インタビュー

「世界共通価格・共通保証」を掲げるプログレードデジタル、いよいよ日本で本格展開

元サンディスク・元レキサーの“レジェンド”が設立したメモリーカード専業メーカー

今年の初頭から、Prograde Digital(プログレードデジタル)というメモリーカードメーカーの名前がたびたび見受けられるようになった。それも高性能かつ低価格メモリーカードの直販、NAB 2018でメジャーメーカーより早くCFexpressカードをお披露目するなど、ユーザーの購買意欲をチクチクと刺激するニュースが多い。

そもそもPrograde Digitalとはどのような企業なのか? デジカメ Watchでも何度か紹介しているが、改めてPrograde Digital社の日本代表である大木和彦氏の口から直接語っていただいた。

デジタルカメラの進化をメモリーカード側から盛り上げたい

――大木さんは以前、マイクロンジャパンでレキサー部門のセールスディレクターを務めていました。2016年、XQDを大幅に値下げして普及の促進を図った仕掛人でもあります。その大木さんがプログレードに在籍している背景は?

なぜレキサーのXQDカードはこんなにも安いのか - デジカメ Watch
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/news/752894.html

大木:マイクロンのレキサーブランド売却に伴い退社しました。私自身、カメラが大好きで、写真を撮るものも大好きです。私が目指していた「カメラの進化をメモリーカードの進化と普及で盛り上げる」には、別の道を選ぶ必要があったからです。

サンディスク、マイクロンでセールス&マーケティング担当として約12年間メモリーカードビジネスに従事しましたが、痛感してきたのは、フラッシュメモリーの応用製品としてのメモリーカード、特にデジタルカメラ用のメモリーカードの優先度がどんどん下がっているということです。

2010年以降のスマートフォンの急成長、データセンターの急拡大、さらに近年の電気自動車や自動運転の進化、そこに占めるフラッシュメモリーの重要性などを考えれば、当然のことかもしれません。しかし、だからと言って、メモリーカードの重要性が下がったわけではありません。デジタルカメラにとって、メモリーカードはなくてはならないアイテムです。

私自身、数年毎にカメラを買い替えているのですが、技術進化の目覚ましさに驚きます。スマホが普及し、より多くの人たちが写真やビデオを撮るのであれば、その次のステップとしてのデジタルカメラも、スマホに負けない進化を遂げなければならないはずです。それはつまり、メモリーカードも同時に進化しなくては、カメラの進化のボトルネックとなってしまう可能性があるからです。

プログレードの創業者兼CEOのウェス・ブリュワーは、サンディスク、マイクロンを通じて一緒に働いてきた信頼できる人物で、彼と一緒であれば、「メモリーカードの進化と普及」のスピードアップを成し遂げ、デジタルカメラ業界やメモリーカード業界を盛り上げることができると考え、入社を決断しました。

創業者はメモリーカードの高性能化を推進した”レジェンド”

――興味深い話が出ましたね。プログレードの創業者や創業の背景などを教えてください。

Prograde Digital 創業者兼CEO ウェス・ブリュワー氏

大木:ウェス・ブリュワーは、1997年にサンディスクに入社し、メモリーカードおよび関連アクセサリービジネス担当副社長として、メモリーカードの高容量化と高速化を推進し、サンディスクを、押しも押されぬ世界ナンバーワンメモリーカードメーカーに育てました。サンディスク退社後は、マイクロンでレキサービジネス責任者および副社長として、レキサーブランドXQDの導入を決断したり、レキサー製品の高性能化・高速化を推進しました。過去20年間のメモリーカードの進化は、ウェス抜きには語れません。

また、この20年間に、プロアマ問わずに多くのカメラマンの方々、販売店やパートナー企業の方々と交流を重ねており、イメージング業界における顔の広さは他に類を見ません。まさにメモリーカード業界の“レジェンド”です(笑)

ウェスもレキサー売却に伴いマイクロンを退社し、直ちにプログレードを設立しました。彼もデジタルカメラを支えるメモリーカードのビジネスに強いパッションを持っていたのです。

プログレードには、ウェスの他に二人の創業メンバーがおり、いずれもサンディスク、マイクロンでメモリーカードビジネスに関わっていました。彼らを含めまだ10名前後の少人数組織ですが、全てのメンバーが各部門に経験豊富なプロ集団です。

――まさにメモリーカード業界の叩き上げ集団ですね。確かに2017 年12月に設立し、翌年2月には直販オンラインショッ プで複数のメモリーカードやリーダーの販売を始めています。これには驚きました。

大木:そうですね。ウェスと付き合いの長い私でもビックリしました。さすがは“レジェンド”だと思いました(笑)彼は多くの人から信頼されるタイプの人間で、行動力はもちろんですが、キーパーツのメーカーや工場など開発・製造の現場まで熟知し、そうした方々の積極的な協力を得られたからこそ成しえた結果だと思います。

プログレード米国サイト、車のウインドウに同社のロゴが貼られている。スポンサーなのだそうだ。https://progradedigital.com/

事業エリアは「カメラの仕事」の後工程

――さきほど少しお話にありましたが、製造する製品はやはりハイエンド向けなのでしょうか。

大木:そうなります。プログレードのミッションは「最高品質のプロフェッショナルグレードのメモリーカードとワークフローソリューションを提供する」ことです。ここでの「プロフェッショナル」とは、専門職という意味だけではなく、プロ並みの機材を使いこなすハイエンド志向のお客様を含んでいます。

メモリーカードは、連写やビデオの記録速度に注目されがちですが、実際に高速カードの恩恵を実感するのはPC転送の時だったりします。特にPC側の記録メディアがSSDに変わってきたころからそれが顕著になりました。

私たちが注力する事業エリアは、データをカードに記録するところから、そのデータをPCに転送するまでのワークフロー(作業)の効率化です。そこには多くのカメラメーカーは参入していません。

カードへの記録からPC転送までの効率化が、プログレードデジタルが示す事業エリア。

世界のどこでも同じ価格で買える、同じ保証が受けられる

――さて、日本で発売する際に最も考慮されたことは何ですか?

大木:ずばり「世界共通価格・共通保証」です。世界中のどこでも同じ価格で販売し、同じ保証を提供するという考え方です。内外価格差をなくすことを目的とし、保証を受けられる購入経路は限定しません。国内外どこでも安心してお買い上げいただけます。「共通価格」は、日本ではアマゾンマーケットプレイスを通じ、直接お客様に販売することで可能になりました。

――内外価格差は、ゲーム界隈では「おま値」などと揶揄されています。

大木:メモリーカードの場合、国内正規品は米国価格の2〜3倍という例も珍しくありません。ハイエンド志向のお客様の多くはそれを知っているので、高価格カードになればなるほど、並行輸入品を購入したり、海外サイトから直輸入したりするケースが増えてきています。

――並行輸入品や個人輸入品は保証適用外というケースも多いですから、お客様にとってはありがたい話ですね。共通価格はどのように決めるのですか?

日本での販売価格は、米国直販サイトの価格を基準にしてリーズナブルな為替レートをかけて決めます。昨年末に1ドル110円で設定しました。今後、為替が大きく変動した場合には見直すことになります。

念のため申し上げますと、共通価格は税抜価格です。国や州によって消費税率が異なりますので、税込価格には地域差が出ます。本当は「同一価格」と言いたいところなのですが、その点を考慮し「共通価格」という表現にしました。また、日米価格を比較する際には、米国のオンラインサイトでは一般的に税抜価格ですので、その点ご注意ください。

「製造時全品検査」「全品固有製造番号」も品質重視のため

――日本ではアマゾンでのみ販売されると。今後の流通展開の予定は?

大木:はい。アマゾンのマーケットプレイスからの販売のみとなります。今後の予定はまだありません。プログレードは、新しい会社でゼロからのスタートですので、今までやりたかったけれどできなかったことをやろうと。直販はそのうちの一つです。アマゾンマーケットプレイスは、私たちのような会社が世界中で直販を始めるには最適なサービスとして選択しました。

――なるほど。他にも今までできなかったけれど、実現したことはあるのですか?

大木:二つあります。先ほど申し上げた「世界共通価格・共通保証」と、製造時に、抜き打ち検査ではなく全品検査をすること、そして全品に固有の製造番号を付与することです。

――メモリーカードで全品検査ですか?固有の製造番号も珍しいですね?

大木:はい。ウェスの強い意向でスタートしました。私は営業現場の人間ですから気づきませんでしたが、かつて品質問題で相当苦労したのかもしれません(笑)メモリーカードは品質が良いことが大前提です。固有の製造番号は、トラブル時の素早い原因究明にも役立ちますし、保証の際の製品確認にも役立ちます。

SDはV60やV90に対応。EOS Rなど最新のミラーレスにも

――今回発売される製品構成はどのようになりますか?

大木:全て高速仕様になります。メモリーカードは、CFast、SD2種類、microSDの合計4種類。カードリーダーは、CFast&SD、CompactFlash&SD、SD&SD、microSD&microSD、全てデュアルスロットの4種類。カードもリーダーも、SDは全てUHS-II対応。リーダーはUSB3.1 Gen.2仕様です。

SD、microSDともに、ゴールドラベルはビデオスピードクラスV60、コバルトラベルはV90対応となっています。キヤノンのEOS R、パナソニックのDC-GH5、フジフイルムのX-T3など最新のミラーレスカメラは、動画最高画質の記録にはV60以上のカードを推奨しています。ビデオがメインの方にはゴールドの高容量を、写真撮影がメインの方には高速記録のコバルトをお勧めします。

左がゴールド、右がコバルト。記録速度はコバルトの方が速い。

――シルバーかと思いましたがコバルトなのですね?色合いとスペックが逆な印象ですが?

大木:実は私も最初そう思いました(笑)プログレードでは、より普及が期待される製品にゴールドラベルを、より高性能のモデルにコバルトラベルを付けています。慣れてくると、このコバルト色が高性能に見えてきますよ(笑)

――XQDはラインナップされないのでしょうか。

CFA(CompactFlash Association)では、CFexpress(タイプB)をXQDの後継規格としています。その理由の一つが、ファームウェアアップグレードにより、XQD対応ホストがCFexpressに対応できるためです。今後、私たちはCFexpressへの移行が速やかに進むと考えており、いまはXQDではなく、次世代規格CFexpressの開発に専念しております。

――カードリーダーも充実していますね。

大木:USB3.1のGen.2仕様ですので、Gen.1の2倍の速さになります。弊社のリーダーが全てデュアルスロットなのは、Gen.2の能力を活かせば2枚同時に高速転送が可能になるからです。

カードリーダーは4種類ですべてデュアルスロット仕様(写真はCFast2.0とSD)。転送速度はUSB3.1 Gen.2(10Gb/s)に対応。本体端子はType-Cで、Type-C-Cと、Type-C-Aの2本のケーブルが付属している。

大木:ユニークなのは、本体がマグネット内蔵なので、付属のメタルプレートを使ってPCの背面に取り付け可能になるところです。もちろんケーブルも付属しています。これはプロカメラマンからの強いリクエストにより実現したものです

付属のマグネットを使えば、ノートPCに付けたり外したりできる。

CFexpressが重要な存在に

――最後に、プログレードの今後の展望について聞かせてください。

大木:「最高品質のプロフェッショナルグレードのメモリーカードの提供」が、プログレードのミッションですから、PCIe規格に準拠した次世代高速カード規格CFexpressが最も重要な製品の一つになることは間違いありません。

プログレードがNAB2018でデモ発表したCFexpressカード。CES 2019でもインテルブースで転送デモが行われた。

少し遡ってお話をしますと、ウェスと私がマイクロンで注力したことの一つは、CFastとXQDの2つに分かれてしまったプロフェッショナル向けカード規格を、次世代で一本化することでした。もともと“小さな”イメージングの市場をさらに分割しても誰のメリットにもならないからです。その後、コンパクトフラッシュ協会のメンバー会社の皆さんと何度も話し合った結果、生まれたのが次世代統一規格CFexpressです。

冒頭でお話のあったXQDの値下げによる普及促進も、次世代CFexpressへのスムーズな移行を導くための戦略でした。XQDの成功なくして、CFexpressの成功はないと考えたのです。結果は想定通りでした。XQDは、ニコン、ソニーだけでなく、パナソニックも採用すると発表しました。XQDからCFexpressへの道筋ははっきりと示されたといえるでしょう。

唯一想定外だったのは、今、ウェスも私もマイクロンではなく、プログレードでCFexpressを考えていることですね(笑)

一方、SATA規格のCFastの需要も引き続きあります。プログレードは、CFastをいち早く発売し、プロフェッショナルの需要に応えていますし、今後も応え続けていきたいと思います。

メモリーカードやカードリーダーは、それ自体で主役を張る製品ではありません。デジタルカメラやビデオカメラなどハイテク製品の”黒子”として、カメラマンのワークフローをよりスムーズにすることで、その役割を果たす製品です。撮影時や編集時に、カードが高速でストレスがない、容量が大きくて残量の心配がない、PCへの転送時に、かかる時間が短くてイライラしない。追加で買うときに、予算の心配が少ない、日ごろ、トラブルが少なくて心配がない、などカードやリーダーの存在が意識されなければされないほど、利用者にとっては最も理想的な状態といえます。

逆説的ですが、プログレードは、今後も「最高品質のワークフローソリューション」を提供することで、お客様の利用シーンの中では意識されない製品をつくり続けていく存在となっていきます。

取材を終えて

大木さんの熱い語りに引き込まれて、あっという間に過ぎた2時間だった。

ハイエンドクラスが着実に進歩を遂げていくことで、メモリーカード全体が陳腐化せず次代へと歩を進められるが、ハイエンドクラスは市場としては小さいためか大手ブランドの歩が重い。そこで大手に成り替わりハイエンドクラスの牽引役をプログレードデジタルが買って出てくれたようにも映る。「カメラの進化をメモリーカードの進化と普及で盛り上げる」という言は、デジタルフォトを趣味や生業とする人にとって、この上なく頼もしく響くではないか。

メモリーカード業界の濃いエッセンスが集ったプログレードデジタルの実力は、インタビュー中に語られた事例で既に証明済みだ。今後も様々な形で旋風を巻き起こし、メモリーカード界隈を賑わわせてくれることだろう。

制作協力:プログレードデジタル

榊信康