エプソントヨコム、水晶ジャイロセンサーの技術説明会を開催


同社プロダクトマーケティング部の宮澤健氏

 エプソントヨコムは、自動車向けジャイロセンサーの新製品発表に合わせ、水晶ジャイロセンサーの技術説明会を9月に開催した。

 同社プロダクトマーケティング部の宮澤健氏は、独自の「QMEMS」技術に基づくジャイロセンサーを中心に、各種センサーの用途紹介と技術解説を行なった。

 ジャイロセンサーは、1秒間を基準に角速度を検出するデバイス。慣性力の一種である「コリオリの力」を利用する。コリオリの力とは、ジャイロゴマが外から受けた力を打ち消すために働く見かけ上の力。角速度は「dps」(Degree per second)の単位で表し、1秒間に30度の動きは「30dps」と示す。

 デジタルカメラでは、手ブレ補正機構が手ブレの幅を検知するためにジャイロセンサーを利用している。同社によると、デジタルカメラの手ブレ検知にはおよそ100dps、家庭用ゲームなど、大きな動きの検出が求められる用途には1,500-2,000dpsに対応するセンサーが必要だという。


デジタルカメラが採用するジャイロセンサーと同種のもの同じセンサーを仏Parrot社の4翼ヘリコプター「AR.Drone」が姿勢制御に利用(CEATEC JAPAN 2010にて撮影)

 加速度センサーは、重力を含む直線の方向を検出するデバイス。デジタルカメラでは撮影画像の方向検出に利用している。ジャイロセンサーが速度を検出するのに対し、加速度センサーは直線の方向を検知する。

 また、地磁気センサーは方位を検出するためのデバイス。連続的な検出を行なうジャイロセンサーや加速度センサーとは異なり、絶対的な方向を検出する点が特徴となる。

 これら3種類のセンサーの主な用途は、アップル「iPhone 4」などの携帯電話、デジタルカメラおよび一眼レフカメラの手ブレ補正機構、GPSを受信できない場所で自車位置の推測計算を行なうカーナビゲーションシステム、自立歩行ロボットの姿勢制御、操縦技術がなくても安定して飛ばせるラジコンなど。今後はモバイルゲームや各種スポーツの運動解析などの市場も見込むとしていた。

 コンシューマ用途におけるジャイロセンサーは、2007年頃までビデオカメラの手ブレ補正とカーナビゲーションシステムでの採用が主だった。自動車関連にはESC(電子姿勢制御)やサイドエアバッグなどの用途から少しずつ採用が進んできたという。デジタルカメラにおいては、2005年にジャイロセンサーを用いた手ブレ補正機構の搭載が本格化しはじめたそうだ。

センサー市場動向主なアプリケーション

 同社では、アップルのiPhoneをはじめとするスマートフォンにジャイロセンサーが搭載されたことにより、モバイル端末への搭載スピードが加速すると予想する。根拠として、2010年6月発売の「iPhone 4」がSi-MEMS(シリコンMEMS)製の3軸ジャイロセンサーを搭載した点を挙げた(iPhone 3GSまでは3軸の加速度センサーを搭載)。

 2011年以降にジャイロセンサーの応用が本格化するきっかけと予測するアプリケーションニーズは、「Motion」(人間の動きを入力する機器)、「DR」(Dead Reckoning、推測航法)、「IS」(Image Stabilize System、手ブレ補正機構)の3つ。

 携帯電話が採用するジャイロセンサーの用途は、現状では主にナビゲーションにおける地磁気センサーの補間にとどまっているという。地磁気より大きな磁場を発生する機器(テレビなど)の影響で地磁気センサーの検出に問題が生じたとき、回避用に使っているそうだ。

 なお、現在のGPSは都市部のビルの谷間などでも測位できないことがあるといい、9月11日に打ち上げられた準天頂衛星初号機「みちびき」により、屋外における位置情報の改善を見込んでいる。

準天頂衛星Car DRとPDRの比較

 宮澤氏は、人を対象としたPDR(Pedestrian DR、歩行者ナビ)の技術的難易度についても説明した。自動車のカーナビゲーションシステム(Car DR)では、GPSによる絶対位置、地図を利用した補正、タイヤの回転信号(車速パルス)などの情報が揃っている一方、歩行者ナビでは位置、方向、距離のほかに運動や姿勢も考慮しなければならない。

 加えて「バイアスエラー」と呼ばれるノイズも問題として現れる。バイアスエラーとは人間が静止しているにも関わらず細かな動きを検出しまう現象で、おおよそ1秒間で5cm、1時間で635kmのズレが加速度センサーに生じる計算になるという。

 現状ではバイアスエラーの回避策として、歩数をカウントするなどの手段が取られている。だが、歩幅は人それぞれという問題点があるため、既存の加速度センサーでは解決が難しいという。バイアスエラー解消のための具体的な手法例はまだ見つかっていないそうだ。

 最後に宮澤氏は、同社製の水晶ジャイロセンサーの素子構造について解説した。同社の水晶ジャイロセンサーが採用する独自の「ダブルT型」素子は、棒状の検出アームを中心に、線対称に2つの「T」の形状をした駆動アームを配置。圧電素子により一定の周期で駆動アームを動かし、角速度により生じるひずみ(振動)を検出する仕組み。

 ダブルT型素子は、「音叉」、「H型音叉」、「Si-MEMS」といった素子構造と比較し、感度安定性、ノイズの少なさ、素子の薄型化が可能な点などを特徴とする。

ダブルT型の素子構造。アーム部の大きさは2mm四方素子構造による性能比較。サイズ面ではSi-MEMSが一番小さくでき、ダブルT、音叉と続く

 説明会では、異なる素子構造を採用する他社製品では温度の変化によって検出値に変動が見られるのに対し、同社製センサーはどの温度でも一定の感度を保っている点をアピール。また、素子に加わる衝撃や振動の影響を受けず、低ノイズである点も強調した。

対温度特性のグラフ。青が同社製、ピンクが他社製を示す耐衝撃/耐振動特性。いずれも右が他社製品。外部からの衝撃や振動による影響が見られる

 対温度特性などに基づく高い性能を特徴としながらも、コスト面ではSi-MEMSに匹敵するという水晶ジャイロセンサーについて宮澤氏は「精度が要求される用途などで戦っていければ(水晶を採用していても)商売として挽回できるだろう」と自信を見せた。今後もより高い精度が求められる用途において、同社製ジャイロセンサーの必要性を訴えていきたいとしていた。



(本誌:鈴木誠)

2010/10/18 00:26