菅原一剛写真展「花・椿」(FINE PHOTO GALLERY ENTRE DEUX)



私たち日本人にはふたつの特別な花があります。
ひとつ目は桜、"花"と言えば"桜"を意味するように、私たちはこの花に深く思いを重ね、毎年その開花に一喜一憂してきました。
古今和歌集第一巻の在原業平の和歌、「世の中に 絶えて桜のなかりせば 春の心は のぞけからまし」は、まさにそんな日本人の心情が見事に詠まれています。そして、もうひとつは椿。こちらも万葉集に登場する日本古来の花です。
椿は花の美しさのみならず、材木、椿油、薬用と、私たちの日々の暮らしに寄り添ってきた花でもあります。
とりわけ近世には、千利休によって茶花として用いられ、その独特の存在感でにわかに脚光を浴びることになります。

さて、今回の展覧会「花・椿」は、日本人の精神風土に深く関わってきたふたつの花を被写体とした写真家の美的検証と思考の軌跡です。
つまり、ここに写されているのは、被写体の外観ではなくむしろ内面、その事物が継承してきた意味や象徴する精神と時空を超えた交信を試みる菅原一剛さんの制作姿勢そのものとも言えるでしょう。
最古の写真表現のひとつである湿板技術で撮影し、それを複雑な作業工程を要するプラチナプリントに仕上げる。
写真を撮る時も、プリントする時も、その現場に"連なりとして流れる時間の帯"をまるごと受け入れる。
日本人が磨き上げて来た美しさの裏側に存在する"清々しい無常観"を感じとっていただけましたら幸いです。

展示点数:28点

(写真展情報より)

 キュレーターの太田菜穂子氏によるギャラリー・トークが4月17日と4月25日に実施される。時間はともに14時30分〜15時 / 16時〜16時30分の1日2回。4月25日には作者も在廊の予定。

  • 名称:菅原一剛写真展「花・椿」
  • 会場:FINE PHOTO GALLERY ENTRE DEUX(アントル・ドゥ)
  • 住所:東京都文京区関口2-10-8(椿山荘/フォーシーズンズホテル椿山荘 東京 ロビー階)
  • 会期:2012年4月1日〜2012年4月30日
  • 時間:10時〜18時
  • 休館:会期中無休

(本誌:折本幸治)

2012/4/3 13:29