94mm相当F8、右)とを並べてみた。やはりFUJINON 13mm F1.1が最も口径が大きく、小さいながらもずっしりとした重みがある

テスト撮影

テスト撮影は無限遠と至近距離の2種類で行ってみた。また参考として01 STANDARD PRIMEと05 TOY LENS TELEPHOTOとの比較もしてみた。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
まずは、Qマウント改造FUJINON 13mm F1.1だが、予想以上に良く写っていて驚いてしまった。画面周辺はボケるが、中心部はなかなかにシャープだ。粒子の粗い8mm映画用のレンズとしては、完全にオーバースペックだと言えるだろう。このレンズの潜在能力を、現在のデジカメと組み合わせることで、引き出すことができたのだ
01 STANDARD PRIMEだが、さすがに純正の大口径標準レンズだけあって、絞り開放にもかかわらず隅々までシャープで、コントラストも高くスッキリした描写だ
05 TOY LENS TELEPHOTOだが、中心部のシャープネスはFUJINON 13mm F1.1と同等と言えるかも知れない。5,000円前後という実売価格を考えると、良く写っていると言えるだろう
次に至近距離でのテスト、直径5cmほどのヒャクニチソウを撮影した。Qマウント改造FUJINON 13mm F1.1だが、最短撮影距離でこれくらいの倍率のマクロ撮影ができる。被写界深度が非常に浅くなり大きくぼける。ピントが合った部分のシャープネスはまずまずと言える
01 STANDARD PRIMEの最短撮影距離の絞り開放F1.9で撮影。被写界深度はそれなりに浅く、背景がぼけている。ピントの合った部分は非常にシャープだ
05 TOY LENS TELEPHOTOの最短撮影距離での撮影。マクロ撮影の倍率としては、なかなかのものだと言えるだろう。絞りF8固定のため被写界深度は結構深い。ピントが合った部分のシャープネスはまずまずと言ったところ

実写結果とカメラの使用感

Qマウント改造FUJINON 13mm F1.1は、超大口径F1.1で絞りが無い! と言うヘンタイ的レンズとなった(笑)。この特性を活かすため、まずお盆で帰省した長野市の夜の街並みを撮ってみた。どの写真も三脚を使用せず、なおかつできるだけISO感度を上げすぎないように撮影している。

全体的にぼやっとして、光がにじんだような描写だが、拡大すると思いのほか細かいディテールが写っていてなかなか楽しい。また電車のヘッドライトが映り込んだ写真には、レンズの内面反射によるゴーストが派手に映り込み、面白い効果になった。

Q-S1は初めて使ってみたが、操作はしやすく説明書を見なくとも迷うことはない。Qマウント改造FUJINON 13mm F1.1はMF仕様のため、拡大機能を使って精密にピント合わせした。

次に、この改造レンズの最短撮影距離の短さを活かして、身近な花の撮影もしてみた。非常にクセのあるボケ味で、なかなか味わい深い写真になった。

F1.1固定のレンズだが、QS-1は最高1/8,000秒の電子シャッターを搭載しているため、薄曇り程度までなら適正露出を得ることができる。また、ピント合わせにはピーキング機能を利用してみたのだが、ピントの山がつかみやすくマクロ撮影にはこちらの方が便利だった。

糸崎公朗