【フォトキナ】ミラーレス機「NX100」に注力するサムスン

〜デジタル・イメージング事業部・商品企画部長のKim Young-bae氏に訊く

 フォトキナ2010のインタビューシリーズは、オリンパスを残し(実はオリンパスとはインタビューの約束はあったのだが、うまく待ち合わせができなかったため、再セッティングとなった)て終わったが、実は会場で予定外の取材を行なうことができた。サムスン・エレクトロニクスのデジタル・イメージング事業部・商品企画部長のKim Young-bae氏である。同氏はNX10、NX100の商品企画部門を統括している。日本に居た経験もある同氏に、NX100とサムスンのレンズ交換式カメラ事業の現在について話を聞いた。

 なお、同氏の写真は本人の希望により、掲載を見送っている。(インタビュアー:本田雅一)

フォトキナ2010でのサムスンブース。開幕直前に発表したNX100をアピールしていた

斬新なアイデアの「iFn」(アイファンクション)

――ペンタックスとの提携により、サムスンはデジタル一眼レフカメラのGXシリーズを展開しました。NX10、NX100と2機種続けて独自マウントのミラーレス機を発売しましたが、GXシリーズの事業は中止の方向なのでしょうか?

 確かに我々は現在、ミラーレス機に力を入れています。しかし、一眼レフカメラの事業をやめるというワケではありません。現時点でミラーレス機が中心になっているというだけで、完全に事業を止めたということではありません。ただ、新レンズの開発をやっているか? と言えば、それは行なっていません。

 GXシステムの拡張を行なえないのは、ひとえに人的リソースがないためです。今はNXシリーズの立ち上げに精一杯で、GXシステムの開発を行なえません。今はミラーレス機を実用的なシステムにするために開発を続けていますが、将来、必要となれば自社開発でGXシステムのボディやレンズを開発することも考えられます。それに、今の時点でやめると決める必要もありませんよね。

NX100。装着レンズはiFnボタンを装備する20mm F2.8

――NX100はNX10に比べ、機能的にもパフォーマンス的にも、大幅な進化を果たしていました。追加機能の中にはiFn(アイファンクション)があります。レンズに追加ボタンが必要な機能ですが、NX10と同時発売のレンズには付いていませんでした。

 iFnはNX10を開発している途中に思いついたものです。NX10は我々が自社のエンジニアだけで作り上げた第1号機です。なにぶんにも初めての経験ですから、様々なノウハウを蓄積しながらの開発になりました。このため、通常の製品開発よりもずっと長い時間をかけています。いずれも今年発売の製品ではありますが、実際に仕様を決めた時期はかなり違います。NX10の開発の過程で、ハードウェアの変更を伴うアイディアを思いつき、それを第2弾の製品であるNX100で盛り込んだのです。

――NX10での顧客からのフィードバックはNX100に盛り込まれていますか?

 発売時期が近いため限定的ではありますが、顧客からの声を取り入れています。オートフォーカス時の振る舞いや速度、それに撮影後の映像を予想できるワンタッチプレビューボタンといったアイディアを盛り込んでいますし、ワンボタンでRAW画像を取り込むという機能も付けました。背面液晶モニターの表示から直接各種パラメータを変えるユーザーインターフェイスなども取り入れています。実際、オートフォーカスの速度は他のコントラストAFに比べても高速なものに仕上がっていると自負しています。

――iFnはレンズダイヤルに複数機能を割り当てる機能ですが、画面上への設定パラメータスケールを表示し、滑らかに動かすアニメーションなど、ユーザーインターフェイス面での実装の善し悪しが使い勝手に大きく影響しますよね。どんなところに工夫をしましたか?

 動作が遅かったり遅延が大きいと、設定項目の選択で行き過ぎたり、ダイヤル設定がやりにくかったりと問題が起きてきます。ユーザーへの見せ方を重視しました。反応はポジティブなもので、このフォトキナでもパートナーや販売店に、わかりやすい、使いやすい、面白いといった反応を得ています。中にはデジタル時代の画期的なアイディアだと絶賛してくれている方もいらっしゃいます。


レンズを含めて内製の技術は多い

――NX10の開発に通常よりも長い時間を……ということは、かなり前からミラーレス機の開発を開始していたということですよね。GXシリーズを市場に投入後、どういった考えからNXの開発に着手していったのでしょう。

 やはり、一眼レフ業界には2強の厚い壁があり、どの国の市場でも乗り越えるのが難しいと感じました。彼らが販売している5,000万本近いレンズ資産は、あまりにも厚く高い壁になっており、これを正面突破することは事業的に難しいと率直に感じたのです。ペンタックスと協業して市場参入を試みましたが、自分たちの持つ技術、強みを活かすにはミラーがない方が良いと判断しました。

 現時点で言えば、確かに一眼レフの方がファインダーの完成度は高いかもしれません。しかし、将来を見据えると完全デジタル化の方が前へと発展する余地があるのではないかとも考えました。もともと、カメラ事業は30年ぐらいやっていたのでレンズの技術はありましたしね。

――サムスンは銀塩カメラ事業を行っていたのですか?

 はい。1977年ぐらいから、サムスン・ミノルタのブランド名で韓国内で発売していた事もあります。その後、コンパクトカメラを自社で開発できるようになり、その後も作り続けていました。実は銀塩コンパクトカメラは(台数ベースで)世界第三位のシェアになったこともあります。

 実は、自社開発の一眼レフカメラ(銀塩)もやっていたことがあります。GXというのはそのときのブランド名なんです。しかし、AF技術の取り入れが難しく、マニュアルフォーカスのままで終わりました。

――ビデオカメラやコンパクトのデジタルスチルカメラのノウハウもあった事を考えると、内製の技術は多いということでしょうか?

 そうですね。センサーも自社生産ですし、システムLSIもそうです。自社にノウハウが存在しない技術と言えばシャッターユニットぐらいだと思います。それ以外のあらゆるコンポーネントは内製しています。


フォーサーズフォーマットも検討

――これはソニーNEXにも言えることですが、ミラーレス機のコンパクトという特徴を活かすのであれば、レンズシステムもコンパクトになるより小さなセンサーでも良かったのでは?

 やはり画質を優先しました。一眼レフカメラの持つ高画質というイメージを損なわない大型のイメージセンサーと、コンパクトカメラの良さ、使い勝手を一つにするというコンセプトで開発しています。両方とも消費者の中に大きなニーズとして存在するため、両方を満たした製品を提案しようと思いました。

――まったく新規のシステムということであれば、APS-Cサイズ以外にもフォーサーズ、あるいはフォーサーズと同じサイズのセンサーを使うという選択肢もあったのでは?

 一眼レフカメラと同等の画質を出すには、フォーマットサイズをAPS-Cにする必要があると考えています。そこは外せないポイントですね。当初新しいカメラシステムを考えた際に、フォーサーズフォーマットも検討したことがあります。しかし、フォーマットサイズは大きい方が本質的に高画質ですし、世の中の主流から外れる冒険はしたくないと考えて、フォーサーズのカメラは作りませんでした。

 またGXのユーザー数はあまり大きなものとは言えませんでしたから、APS-Cサイズセンサーを採用しても市場で両者が食い合うことはありませんから、NXシリーズを大きなセンサーフォーマットにできました。将来、技術の発展でフォーサーズのセンサーでも十分にキレイと言われるようにはなるでしょう。しかし、センサーサイズの大きさから来る画質効果やレンズ描写の違いなど、様々な面でAPS-Cの方が優位と判断しました。


日本市場への参入について

――NX100の発表会では2012年に台数ベースで世界一を目指すと発表しました。かなり積極的な数値ですね。

 その多くはコンパクトデジタルカメラで、レンズ交換式カメラの割合はまだわずかに留まると思います。しかし、世界ナンバーワンのシェアを持つラインナップの最上位機種にNXがあるということが大切だと思っています。継続的にNXを強化していき、そこでの高画質・高品質というイメージをコンパクト機でのビジネスで活用したいと考えています。

――価格は標準ズームを付けて599ユーロでした。かなり安価ですよね?

 欧州では599ユーロ、米国では599ドルです。実はNX10が699ユーロ(699ドル)という設定だったので、EVFのないNX100はそれよりも100ユーロ安という事で開発をしています。両者のカメラとしてのバリューは大きくは変わらないので、結構お買い得な価格設定とは言えるかもしれないですね。

――NXシリーズの販売地域は? 日本では販売されていませんが、他国でも同様のケースはあるのでしょうか?

 サムスンのコンシューマ製品を売っている地域や国、すべてで販売を行ないます。特にアジア、シンガポール、香港、韓国といった市場はミラーレス機の市場が急速に立ち上がってきていますから、これらの市場が中心になるでしょう。欧州はイギリス、フランス、ドイツなどで、もちろん米国はやっていきますよ。

 ただし、日本ではコンシューマ製品を販売していませんから、販売することも考えていません。カメラだけでなく、テレビなども日本では発売していませんから、流通開拓など販売するための方法を最初から作り直さなければなりません。それに、多くのカメラメーカーの本拠地である日本市場は難しい。販売店向けの対策などは、地元企業と同じことをやっていくのはかなり難しいと思います。

 また、実際にビジネスを始めようと思えば、販売後のアフターケアなど、それなりの体制、インフラを作らなければなりません。それに、日本での販売体制を整える以外に、たくさんやらなければならないことが多く、他の地域での体制を強化する方を優先課題としています。

――ペンタックスとは技術者レベルでの交流はしているが、実際のビジネス協業関係に関しては現在はないと伺っています。今後、両者の関係はどうなっていくでしょう?

 GXシリーズの新モデルや新レンズこそ開発していませんが、ペンタックスとの交流はまだ続いています。両社の間に特に大きな変化があったわけではなく、これまで通り、良い情報交換と技術交流の相手として良好な関係を保っています。




(本田雅一)

2010/10/5 13:22