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全天球カメラ「RICOH THETA」のファンミーティングが開催

ファーストビュー指定などへの対応を開発者が予告

 NAKEDが主催する「RICOH THETAファンミーティング 話題の全天球カメラを、開発者と一緒に語ろう」が12月13日に東京都渋谷区のスタジオ 0 Point Fieldで行なわれた。

 ワンショットで全天球イメージを撮影できるカメラ「RICOH THETA」(リコー シータ)のユーザーおよび購入検討者に向けて開催したイベント。THETAの開発者、ブロガー、インタラクション研究者を招いたトークセッションなどを行なった。定員30名の参加枠は募集開始から2日で埋まったという。

RICOH THETA

発売までの経緯

 株式会社リコーVR事業室の生方秀直氏が登壇。まずTHETAを手に「はい、シータ!」のかけ声で会場を記念撮影をし、トークを始めた。

THETAでの記念撮影からスタート。早くも盛り上がりを見せていた

 THETAが製品化に至るまでの経緯は、2009年12月に提示された「光学技術で新しいコンシューマービジネスができないか」というお題から始まったという。オリジナルコンセプトは「写場」(しゃば)で、中国では“写真を撮る部屋”を意味するそうだが、それは知らずにつけたという。

 初期には1眼でミラーを動かして全体を撮る発想から、他社がクラウドファンディングで支援受付を始めたボール状の全天球カメラのように多眼で、12眼までのアイデアがあったそうだ。生方氏は秋口に製作されたという段ボール製の試作機(の前段階としていた)を示した。

段ボール製の試作機

 2011年3月11日に東日本大震災があり、生方氏は全天球カメラのプロジェクトを一時離れ、宮城県でリコーの復興支援活動「Save The Memory」プロジェクトに関わっていたそうだ。同プロジェクトはボランティアと写真回収、洗浄、スキャンを行ない、顔検索機能などを付けてデジタルデータと現物の写真を返すというもの。春に提案し、夏からプロジェクトが始動。同年8月にスタートした返却活動は現在でも続いているという。

 その間にも全天球カメラの開発は進んでいた。生方氏が東京に戻ってから2012年4月1日にコンシューマ事業準備室ができ、9月5日に商品化が動き出したそうだ。

 その1年後となる2013年9月5日、ドイツのベルリン行なわれたイベント「IFA」でTHETAが発表。現地でデモを行なってきたという。米英独仏では10月15日に発売し、日本は同時発売が叶わなかったものの、11月8日に発売した。

 続く開発者による開発秘話のパートでは、試作機においてPCで行なっていた処理を全てカメラ側に移植するのに苦労した点や、スマホのブラウザごとにクセがある中で撮影画像をいかに気持ちよく閲覧できるかの操作感の検証に時間をかけたと紹介した。当初から“撮ったらSNSに投稿”というコンセプトがあり、それをストレスなくできるようにも意識したという。

全球画像は10年後に価値が出る(荻窪氏)

 続いて、ライターの荻窪圭氏が登壇。「なぜ人類はTHETAに辿り着いたのか」をテーマにパノラマの歴史を紹介した。

 パノラマの発想は写真黎明期からあると説明。当時は写真を順番に撮って繋ぐという手法で、江戸時代末期から横方向のパノラマ写真があったという。やがて、35mmフィルムを横長に使う「パノラマカメラ」が登場した。

 1995年にはアップルからQuickTime VRが登場。当時はバーチャルリアリティが流行っており、そこにいる気持ちになれるような臨場感を売りにしていたという。カシオのQV-10やアップルのQuickTake 100が1994年の登場なので、まだまだフィルムの時代。撮れる人は限られていたそうだ。1998年のQuickTime 3.0と共にQTVRのオーサリングソフトが出て、好事家に広まったと振り返る。

 荻窪氏は当時撮影したQTVR画像をいくつか紹介。アップルの初代iMacが並ぶMac販売店内や、八角形ドームの東京駅などを示し「頑張って撮っておくと10年後に価値が出る」と説明した。

 やがてパノラマ撮影が高度化し、専門サイトも登場。機材やソフトが高価になり、“カジュアルパノラマで遊びたかった”という荻窪氏はそれを期に引退していたという。そこへ、THETAが出てきたそうだ。

 THETAでは、その小さな本体で体の入らないところからの目線で撮影を行なうなど、独自の楽しみ方を提案。手にもって撮影すると自分自身が写り込んでしまうことについては、「にこやかに写ると臨場感が違う」と説明した。

荻窪氏が撮影したTHETA画像。スーパーマーケットの陳列品の目線で撮影している

未完成ゆえに遊べる(福地氏)

 明治大学 総合数理学部の福地健太郎氏は、「全球写真のインタラクション」と題したトークを行なった。

 THETAは学者からも人気が高く、学会では複数台のTHETAを見かけることも多いが、逆に誰も高解像度の写真を残していないケースがあるとして会場の笑いを呼んだ。福地氏はTHETAの魅力として、未完成ゆえにハードウェアも遊べる点を挙げた。スマホとのWi-Fi接続の手間を簡略化するために、単機能の専用リモコンなども製作・活用しているそうだ。

 福地氏は画像加工した全天球イメージも楽しんでおり、撮影者がいないような演出や、合成でSF映画のように巨大化した人間を配置するなど、そのアイデアと行動力で会場を湧かせていた。

人間の部分を合成して、SF風に仕立てたTHETA画像を紹介

 また、心霊写真の歴史を示しながら、写真技術が便利になるほど心霊写真が誰でも容易に作れるようになったと説明。THETAの弱点とも言われている「撮影後すぐに確認できない」「高解像ではない」「撮影者の見ていないものも撮影される」という“不便さ”を挙げ、これで心霊写真の復権が起こると締めくくった。

春先までに各種アップデート

 ブロガーのいしたにまさき氏、コグレマサト氏は、「ブロガーから見たTHETAとリコー」というテーマで登壇。ソーシャルメディア以降の写真の流れとして、Instagramなどを例に挙げ「写真の撮り方の提案」より「新しいフォーマットの発見」がキーであると述べた。

 また、ソーシャルメディアにおける写真のありかたについて「撮る苦労はなんとかするけど、見る人に苦労かけるのはいやだ」と説明。THETA撮影画像の共有時に、埋め込みやファーストビュー指定を可能にできるよう、ユーザーと開発者の前で訴えた。

 すると続く質疑応答において、「THETAの不満は大体ソフトで何とかなるのでは」という観点から、撮影画像のプライベート共有、ファーストビュー指定、埋め込み対応についての要望が他の登壇者からもあり、いずれも春先までには対応したいと開発者が展望を述べた。

 約2時間のトークセッション終了後は、会場のプロジェクターなどを来場者が自由に使い、持ち寄ったTHETA関連の自作ソフトウェアなどを紹介する研究発表の場として盛り上がっていた。

トークセッション終了後は参加者同士の研究発表で盛り上がった

(本誌:鈴木誠)