切り貼りデジカメ実験室

OLYMPUS AIR A01で“ロケットランチャースタイル”

1,200mm相当の超望遠レンズを肩に担いで撮る

OLYMPUS AIR A01の変幻自在性を活かし、新しいカメラのあり方を提案してみた。大きく重い超望遠レンズを、ロケットランチャーのように肩に担いで撮影するスタイルである。

使用レンズはZUIKO DIGITAL ED 300mm F2.8に2倍テレコンバーター「EC-20」を装着し、ライカ判換算1,200mm相当の画角を実現している。総重量4.5kgほどのシステムだが、三脚無しでも安定してカメラを構えることができ、手ブレのない写真が撮れる。

“はじめからバラバラ”なカメラ

OLYMPUS AIR A01は、私が何か切り貼りするまでもなく“はじめからバラバラ”という凄いカメラである。本体は一見して単なる筒状の物体で、そこにマイクロフォーサーズ規格のレンズを装着し、Wi-Fiで接続したスマートフォンによって各種操作を行う。

スマートフォンに接続するレンズ交換式デジカメにはソニー「QX1」という先例があるが、OLYMPUS AIR A01は機能をシンプル化し、マイクロフォーサーズの強みを活かし徹底して小型化した点に特徴がある。

また、OLYMPUS AIR A01はスマートフォンのアプリによってさまざまな機能を付加することができる点もユニークだ。そのためオリンパスはアプリ開発キット(SDK)や、アタッチメントを作成するための3Dデータを一般公開した“オープンプラットフォームカメラ”を謳っている。

今後、さまざまなメーカーがアプリや付属部品などの開発に参与することで、このカメラはいかようにも変化できるのだ。そこで私もOLYMPUS AIR A01を使って“カメラの新しい可能性”について提案してみたくなった。

非合理な超望遠の撮影スタイルに新たな提言を

さて、私がかねてより非合理だと思っていたことの1つに、超望遠レンズの撮影スタイルがあった。重くて長い超望遠レンズをカメラに装着し普通に構えると、レンズを持つ左手だけに重量がかかり、バランスが非常に悪くなる。必然的に三脚が必需品になり、荷物が増えてしまう。

ところが兵器(カメラとはある意味兄弟?)の世界に目を転じると、ロケットランチャーや無反動砲などの手持ち兵器は、肩に担いで発射する。長くて重いものは肩に担ぐ方が合理的で、もしこのスタイルをカメラに採り入れたら、超望遠でも安定した手持ち撮影が可能なはずなのだ。

などと考えながらOLYMPUS AIR A01を眺めると、「モニター+シャッターボタン」の役目をするスマートフォンがボディから遊離し、自由なレイアウトが可能なのである。この特徴を利用すれば、超望遠レンズの先端にモニターとシャッターボタンを配置し、レンズ本体を肩に担いで構える“ロケットランチャースタイル”が実現するはずだ。

現在オリンパスから発売されている最望遠のレンズは、フォーサーズ用の「ZUIKO DIGITAL ED 300mm F2.8」で、これに2倍テレコンバーター「EC-20」を装着すると、ライカ判換算1,200mm相当の超望遠撮影が可能になる。

今回は以上のレンズを「フォーサーズアダプターMMF-3」を介してOLYMPUS AIR A01に装着し、“ロケットランチャースタイル超望遠カメラ”のアイデアを実現化してみることにした。

―注意―
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OLYMPUS AIR A01のカメラ本体(後中)は操作部として電源ボタン、シャッターボタン、レンズマウントのみを備える。構図確認を含むカメラ操作はWi-Fiで接続したスマートフォンによって行い、これを本体に装着するためのアダプター(後左)も付属している。レンズはマイクロフォーサーズマウントなら何でも装着できる。なお、今回は発売直前のOLYMPUS AIR A01をお借りしたため、スマートフォンのかわりにアプリがインストールされたiPod touch を使用する
OLYMPUS AIR A01本体にM.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZと、専用アダプターを介してスマートフォンを装着したところ。しかしこれはあくまで組み合わせの1つでしかなく、さまざまなタイプの撮影システムに変貌する可能性を秘めている
さて今回は、超望遠レンズによる新しい撮影スタイルを提案することにしてみよう。用意した機材は左からZUIKO DIGITAL ED 300mm F2.8、2倍テレコンバーターEC-20、フォーサーズアダプターMMF-3である。あらためて並べると、テレコンよりOLYMPUS AIR A01本体(右端)の方が小さいのに驚く
OLYMPUS AIR A01にZUIKO DIGITAL ED 300mm F2.8とEC-20を装着したところ。合成焦点距離は600mm(ライカ判換算1,200mm相当)で、開放F値5.7となり、総重量は4,422gにもなる。OLYMPUS AIR A01は本体に手ブレ補正機能を搭載せず、そもそもこのシステムの形状では手持ち撮影は無理で、三脚の使用が前提となる。しかし実は、私は三脚を持ち歩くのがどうも苦手なのである。となるとどうにか手持ちで撮影できる方法を、考えたくなってしまうのだ
あれこれ思い悩んだ結果、カメラ用ブラケット、スマートフォンアダプター(エツミ製)、カメラ止めネジ、折りたたみルーペ(100円ショップで購入)、ビニールテープの各部品を用意した
上記のパーツを組み立てると「モニター&シャッターボタン・ユニット」が完成する。ちなみにルーペはL字ブラケットにビニールテープで固定しているが、これによってスマートフォンの画面を至近距離で見て、構図やピントの確認ができるのだ
「モニター&シャッターボタン・ユニット」は、上向きにしたレンズ三脚座に、止めネジによって固定する。これで世界初? の“ロケットランチャースタイル超望遠カメラ”が完成する
“ロケットランチャースタイル超望遠カメラ”は、レンズを肩に担ぐようにして構える。重量級の超望遠レンズながら、体への負担が少なく安定性が高い。しかしこの外観はいろいろ誤解を与えそうで危険かもしれない(笑)
ルーペを覗きながら構図とピントを確認し、スマートフォン側でシャッターを切る。なお、OLYMPUS AIR A01とZUIKO DIGITAL ED 300mm F2.8+EC-20との組み合わせではAFが上手く作動せず、ピントはMFで慎重に行う必要がある

テスト撮影

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
ZUIKO DIGITAL ED 300mm F2.8+EC-20(600mm 5.7、ライカ判換算1,200mm相当)

テスト撮影はレンズを三脚座に固定して行った。このレンズはフォーサーズ規格の超望遠のためか、OLYMPUS AIR A01に装着するとAFが上手く作動しない。そこでMFに切り替えて、スマートフォンのモニターを見ながらピント合わせをした。スマートフォンの使用アプリは「OA.ModeDial」で、絞り優先モードにて、絞りを1段ずつ変えながら比較撮影した。

描写は絞り開放でちょっとピントが甘くフレアーっぽい感じだが、絞るごとにシャープさが増し、F11~F16でピークに達する。この連載では以前、1,200mm相当までの高倍率ズームを装備したコンパクトデジカメ「OLYMPUS STYLUS SP-100EE」を採り上げたが、比較にならないほど高画質であることが、あらためてわかった。

※共通設定:AIR A01 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 600mm

F5.7
F8
F11
F16
F22
ZUIKO DIGITAL ED 300mm F2.8(ライカ判換算600mm相当)

比較のため、テレコン無しの状態でも撮影してみた。開放から非常にシャープで驚いてしまうが、オリンパスが誇る最高級クラスの大口径単焦点レンズだけのことはある。なおオリンパスからはマイクロフォーサーズマウントの「M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4 PRO」の発売が予定されており、この描写も期待できるだけに待ち遠しい。

※共通設定:AIR A01 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 300mm

F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16
スマートフォン内蔵カメラとの画角の比較

今回制作した“ロケットランチャースタイル超望遠カメラ”は、同軸に取り付けたスマートフォンの内蔵カメラでも撮影することができる(今回はiPod touchを使用、ライカ判換算33mm相当)。そこで参考までに、両者の画角の違いを比較してみた。

被写体は江ノ島入り口付近から撮影した江ノ島展望台で、地図で確認すると約1km離れた位置から撮影している。これらの写真は手持ち撮影だが、画角1,200mm相当もの超望遠になると、ファインダー内に被写体を捉えるだけでも一苦労だ。

そこでまずiPod touchの内蔵カメラで構図の見当を付け、次いでOLYMPUS AIR A01に切り替えて撮影すると、なかなか調子が良いことがわかった。 次からの作品写真も、そのようにして撮影している

iPod touch / 1/1,931秒 / F2.4 / ISO32 / 3.3mm(33mm相当)
AIR A01 / 1/500秒 / F11 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / 600mm (1,200mm相当)

実写作品とカメラの使用感

1,200mm相当もの超望遠レンズで、何を撮ろうかと途方に暮れてしまったが、取りあえず近所の川沿いで鳥の撮影をしてみた。「バン」というクイナ科の鳥のようだが、鳥初心者の私は見るのが初めてだ。歩いている鳥を追いながら撮ったせいか、ちょっとブレてしまった。

AIR A01 / 1/400秒 / F5.7 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 600mm

川の中州にうずくまっていたカモメ。じっとしている被写体のため手ブレせずに撮ることができた。が、慎重にピント合わせしたつもりが、ちょっとボケてしまった。このカメラの操作法は、まず肩に担いだレンズ中程のフォーカスリングを右手で回してピント合わせをし、次いで同じ右手でスマートフォン画面のシャッターボタンを押さなければならず、かなり難易度が高い。

AIR A01 / 1/500秒 / F8 / 0EV / ISO320 / 絞り優先AE / 600mm

同じくカモメだが、こちらは江ノ島にて海に浮いているところを撮影。構図が中途半端にずれてしまったが、このレンズは被写体を画面内に捉えるだけでも大変なのだ。しかし手ブレもなくシャープなピントで捉えることができた。

AIR A01 / 1/640秒 / F11 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / 600mm

このウミウは舟の上にじっと止まっていたのでじっくりピント合わせして撮ることができた。顔面のディテールを拡大してみると、鳥類が恐竜の子孫であると言う最近の学説に、納得せざるを得ない。

AIR A01 / 1/500秒 / F11 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / 600mm

コサギの顔面もドアップで撮ることができた。しかもISO感度の設定を間違え、シャッター速度が1/200秒になったのにも関わらず、ほとんどブレずに撮れている。手ブレの限界は一般に「焦点距離分の1」と言われ、これに従うと1,200mm相当の場合1/1,200秒以上でないと手ブレしてしまう。そう考えると、今回の“ロケットランチャースタイル超望遠カメラ”の安定性はかなり高く、業界の常識を覆したと言える。

AIR A01 / 1/200秒 / F11 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / 600mm

江ノ島で風景でも撮ろうかと思ったのだが、ふと思い付いて、海上に浮かぶサーファーの姿をボカして、その向こうに停泊する舟にピントを合わせて撮ってみた。このような構図で撮るには、浜辺に腹ばいになって低い視点から狙う必要があり、こうなると「気分はもう戦争」である(笑)

AIR A01 / 1/500秒 / F8 / 0EV / ISO320 / 絞り優先AE / 600mm

同じ手法で銀座の歩行者天国を撮影してみたが、なかなか面白い表現になったかも知れない。同じく遠景にピントを合わせたつもりだが、熱気のため画像の細部が揺らいで写っている。

AIR A01 / 1/500秒 / F8 / 0EV / ISO640 / 絞り優先AE / 600mm

同じく銀座にて。人が「お化け」のように写って独特の味わいがある。この手法はもうちょっと突き詰めたかったが、人混みのような場所では他人の無線LANの影響を受けるのか、画面がたびたびフリーズしほとんど撮影できなかった。とは言え1,200mm相当の撮影が極端にシビアなだけで、一般撮影ではあまり気にならないかも知れない。

AIR A01 / 1/640秒 / F8 / 0EV / ISO1250 / 絞り優先AE / 600mm

こちらは新宿にて撮影。このロケットランチャースタイルのカメラを、街中で構えるのは躊躇していたのだが、実際には「すごいレンズですね!」と声を掛けてくれる人はいたものの、お巡りさんに呼び止められるようなことは無かった(笑)

AIR A01 / 1/640秒 / F7 / 0EV / ISO5000 / 絞り優先AE / 600mm

ビルの6階から新宿の街並みを撮影。肉眼では見えないような彼方の風景を、1,200mm相当の超望遠で切り取るのはなかなか楽しい。しかしここでも電波状況が良くなく画面がたびたびフリーズし、なかなか撮影が捗らなかった。

AIR A01 / 1/640秒 / F8 / 0EV / ISO4000 / 絞り優先AE / 600mm

以上、OLYMPUS AIR A01とZUIKO DIGITAL ED 300mm F2.8+EC-20の組み合わせでは、AFも利かず手ブレ補正機能もなく、撮影は困難を極めた。しかし、ロケットランチャースタイルそのものは非常に有効性が高く、1,200mm相当もの超望遠撮影で手持ち撮影が可能なことが実証できた。

このスタイルのカメラに、ちゃんとしたAFと手ブレ補正機能が搭載されれば、画期的に簡便かつ高画質な超望遠撮影システムになるはずで、ぜひメーカーに正規品を開発してもらいたいと思うのだが、いかがだろうか?

糸崎公朗

1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ フォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。毎週土曜日、新宿三丁目の竹林閣にて「糸崎公朗主宰:非人称芸術博士課程」の講師を務める。メインブログはhttp://kimioitosaki.hatenablog.com/Twitterは@itozaki