ミラーレスカメラ・テクノロジー

(その4)ミラーレスカメラの手ブレ補正

ソニーα6600のセンサーユニットと手ブレ補正機構

カメラの動きと手ブレへの影響

カメラの手ブレ補正を語るとき、よく出てくるのが図1のようなものだ。カメラボディの中心を原点として、横方向にx軸、縦方向にy軸、光軸方向にz軸と、互いに直交する3つの座標軸を定義する。すると、手ブレの原因となるカメラボディの動きはこの3つの座標軸それぞれに沿った直線運動(並進)と、それぞれの軸のまわりの回転であらわされるというのだ。

誤解のないように断っておくが、手ブレによるカメラの動きはこの6つの動きの「いずれか」というわけではなく、複雑なカメラの動きもこの6つの動きの「組み合わせ」で表されるということだ。逆に言えば、どんなカメラの動きもこの6つの動きに分解できることになる。

図1
カメラボディの動きはボディを原点とする座標軸上で、各軸のまわりの回転と、各軸に沿った並進の、合計6つの動きに分解できる

この6つの動きの中で、最も手ブレに大きく影響するのが、x軸まわりの回転とy軸まわりの回転だ。数式で表すと、これらの方向に角度θだけカメラが動くと、像面では被写体の像がf×tanθだけ動く。ここでfは撮影レンズの焦点距離だ。つまりカメラが頷く方向に首を振ったり(x軸まわりの回転)、いやいやする方向に首を振ったり(y軸まわりの回転)すると、少しの動きでも像が大きく動くことになる。

なお、x軸まわりの回転をピッチ(pitch)、y軸まわりの回転をヨー(yaw)と呼ぶことがあるが、これはもともと船舶や航空機の揺れを表す言葉から来ている。もう1つの回転、つまりz軸まわりの回転はロール(roll)と呼ぶ。

ロール方向の手ブレはどう影響するだろうか?これは画面周辺ほど像が動くことになり、影響が大きくなる。ただ、通常は画面中央付近に主要被写体をもってくるので、このロールによるブレが目立つことは少ない。

それぞれの座標軸のまわりの回転に比べれば座標軸の方向の直線運動(並進)の手ブレは、比較的画像への影響が少ない。そのうちx軸方向の並進とy軸方向の並進は、被写体までの距離がある程度以上あれば無視できる。つまり撮影される範囲が縦横ともに何メートルという単位であれば、たかだかミリメートル単位のボディの動きはほとんど影響しないというわけだ。

しかし、これがクローズアップのレベルの被写体距離になると、撮影範囲に対する手ブレによるカメラボディの動きは無視できなくなってくる。このことは透視ファインダーや二眼レフファインダーで生じるパララックス(視差)に似ている。被写体距離が近いほど影響が大きくなるということだ。

最後にz軸方向、つまり光軸方向の並進はどうだろうか? これは撮影距離の変化となるわけで結果的に像倍率が変わることになる。しかし、その程度は微々たるもので、通常の撮影には無視して全く問題ない。

2軸、4軸、5軸の手ブレ補正

以上のような6種類のカメラの動きのうち、どこまでを補正するかで、2軸、4軸、5軸の手ブレ補正に分類される。手ブレによるカメラボディの動きのうちx軸まわりの回転、すなわちピッチとy軸まわりの回転、すなわちヨーについて補正すればほとんどの場合についてカバーできる。これが2軸補正だ。

ただ、クローズアップについてはx軸方向とy軸方向の並進も補正する必要があるので、ここまで補正するのが4軸補正、さらにz軸まわりの回転であるロールまで補正するものが5軸補正と呼ばれている。

カメラボディの動きは三次元空間でのことなので、座標「軸」は3つしかない。だから力学的に厳密を期するなら「軸」ではなく「自由度」という言葉を使い、2自由度補正とか5自由度補正とすべきなのだが、「〇軸補正」というように言い慣わされているので、ここでもこの表現を使うことにする。

カメラに手ブレ補正が初めて搭載されたのが1994年のニコンズーム700VR QDで、これは銀塩のコンパクトカメラであった。一眼レフでは翌1995年にキヤノンが交換レンズのEF75-300mm F4-5.6 IS USMに組み込んだのが最初である。いずれもピッチとヨーのみの2軸補正であった。

ニコンズーム700VR QD。一般用のスチルカメラで初めて手ブレ補正を内蔵した
キヤノンEF75-300mm F4-5.6 IS USM。一般用の交換レンズで初めて手ブレ補正を内蔵した

それにx軸方向とy軸方向の並進に対する補正が加わり、4軸補正となったのが、2009年のキヤノンEF100mm F2.8L Macro IS USMだ。ロールの補正はボディ内補正でなければできないが、最初に実現して5軸補正としたのが2012年のオリンパスOM-D E-M5である。

キヤノンEF100mm F2.8L Macro IS USM。ヨーとピッチに加え、x軸方向およびy軸方向の並進をも補正して4軸補正としたもの
オリンパスOM-D E-M5。さらにロール方向の補正を加えて5軸補正とした

ボディの動きの検出

手ブレ補正をするには、まずカメラボディの動きを検出する。ピッチとヨー、それにロールは回転方向の動きなので、検出するためには角速度センサーを用いる。角速度センサーはジャイロセンサーとも呼ばれ、原理はいくつかあるが通常は振動式といってコリオリの力を利用したものを用いる。出力としては角速度、つまり時間あたり何度回転したかという量なので、これを1回積分すれば移動角度がわかるわけだ。

x軸とy軸の並進方向の動きの検出には加速度センサーを用いる。自動車が加速するときにシートに押さえつけられるような力を感じるのと同じことで、ある質量をもった物体にかかる力を検出すれば加速度がわかる。加速度を1回積分すれば速度がわかり、さらにもう1回積分すると移動距離が算出できる。こうしてそれぞれの動きに対して1つずつセンサーを設け、そこからのデータを総合すれば、手ブレによるカメラボディの動きがわかる。

補正の方法

手ブレによるカメラボディの動きがわかったら、それによって被写体の像がどう動くかを算出する。その際に撮影レンズの焦点距離などの情報が必要となるので、それらも加味して計算する。この場合、ピッチとヨーの回転方向の動きも、x軸とy軸方向の並進も、結果的には像面上の像の平行移動となる。ロールについては平行移動に加えて、像の回転となって影響する。

これを補正するには、被写体像と撮像面との位置関係を逆にたどるような形で動かせばよいのだが、その方法にはいくつかのものがある。

その1つは撮影レンズを構成する一部のレンズを動かす方法だ。一般のカメラ用の手ブレ補正として最初に世に出たニコンズーム700VR QDやEF75-300mm F4-5.6 IS USMではこの方法を用いており、現在でもキヤノンやニコン、パナソニックなどが採用している。「レンズ内手ブレ補正」と呼ばれるこの方法は、小型で軽く、少しの移動で像の移動に大きく効くようなレンズを補正用として選択すれば、非常に効果的に手ブレ補正が実行でき、センサーと補正用のアクチュエータをレンズ内に内蔵することにより、ほとんどレンズ内で完結するという特徴がある。

しかし本来光軸をそろえるべきレンズの一部をシフトするわけであるから、それによる収差の発生があるわけで、補正用のレンズを選択する際にはそのことも配慮する必要がある。また、像を回転することはできないので、ロール方向の動きを補正することはできない。

2番目は「ボディ内手ブレ補正」とか「センサーシフト方式」と呼ばれ、撮像素子を動かすものだ。銀塩のロールフィルムでは到底できないので、デジタルカメラになって初めて実現した方法といえるだろう。ボディ内のアクチュエータを用いて手ブレによる被写体像の動きを追いかけるように撮像素子を動かせば、像が常に撮像面の同じ位置にあるようにすることができるわけで、上下左右の動きだけでなく撮像素子の回転も加えればロール方向の補正も可能だ。

ペンタックスK100Dの撮像素子ユニット。4つの電磁石を用いたアクチュエータで撮像素子を上下左右および回転方向に駆動する

レンズ内補正とは逆にボディ内でほぼ完結するので、手ブレ補正に対する配慮をしていない昔のレンズでも補正が可能となる。ただ、レンズとボディの間の通信機能のないレンズを使う場合は、焦点距離情報をカメラに手動設定してやる必要がある。

現在のミラーレスカメラやデジタル一眼レフカメラは、この2つの方式のどちらかを採用しており、当初はメーカーによって「レンズ内補正派」と「ボディ内補正派」に分かれていたが、最近では両方のものを備え、場合によって使い分けることで5軸補正を達成するようなものも登場している。

その他の補正方法

上記した2つの方法以外の手ブレ補正方法もある。その1つはレンズと撮像面の位置関係はそのままに、カメラ全体を動かす方法だ。カメラを動かすというよりは、カメラを外箱とボディ本体の二重構造にし、外箱が動いてもボディ本体は動かないような構造にしたものと考えればよいだろう。動画撮影に使われるリグと同じようなコンセプトだ。

2005年のコニカミノルタDiMAGE X1では、屈曲光学系のレンズと撮像素子のユニットを丸ごと動かして手ブレ補正を行っている。カメラ全体を動かすのと同じ思想と言えるだろう。

コニカミノルタDiMAGE X1。撮影レンズと撮像素子を備えた撮像ユニット全体を動かして手ブレ補正をおこなう

また、動画の世界ではソニーが「空間光学手ブレ補正」と称して同様の方法をビデオカメラに搭載している。画面サイズの小さいコンパクトデジタルカメラやビデオカメラならよいが、デジタル一眼レフカメラやミラーレスカメラのように画面サイズが大きく、その分レンズを含めた撮像ユニットも大型となるようなカメラでは、この方法は難しいだろう。

そのほか初期のものには、2枚のガラス板の間に透明な液体を封入し、ガラス板の角度を変えて像を動かすものも存在した。くさび型のプリズムの頂角を可変としたようなものだ。

電子的な手ブレ補正

レンズや撮像素子は固定したままで、画像処理で電子的に手ブレ補正をする方法もある。特に動画のビデオカメラでは、このような電子的な方法が以前から行われてきた。

静止画と動画では手ブレの内容が違う。静止画の場合、1枚の画像の中で露出中に被写体像が動いてしまうのが問題となるのだが、動画の場合はむしろ時間的に隣り合った画像、つまりフレームの間で像の位置が動いてしまうのが問題となる。それなら像が動いてしまった分だけ画面の方を移動して、画面内の被写体の位置を合わせようというのが動画の電子的手ブレ補正である。

図2を見ていただきたい。あるフレームで(a)の位置に被写体像があり、次のフレームでは手ブレにより(b)のように像が移動してしまったとする。この場合、後のフレームでは通常のように左上の端から読み出すのではなく、手ブレで像が動いた分だけ画面の中に入った点Pを起点として読みだすようにすれば、画面内の被写体の位置をそろえることができる。つまり、破線で示したような範囲で画像を読み出すのだ。

ただ、この場合でいえば画面の下端と右端の部分は撮像素子の撮像面から外れるのでカットされる。逆に手ブレで像が左上に動いた場合は、上端と左端がカットされる。従って、この方式の手ブレ補正を内蔵したカメラで動画を撮影する際には、手ブレ補正が起動すると画角が狭くなるのだ。それを回避するために、通常の撮影範囲の外側にも画素を配置した一回り大きな撮像素子を用いることもある。

図2
動画の電子的手ブレ補正:撮像面の撮像範囲と被写体像が(a)のような位置関係であったのが、次のフレームでは手ブレの影響で(b)のようになった場合、このフレームの読み出しをPの位置から開始することで、手ブレを補正することができる

静止画は1枚の画像の中での動きなので、この方法は使えない。そこで露出時間、つまりシャッター速度を分割して手ブレを起こさないような速いシャッター速度で連続して撮影し、それを合成する方法がある。

例えば1/15秒で撮影したいのならば、1/125秒で8枚撮影し、これを前述の動画の補正方法と同様に手ブレで像が動いた分をずらしながら合成して1枚の静止画とするのだ。合成の際に露出時間が加算される形になるので、結果として1/15秒の露出時間で撮影したと同じ画像が得られる。ただ動画のときと同様に画角が狭くなり、さらに個々の画像は露出不足なのでそれに起因するノイズなどの画質低下が生じるという問題点がある。

もう1つ、「画像復元」という手法を用いた手ブレ補正もある。手ブレの原因となるカメラボディの動きがわかればそれによって元の画像の画質がどのような経過をたどって劣化したかが推測できる。そこでその道筋を逆にたどって劣化前の画像を推測して作り出すのだ。

手ブレの影響で画質が劣化した画像を解析して、劣化する少し前の画像を作り出し、それを評価してまたさらに前の画像を推測するというようなことを繰り返し、最終的に手ブレの影響を除去した画像を得る。当然のことだが手ブレの影響を受けた画像は元の画像から情報が大きく欠落しているので、完全な復元は難しい。しかし、最近話題となっている人工知能(AI)の技術を応用すれば、この方法でもかなりの精度で実現できるようになるかもしれない。

これらの電子的な手ブレ補正はレンズや撮像素子を動かす必要がないというメリットがあるが、画質面などでまだまだ問題が残るので、コンパクトデジタルカメラでは採用している機種があるものの、ミラーレスカメラや一眼レフカメラでの採用は難しいようだ。

今後の掲載予定

プロローグ:既視感(2019/1/9)
その1:EVFと一眼レフファインダー(2019/2/5)
その2:ミラーレスカメラのシャッター(2019/3/26)
その3:ミラーレスカメラのオートフォーカス(2019/5/29)
・その4:ミラーレスカメラの手ブレ補正
・その5:ミラーレスカメラのレンズマウント
・その6:まとめ。今後どうなるか?

豊田堅二

(とよだけんじ)元カメラメーカー勤務。現在は日本大学写真学科で教鞭をとる傍ら、カメラ雑誌などにカメラのメカニズムに関する記事を書いている。著書に「とよけん先生のカメラメカニズム講座」(日本カメラ社)、「カメラの雑学図鑑」(日本実業出版社)など。