サムヤン「85mm F1.4 Aspherical IF」

~実売3万円の大口径中望遠レンズ

85mm F1.4 Aspherical IF

 “85mm F1.4”といえば、ポートレート撮影の定番としても知られる大口径の中望遠レンズだ。大きくボケた背景から主被写体が浮き立つ描写に憧れるカメラファンも多いだろう。そこで今回は、5月28日に国内でも発売となった韓国のレンズメーカー「サムヤン」(Samyang Optics)製の「85mm F1.4 Aspherical IF」(2万9,800円前後)を紹介したい。なお、同時に取り扱いが始まった同社製の「8mm Fisheye CS」も後日レビューする予定だ。

 サムヤンとは聞き慣れないメーカー名だが、それもそのはず。同社製レンズはこれまで国内ではほとんど流通していなかったが、このたび新東京物産が正規輸入を開始。一部のカメラ店などで購入できるようになった。サムヤンは1972年の創業。もともと監視カメラ(CCTV)用レンズのメーカーで、一眼レフカメラ用レンズを手がけるようになったのは数年前から。ちなみにサムヤンは「三洋」と表記するが、三洋電機とは無関係とのことだ。

 国内では、キヤノン用、ソニー用(Aマウント)、ニコン用、フォーサーズ用、ペンタックス用をラインナップしている。現地ではサムスンのNXマウント用も発売しているようだ。

CPUを内蔵していないため電子接点は無いフィルター径は72mm

 主な仕様は次の通り。レンズ構成は7群9枚。最短撮影距離は1m。フィルター枠は72mm径。サイズは78×72.2mm(最大径×全長)。重量は約513g。35mmフィルムのイメージサークルをカバーするマニュアルフォーカス(MF)レンズとなっている。

 取扱説明書によれば、「複合非球面レンズにより、完全開放時のレンズ収差を補正し、レンズ中心部だけでなく周辺部においても、高解像、高コントラストな性能を生み出している」とある。複合非球面レンズは最後群(後から2枚目)に位置している。

 さてこのレンズ最大の特徴は、実売で3万円を切るという価格だろう。現行の各社85mm F1.4の実売価格を調べてみると、コシナ「Carl Zeiss Planar T* 1.4/85 ZF/ZK」(MF)が11万9,200円前後、ソニー「Carl Zeiss Planar T* 85mm F1.4 ZA」(AF)が14万8,200円前後、ニコン「Ai AF Nikkor 85mm F1.4 D IF」(AF)が12万8,400円前後となっている。量販店の価格を参考にしたので上に挙げたソニー、ニコン、コシナの価格にはそれぞれポイントが10%付くのだが、それでもサムヤン85mm F1.4は非常に安価だ。

D700に装着したところ(以下同)

高い質感の鏡胴

 大口径レンズらしく重量が500g強あるため、ズッシリとした重みを感じる。ガラスの塊、といった印象。鏡胴の素材は、場所によって金属とプラスティックを使い分けているようだ。表面はちょうどD700と似た仕上げになっており、高級感がある。金色の銘板に金色のラインと、どことなくニコンのレンズを思わせる。

表面は細かな凹凸のある仕上げ製造も韓国だ

 フォーカスリングはやや重めだが、焦点距離を考えれば正確にピントを合わせるのに好都合だ。AFレンズのスカスカしたフォーカスリングに慣れていると、グリスによるねっとりとした感覚が心地よい。フォーカスリングのラバー部分は約2cmと十分な幅があり、またラバーの突起も滑りにくい形状になっている。インナーフォーカスの採用と相まって、ピント合わせの操作感はよい。最短~無限遠までの回転角はおよそ150度といったところ。絞りリングは1段ごとのクリック付き。クリック感は悪くないが、リングが少し奥まっているためにやや回しづらさを感じた。

D700などの場合、焦点距離と開放絞り値をセットできるので表示パネルにも絞り値が出る絞りリングのすぐ前に段差があるため、やや回しづらかった。この段差部分が斜めになっていると良かったと思う
F8の絞り(左)あたりまでは問題ないが、最小のF16にすると開口がいびつな形になる。もっともそこまで絞ることはさほど無いと思うので、大きなウィークポイントではないだろう

 85mm F1.4 Aspherical IFの最短撮影距離は1mで、同クラスのレンズと比べると長い部類になる。Carl Zeiss Planar T* 85mm F1.4 ZAとAi AF Nikkor 85mm F1.4 D IFはともに0.85m。今回撮影していて、もう少し近づきたいというケースもあった。なお、Carl Zeiss Planar T* 1.4/85は1mで本レンズと同じだ。ちなみに85mm F1.4 Aspherical IFの絞り羽根は8枚。他社の3本はいずれも9枚絞りになっている。

 フードは、直径9cm程度の丸形タイプ(プラスティック製)が付属。深さは約4cmで、内側は植毛ではなくつや消し塗装のみとなっている。

付属のフードフードを装着したところ
付属のキャップはご覧のタイプ。フードを付けた状態での取外しは難しい

 今回は、ニコン用をお借りしたので、FXフォーマット(35mm判フルサイズ)の「D700」で試用してみた。

 本レンズはCPUを内蔵しておらず、絞り値をボディから制御できない。そのため、D700の場合は絞り優先AEかマニュアル露出で使用することになる。D700でCPU非内蔵レンズを使用する場合、開放F値と焦点距離を手動で登録すれば、表示パネルやExifに絞り値が出るほかRGBマルチ測光が機能するので使いやすい。加えて、D700ではレンズとの通信が無くともフォーカスエイドが機能するので、ファインダーでのピント合わせが不安な向きは是非利用したい。今回掲載した作例は、すべてフォーカスエイドでピント合わせをしている。ライブビューの拡大表示を使えばさらにピントを追い込める可能性はあるが、今回は一般的なファインダーでの使用を想定した。

 ペンタックス用はニコン用と同様に、絞り優先モードで使用可能としている。なお、キヤノン用、ソニー用、フォーサーズ用も基本構造はニコン用と同じで絞りは絞りリングで設定する方式だ。上記3種類のマウントでは絞りがカメラと連動しないため、絞り込み測光となる。85mm F1.4 Aspherical IFは、絞りが電子制御なはずのαマウント(Aマウント)、EFマウント、フォーサーズマウント用でも電磁絞りを搭載していないという謎な仕様となっており、多少の使い勝手の悪さは覚悟したい。

専用ポーチが付属するのだが――なんと、フードを逆付けした状態では入らない……。もう少しポーチを大きく作ってくれればよかった

絞り開放でもなかなかの画質

 さて気になる画質だが、実写サンプルをご覧いただきたい。格安レンズとあってさほど期待はしていなかったが、思いのほか良く写るというのが正直な感想だ。レンズの性能が最も試されるのは、開放絞りの描写。特に“85mm F1.4”ともなれば開放を多用することだろう。本レンズは絞り開放でも、ピントのあった部分はコントラストも高く十分に解像している。

 他方、ボケの具合もなかなか良いようだ。今回試写した限りでは、二線ボケやぐるぐるボケといった傾向は見られなかった。また、ピントのあった部分からボケへの移行もスムーズな描写だ。点光源のボケが目玉状(同心円状)になることもない。口径食はそれなりにあるようで、画面周辺に行くほど点光源のボケがレモン形になっているのがわかる。周辺光量低下は目立ったほどは無いようだ。

 85mmという単焦点レンズはもちろんポートレート撮影でも活躍するが、“ポートレート専用レンズ”ではない。ボケを活かしてのスナップやネイチャーといった撮影でも使い出がある。今回は街歩きでスナップ的に使ってみたが、スナップ撮影で使われることの多い広角系レンズとは違った写りが面白かった。

 85mm F1.4 は、APS-Cサイズの機種で使えば、焦点距離127.5mm相当(1.5倍換算)の中望遠レンズになるし、フォーサーズ機に装着すれば170mm相当でF1.4という大変明るい望遠レンズの感覚で使えるのもいい。

 ソニーやニコンの純正品と比べれば、MFでしか使えないという制限はあるが、それでも他メーカーの1/3~1/4程度という価格は魅力的。85mmの単焦点レンズが気になっていたが、これまでなかかな手がでなかったという向きは検討してみるのも良いかもしれない。

実写サンプル

※作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、別ウィンドウに800×600ピクセル前後で表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。

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(本誌:武石修)

2010/6/23 00:00