イベントレポート

濃密なる"1%er"の集会「PENTAX KP J limited NIGHT」

ファンと企画担当の意見交換や、改造上等のカスタム対決も

リコーイメージングスクエア新宿で、8月7日にファンイベント「PENTAX KP J limited NIGHT」が開催。その模様を覗いてきた。

KP J limitedとは、APS-C一眼レフカメラ「PENTAX KP」をベースとしたメーカー純正のカスタムモデル。「1%でもいいので、熱烈に支持して愛してくれるユーザーが存在してくれるのなら、その為に造ろう」を合い言葉に、専門業者や写真家を巻き込んだ企画としてスタート。CP+2019の参考展示に対し、SNSで大きな反響を得て製品化が決定した。

同製品は受注生産で、7月31日からユーザーの手元に届いている。想像を超える人気を得て、現在の納期は当初予定の約4週間を少し超えるぐらいになってしまっているという。

当日会場に集まったのは、この「J limited」企画に熱い想いを持つファン約30名。発売後の日程ということもあり、既に購入した実機を持参する参加者も多く見られた。

KP J limitedを2色買いしたツワモノは、PENTAXのWebサイトにも登場している写真家の瀬尾拓慶氏。
すでに全国6公演のデビューツアーを成功させたJ limitedチーム。8月24日から米子、高松、金沢、松本でも追加開催。

試作品になかったAOCoマークがサプライズ

参考展示モデルとの外観上の違いとして、着脱式ペンタカバーを外した部分にAOCoマーク(旧社名に基づくブランドロゴ)が入っている。ここにAOCoマークが入るのは「PENTAX ME」以来、43年ぶりだという。

こうして昔のロゴを使うのは、企業として本来とてもハードルが高いはず。とあるメーカーの昔話として、「このカメラのスタイリングには旧ロゴが似合う」と関係者の誰もがわかっているのに、CI(コーポレート・アイデンティティ)の観点で会社として許されず、やはり発売後にユーザーから「なぜ旧ロゴにしないのか。カッコ悪い!」と批判が集まったというエピソードを聞いたことがある。

そのためKP J limitedにもさぞ大いなる苦労があったのだろうと質問してみたのだが、具体的な社内調整の手法は謎のまま。ただ筆者には、「黙って」とか「なし崩し的に」といったワードが聞こえたような気がする。J limited企画担当のTKO氏も「ウチ(リコーイメージング)でしか、こういうやり方はできないと思う」と話す。

今後のJ limitedを予感させるアンケートタイム

参加者からの事前回答を元に、J limitedチームとの意見交換が行われた。「K-1のJ limitedバージョンも出たら欲しい?」という問いに対して、参加者ほぼ全員が挙手するという状況からスタート。

「J limitedならではの起動画面が欲しい」、「GR IIIやMX-1でJ limitedをやってほしい」、「GR IIIのウッドグリップ版が欲しい」、「それなら漆モデルも欲しい」、「J limitedのJはJapan(=漆)のJ!」、「ドライカーボンのGRはどうか」などとヒートアップするのに時間は掛からない。

対するメーカー側の担当者も「漆かあ……また乾くまで3カ月かかるなあ……」などと、逐一マジメに考えてくれるところがいい。さながら、勝手に企画会議の様相だ。

意見交換はレンズやアクセサリーにも及ぶ。「プロストラップみたいな柔らかい素材が欲しい」、「暑い夏のためにクール素材」といった快適性に関わるものから、「万が一の時のために燃えない素材」という大変に現場主義な要望もあった。

形になっている一例として、TKO氏着用のカメラ用グローブがある。左手側にはポケットが備わる。
防寒性ではなく、カメラの操作性を高めるグローブとして企画中という。

改造上等のカスタム対決!

J limited企画担当のTKO氏

続くプログラムは「参加者によるMyカスタマイズ機 vs TKO」。参加者の持参したカスタマイズ機とともに、デザイナーのTKO氏がこれまでに試作したカスタマイズ例が披露された。

TKO氏による、PENTAX KP J limitedの最初のデザイン案。
参加者のカスタム機。ホームセンターで買ってきた木材をイチから加工したというグリップ。J limitedチームもその質感に魅了されていた。
PENTAX LXの加工用グリップを思い起こさせる、カスタムグリップの試作品。
このままではシャッターボタンに指が届かないぐらい厚い。
参加者の気合いに、思わず対決を忘れてニッコリのTKO氏。
バッテリーグリップ付きのK-1に対応するL字プレートがないので、K-3用を加工したという一品。
TKO氏による、高倍率ズーム機PENTAX X-5をベースにした試作「J mini」。販売予定はない。
付属するのは花形レンズキャップ。「撮らないけどヤル気は見せたいときに有効」(TKO氏)
PENTAX K-30もTKO氏によるデザインだ。

こうして盛り上がりの中で散会となったJ limited NIGHT。昨今のカメラ開発に対する行き詰まり感が、決してユーザーだけのものではないと実感できたのは収穫だった。

いわゆる八方美人的な「いい人」止まりのスタイリングではなく、賛否があっても特定の人達に強く届くことを目指したデザインは、聞けばペンタックスに以前からあったものだという。J limitedはその思いや知見が結集し、新たな胎動となったと認識するのが正しいのかもしれない。

例えばペンタックスの防水カメラでは、「Optio WG-2」(2012年)などから現在まで一貫したハードテイストのスタイリングがある。これも、受け入れられやすい無難さを狙わず、本当に好んでくれる人に届くことを意識したデザインなのだという。

Optio WG-2。異素材組み合わせによるオールブラックの質感に惚れて、筆者も買った。
さらに遡ると、懐かしいペンタックスのカメラを思い出す「Optio I-10」(2010年)にもTKO氏は関与。思わず"110"と読み間違えそうなスレスレの機種名がポイント。

過去にもいくつかのファンコミュニティを取材してきた経験上、そのカメラに対する賛否がハッキリ分かれているものほど、属するファン同士は仲良く繋がっているイメージがある。すると、今後もそのメーカーの製品を買おうという気持ちが生まれるのは自然なことだ。「ロゴを隠せばみな同じ」とも言われるカメラ市場の中では、こうしたキャラクター追求こそがファン獲得の源であり、長い目でみた"生き残り"にも繋がると思うがどうだろうか。

なお、KP J limitedの実機展示などを行うイベント「PENTAX KP J limited Japan Tour 2019」は、8月24日から米子、高松、金沢、松本での追加開催が決定している。詳細はリコーイメージングのWebサイトで確認してほしい。

イベントの締めくくりは、来場者の愛機を並べて集合写真。
J limitedデザインなどのトートバッグを販売。下のプリンターで印刷したもの。
Tシャツなどに直接印刷できるリコーのプリンターを用意。スマホ内の好きな画像をその場でプリントすることも可能(所要時間30分ほど)。1点から作成できる。
NEW ERAのコラボキャップも販売中。
100周年ロゴ入りのマグカップ。リコーイメージングスクエア新宿にはこうしたグッズが沢山並んでいて、その場で買える。これは楽しい。

本誌:鈴木誠