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「カメラグランプリ2014」の贈呈式が開催

ニコンが初のトリプル受賞 “Dfはこれからがスタート”

 カメラ記者クラブは5月30日、「カメラグランプリ2014」の授賞式を都内で開催した。受賞各社による製品開発の秘話なども披露された。

受賞社には賞状と盾が贈られた

 既報の通り、大賞は「Df」(ニコン)、レンズ賞は「AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G」(ニコン)、あなたが選ぶベストカメラ賞は「Df」(ニコン)、カメラ記者クラブ賞は、「OLYMPUS OM-D E-M1」(オリンパスイメージング)、「EOS 70D」(キヤノン)、「RICOH THETA」(リコーイメージング)となっている。

 今回ニコンは、カメラグランプリで初めてのトリプル受賞となった。

カメラグランプリ2014実行委員会 実行委員長の森田浩一郎氏

 カメラグランプリ2014実行委員会 実行委員長の森田浩一郎氏(月刊カメラマン編集部)は、「大賞のDfは、フィルム時代に楽しんだ操作を開発者が取り入れ、他のカメラとの違いを打ち出したことがユーザーの新鮮な共感を呼んだ。Dfに対する『あなたが選ぶベストカメラ賞』でも『こういうカメラを待っていた』というコメントが多いのが印象的だった。今回受賞したニコンの製品は、いずれも開発者の顔が見え、明確な狙いが支持されたのだと思う」と述べた。

 なお、大賞の次点は僅差で「OLYMPUS OM-D E-M1」だった。また、「α7R」(ソニー)と「α7」(ソニー)はセンサーが異なるため別機種の扱いだが、両機種の票を足すと首位になるとのことだった。

ロードマップから外れているのに受賞――ニコンDf

大賞を受賞した「Df」(ニコン)

 大賞を受賞したのはニコン「Df」。

 「何度か大賞を頂いているが、これまでの受賞は会社に引いてもらったレールで取ったものだった。その点、Dfは自分でレールを引いた製品。5年前から少人数で開発を始め、いろいろあったが発売にこぎ着けた。心の中では笑みのこぼれる思い。Dfをホームランという人もいるが、ようやく3月末にバックオーダーを解消したところ。これからがスタートで、やっと一塁に出たという気持ち。受賞に気を緩めること無く、これまで以上に引き締めて開発に取り組んでいく」(ニコンは映像カンパニー 後藤研究室室長の後藤哲朗氏)。

ニコン 映像カンパニー 後藤研究室室長の後藤哲朗氏(右)
ニコン 映像カンパニー 開発本部長の山本哲也氏(右)

 「ロードマップとは違ったカメラを出させて頂いた。撮ること自体も楽しいし、撮影前に何を撮ろうか考える時からわくわくできるカメラ。自分たちが高揚できるものを出せた。世に出すことができて本当に良かった。若い人にはダイヤルが新鮮に映ったようだ。メカニカルダイヤルのような昔の操作系がだめというわけでは無く、良いものは良いと言うこと。尖ったカメラなので、よい、悪いというのははっきり出てくるが、万人受けするものであってもまたつまらない。これからもわくわくできるカメラを世に問うていきたい」(ニコン 映像カンパニー 開発本部長の山本哲也氏)。

良い描写を定量的に追求――AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G

レンズ賞を受賞した「AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G」(ニコン)

 レンズ賞はニコンの「AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G」が受賞した。

 「レンズというと高倍率ズームやこれまでに無いズームレンズなどに注目が集まりがちだが、こうした地味なものに光を当てて頂けた。設計者の佐藤(佐藤治夫氏)が学生時代から構想していた思い入れのあるレンズ。スマートフォンの影響で業界は厳しいが、スマートフォンではできないものを他社と切磋琢磨して出して行きたい」(ニコン 映像カンパニー 開発本部 第二設計部 ゼネラルマネジャーの稲留清隆氏)。

ニコン 映像カンパニー 開発本部 第二設計部 ゼネラルマネジャーの稲留清隆氏(右)
ニコン 映像カンパニー 開発本部 第二設計課の佐藤治夫氏(右)

 「30年間光学に携わってきたが、最高のご褒美を頂いた気持ち。学生の頃から良いボケや最良の描写を考えおり、構想の時間が長かった。その間、いろいろなレンズを設計し評価を頂きながら30年間やってきた。定性的な面ではどういうものが良いのかわかっていたが、定量的にするために時間が掛かった。今回の58mmで新たな収差バランスを提案させて頂いた。今後第2、第3の58mmレンズを出していき、『これぞ名玉』と言われるレンズを出したい」(ニコン 映像カンパニー 開発本部 第二設計課の佐藤治夫氏)。

ニコン、ニコンイメージングジャパンの関係者

スペック表に現れない操作性も重視――OLYMPUS OM-D E-M1

カメラ記者クラブ賞を受賞した「OLYMPUS OM-D E-M1」(オリンパスイメージング)

 大賞以外から選ばれるカメラ記者クラブ賞。受賞した製品の1つが「OLYMPUS OM-D E-M1」だった。

 「E-M1は、フォーサーズとマイクロフォーサーズの統合機として開発した。もう一度、デジタルカメラというものを一から見直した。そのためには開発者が写真を理解する必要がある。そこで、メンバーも年に1万枚以上の撮影を行って、ユーザーの要望に応えられるように努力し、結果として評価されるカメラになった。これから開発者と受賞の喜びをともにしたい」(オリンパスイメージング 開発本部 本部長の杉田幸彦氏)。

オリンパスイメージング 開発本部 本部長の杉田幸彦氏(右)
オリンパスイメージング 商品戦略部 商品企画第1グループ グループリーダーの城田英二氏(右)

 「統合機として出すに当たってはメンバーとしていろいろな想いがあったが、全員協力して開発した。E-M1では一眼レフよりも良いカメラ、一眼レフではできないようなものを盛り込みたいと、150%の力で走ってきた。本来、後の機種で入れる予定の機能も前倒しで採用した。一方、スペック表には現れない性能として操作性がある、これを重視した。プロカメラマンからも『カメラをよくわかっている方が設計したね』と言われたことがありうれしかった。これからも皆さんに慕われるカメラを作っていきたい」(オリンパスイメージング 商品戦略部 商品企画第1グループ グループリーダーの城田英二氏)。

オリンパスイメージングの関係者

新方式のAFを打ち出してヒット――EOS 70D(キヤノン)

カメラ記者クラブ賞を受賞した「EOS 70D」(キヤノン)

 同じくカメラ記者クラブ賞を受賞したのはキヤノン「EOS 70D」。

 「EOS 70DはデュアルピクセルCMOS AFという新しい技術が評価された一方で、カメラの基本性能も手を緩めずに作った。販売も堅調に推移している。これからもユーザーに楽しんでもらえるような商品作りに精を出していきたい」(キヤノン ICP第二事業部 事業部長の戸倉剛氏)。

キヤノン ICP第二事業部 事業部長の戸倉剛氏(右)
キヤノン ICP第二事業部 課長代理の渡邊敦志氏(右)

 「デュアルピクセルCMOS AFという名前に決まるまではハイパーリニアAF、シンクロビジュアルAF、バイピクセルマトリクスAFといった案があった。インパクトのある名称をということで色々検討した。ただ、何がシンクロなのか、なにがマトリクスなのかよくわからずみんなボツになった。その点、デュアルピクセルCMOS AFという名前は独立した2つのフォトダイオードがAFにも撮像にも使えることをうまく表している。実はデュアルピクセルCMOS AFというのは長いため、今も昔も関係者は『DAF』あるいは『ダフ』と呼んでいる。

 ところでEOS 70Dは当初、デュアルピクセルCMOS AFではなくカメラとしての基本性能を打ち出す戦略だった。ところが、社員が会社の敷地で全力疾走しているところを何事も無かったように合焦したデュアルピクセルCMOS AFの映像を会議で見せたところ、一転してこの新型AFを打ち出す方向に決まった。今後も期待に応えられるようなカメラを出したい」(キヤノン ICP第二事業部 課長代理の渡邊敦志氏)。

キヤノン、キヤノンマーケティングジャパンの関係者

カメラの枠を飛び出す――RICOH THETA(リコーイメージング)

カメラ記者クラブ賞を受賞した「RICOH THETA」(リコーイメージング)

 「RICOH THETA」もカメラ記者クラブ賞を受賞した製品の1つ。

 「THETAは他とは非常に違った形をしており、新しい製品だ。そうした新しいもので受賞できたのはありがたいこと。カメラの目的の1つは、人間が見たものを正確に再現するということ。その点THETAは、360度写る。見たものとは違うものが撮れるということだ。それから一般のカメラと違うのは全球が撮れるので構図を気にする必要が無く、撮った後から選べる点だ。こうしたことから、THETAはカメラの枠を超えている製品だと思う。これからもいいカメラ、カメラの枠を超えた製品をお届けしたい」(リコーイメージング 代表取締役社長の赤羽昇氏)。

リコーイメージング 代表取締役社長の赤羽昇氏(右)
リコー コーポレート統括本部 新規事業開発センター VR事業部 室長の生方秀直氏(右)

 「カメラとも言えないようなものだが受賞できたのはありがたい。THETAは2009年の冬に当時のリコー社長からカメラの新規事業の検討を打診されたのが始まり。最初の開発チームは0人で、人集めから始まった。できるだけカメラとは関係の無いメンバーを集めた。2010年秋から技術的検討を始めた。全球を撮るために一眼から12眼まで考えた。1眼タイプはミラーが回転するというアイデア。最終的には2眼式で、屈曲光学系を用いて厚みを抑えた。2013年に発表することになるが、事業化が決まったのは前年のこと。短い期間で量産化までこぎ着けた」(リコー コーポレート統括本部 新規事業開発センター VR事業部 室長の生方秀直氏)。

リコー、リコーITソリューションズ、リコーイメージングの関係者

(本誌:武石修)