デジカメアイテム丼

往年のハッセルブラッドVがiPhoneで甦る

BADASS CAMERA Hasselnuts

 BADASS CAMERAのHasselnutsは、iPhoneをハッセルブラッドVシステムのデジタルバックとして使うための製品だ。フィルムマガジンの代わりにHasselnutsを取り付け、iPhoneを装着する。巻き上げクランクでチャージしてハッセル本体のシャッターボタンを押すと、iPhoneがシンクロして撮影できるという仕組みだ。オリジナルの撮影スタイルを踏襲していることに加え、撮影画像もレンズ本来の画角をキープしている。画像解像度はいわゆるデジタルバックに到底かなわないが、ハッセルブラッドのデジタル撮影を手軽に楽しめるアイテムだ。

今回はプラナーを付けたハッセルブラッド500Cに、ハッセルナッツを装着した
ハッセルナッツの後方にiPhoneを取り付ける。アダプターが滑り止めとなり、確実な固定が可能だ
白銀比5:7を取り入れ、ハッセル本体に取り付けた際にバランスよくまとまっている
フィルムマガジンと同様、底部のツメにひっかけてハッセルブラッド本体に装着する
オリジナルボディとよく似た貼り革を採用。遠目からではちがいはわからないだろう

 Hasselnutsはクラウドファンディング(キックスターターとキャンプファイア)で資金を集め、製品化されたアイテムだ。CP+2014にも出展されていたので、おぼえている人もいるだろう。

 筆者はキャンプファイアー経由でHasselnutsを入手した。店頭販売予定価格は3万4,980円だという。なお、対応するiPhoneはiPhone4S/5/5sの3タイプで、iPhone4S用とiPhone5/5s用、2種類のアダプターが付属している。

ハッセルナッツ本体とふたつのiPhone用アダプターで構成されている
ハッセルナッツはフィルムマガジン(右)より幾分丈が長い。ただし、装着時のバランスはわるくない
右がiPhone5/5S用、左がiPhone4S用のアダプターだ。タイトフィットでiPhone脱落の心配は少ない

 本製品の仕組みを詳しく見ていこう。Hasselnutsはレンズから入ってきた像をHasselnuts内部のスクリーンに投影し、この投影された像をiPhoneで撮影する。投影スクリーンサイズは67×63mm(有効スクリーンサイズ66×62mm)で、調整用レンズの搭載によりスクリーン全体を撮影できるように設計されている。スクリーンは中判フィルムとほぼ同サイズであり、投影像をそのまま撮影するため、中判ならではの被写界深度の浅い写真が撮れるわけだ。

フレネルレンズを搭載する。ハッセルナッツ内部にはスクリーンが配置してある
iPhoneのカメラレンズの前には補正用レンズが鎮座する。これにより、スクリーン全体を撮影できる

 HasselnutsはiPhone用の専用アプリが用意されており、これが快適な撮影の肝を握っている。撮影スタイルはふたつあり、ひとつ目はハッセルブラッド本体のシャッターボタンで撮影する方法だ。本体のシャッターボタンを押すと、iPhoneが連動してスクリーンに投影された像を撮影する。BADASS CAMERAはこの機能をシンクシャッターと呼んでおり、Hasselnutsの要となる機能だ。

 なぜこのような同期撮影が可能なのか。BADASS CAMERAによると、ハッセルブラッドはシャッターを切ると独自の振動を発し、この振動をiPhoneのジャイロセンサーで読み取るのだという。

 実際の撮影の流れを解説すると、まず巻き上げクランクでチャージし、ハッセルブラッドのファインダーでピントを合わせる。その後、iPhone画面上のシンクシャッターボタンを長押しし、シンクシャッターを待機状態にしよう。

App Storeからハッセルナッツの専用アプリをダウンロードしておく
「Sync Shutter」ボタンを長押しして、待機状態にしてからハッセル本体のシャッターボタンを押す

 ハッセルブラッド本体のシャッターボタンを押すと、振動をキャッチしてiPhoneがスクリーン上の投影像を撮影する仕組みだ。シンクシャッターを待機するという動作が加わるものの、ハッセルブラッドの作法をほぼそのまま踏襲した撮影方法だ。

 ふたつ目はライブビューモードである。まず、ハッセルブラッドのシャッタースピードをB(バルブ)にしてミラーアップ状態にする。投影スクリーン上の像がiPhoneの画面にそのままあらわれるので、露出補正ボタンをONにしてライブビュー画面の任意の場所をタップしよう。そのポイントに合わせて露出の自動補正が可能だ。その後、iPhoneのボリュームボタンを押すとシャッターが切れる。ピント合わせはレンズ側で行う必要があるが、ミラーレス機のライブビューでオールドレンズを使っているような感覚だ。

ライブビューモードでは露出の自動補正が可能。露出補正ボタンをONにして任意の場所をタップする

 Hasselnutsは使いはじめる前にふたつのキャリブレーションが必要となる。ひとつ目はフォーカスキャリブレーションだ。Hasselnuts内のスクリーンにiPhoneのピントを合わせる作業である。ハッセルブラッド本体で任意の被写体にピントを合わせた後、シャッタースピードをBにセットし、ライブビューモードに切り替える。セッティングメニューの「Focus Calibration」を実行し、起動した画面で「Focus」ボタンを押す。これで自動的に投影スクリーンにピントを合わせてくれる。

 ふたつ目はキャプチャーエリアキャリブレーションだ。Hasselnutsはアスペクト比6:6と4:3が選択できる。セッティングメニューの「Capture Area Calibration」で設定しておこう。

使いはじめる前に、セッティングメニューからキャリブレーションを実行する
フォーカスキャリブレーションは、ピント合わせした被写体を中央に据え、「Focus」ボタンをタップする
4:3と6:6、2種類のアスペクト比が選択できる。やはりスクエアフォーマットで使いたいところだ

 さて、実際にHasselnutsで撮影した使用感を述べていこう。今回はハッセルブラッド500CとプラナーC 80mm F2.8 T*の組み合わせにHasselnutsを装着した。巻き上げクランクをまわし、大きく見やすいファインダーでピントを合わせ、絞りを選び、本体のシャッターボタンを押す。この伝統的なハッセルブラッドの撮影スタイルを踏襲している点は実に心地良い。

 ただし、使いこなしを要する部分も若干見受けられた。まずはシャッタースピードの選択だ。速いシャッタースピードだと、撮影画像がブラックアウトしてしまうことがあった。1/30~1/60秒あたりの遅めのシャッタースピードに設定しておいた方が無難だろう。実のところ投影スクリーン上の像をiPhoneで撮影するだけなので、ハッセルブラッド側のシャッタースピードは写真の露出に無関係だ。筆者は終始B(バルブ)で撮影していた。これだとシャッターボタンをロックするだけでライブビューモードにスイッチングでき、シンクシャッターとライブビューの切り替えがラクだからだ。

ライブビューモードやフォーカスキャリブレーションを行うときは、B(バルブ)にセットする
ライブビューモードで使う際は、Bにした上でシャッターボタンをロックすると使いやすい

 もうひとつ使いこなしが必要と感じたのは、iPhoneの自動ロックだ。初期状態だと1分で自動ロックがかかってしまうため、撮影のたびにパスワードを入力するなどの手間がかかる。Hasselnutsの専用アプリはiPhoneの自動ロックを無効化する機能があるので、これを活用しよう。セッティングメニューの「Auto Lock」をONにすると、専用アプリが起動してしている間は自動ロックを無効化できる。Hasselnutsの専用アプリはシンプルだが、実用シーンをしっかりとイメージできている点が好印象だ。

専用アプリにはハッセルナッツの英文マニュアルが含まれている

 最後に画質に触れておこう。掲載した作例は、すべて開放F2.8で撮影した。周辺光量落ちが大きく、いくぶんノイジーな仕上がりだ。このザラつきのある描写は、スリガラス状の投影スクリーンを用いているためだという。ハッセル用レンズのいわゆる高画質な描写とはテイストが異なるものの、レトロな雰囲気を楽しみたい仕上がりである。何よりも、中判ならではの浅い被写界深度が圧巻だ。投影スクリーンを撮っているとはいえ、その画角と被写界深度はいわゆる中判フルサイズそのもの。Hasselnutsは、中判カメラの醍醐味を手軽に実感できるアイテムだ。

作例

共通データ:Hasselblad 500C / Planar C 80mm F2.8 T* / F2.8 / Hasselnuts / iPhone 5s