イベントレポート

4K対応マイクロフォーサーズシネマカメラなど、展示会に見る動画機材のトレンド

新形式「ProRes RAW」で盛り上がったNAB 2018

NAB Show 2018は、米国NAB(National Association of Broadcasters)が主催する年に1度の放送系映像機材の祭典だ。毎年ラスベガスで開催され、米国中だけでなく世界中から放送関係者を集めている。

その規模は映像関連イベントでは文句なく世界最大級であり、世界最大のコンベンションセンターであるラスベガスコンベンションセンター(LVCC)内だけでは収まらず、周辺ホテルも利用してラスベガスの街全体でのイベント開催となっている。

最近、スチルカメラとムービーカメラの融合の影響で、スチルユーザーにも親和性の高い製品展示が増えてきた。今回はかれこれ20年ほどNAB Showに通い続けている筆者の視点で、そのあたりをご紹介できればと思う。

広がりを見せる動画用圧縮RAW形式

今回のNAB 2018で注目されるのは、ムービーカメラの圧縮RAW対応の広がりだ。

RAW形式ながらも保存するデータ量を減らして実運用性を高めた圧縮RAWは、最加工時にデータが劣化しないという特徴だけで無く、そのデータ量の軽さから、一般的なPCでも編集やエフェクト加工をすることができる。

純粋なRAW形式では、そのあまりの情報量の多さに、専用のワークステーションに専用のボードを導入し、高額なストレージを組んで初めて運用可能になるものであった。何しろ毎秒24〜60枚のスチルカメラ用RAWデータを用いるのであるから、とんでもないデータ量になるのがおわかりになるだろう。

これに対して、不要な部分を削り、あるいはある程度画質を限定することでデータ量を減らし、その上で可逆圧縮処理を掛けてデータ量を減らしたスタイルのRAW形式が圧縮RAWとしてハイエンドの世界でここ10年ほど使われてきた。

この圧縮RAWは、特許の都合上、当初RED Digital Cinema社のみが独占して採用していたが、Blackmagic Design社がCinema DNG形式の中に3:1や4:1などの圧縮RAWを導入してきたことで広がりを見せ、ついに今年、複数のメーカーが実装をしてくる事となった。

とはいえ、圧縮RAWでもまだまだデータ量も多く、映像人にとってはかなりハイエンドの世界の映像であるRAW映像だが、実はここにスチルカメラユーザーのアドバンテージがある。そう、スチルカメラの人間にとって、RAW現像は馴染み深いものだからだ。

そうしたスチルカメラユーザーに使いやすいカメラと収録機を会場からご紹介してみたい。

ついに4K対応となったBMPCC

今回のNAB 2018最大の衝撃は、Blackmagic Design社(以下BMD)が新型カメラBlackmagic Pocket Cinema Camera 4K(以下BMPCC 4K)を出してきたことだろう。プレスミーティングではGrant Petty社長自らがプレゼンテーションを行い、新機種をその手に持って紹介してくれた。

BMPCC 4Kは、その名の通り以前発売されたBlackmagic Pocket CInema Camera(BMPCC)の後継機種で、4K対応が売りだ。前機種とは異なりポケットに入れるには若干大きいが、シネマカメラにしては格段に小さいといえる。

マイクロフォーサーズ規格最大級のマイクロフォーサーズセンサーによりISO25600まで対応(デュアルISOはそれぞれ400,3200標準)。ダイナミックレンジは13ストップ。SD/UHS-IIとCFast2.0の2スロット搭載による内部RAW(Cinema DNG)記録が可能で、4,096×2,160(4K DCI)収録の実現、USB-Cスタイルのポートを独自拡張しての直接PCへの収録も対応している。

正確な重量はまだこれから変わるというが、カーボンファイバー・ポリカーボネート製ボディにより、ベータ機は極めて軽量。4つの内蔵マイク、ファンタム電源対応のミニXLRオーディオ入力、Bluetoothワイヤレスカメラコントロール、HDMIオンセットモニタリング出力などを搭載している。今回からスチル切り出し用のボタンも追加された。

しかもこれだけ豪華な仕様ながら、値段は驚きの14万7,800円(税別)。とてもハイエンド機能を持った4Kシネマカメラとは思えない価格だ。

ここで、展示されていたベータ実機を見て見よう。

5インチの大型タッチ液晶に表示されたメニュー画面を見ると、Video、Extended Video、Filmの3モードがあることがわかる。それぞれにフレームレートなどを設定できる。

特徴的なのは、オフスピード収録でフレームレートを自在に変えられること。これにより標準的な規格に縛られない、フレームレート外の撮影を可能にしている。1枚1枚にしっかりと情報が載っているRAWカメラならではの機能といえるだろう(とはいえ、普通に再生すれば規格のコマ数で再生されてしまうので注意が必要だ)。

RED DigitalのCinema Cameraがよく使われている、ファッションショーなどでのスチル撮影を意識しているのかも知れない。ブライダルでスチルカメラとしてBMPCC 4Kを置いておくことで、動画から写真を切り出すなどの用途も考えられるだろう。

また、RAWの他にProResでの圧縮撮影も可能なことがメニューからうかがえる。

とはいえ、まだこのNAB 2018会場でのベータ機ではRAW収録が不可能で、圧縮ProRes収録のみに対応であった。

また、ProRes RAWには対応しておらず、今のところRawは標準のCinema DNG形式のみ対応とのことであった。Cinema DNG形式でも3:1、4:1の圧縮ができるため、確かに実用上は何ら問題がない。

このメニュー画面で一番の驚きは、映画での4K収録標準である4K DCI収録が明記されていることだろう。

このサイズでDCIのフルサイズ4K収録に対応しているというのは、本物のシネマカメラがこのサイズに収まってきたということで、ただただ驚く他無い。

ちなみに4K撮影でも60Pまでのフレームレートに対応している。

レンズを外してもらうと明らかにセンサーサイズが大きい様子。ペティ社長からは、「その通り、フルサイズのマイクロフォーサーズを搭載しています!(実効センサー)サイズがクロップされたり使えないレンズが出たりはしないよ!」との返答であった。

「フルサイズのマイクロフォーサーズ」とは聞き慣れない言葉だが、実はマイクロフォーサーズ規格はかなり余裕のある規格であり、センサーサイズは一定では無い。そのため、各メーカーはコストダウンのためにやや小さめにセンサーを設計するのが通常なのだ。

その点、このBMPCC 4Kは18.96×10mmの規格最大級のマイクロフォーサーズセンサーが搭載されており、このことを指して「フルサイズのマイクロフォーサーズ」という言葉を選んでいるようだ。

ちなみにLUMIX GH2は18.8×10.6mm、OLYMPUS PEN E-PL8で17.3×13.0mmのセンサーサイズだ。確かにBMPCC 4Kのセンサーは横方向に対して広いことがわかる。

この広大なセンサーサイズのお陰で、BMPCC 4Kの実効焦点距離は、マイクロフォーサーズ定番の35mm判比2倍ではなく、1.9倍となっている。ベータ展示機の美麗な映像は、このセンサーサイズあってこそのものだろう。

また、単独でのスチル撮影ボタンの採用も画期的だ。「(内部機能的には)4Kからの切り出しボタンに過ぎないけどね」とグラント・ペティ社長は謙遜していうが、カメラに電源さえ入っていれば、欲しい瞬間に欲しい画像が得られるというのはユーザーにとって本当にありがたい。

もちろんBMPCC 4Kは、日本の大手メーカーによるスチルカメラとは異なり、PCベースのカメラなので、ファームウェアが焼き付けROMではなく、どうしても起動に時間はかかる。日本のスチルカメラと同じようなぱっと取り出してさっと撮るような運用はできないだろう。しかし反面、根本的な機能からファームアップをできるという利点もある。

こうした特徴を生かした撮影方法を編み出して行きたいものだ。

さて、搭載スロットやコネクタを見て見よう。

本体左側には収録メディアスロットがあり、ここにSD/UHS-IIとCFast2.0の2スロットが用意されている。特にRAW収録となれば速いメディアが必要であり、それをCFast2.0対応で対応している。

反面、CFast2.0はメディアコストが高い事で知られていて、弊社が初期に導入した際には256GBのメディア1枚で10数万円もかかった。

本体よりも高いメディアをドンドン使うというのはなかなか考えにくいため、普段の圧縮ProRes運用にはSD/UHS-IIで対応しているわけだ。こうした相矛盾した要求を2スロットで突破したのは大変見事であると言える。

本体右側にはHDMIやヘッドフォン、電源コネクタの他、ファンタム電源内蔵のミニXLR形式の本格的な音声入力コネクタが装備されている。

これによって、音声さんから直接音声を貰ったり、あるいはプロ向けのガンマイクを直接搭載することもできる。プロのワークフローの中で活躍できる本物のシネマカメラに仕上がっていることがわかる。

さらに、上部を見ればカメラシューもスチルカメラ用のものでは無く1/4インチねじ穴が装備されていて、しっかりと周辺機器を固定できるようになっているのも嬉しい。

これならばスチルカメラ動画にありがちな大げさなケージを組まずとも、それなりの装備はカメラに装着できることだろう。

さらに、BMPCC 4Kは、製品版のDaVinci Resolve Studioを同梱しており、DaVinci Resolve Studioはバージョン15からプロ向けハイエンドエフェクトソフトのFusionも標準機能として搭載したため、このカメラ一つあれば、撮影から編集、エフェクトまで全てをこなせることになる。

液晶モニターも明るく綺麗。バッテリーの持ち時間は60分程度を想定しているが、バッテリーは交換式であり、DC電源コネクタだけでなくUSBなどを使った給電も想定しているということなので、スタジオなどでの長時間運用はもちろんのこと、屋外でも大型バッテリーなどからの電源供給が可能なように設計されている。

発売日時は未定。できるだけ今年中の発売を目指す、とのことだ。シネマカメラ側からスチルカメラに歩み寄ってきた、マルチロールシネマカメラ機材だと言えるだろう

ちなみにLEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm/F2.8-4.0 ASPH./POWER O.I.S.が装着された展示機を試してみたところ、AFおよびレンズ側の手ブレ補正機構が働いていた。シネマカメラでは省略されることの多いスチルカメラ寄りの機能だけに、これは驚きであった。

ATOMOS NINJA VとProRes RAWの動き

可逆圧縮RAWのもう一つの大きな流れとして、AppleがNAB 2018に合わせて発表した、ProRes RAWへの各社の対応が挙げられる。

今まではProResといえば圧縮フォーマットの代表例であり、どうしても加工の度に再圧縮で画質が落ちてしまう(=不可逆圧縮)ため、作業中の中間フォーマットとしては使えず、あくまでもローコストでの撮影、そして最終出力でのフォーマット、という印象であった。

これに対し、新しいProRes RAWでは詳細こそ発表されていないものの、きちんとピクセルごとのデータを保管することで再圧縮時の画質劣化をゼロにする仕組みを搭載し、ロスレスの巨大なデータ量のRAWのみならず、圧縮RAWにも対応している、という。

残念ながら、今のところまだApple製のFinal Cut Pro Xのみの対応という事だが、業界標準の不可逆圧縮映像収録であるため、将来的には業界全体での採用が見込まれるだろう。

今回のNAB2018では、採用発表企業の中から目立った2社があったので、それをご紹介したい。

ATOMOSでは、ファームアップによって、Shogun Inferno、SUMOなど、既存の現行機種でのProRes RAW収録を可能とする。また、NAB 2018で発表された新型モニター兼収録機「NINJA V」でのProRes RAWサポートを発表した。

新機種で新フォーマットに対応するのは当たり前、と思うかも知れないが、ATOMOSではNINJA = HDMI対応モデル、SHOGUN = SDI対応モデルと位置付けている。つまりNINJA VはHDMI機であり、そしてHDMIの標準規格において、DCI4KのRAWデータをやりとりする規格は筆者の知る限り存在していない。

つまり、新しい独自規格でのProRes RAW対応の発表であり、大きな進歩であるといえる。

いずれ、近い将来、スチルカメラでもProRes RAW搭載機が出てくるのであろうか?

NINJA Vは、HDMI2.0経由で、最大4Kp60の10bitHDR収録を行える、重量わずか320gの小型モニター兼収録機だ。DCI4Kにも対応しているという。

この小さなボディに1000nitsの高輝度モニターを搭載しており、環境を整えにくいHDR撮影を容易に行うことができる。

収録はSSDに対して行い、これも AtomX SSDminiという、約640×770mmの小型SSDを用意している。この超小型SSDを用いることで、全体重量を抑えつつ高品位な撮影が可能となっている。

LUMIX GH4やライカSLのように、外部収録機を使って10bit以上の高品位動画撮影ができるスチルカメラ機種は多く、特にLogによる色域圧縮でのカラーグレーディングを行うとなれば、こうした外部収録環境は必須となる。

ProRes RAW対応はまだまだ未知数だが、それ以外の機能はもちろんフルスペックで使えるため、現行のカメラ機種ユーザーでも充分に購入検討に値するといって良いだろう。価格は695ドルとのこと。

また、パナソニックブースでもProRes RAWでの対応が大きく取り上げられていた。新機種での対応という形では無く、既存機種での対応を発表していた。

最近発売されたVARICAM Pure やLTなどVARICAM全般での対応はもちろん、ミドルレンジカメラであるAU-EVA1での対応も発表されていて、大変に多くの来客を集めていた。

EVA-1やVARICAMでの対応はファームアップによって行われ、既存ユーザーはごく自然にProRes RAWを導入することができる。

実際に、EVA-1で撮影したProRes RAWデータをMacBook ProとSUMO19で編集するデモが行われていたが、本当にリアルタイムでの4K RAW編集加工が可能となっていた。しかも、普通こうした展示では特注スペックの超高性能PCが使われることが多いのに、編集用の展示機はタッチバーすら搭載していない、一昨年のMacBook Proであった。

旧機種ですら余裕で4K RAW編集を可能と見せたこのアピールは、凄まじいものがある。前述のBMDなどが採用しているCinema DNG形式での圧縮RAWの場合、相応のCPUパワーが要求されるので、ProRes RAWの要求CPUパワーの低さは際立っている。非常に魅力的だ。

Apple自身はNABに参加していないため詳細はまだ不透明だが、このProRes RAWが普及すれば、驚くべきことになるのでは無いだろうか。

ProRes RAWなどの高品位なムービーフォーマットは、数年以内にもスチルカメラに降りてくると考えられる。RAWに関しては、ビデオカメラマンよりスチルカメラマンの方が一日の長があり、馴染みやすいことだろう。可能であれば、Final Cut Pro X以外での採用も期待したいところだ。

手塚一佳

1973年生。クリエイター集団アイラ・ラボラトリ代表。東京農業大学動物生理学出身という異色の映像クリエイター。CGを中心に、武道動画、映画エフェクトなどの制作企画、実製作まで行う。