カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

実は猫の多い“隠れネコ島”でネコ散歩についていく(讃岐広島・前半)

瀬戸内海には大小あわせて700以上の島があって、そのうち有人島は160ほどと言われています。猫好きの間では、猫の多い瀬戸内海の島というと、男木島や佐栁島、青島、真鍋島など、日本でも屈指の猫島の名前があがります。

【これまでのねこ島めぐり】

だけど、同じ瀬戸内海の他の島々にも、実は猫がたくさん暮らす島があります。

といっても、とくに観光的な見所がたくさんあるわけではありません。静かに暮らす島の人たちの日常に、猫が穏やかに、のほほんと溶け込んでいます。

そういう島は、マイペースな猫たちも多くて、写真が撮りやすく、日本家屋の家並みに猫の姿はとてもフォトジェニックに映ります。

今回は、私が瀬戸内海の島々を40島ほど歩きまわり、「猫が多いなあ~」と思う、新たなる猫島をご紹介したいと思います。

そこは、丸亀の港からフェリーで20分ほどの讃岐広島です。

展望台から眺めるノスタルジックな風景

香川県の丸亀駅から歩いて5分のフェリー乗り場から、約20分の船旅で讃岐広島に到着します。

讃岐広島の正式名称は、たんなる「広島」ですが、広島県と間違えられてしまうほど、こちらの島は有名ではないため、地元の人たちは親しみも込めて、「讃岐広島」と言っています。

「広島」という名前の由来は、塩飽諸島のなかで、一番広い面積の島だからです。周囲18.5km、人口は現在200人ほどです。

この島は、古くから石の島として名を馳せ、豊臣秀吉が築城した大阪城にも、この島の石が使われているそうです。

さて、この島は何度も来ているのですが、私が知っている猫の多い集落の1つは、茂浦(もうら)です。

茂浦は、フェリーが発着する讃岐広島の江の浦という集落の真逆、北側にあります。港で、船の時間に合わせて待機しているコミュニティバスに乗って、ちんたらちんたらと茂浦に向かいます。

私がもっとも好きなポイントは、茂浦の集落を見下ろせる、この展望台。緑の山間にひっそりと佇む穏やかな集落が、瀬戸内海を背景にとてもノスタルジックに見えます。

ここは、季節や1日の時間の移り変わりのなかで、空や海の色も美しく変わっていき、いつ来ても写真を撮るのが楽しい場所です。

そして、集落へと到着。

散歩もネコのペースで

ここに“ひるねこ”という宿があります。茂浦の人たちが、有志で空家を再生して、宿として甦らせた古民家です。

ここには、看板猫の茶々丸くんがいます。仔猫のとき、ある日茂浦にひょっこり現れてから、この集落で暮らしています。

お客さんがいるときも、いないときも、茶々丸くんは宿の庭をパトロール。

宿の斜め向かいが自治会長で、宿の管理をしている平井さんのご自宅。自治会長が大の猫好きで、ご飯をあげています。

それでこのあたりはいつも猫だらけなのです。

みんなの~んびりとして、ポストの上や外に置かれた水槽のなかなど、それぞれのお気に入りの場所でまったり。

写真を撮るには、絶好の被写体となってくれます。

私が茂浦でもっとも好きな時間は、夕方の散歩時間。平井さんが、茶々丸くんと黒猫のグーを連れて、犬の散歩にでかけます。

みんなにとって、楽しい日課。

宿にお客さんがいるときは、一緒に海までお散歩することもあります。

とはいえ、犬たちはお利口で、お散歩コースをとことこ歩くのですが、猫たちは自由きまま。

散歩している一行の足を止めさせるのは、決まって猫たちです。

「あれ、茶々丸がおらん」

というと、草むらのなかから、茶トラ柄のしっぽがみえたり。

「おーい、茶々丸!」

平井さんが呼ぶと、ぴょこんと草むらから出てきて、海まで疾走!

冬の海はちょっと寒々としていますが、それでも猫や犬たちは、大はしゃぎ!

自由にされた犬たちも、全速力で浜辺を駆け回っていました。

その様子を、優しく見守る平井さん。

「みんなちゃんと帰ってきます?」と聞くと、

「帰るぞ~って言うと、みんな戻ってくるんよ」と平井さん。

茶々丸やグーは、犬たちのリードを追いかけまわして遊んでいます。仲良しな子供たちみたいで、微笑ましい。

やがて、言ったとおりに、平井さんが「もう帰るぞ~!」と叫ぶと、みんなトコトコ集まってきて、大集合しました。

家に戻る1本道が私は好きです。

車1台がぎりぎり通れる細い小径に、昔からほとんど変わらないだろうなあと思わせる家並み、そこに猫の姿があって、とても情緒的です。

ネコとの共存

猫の多い島に赴いて、猫と出合い、どう過ごすかはそれぞれ。

猫にまみれるのもよし、写真を撮りまくるのもよし。

讃岐広島では、こうして猫と一緒にお散歩をして、島の人たちと触れ合って、ノスタルジックな時間を過ごすことができます。

お散歩から戻って、自治会長に抱っこされて嬉しそうな、甘えん坊な顔をする茶々丸くん。

「猫たちにな、ちゃんとご飯あげて、去勢もさせて、やることやっていれば、悪さもせん。うまく一緒に暮らしていけるんや」

と平井さんは言います。

いろいろな考えの人がいますが、猫好き自治会長のいる茂浦では、しばらく猫が絶えることはなさそうです。

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。